急性期病院、「小さいが高機能もある」 ── 中医協総会で池端副会長
令和6年度の診療報酬改定に向け、「急性期入院医療についての論点」が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は施設基準の見直しについて「人口が少ない地方では300床未満でも高機能で優れたパフォーマンスの病院もある。必ずしも大きいほうがいいわけではなく、小さいが高機能の病院もある」と慎重な対応を求めた。
厚労省は11月8日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第562回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。
厚労省は同日の総会に「入院(その2)」と題する資料を提示。最終ページに「急性期入院医療の実績及び体制に基づく評価」として、「急性期充実体制加算の施設基準」や「心臓胸部大血管手術の実績の取扱い」などを論点に挙げた。
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パフォーマンスを見ながら慎重に対応すべき
急性期充実体制加算を届け出ている医療機関について厚労省は「300床未満の医療機関に適用される施設基準のみを満たしている医療機関の診療実績は低い傾向にあった」と指摘したほか、同じ二次医療圏で「他に急性期充実体制加算の届出医療機関があった」「特定機能病院が存在していた」などの課題を挙げた。
質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「300床未満の緩和された施設基準の急激な廃止は医療機関の経営を直撃し、地域の医療提供に影響する」とし、「どのような対応が可能か、慎重に検討すべき」と求めた。
一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「急性期充実体制加算は高度かつ専門的な急性期医療として十分な体制を評価するものであり、要件を緩和すべきではないというのが基本的な考え」とした上で、「300床未満を対象とする病床あたりの実績要件は必要ないのではないか」と提案した。
池端副会長は「数だけで取れる、取れないということは、これからの時代では見直さなければいけないのではないか」と疑問を呈し、「パフォーマンスを見ながら慎重に対応すべき」と述べた。
【池端幸彦副会長の発言要旨】
もともと人口が少ない地方では、400床以上でなくても非常に高機能で急性期充実体制加算の施設基準を取れるような病院はある。非常に優れたパフォーマンスをしている病院が地方にもあるので、必ずしも数だけで取れる、取れないということは、これからの時代では少し見直さなければいけないのではないか。300床未満の急性期充実体制加算の施設基準が問題になっているが、必ずしも大きいほうがいいということではなくて、小さくても高機能で急性期充実体制加算にふさわしい病院も存在するという現場をよく見ながら、そういう病院のパフォーマンスを見ながら慎重に対応されるのがよいのではないか。
なお、心臓胸部大血管手術の実績要件を急性期充実体制加算に入れることは反対しないが、心大血管手術に関しては集約化が非常に重要だというデータも出ている。そのため、現在、心大血管手術をしていない病院にも施設要件として入れてしまうと、集約化とは逆方向に動く可能性もあるので、その辺は少し慎重に考えるとよいのではないか。
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地域における総合的な入院医療の確保
急性期病院の体制評価についても議論になった。前回改定で新設された急性期充実体制加算への乗り換えが進み、総合入院体制加算の空洞化を懸念する声もある中、厚労省は同日の総会に同加算の比較表などを提示。「高度・専門性」と「総合性」という評価体系の違いをイメージ図などを用いて説明した。
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その上で、厚労省は「急性期充実体制加算の届出医療機関においては、多くがそれまで総合入院体制加算の届出を行っていたこと等を踏まえ、地域における総合的な入院医療の提供体制を確保する観点から、急性期充実体制加算を届け出ている医療機関の体制の評価についてどのように考えるか」と意見を求めた。
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今回の資料では「明確になっている」
質疑で長島委員は「地域の中核病院が総合入院体制加算から急性期充実体制加算にシフトする場合であっても、しっかりとした産科、小児科、精神科医療が提供されるよう重点的に評価すると同時に、総合入院体制加算1を算定する医療機関が果たす役割は非常に大きい」と強調。「総合入院体制加算1については、きちんと、その役割に合った評価に引き上げることを検討する必要がある」と述べた。
一方、松本委員は「総合入院体制加算からの移行が進んでいる実態があり、一部に精神科の入院医療をとりやめた医療機関もある」と指摘。「急性期充実体制加算を健全に運用させていくためには、近隣の医療機関を含めて地域の医療ニーズを満たせているのかを注視していくことが必要」と述べた。
池端副会長は資料139ページのイメージ図に言及し、「前回改定で急性期充実体制加算ができた時には示されていなかったのではないか」と指摘。今回の資料では「明確になっている」とし、「こういう棲み分けをすることを国民にも医療機関にも広く伝え、理解してもらう必要がある」と述べた。
【池端幸彦副会長の発言要旨】
139ページの図は非常に重要だと思う。総合入院体制加算と急性期充実体制加算の棲み分けについては、前回改定で急性期充実体制加算が新設された時には、示されていなかったのではないか。資料の図では、総合入院体制加算との棲み分けが明確になっているので、ここにあわせて、一定程度の取組が必要だろう。
そのためには、総合性を持った医療機関がしっかりと各医療圏の中にあり、各地域でそれぞれ総合性ある体制が漏れなくとれるような方向での変更は十分考えられると思う。
ただ、急性期充実体制加算と総合入院体制加算がどのような棲み分けをしているのかを広く理解していただく必要がある。国民にも医療機関にも理解してもらえるように、十分に伝わるような仕組みの変更、あるいは追加、施設基準の見直し等をご検討いただけるといいのではないか。
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看護補助者と介護福祉士の役割を整理すべき
急性期入院医療の論点では、重症度、医療・看護必要度の見直しについて多くの発言があったほか、「高齢患者等のADLを維持する取組」に関する意見もあった。
厚労省は「急性期医療の現状を踏まえた対応」と題する論点で、「今後、医療従事者の人材確保がより困難」と見通した上で、「増大する高齢者の急性期医療のニーズに効率的に対応し、適切な医療資源を投入しながら高齢患者等のADLを維持する取組を推進するための入院医療に対する評価の在り方についてどのように考えるか」と意見を求めた。
質疑で、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「急性期の入院において廃用性機能障害を防止することは極めて重要」とし、「そのためにはADLを評価し、休日も含めて、必要とされるリハビリテーションを提供する体制が求められる」と述べた。
江澤委員はまた、「介護ニーズが高まる中で、これまでの看護補助者と介護福祉士の役割は当然、異なっている」と指摘。それぞれの役割について「今一度、整理した上で、また介護人材不足の状況下でどういった体制がふさわしいのか検討が必要」と述べた。
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ADL維持向上加算、「かなり厳しい点数」
一方、支払側の松本委員は「ベッドで寝たきりになるとADLが低下する。早期からのリハビリが有効であることは明らか」とした上で、「医療資源をそれほど必要としない患者については下り搬送なども活用しながら、リハビリ専門職が多く配置されている回復期リハビリ病棟や地域包括ケア病棟で対応し、急性期病床は医療資源を集中的に投入する必要のある患者に充填することが望ましい」と改めて強調した。
これに対し、診療側の茂松茂人委員(日本医師会副会長)は「高齢者の救急というものは、搬送されてきた時点では本当に重症なのか軽症なのか中等症なのか、その場で判断せざるを得ない。これが現場の意見」と伝えた。
その上で、茂松委員は「(高齢者救急を)最初から地域包括ケア病棟で診なさいとか、医療資源の少ない所でどうだという話があるが、やはり人の死というものが関わるので、我々としては高齢者救急も普通の患者さんの救急も同じとして捉えていただきたい」と訴えた。
池端副会長は、急性期病院におけるリハビリを充実させる必要性などを指摘した上で、ADL維持向上等体制加算(1日80点)について「これでリハビリ体制を充実させるといっても、かなり厳しい点数ではないか」と見直しを求めた。
【池端幸彦副会長の発言要旨】
江澤委員もおっしゃったように、急性期医療の担い手で多くの高齢者を支えている中において、ADLを維持するための対応をもっと充実すべきと考える。
急性期医療を提供する病棟でリハビリスタッフの充実が十分ではないという資料も出ている。何らかのかたちでしっかり充実させるべきだ。回復期病棟では当然のごとく365日のリハビリが提供される体制がほぼ構築されている。急性期でも、それに近い体制をつくる仕組みが必要ではないか。
資料によると、ADL維持向上等体制加算を届け出ている施設は3.2%(27施設)と少ない。リハビリ体制を充実させるといっても、さすがに80点(1日)というのは、かなり厳しい加算の点数ではないかと思う。しっかりしたリハビリを提供することを担保にして、少しインセンティブを増やすということも、メリハリ付けるかたちで重要ではないか。
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年24時間薬局の要件、「ハードルが高いので緩和を」
この日の総会では、「調剤(その2)」と題する資料の中で、かかりつけ薬剤師・薬局の役割や、薬局と医療機関の連携などについて論点が示された。
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池端副会長は医療機関と薬局との連携に関連し、地域包括診療料の算定に必要な24時間開局している薬局について「ハードルが高いので緩和を検討していただきたい」と要望した。
【池端幸彦副会長】
薬局と医療機関が連携して対応する必要がある。地域の薬剤師会や自治体などと協働して地域住民にも知らせながら連携を進めていただきたい。それが、かかりつけ薬剤師・薬局の機能のアップにもつながっていくと思う。
そうした中で、薬局・薬剤師における夜間・休日対応は非常に重要だ。この点、地域包括診療料の算定要件として、私の記憶では、24時間対応できる薬局との連携が必要であると思うが、地方では24時間対応の薬局が見つからないと聞く。そこで質問だが、24時間対応している薬局とは、薬局同士が連携して24時間対応している薬局でも地域包括診療料の要件を満たすと考えていいのかどうか。
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【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
通知によれば、「24時間開局している薬局であること」となっているので、その薬局が個別に連携して全体で24時間ということではなく、個別の薬局が24時間、その1つひとつの薬局が24時間開局していること。これが要件となっている。
なお、24時間開局している薬局のリストを患者さんに説明した上で、患者さんが選定した薬局であること。こういった要件も追加されている。
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【池端幸彦副会長】
理解したが、それではハードルがすごく高い。地域連携を進める意味で緩和することも検討していただきたい。
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オンライン診療、「顔の見える連携でスムーズに」
最後の議題「外来(その2)」では、情報通信機器を用いた診療について4項目の論点が示された。
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池端副会長は福井県での取り組みなどを紹介しながら、患者の近くに看護師がいる場合のオンライン診療(D to P with N)の新たな活用方法などを提案。「顔の見える連携ができていれば、情報通信機器を用いた診療にスムーズに移行できる」と述べた。
【池端幸彦副会長の発言要旨】
皆さんがおっしゃったように、対面診療できる体制を原則とするという指針から考えると、居住地以外の所の患者が大半を占めるようなオンラインは少し筋が違うので、しっかり実態を捉えた上で適切な対応が必要ではないかと思う。さらに、不眠症の患者に初診で向精神薬を処方するなど、指針に反する運用についても、適切な対応が必要であると思う。
論点3つ目の「へき地における情報通信機器を用いた診療」については、私はこれこそがオンライン診療の有用性が非常に発揮されるところだと思っている。
へき地の病院と診療所とのオンライン診療については、「D to P with N」等が有効であるとのことだが、ここで福井県の取り組みを紹介したい。まだ始めたところではあるが、へき地診療所で医師が1人、あるいは2人しかいないところで、医師が急病になって診療できなくなったとき、拠点病院に医師の派遣をお願いしてもなかなか対応が難しい。そのため、ワーキンググループで議論を重ねて、取り組み始めた。へき地診療所には国保診療所等が多いので、実は顔の見える連携が既にできている。そのため、緊急の場合にはへき地診療所同士の「D to P with N」で対応し、わりとうまくいっている例がある。これをもう少し進めてはどうかと検討している。「D to P with N」のこういう使い方もあるのではないか。
もちろん、へき地医療に対する拠点病院との関係は、あくまでも医師を派遣することが原則ではあるが、緊急時において、へき地診療所同士で柔軟に対応できる面がある。高齢者の慢性疾患にも慣れているし、顔の見える連携ができているので、情報通信機器を用いた診療にスムーズに移行できる。こういう使い方もあるということを紹介しておきたい。
(取材・執筆=新井裕充)
2023年11月9日