地域包括ケア病棟には急性期機能も ── 入院医療の議論で池端副会長

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2023年11月15日の総会

 令和6年度の診療報酬改定に向け、回復期入院医療がテーマになった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「地域包括ケア病棟が急性期機能の一部でもあるという矢印がしっかりと書き込まれたことは非常に重要な視点」との認識を示し、「急性期機能の中に地域包括ケア病床がある」と述べた。

 厚労省は11月15日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第564回会合を開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会「入院(その3)回復期入院医療について」と題する資料を提示。最終ページに地域包括ケア病棟と回復期リハビリ病棟に関する論点を示し、委員の意見を聴いた。

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入院初期の評価を一体的に見直す

 地域包括ケア病棟の論点では、これまで議論されてきた「高齢者等の救急搬送患者の受け入れ」のほか、「1日あたりの医療資源投入量(包括範囲)の推移が、入院後、徐々に低下する傾向」などを挙げた。
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01スライド_P173論点1地ケア

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 支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「診療報酬が医療サービスの対価であるとする原則からすれば、地域包括ケア病棟入院料による評価は医療資源投入量を適切に反映したものにすべき」としながらも、「一定期間に限った救急搬送の評価は検討の余地がある」との考えを示した。
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 その上で、松本委員は救急搬送後の直接入棟が多い病棟について「既存の初期加算を含めて、入院初期の評価を一体的に見直すことも必要」と述べた。

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優れた地域包括ケア病棟がある

 池端副会長は発言の冒頭で、資料8ページに示された病床機能報告における区分に言及。「地域包括ケア病棟は急性期機能の一部」とし、介護施設との連携を進めることや、救急患者の受け入れを評価する必要性を指摘した。
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 池端副会長はまた、単位数に縛られない短時間のリハビリを提供するなど「ADLを上げる効果を出している優れた地域包括ケア病棟がある。医療資源投入量が少なくてもしっかりやっている病院がある」と伝えた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 診療側委員の皆さんが述べた意見に全て賛同する。その上で、私からはまず資料8ページの図について発言する。病床機能報告の取扱いは中医協の論点ではないが、地域包括ケア病棟が急性期機能の一部でもあるという矢印がしっかりと書き込まれたことは非常に重要な視点だと思う。地域医療構想の中で急性期がまだまだ多く、回復期が少ないと報告制度の中では言われているが、実は急性期機能の中に地域包括ケア病棟がある。
 論点では、「高齢者等の救急搬送患者の受け入れを推進することについてどのように考えるか」としている。ここで「救急搬送患者」とは、必ずしも救急車で運ばれくる患者さんだけではない。介護施設と緊密な連携が取れていれば、あえて救急車を呼ばずに、介護施設から直接、地域包括ケア病棟を有する病院に施設の職員が搬送し、入院して治療後にまた施設に返すことができる。救急車を呼ばすに、直接、地域包括ケア病棟に入棟するケースもある。このような緊急受け入れも「救急搬送」の場合と同じような機能をしっかり発揮できている。無用な救急搬送を予防する意味でも非常に意味がある。そのため、こうした受け入れも高く評価していただく必要がある。そうしないと救急車の不適正な利用につながりかねないので、ぜひ検討していただきたい。
 また、論点の3つ目では「地域包括ケア病棟入院料を算定する患者における1日あたりの医療資源投入量(包括範囲)の推移が、入院後、徐々に低下する傾向」とした上で、「入院医療の評価のあり方についてどのように考えるか」としている。この点について支払側からは、入院料を逓減制にすべきというような意見があった。しかし、診療側の皆さんがおっしゃったように、平均在院日数が30日を切っている病床で医療資源投入量が徐々に下がっていくのは当然である。むしろ、1単位20分の時間に至らない「ポイント・オブ・ケア」のリハビリによってADLを上げる効果を非常に出している。そういう優れた地域包括ケア病棟の病院がある。これはリハビリが包括になっている病棟だからできる取り組みであり、ADLを上げて退院までもっていく。そして、試験的に退院してみるなど、さまざまな工夫や取り組みを通じて、60日以内に自宅等に退院できるように努めている。医療資源投入量が少なくても、しっかりやっている地域包括ケア病棟が存在することを理解してほしい。

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身体拘束廃止の風土を広げていく

 回復期リハビリ病棟については、7項目の論点が示された。その中で、「身体的拘束を予防・最小化する取組を「強化する」とした上で、「身体的拘束を実施した場合の評価」について意見を求めた。
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04スライド_P173論点2回リハ

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 松本委員は「回復期リハビリ病棟はまさにリハビリを集中的に行うための病棟」とし、「リハビリを実施することと、155ページの身体的拘束は相反している」と指摘した。

 資料155ページ(身体的拘束の実施状況)では、「身体的拘束の実施率が50%を超える病棟・病室も一定程度ある」としている。これに対し、入院・外来分科会での議論と同様、「身体的拘束」の定義が不明確であることを指摘する声もあった。

 池端副会長は「身体拘束の原則禁止、廃止という風土ができつつあるので、それを広げていくことが重要」と述べた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 やむを得ない身体拘束は一部にありうるかもしれない。しかし現在、介護施設だけでなく療養病床などでも身体拘束の原則禁止、廃止という風土ができつつある。今後、それを回復期、さらには一般病床の一部まで広げていくような風土づくりを進めていかなければいけないと思う。そういう流れをつくる意味で、今回、一定程度の身体拘束に対して改善を促す取り組みを求めていくことは非常に重要ではないかと感じている。

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処遇改善加算、「医療にはない」

 続いて、「働き方改革(その2)」の論点では、地域医療体制確保加算の見直しのほか、特定行為研修を修了した看護師、病院薬剤師、看護補助者など7項目の論点が挙がった。
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 池端副会長は、病院の介護人材を充実させる必要性を改めて強調。「介護では処遇改善加算等で対応しているが、医療にはないので、その差をなくしてほしい」と理解を求めた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 特定行為研修修了者について
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 特定行為研修がスタートした当初は、将来的に10万人を目指すということだったが、まだ1万人にも満たない状況にある。そうした中で、特定看護師の養成を進めるために最もインパクトがあるのは診療報酬上の評価である。ぜひ、診療報酬での後押しをお願いしたい。急性期病院だけでなく、在宅ケアを担う訪問看護ステーション、あるいは介護施設においても特定看護師は非常に重要な役割を期待されている。
 ただ、研修制度が不十分であるように思う。特に小規模な訪問看護ステーションの事業所等では、修了まで半年以上かかる研修を受けに行ってもらうことができない現状がある。病院に勤務している看護師が特定行為の研修を修了した後、地域の在宅の現場や介護施設で役割を果たすような流れも想定しながら、しっかりと特定看護師の制度を後押しするように、さらなる評価が必要だろう。

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■ 医療機関における薬剤師の業務について
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 病院薬剤師がまだ非常に不足している。特に地域の大型チェーン薬局等に流れてしまう現状もあり、なかなか病院薬剤師が増えない。そうした中で、今回の資料で紹介されているように、地域の病院へ出向して地域医療を経験させるなどの研修を通じて、病院薬剤師の魅力を感じ、そして、地域医療を学ぶことはいい。初期研修医が地域医療を学んでまた戻ってくるような仕組みと同じような方法で薬剤師の質向上を図ることは有効な方法であり、病院の薬剤師の魅力を感じる方法になるだろう。
 ただ、こうした研修などを実施できる病院は非常に限られると思う。こうした取り組みを評価することによって、どの程度の効果があるかについてはやや疑問は残るが、後押しをする1つの施策としては、こうした評価もあり得るのではないか。
 一方で、病院の薬剤師をどのように確保すればいいかという問題がある。薬剤師の卒前・卒後教育は中医協のマターではないが、それも含めて合わせ技で進めないと、なかなか改善できないのではないかと思っている。

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■ 医師事務作業補助体制加算について
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 医師事務作業補助加算はもともと病院勤務医の負担軽減策として導入された経緯がある。そのため、救急患者受け入れの要件が付いているのだと思うが、現状では回復期病棟や療養病床でも医師の配置が少ない中で負担が多くなっているので、医師事務作業補助者は必要である。しかも、中小病院が電カルを入れると、さらに医師の負担が増える。そこで、回復期病棟や療養病床でも医師事務作業補助者を充実できるように要件の緩和については、救急要件も含めて検討していただきたい。
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■ 看護職員と看護補助者の協働について
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 現在、急性期病院でも高齢の入院患者が7割を占める。介護がどうしても必要になってくる。そこで、直接介護する看護補助者と看護師が協働することも非常に重要だと思うので、これは進めていただきたい。
 一方で、急性期病院における介護福祉士の配置を診療報酬上で評価することについては反対意見が出ている。同時改定に向けた意見交換会における主な意見として、116ページには「労働人口が減る中で専門職の配置については、全体のバランスはよく見ていくべき。急性期病棟に介護福祉士を配置するようなことは、現実的でないし、医療と介護の役割分担の観点からも、望ましい姿とは言えない」と紹介されている。
 すなわち、介護職員が医療現場に入ることの意味がなかなか伝わらない。介護保険の施設に従事する介護福祉士は処遇改善加算等で評価されているが、医療保険の病院に勤務する介護福祉士には評価がない。処遇改善加算のような何らかの手当が医療にはない。その差をなくしてほしい。介護人材が不足している中で、病院に介護人材を入れることは決して矛盾することではない。介護の魅力を高め、介護人材を医療・福祉の業界に入れていくために、いろいろな施策を合わせ技で進めていく必要がある。そうした意味において、直接介護を担う看護補助者の評価も進めていただきたい。

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不適切な使い方を危惧している

 このほか、同日の総会では11月22日収載予定の新医薬品13成分35品目を承認した。この中で、ノボノルディスクファーマの肥満症治療薬「ウゴービ皮下注」(一般名・セマグルチド)については、両側の委員から発言が相次いだ。

 支払側の松本委員は「一部の糖尿病のGLP-1受容体作動薬で限定出荷が生じている状況があり、その要因として美容やダイエット目的の使用が背景にある」と指摘。血糖値を下げる働きがある糖尿病の薬が減量目的で使用されているとのデータを紹介し、「ウゴービの使用実態について注視をお願いしたい」と厚労省側に要望した。

 一方、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「本製剤の安定供給は担保されるのか」と懸念。「しっかりと市場規模予測を行い、生産体制を確保しているのか」と質問した。厚労省担当者は「安定供給は確保できる」とし、松本委員の求めに対しては「企業に伝えるとともに厚労省としても注視していきたい」と応じた。

 池端副会長は「不適切な使い方が出る可能性を非常に危惧している」とし、同剤の使用状況を定期的に報告するよう要請した。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 私も皆さんと全く同じ意見である。松本先生や森先生もおっしゃったように、さらに不適切な使い方が出る可能性を非常に危惧している。不安定供給が続く中で、GLP-1製剤の糖尿病治療薬が入手しにくい状況にある。そうした中で、一部で、不適切な使い方が広がってしまわないようにお願いしたい。国内で予測される需要に十分対応できる供給量が確保できているという報告があったが、もし可能であれば、中医協に定期的に現状をご報告いただきたい。3~4カ月に1回程度で構わないので、GLP-1製剤全体の流通状況と、ウゴービの使用状況ご報告いただけるとありがたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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