介護医療院は「最後の砦」 ── 調査結果を踏まえ鈴木会長

協会の活動等 役員メッセージ

000_鈴木龍太会長_20231116会見

 日本慢性期医療協会は11月16日、介護医療院に関する調査結果をテーマに定例記者会見を開催した。会見には、当会の会内組織である日本介護医療院協会の鈴木龍太会長が出席し、「2023年度調査結果」を説明。「介護医療院は医療が必要な重度要介護者の最後の砦になっている」と述べた。

 調査によると、介護医療院の開設が「良かった」との回答は69%だった。前回調査の67%から微増しており、鈴木会長は「介護医療院の創設は好意的に受け止められており、新しい制度は成功」と述べた。

 会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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新たなモデル「介護医療院」

[池端幸彦副会長]
 定刻になったので、ただいまから11月度の日本慢性期医療協会の定例記者会見を始める。まず橋本康子会長からご挨拶をお願いしたい。

[橋本康子会長]
 今回は介護医療院をテーマにしたい。介護医療院は要介護者に対し、長期療養のための医療と日常生活上の世話(介護)を一体的に提供する施設である。介護保険施設はこれまで「介護老人福祉施設」「介護老人保健施設」「介護療養型医療施設」の3施設だったが、2018(平成30)年4月から介護医療院が加わった。単なる療養病床等からの移行先ではなく、住まいと生活を医療が支える新たなモデルとして創設された。

 これに伴い、当会の武久洋三名誉会長が中心となって、当会の下部組織として「日本介護医療院協会」を同時期に創設した。現在、鈴木龍太先生が会長を務められている。鈴木先生は当会の常任理事であり、神奈川県秦野市で回復期リハに重点を置いた鶴巻温泉病院などを運営し、52床の介護医療院を併設している。ご自身の経験なども踏まえ、介護医療院の現状はどうなのか、今後の見通しはどうか。調査結果を中心にお話しいただく。

 来年度の介護報酬改定でも介護医療院がテーマになっており、介護療養病床と医療療養経過措置病床は来年3月末で終了する。介護医療院への関心も高まっている。では鈴木先生、よろしくお願い申し上げる。
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介護医療院の開設状況

[鈴木龍太会長(当会常任理事、鶴巻温泉病院理事長・院長)]
 当会では毎年、会員などを対象に介護医療院の実態調査を実施しており、今年度は6月に実施した。その結果を踏まえて、介護医療院の現状や今後の課題をお伝えしたい。

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 まず、介護医療院の開設状況はどうか。厚生労働省の今年6月末時点のデータによると、介護医療院は全国で794施設、4万6,848床となっている。施設数は3月から6月までの3カ月間で30施設増加した。

 介護医療院には「Ⅰ型」と「Ⅱ型」の2類型があり、Ⅰ型は重篤な身体疾患を有する者や身体合併症を有する認知症高齢者を対象にしている。介護療養病床(療養機能強化型)相当の施設である。 

 一方、Ⅱ型は介護老人保健施設相当以上であり、Ⅰ型に比べて比較的安定した容体の高齢者が利用する。このため、Ⅰ型とⅡ型では報酬や基準が異なっている。グラフの緑色の部分がⅠ型で、全体の約7割を占めている。ほぼ横ばいだが、Ⅱ型は微増傾向にある。

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介護療養病床の増加、「鈍っている」

 介護医療院の移行元の施設を棒グラフに表した。赤い棒グラフは転換型老健、緑は医療療養病床1・2、黄色は経過措置病床である。
 
 そして、一番上の青い線は全体の増加率、2番目の青い線が介護療養病床(介護療養型医療施設)の増加率を示している。

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 介護療養病床の増加率は概ね全体と同様の傾向だが、最近は鈍っている。来年3月末で廃止されるため、その後は介護医療院などへの移行が考えられる。
 
 転換型老健(赤い棒グラフ)については、左側の2018~20年あたりを見ていただくとわかるように、介護医療院の創設当時は移行に積極的だった。しかし、21年12月以降はさほど増えず、横ばいの状態が続いている。

 医療療養1・2(緑)は全体の増加と同様の傾向で徐々に増え、現在5,326床。経過措置(黄色)は2020年6月以降横ばいで、1,548床にとどまっている。

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新設が非常に増えている

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 介護/医療療養病床以外(黄色)は主に一般病床からの移行だが、少しずつ漸増して現在443床である。

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 その他病床(緑)は全て従来型老健からの移行で、2021年6月以降増加している。現在1,232床で、1年で540床の増である。

 最近、新設(赤)が非常に増えている。1年間で832床の増。都市部に限らず、全国的に増えているので、新設を検討している方々はぜひ自治体に相談していただきたい。新設は現在1,667床。介護療養病床に続いて増えている。 

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介護医療院は762施設、会員は300施設

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 当会は今年6月、介護医療院762施設(会員300施設、非会員462施設)を対象に実態調査を実施し、184施設(会員131施設、非会員53施設)から回答を得た(回答率24.1%)。療養床は計12,489床である。

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 介護医療院の全762施設のうち会員が300施設であり、組織率は39%、療養床数では 51%を占めている。

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Ⅱ型の平均要介護度が上昇傾向

 調査結果はこのようになっている。Ⅰ型の回答は73%、Ⅱ型は27%だった。稼働率は平均94.0%と高い水準である。

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 設置場所について、Ⅰ型は病院内施設が多く、Ⅱ型は病院敷地内が16%、独立型が16%であった。独立型はⅠ型では3%である。

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 ここでの特徴は、Ⅰ型は医師が当直しているが、Ⅱ型の医師は非常勤のため夜間と土日にはいないこと。病院併設型であれば、病院の当直医がいるので、24時間365日の対応が可能だが、Ⅱ型、独立型では、夜間と土日に医師がいない。
 
 平均要介護度はⅠ型が4.28、 Ⅱ型は4.09。Ⅱ型のほうが低いが、上昇傾向にある。

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死亡退所が最も多い

 類型による相違で特徴があったのが退所である。

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 Ⅰ型Ⅱ型ともに死亡退所が最も多く、 Ⅰ型では60%を占める。Ⅱ型で独立型は死亡退院が24%とかなり低く、他院への転出が多い。これは夜間・休日に医師が不在のため、おそらく看取りの対応がなかなか難しい状況であり、転院して看取っている可能性が高い。

 一方、自宅、自宅系介護施設への退所はⅡ型の病院内併設で15%となっている。この場合、介護医療院は終の住処ではなく、在宅復帰機能を有しているとも言える。

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本人参加のACPは難しい

 意思確認カンファレンスの開催状況はどうか。4~6月の3カ月間について調べた。

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 意思確認カンファレンスは延べ2,810件開催されている。このうち、本人が参加できているのは175件で、6%と少ない。事前指示書の確認等の工夫をしているが、本人が参加して意思決定するのはかなり難しい。

 「本人の意思決定が基本」を強調するのであれば、状態の良い時期に本人が参加するACPを開催するよう推奨すべきである。例えば、最初に介護認定をする時期にケアマネジャーが介入したり、急性期でがんや脳卒中の最初の治療の時などにACPを実施したりすることが考えられる。

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LIFEが役に立っているのは15%

 LIFEはどうか。届出は進んでいるが、「役に立っている」との回答は15%にとどまる。まだ役に立っているとは言えない状況だ。

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 LIFEに関しては、入力が難しいということなどもあるし、フィードバックのデータがやや煩雑で役に立つまでいかないという意見もあるので、今後に期待したい。

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身体拘束ゼロ、取り組んでいるが難しい

 「尊厳の保持に資する取り組み」の実施状況はどうか。5点満点で回答を求めた。

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 最も低かったのが、「人生の最期の医療・ケアに本人が参加している(ACP)」で、2.4%だった。そのほか、「子ども扱いしない」(3.9%)、「プライバシーの保護」(同)、「選挙権の行使」(同)、「お金の管理」(3.5%)も低かった。

 一方、「身体拘束ゼロへの取り組み」は4.1%と高いが、実際はどうか。次のスライドをご覧いただきたい。

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 身体拘束ゼロへの取り組みはしているが、実際には身体拘束を61%の施設で
実施している。身体拘束ゼロ対策は現場で苦労している項目の上位でもある。取り組んではいるけれども、なかなか拘束ゼロへもっていくのは難しいという現状を表している。

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リハビリの実施頻度は高い

 リハビリの実施頻度は高い。PTは80%以上の施設で実施している。

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 例えば、100床あたり76例に598回のPTを実施しているので、1人の患者あたり、7.86回実施していることになる。PT・OTが1カ月に6~7回、STも6~7回の実施で、さらに減算になる場合でも実施している。かなり積極的にリハビリをしている。そのため、介護医療院には、ご自宅に帰ることができる人もいる。

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処遇改善は「持ち出し」で対応

 現場で苦労しているのは、やはり人材確保である。

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 処遇改善はどうか。85%の施設で処遇改善加算を受けているが、特定処遇改善加算は57%の施設しか受けていない。2022年度4月からの「介護職員処遇改善支援補助金は75%が受けている。

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 厚労省の調査では、全介護施設で95%が介護職員に対する処遇改善を受けているが、介護医療院では最大85%しか受けていないのが現状である。同じグループ内で働く病院と介護施設の介護職員に不公平が生じてしまうからである。

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 では、処遇改善をする場合、どのように対応しているのか。その財源は持ち出しになる。

 すなわち、同じ施設で働く病院の介護職(看護助手)との間に公平性を担保するために、64%の施設が持ち出しによる処遇改善を実施している。苦しい状況が推測される。 

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外国人の介護職採用は37.5%

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 人材不足を解消するために外国人を採用する施設もあるが、現状はどうか。

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 この設問は今回の調査で新たに追加した。それによると、37.5%が採用しており、その多くは介護職。フィリピンやベトナム、ミャンマー、インドネシアなどが多い。

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最後の砦となっている

 介護医療院を開設して良かったことは何か。「医療区分1の利用者の居場所ができた」との回答は42.1%だった。

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 最も多かったのは、「介護施設にも病院にも入ることができない方々の最後の砦となっている」との回答で、57.3%を占めた。介護医療院の開設から5年がたち、介護医療院は医療が必要な「介護難民の最後の砦」として機能していることが明確となった。

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Ⅰ型は経営的にかなりいい

 介護医療院の開設は収益上良かったか。「移行前より収益が増えた」の回答は前回調査よりも減少して41.9%だった。移行定着支援加算が廃止された影響もあるだろう。

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 一方、「移行前より収益が減った」との回答は12.3%で、過去の調査と比べて最も低い。

 では、Ⅰ型とⅡ型ではどうか。「収益が増えた」との回答はⅠ型のほうが多い。また、「収益が減った」という回答もⅠ型は7.0%にとどまっているので、主にⅠ型で収益性が改善したようである。Ⅰ型は経営的にかなりいいと言える。

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「単独で黒字」は46%

 「赤字か黒字か」という点で見るとどうか。「単独で黒字である」との回答が46%、「単独で赤字である」との回答は18%だった。経営状態は比較的良好である。

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 一方、WAM(福祉医療機構)の2021年調査では赤字経営施設が32%と徐々に増えている。WAMの調査は融資先のデータを用いているので、母集団の違いと考える。

 Ⅰ型とⅡ型で分けて見ると、Ⅰ型では黒字が50%、赤字が11%だが、Ⅱ型では黒字、赤字とも35%と同数であり、経営状況はⅠ型よりも悪い。

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 「どちらともいえない」との回答が3分の1近くあるが、病院施設内にある場合が多く、単独の経営状態はわかりにくいのではないか。

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やって良かった介護医療院

 介護医療院をやって良かったか。毎回調査している設問である。約7割は「良かった」と回答している。

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 2021年に64%とやや下がっているのは移行定着支援加算がなくなった影響だと思うが、その後も徐々に高くなっているので、決して悪くない状況である。介護医療院の創設は好意的に受け止められており、新しい制度は成功と言える。

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人生の最期まで尊厳を大事にする

 最後に、介護医療院のまとめである。

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 介護医療院が、病院と介護施設の狭間にある、どちらも受け入れにくい患者の受け皿としての役割を果たしている。このことは、本人にとっても、在宅で支える家族にとっても、病院や介護施設にとっても、利点がある。

 入所者像は医療処置が多く要介護度が高い人であり、経管栄養、喀痰吸引、レントゲン撮影、点滴治療、酸素投与等の日常的な医学管理や、緩和ケア等が提供されている。

 また、多職種協働でリハビリや栄養・口腔ケアの一体的な取組が積極的に行われている。死亡退所が多く、本人の意思表示が難しい入所者が多い中で、家族や後見人と丁寧に話し合いをしながら看取り対応が行われている。

 一方で、介護医療院ではリハビリテーションが積極的に実施され、在宅復帰できている例も少数あり、終の棲家としての機能だけでなく、在宅復帰機能も担えることを示している。

 病院との違いとして、「生活施設」としての側面があり、身体拘束ゼロへの取り組み、食事にこだわった取組や外出訓練等、その人らしい生活、尊厳に根差したところを大事にした取組が行われている。これは介護医療院が人生の最期まで尊厳を大事にする思いを反映しているものと考えられる。介護医療院は医療が必要な重度要介護者の最後の砦になっている。

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介護医療院を良い方向へ

日本介護医療院協会は、日本慢性期医療協会の下部組織である。

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 毎年、このような調査を実施して発表している。ぜひ参加していただき、一緒になって介護医療院を良い方向へもっていきたいと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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