療養病床での経口摂取をどう進めるか? ── 定例会見で橋本会長

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橋本康子会長_20240422会見

 令和6年度診療報酬改定の内容を踏まえ、日本慢性期医療協会は4月11日の定例記者会見で療養病床における中心静脈栄養の離脱化を中心に見解を示した。橋本康子会長が「療養病床での経口摂取をどう進めるか? 〜アウトカム評価の促進〜」と題して説明した。

 会見で橋本会長は、中心静脈栄養の終了から経腸栄養への移行、嚥下リハビリの実施などの経過を具体的に提示。胃瘻から経口栄養に改善した80代女性のケースや回復期リハビリ病院のデータなどを紹介し、「経口摂取や経管離脱には2カ月程度かかる」としながらも、「経口摂取は自宅復帰につながりやすい」と指摘した。

 その上で、橋本会長は「中心静脈栄養を抜いて、胃瘻を経口摂取への移行手段として利用し、経口摂取が可能になるよう努力すべき。今回の改定の趣旨は、より多くの患者が口から食べられるようになることを目指すもの」と評価。今後に向けて、療養病棟におけるアウトカム評価の促進などを挙げた。

 同日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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令和6年度改定を踏まえた3つのポイント

[池端幸彦副会長]
 日本慢性期医療協会の定例記者会見4月度を開始する。今年度、初めての記者会見である。皆様のご協力をお願い申し上げる。それでは早速だが、橋本会長にご挨拶とプレゼンテーションをお願いする。
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[橋本康子会長]
 今回のテーマは、令和6年度の診療報酬改定を踏まえた療養病床における経口摂取の進め方についてである。副題として、「アウトカム評価の促進」を加えている。

 主なポイントは3点。①令和6年度改定(中心静脈栄養の離脱化)、②経腸栄養の進め方(胃瘻造設による栄養・リハの同時進行)、③アウトカム評価へ(加算取得を後押しする要件設定を)──である。

 前回改定でも議論になったが、今改定でも中心静脈栄養の離脱化が問題になった。そして、中心静脈栄養について見直しが実施された。これに伴い、経腸栄養の進め方が課題である。また、胃瘻造設による栄養供給とリハビリの同時進行が必要となる。

 今後に向けた提言として、アウトカム評価の促進が挙げられる。加算の取得を容易にする措置も必要だ。こうした内容について、本日はご説明を申し上げたい。
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疾患が限定され、30日の線引き

 今改定では、問題視されていた中心静脈栄養について疾患が限定され、30日の線引きがなされた。
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 中心静脈栄養に関する評価の見直しにおいて、広汎性腹膜炎、腸閉塞、難治性の嘔吐・下痢などの疾患が限定されている。 中心静脈栄養を開始した日から30日を超えて実施する場合のみが対象である。

 中心静脈栄養を開始してから30日間は医療区分3とされ、その後は医療区分2に移行することになった。

 その上で、「経腸栄養管理加算」が新設された。7日間を限度に算定可能で、1日につき300点が加算されることになった。
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経腸栄養へ移行し、嚥下リハを実施

 医療関係者には既知の内容かと思うが、中心静脈栄養について説明したい。中心静脈栄養は、療養病床に入院している患者に多い栄養摂取方法である。具体的に説明する。スライドの左側をご覧いただきたい。
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 心臓近くの太い血管に高カロリーの点滴を行い、栄養を摂る方法である。見ていただくと、心臓を表すハート型の近くにチューブを通じて栄養を入れる手技である。

 今改定では、この方法を30日間行った後、いったんチューブを抜いて、異なる栄養管理、栄養経路への移行を行うことが推奨されることになった。中心静脈栄養を終了した後は経腸栄養に移行し、嚥下リハビリを実施することになる。

 中心静脈栄養では血管内に高カロリーの栄養を注入するため、患者は空腹感を感じない。この状態では、常に血糖値が高い状態になり、お腹が満たされた感じがする。生理的な観点から、嚥下リハビリを効果的に行うには空腹感が必要であるため、中心静脈栄養を続けている状態で嚥下リハビリを実施するのは難しい。

 もちろん、中心静脈栄養の患者に嚥下リハビリを実施すること自体は不可能ではないが、中心静脈栄養を長期にわたって続けると感染のリスクなど様々な問題が発生するため、経腸栄養に移行することが推奨される。

 中心静脈栄養の後の栄養摂取方法は「経腸栄養」または「経管栄養」と呼ばれる。これらは同じ意味合いである。こうした栄養摂取方法への移行が求められている。

 その方法として、まず胃瘻がある。胃瘻とは、腹部の外側から穴を開け、管を通じて栄養を送り込む方法である。また、経鼻栄養という方法がある。この方法では、鼻からチューブを通して胃に栄養を送る。中心静脈栄養の終了後は、こうした栄養摂取方法へ移行し、嚥下リハビリを実施する。

 単に中心静脈栄養からの移行を強制するのではなく、経管栄養や経腸栄養への移行を促し、同時に嚥下リハビリを適切に行い、患者が口から食事をとれるようにすることが今回改定の趣旨であろう。
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経口摂取までのプロセス

 嚥下リハビリには間接訓練と直接訓練が含まれる。間接訓練は口腔ケア、周囲筋、舌の運動、唾液分泌と嚥下反射練習等である。

 中心静脈栄養を受けていたために長期間食事をしていない人が、チューブを抜いた直後に食事が可能になるわけではない。そのため、周囲の筋肉や舌の運動を改善し、唾液の分泌を促進する必要がある。唾液の分泌が減少している場合もあるため、これを促すことが重要である。さらに、嚥下反射の訓練を行わなければ誤嚥するリスクが高まる。したがって、食べ物や水を摂取する前に、嚥下に関連する間接訓練を行う。

 間接訓練がある程度まで進んだら、次に飲み込みやすいゼリーやとろみを加えたものから始めて直接訓練に移行する。この段階を経て、患者が徐々に通常の食事を食べられるようになるのが嚥下リハビリである。

 嚥下リハビリの開始後、どのような経路を通って改善し、経口摂取へと進むのか。グラフに示した。外傷性くも膜下出血の80代女性のケースである。
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 中心静脈栄養を抜いた後、経腸栄養の開始前後から嚥下リハを実施した。初期段階では、中心静脈栄養を抜いた直後に間接訓練を行う。これには口腔ケア、唾液の練習、飲み込みの練習などが含まれる。この段階では食べ物を用いずに間接訓練を開始する。

 約1カ月、あるいはそれより短い期間である2~3週間ほど間接訓練を行った後、直接訓練を開始する。直接訓練は通常、ST担当者が昼食時に行うことが多い。この時にはゼリーなどの嚥下食を摂取し始める。

 このように食べ始めてから部分的に食事へ移行し、1食で400から600キロカロリーを摂取する。1食分の食事で600から800キロカロリーを摂取できるようになるまでには約1カ月かかる。

 その後、毎日の練習を続けて経口摂取へ移行し、朝昼晩の食事が3食完全に摂取できるようになり、例えば、1日に1,800から2,000キロカロリーを摂取できるようになるまで、およそ2カ月から3カ月はかかる。この患者は2カ月ほどで経口摂取が可能になった。

 胃瘻を抜去するまでの過程を見ていただくと、朝と夕食は胃瘻から栄養を入れ、昼食のみを経口摂取している(部分移行)。その後も継続して訓練を行い、嚥下リハビリもして、4カ月目には正常な食事が食べられるようになり、胃瘻を抜去した。
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離脱までに約2カ月

 経口摂取までの日数について、回復期リハビリ病院のデータを示す。経口摂取が困難となり中心静脈栄養や胃瘻を行う患者さんは、すぐに食事が可能になるわけではなく、一定の期間が必要である。胃瘻から経口栄養までに約2カ月かかっている。
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 口から600キロカロリーぐらいの1食を摂取できるようになるまでに、約50日が必要である。朝昼晩と3食合わせて1日に1,600から2,000キロカロリーを摂取できるようになるまでには約60日かかる。

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「静脈経腸栄養ガイドライン」の考え方

 経腸栄養には鼻腔と胃瘻がある。胃瘻は延命措置ではなく、栄養摂取と嚥下リハビリを同時に取り組める効果の高い方法であるため、早期に造設すべきである。現在、日本静脈経腸栄養学会の「静脈経腸栄養ガイドライン」による胃瘻の考え方が存在する。
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 かつて胃瘻が延命のために造設される傾向があり、胃に穴を開けることに対して否定的な風潮が強かったが、現在は延命処置としてではなく栄養摂取と嚥下リハビリを同時に行う目的で胃瘻を作る。

 一方、経鼻栄養については、鼻から管を入れる方法は患者本人にとって不快であり、管を入れた状態で口からの食事の練習をするのは困難である。

 ガイドラインによると、「経口的な栄養摂取が不可能な場合、あるいは経口摂取のみでは必要な栄養量を投与できない場合には、経管栄養を選択する」とされている。

 また、経管栄養が短期間の場合は、経鼻アクセスを選択する。4週間以上の長期になる場合や長期になることが予想される場合は、消化管瘻アクセス(可能な場合は胃瘻が第一選択)を選択する。
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経口摂取は自宅復帰につながる

 食事だけが要因ではないが、経口摂取は自宅復帰につながりやすい。胃瘻も管理できれば自宅復帰は可能である。
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 当院のデータによると、経口摂取ができない患者118人中、経口摂取が可能になったのは53人である。その53人のうち26人が自宅に復帰した。ここで言う自宅とは施設ではなく、実際の自宅であり、家族と一緒に暮らす場所である。経口摂取が自宅復帰につながりやすいことが示されている。

 また、口から食べられない患者の中で、5人は胃瘻をつけたまま自宅復帰を果たしている。胃瘻を適切に管理すれば、自宅での生活が可能であることを示している。

 胃瘻と嚥下リハビリテーションの積極利用についてであるが、胃瘻の適応に関しては、食べ物を認識できる程度の元気がある人や、自分で経鼻栄養のチューブを抜いてしまうような人は、胃瘻の適応ではない。胃瘻は全身状態が良好である場合に適しており、この状態は不可逆的ではない。

 胃瘻のメリットについては、経鼻栄養との比較から不快感の軽減や栄養摂取時間などが挙げられる。まず、経鼻栄養では鼻から管を入れるため患者にとって非常に不快である。慣れるまで不快感が伴うため、自己抜去を行うことがある。また、経鼻栄養を長期間続けることにより、鼻の中に潰瘍ができるなどのデメリットもある。

 胃瘻の場合は不快感が比較的少なく、注入時間も短いという利点がある。胃瘻からの注入の場合、半固形のものであれば、10分から20分で注入が完了する。しかし、鼻の管から注入する場合は、管が細いため、1時間から2時間ぐらいかかることがある。そのため、1日3食の経鼻栄養では、1日に約6時間かかることもある。

 一方、胃瘻は短時間で注入できるというメリットがあり、それによってリハビリ時間を確保できる。この点も胃瘻のメリットであると考えられる。
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経口推進時の点数イメージ

 経口推進時の点数イメージを示す。中心静脈栄養の継続は、経営的にもQOLにおいてもマイナスになる。離脱し、経口への取り組みを進めることでプラスも可能だ。
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 今回の診療報酬改定によって、中心静脈栄養だけを継続した場合には点数が下がる。例えば「入院料10」として中心静脈栄養を30日間続けた後、さらに続けると「入院料13」に変更され、診療報酬が376点減少して1,455点となる。

 私たちがなすべきは、中心静脈栄養を30日間行った後、それを抜いて摂食嚥下療法を開始することである。その目的は、単に中心静脈栄養を抜くことではなく、患者が口から食べられるようにすることである。

 スライドの右側をご覧いただきたい。摂食嚥下療法で185点を得ることができ、さらにSTが嚥下リハビリを行うと、180点以上を追加で得ることが可能である。

 また、新設された経腸栄養管理加算の300点が1週間取れるため、中心静脈栄養を抜いた後の1週間は合計2,496点という高い点数を得ることができる。

 その間に、経口摂取に向けて様々な準備を行い、例えば、「入院料13」に点数が下がったとしても、摂食機能療法と嚥下リハビリを行うことで1,820点が得られる。中心静脈栄養30日以内の1,831点との差は10点程度であり、さらに嚥下リハビリを積極的に行えば、報酬がさらに上がる可能性がある。

 したがって、患者の利益を考えると、中心静脈栄養から離脱して嚥下リハビリを行い、経口摂取が可能になるように努力することが適切な方法であると思われる。
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アウトカム評価の促進を

 最後に、アウトカム評価の促進について述べる。これは提言となる。
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 中心静脈栄養を抜いて、胃瘻を経口摂取への移行手段として利用し、経口摂取が可能になるよう努力するべきである。今回の改定の趣旨は、より多くの患者が口から食べられるようになることを目指すものであると考えられる。

 今後の課題として、摂食嚥下機能回復体制加算を挙げたい。この加算は以前から存在しているが、その算定を希望するものの、現在14%程度の施設しか取得できていない。週に一度の算定だが、点数は高い。より多くの施設がこの加算を取得できるようにする必要がある。

 同加算がなぜ14%ぐらいしか算定されないのかというと、その理由は内視鏡検査または嚥下造影が必要であるからである。VFやVEなどの検査を月に1回実施する必要がある。

 この要件のクリアが難しい。月に1回以上の検査は、レントゲン撮影や放射線の使用といった課題もあり、このために加算を取得している施設が少ないという現状がある。もし算定要件を見直してもらえれば、より多くの施設が摂食嚥下機能回復体制加算を取得し、摂食機能のリハビリが進むと考えられる。私からは以上である。
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[池端幸彦副会長]
 今回の診療報酬改定では、療養病床における医療区分の見直しとともに、中心静脈栄養の変更が行われた。これに対して当協会としてどう考えるか。橋本会長のお考えを中心に説明させていただいた。

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