「FIMからBIに変えてはどうか」 ── 武久会長、定例会見で提案
医療と介護の連携や一体化が求められるなか、食事やトイレ、着替えなど日常生活に必要な動作を判断する基準が病院や介護施設などで異なっている。日本慢性期医療協会の武久洋三会長は6月24日の定例会見で「FIMからBIに変えてはどうか」と基準の統一化を提案。「誰もが分かりやすいリハビリシステムにしていこう」と呼び掛けた。
武久会長は同日の会見で、リハビリによる改善度を評価する2つの基準を紹介。医療分野ではFIM(Functional Independence Measure)、介護現場ではBI(Barthel Index)が主に使用されていることを伝え、これらの長所や短所などを紹介した。
その中で武久会長は、FIMが介護職員らに分かりにくいことや、恣意的な判定により高い診療報酬を獲得できるなどの問題点があることを指摘。「FIMからBIに変えていただくように厚生労働省およびリハビリ関係者に働きかけたい」と語った。
この日の会見には、回復期リハビリテーション病院や介護施設などを運営している橋本康子副会長も出席。「FIMはみんなが判定できるわけではない。講習や研修を受けて勉強しなければならない」と武久会長の見解に賛同し、「FIMとBIを統一するとすれば、BIに統一したほうがいいのではないか」と述べた。
同日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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「FIM利得」にはいろいろな問題点
[矢野諭副会長]
ただいまより令和3年6月の定例記者会見を開催する。それでは早速、武久会長から説明をお願いしたい。
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[武久洋三会長]
本日は日本慢性期医療協会の年1回の総会の日であり、理事会も併せて行われた。毎月1回、理事会の後に記者会見をさせていただき、当協会の現在の取り組みや懸案事項などをお伝えしている。
将来どういう方向性で運営していくかも含めて、皆さまにご報告させていただくことをずっと続けてきた。今月もご参加いただき、感謝を申し上げる。
今回のテーマはリハビリテーションである。現在、広く利用されている「FIM利得」という評価方向がある。このFIM利得については、当会の会員などから、いろいろな問題点が指摘されている。
こうした中で、さまざまな検討をした結果、FIM利得よりも Barthel Index に、すなわち「BI利得」という判断基準に変えてはどうかという提案である。
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リハビリの底辺が広がっている
リハビリテーションの環境が大きく変化している。1966年に日本で初めて理学療法士、作業療法士が誕生したが、その後、リハビリテーションの底辺が物凄い勢いで広がっている。日本リハビリテーション医学会の会員数は当時の何倍になっているだろうか。
今年6月、同学会の学術集会が4日間にわたり開かれ、朝から晩まで演題でいっぱいであった。このような学会が年に2回開かれている。いかに多くの医師や療法士がリハビリテーションに携わっているか。拡大の一途をたどっている。
日本に初めてPT・OTが誕生した20年後に老人保健施設が新設され、PT・OTが必ず1人はいなければいけなくなった。まだPT・OTの数は少なかったので、その時にPT・OTの月給が70万円なんてとんでもないことが起こり、大騒ぎになったことがある。その後、療法士の養成校が増え、今は当時の7倍以上に資格者が増えている。
2000年に「回復期リハビリテーション病棟」が新設されると、入院患者の在宅復帰に大きく貢献し、大きく評価された。そしてリハビリテーション医学の発展とともに一気に医療の中心に躍り出た。この20年間で回復期リハビリテーション病棟がリハビリテーションに果たした大きな働き、功績は非常に大きい。
PT・OT・STはこのように増えている。
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医療と介護の境界が密接に
医療にも介護の要素が必要となり、介護にも医療の要素が必要となってきており、医療と介護が密接につながってきている。
大学病院でも7割以上は高齢者の入院患者であるので医療だけでは済まない。医療にも介護の要素が必要、介護にも医療の要素が必要ということで徐々に境界が密接につながってきた。
リハビリテーション療法士が一気に増えたことにより、医療分野を中心としたリハビリテーション提供体制が変わってきた。今年の介護報酬改定でも分かるように介護分野に非常に拡大している。「LIFE」にもリハビリテーションの要素が多くなっている。
2019年から医療保険における疾患別リハビリテーションの算定日数上限を超えた維持期(生活期)リハビリテーションについて、要介護者の外来リハビリテーションは介護保険サービス(通所・訪問リハビリテーション等)へ移行された。
2021年度介護報酬改定では、重点項目の1つとして「自立支援・重度化防止」が掲げられており、科学的介護の推進とともに、介護分野においてもリハビリテーションのアウトカムが求められ、その評価方法について検討することとされている。
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診療報酬に関連してFIMが主体
Barthel Index は患者さんのリハビリの機能を測る指標である。長い間、リハビリテーションの領域で最も用いられたADLの評価法である。
Barthel Index は1965年頃から使われているが、現在の回復期リハビリテーション病棟では診療報酬制度に関連して、FIMが主体になっている。しかし、生活期では Barthel Index を求められていることが多い。
次のページをお願いしたい。左側がFIM、右側がBIである。
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ADL評価の内容を比較すると、FIMは「しているADL」、BIは「できるADL」と言える。
FIMは、13項目を7段階(1~7点)で評価する。一方、BIは各10点が10項目あり、10×10で100点満点という分かりやすい評価になっている。
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FIMは恣意的に点数を上げられる
このようなFIMとBI、何が問題になっているか。FIMの場合には、恣意的に点数を上げることができる点である。
FIMとBIの概要をご覧いただきたい。左側がFIM、右側がBIである。
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まず、左側のFIMについて。上の7点から5点までは比較的明確である。しかし、その下の4点から1点は、自分でどのくらい行うことができるかという基準が多い。
最も低い1点は「全介助」で、25%未満の行為しか自分で行えない。2点は「最大介助」で、25%以上50%未満を自分で行う。3点は「中等度介助」で、50%以上75%未満を自分で行う。
そして、4点は「最小介助」で、75%以上を自分で行う。すなわち、25%刻みの範囲の判断は全て療法士や医師である。
この判定の具合によっては、少し恣意的に点数を上げることができるシステムになっていることは多少残念である。
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BIは介護職員でも判断できる
一方、BIは各項目が「0点」「5点」「10点」となっており、その判定基準が明確に書いてある。
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例えば「トイレ動作」では、自立の場合は10点。衣服の操作や後始末を含む。ポータブル便器を用いているときは、その洗浄までできることが自立である。
部分介助は5点。体を支えたりトイレットペーパーを用いることを介助するような場合である。
このように、BIは具体的な行動に対する評価であり、リハビリテーショに詳しくない介護職員でも簡単に判断できる。
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FIM利得が強調されている
これに対し、日常生活動作(ADL)の指標はFIMであり、このような「日常生活機能表」が使われている。
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回復期リハビリテーション病棟入院料は、このFIM利得によって点数が異なっている。令和2年度の診療報酬改定はこのようになっている。
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赤の点線囲みの「実績部分」を見ていただくと、16点以上改善した場合や12点以上改善した場合などによって入院料が変わる。FIM利得が強調されている。
FIMは判定するのが少し難しいが、恣意的に判定せずに厳然ときちんと行われれば、BIとFIMとの相関関係は非常に高いと言われている。
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過大評価すればFIM利得は上がる
2016年度診療報酬では、回復期リハビリ病棟にリハビリ施行前後のFIM点数差を示すFIM利得を用いた実績指数が導入された。
FIMは診療報酬に大きく関係している。実績指数は、まず回復期リハビリ病棟での在院日数を疾患別の算定上限日数で割り、その値でFIM利得の総和を割って計算するものである。FIMの1点から7点の基礎点数をどのように付けるかによって全て変わる。
すなわち、患者の状態について「48%は自分でできる」と判断しても、少し過大評価してほんの4%を上乗せして「52%ぐらいできるかな」と判定すれば、FIM利得は1点上がる。
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入院時のFIMを恣意的に下げる
実績指数は非常に複雑な計算方法ではあるが、結局はFIM利得が大きくなれば自然に実績指数が高くなる。こうした仕組みをうまく利用されていることが指摘された。
このような資料を厚生労働省の保険局医療課が中医協に出した。
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FIM利得が開始された2016年以降、入棟時と退棟時の幅が大きく広がっている。16年度改定前のFIM利得は16~17点だったが、改定後はものの見事に20.3、21.0、23.2と上昇し、幅が拡大している。
十数年間ずっと一定であったのに、FIM利得が診療報酬に影響するとなった途端に、この幅が広がるというのはどう見ても恣意的な感じがする。
下のブルーの折れ線が入棟時だが、FIM利得が導入された2016~18年はこれまでよりも低く判定されている。
すなわち、退棟時のFIM利得を恣意的に上げるよりも、入院時のFIMを恣意的に下げるほうが周囲の目をごまかしやすく、悟られにくい。このように勘繰られても仕方がない。
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FIMの信頼性が低下しないか
FIMは介護度を細かく表現できる反面、その評価方法や看護側の問題もあり、本来の「しているADL」を反映していない可能性が指摘されている。
また、ADLやアウトカム評価は各病院が自己申告した数値であり、第三者による検証が困難という限界があるとの指摘もある。
FIMが学術目的でなく診療報酬に使われたため、日本のFIMの信頼性が低下しないか心配であるとおっしゃっている先生もいる。
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みんなが分からなければ
恣意的に、患者の状態が改善した判定をするようなことにならないためにも、FIM利得からBI利得に変えてはどうだろうか。
同じ患者が医療から介護へ、そして介護から医療へと移動する場合は多くある。
介護従事者は、BIのことはおおむね理解している。介護現場ではBIで判定している。しかし、FIMのことは全く分からない場合も多く、「FIM利得」なんて用語は聞いたことがないかもしれない。FIMはどちらかというとリハビリの専門職が中心である。
同じ患者さんが介護施設にいた時はBIで、医療に行くとFIMになり、また施設に戻ったらBIになる。いったい、この人は良くなっているのか悪くなっているのか、どうなったのか。医療・介護のみんなが分からなければいけないのに、統一されていない。
FIMはリハビリテーション専門職の間では使用していただいて結構だが、もう少し普遍的に判断するにはBI利得が必要ではないか。
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FIMとBIの相関関係を調査した
当グループ病院において、FIMとBIの推移について調査したので報告する。1カ月間の調査で対象は291名。脳血管や運動器の疾患が多かった。
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こちらのグラフをご覧いただくと、FIMとBIに強い相関関係があった。
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FIMを恣意的に判定しなければ、このような高い相関関係が認められる。入院1カ月後のデータも同様であった。
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診療報酬の過分な獲得は改善を
BIもFIMもそれぞれ長所と短所がある。
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BIの長所として、簡便で判定しやすいことや短時間でできることが挙げられる。また、判定する人の間で差が生じにくい。つまり恣意的な操作ができない。100点満点なので分かりやすい。本人・家族も理解しやすい。
しかし、短所もある。細かな能力変化を捉えにくい面があったり、介助量の変化が分かりにくかったりするが、ごまかしにくくて恣意的な操作ができにくいということは非常に大きな点だと思う。
恣意的な操作をすることによって診療報酬を過分に獲得できるという制度なら、改善しなければいけない。
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FIMには認知項目がある
確かに、FIMには細かな能力を捉えやすいという長所がある。また、認知項目が含まれる。BIには認知項目がない。
FIMは実際にしているADLで評価できるし、各項目が介助量に応じて7点満点となっている。
短所としては、判定に時間がかかったり、判定するための技術が必要であること。ベテランと新人で差が出やすい。そして、既に述べたように恣意的な操作をされる可能性もある。1項目当たり1点操作するだけで、18点の差が生じる。
点数については、BIが100点満点であるのに対して、FIMは18~126点となっており、分かりにくい。
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救える患者が増えるリハビリシステムへ
今後、日本のリハビリテーションシステムをどうするか。リハビリの分野が非常に広がって大きなウェイトを占めるが、いつまでも細い規則に終始するのだろうか。
もうそろそろ地域包括ケア病棟のように2単位包括で、好きなようにリハビリをやってくださいという仕組みに変わっていくべきではないか。リハビリテーション提供体制について、入院基本料に包括するべき時が来たのではないかということを日慢協は訴えていきたい。
とにかく、リハビリテーションで救える患者が増えるリハビリテーションシステムにしてほしい。
前回改定では、回復期リハビリテーション病棟に発症後2カ月以内でなければ入院できないという制限が外れた。これはリハビリテーションを普遍化する意味で非常に大きな改革だったと思う。
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誰もが分かりやすいリハビリシステムに
われわれは、「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」と言い続けてきた。「良質なリハビリテーションがなければ日本のリハビリテーションは成り立たない」と考えている。
リハビリの必要な患者さんに普遍的に適切に十分なリハビリテーションを提供することによって、できるだけ早く日常生活に戻れるようなシステム、みんなが満足するようなシステムに変えていく。
そして、その評価については、医療と介護の間で現在違っているところを統一して、誰もが分かりやすいリハビリテーションシステムにしていこうというのがわれわれの主張である。
ぜひ、FIM利得からBI利得に変えていただくように厚生労働省およびリハビリ関係者の方々にお願いしたい次第である。
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病院と介護施設、同じツールで
[矢野諭副会長]
「FIM利得からBI利得」というお話だった。橋本副会長からもコメントをお願いしたい。
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[橋本康子副会長]
武久会長のお考えに私も全面的に賛成させていただきたい。私は回復期リハビリテーション病院や介護施設を運営しているので、その現場の感覚から少しお話ししたい。
急性期病院から私どもの回復期リハビリテーション病院に送られてくる紹介状には、患者さんの状態についてBIで書かれている場合が多い。急性期の病院では、患者さんがどんなふうに動けるかについて、何を使って書きなさいという規定がない。BIが最も分かりやすいので、BIが多いのだと思う。
しかし、回復期リハビリテーション病院に来てからはFIMで判定する。そしてまた、次に慢性期の病院や介護施設などに行くとBIに戻る。
1人の患者さんが急性期病院で治療を受けて、その後、回復期病院でリハビリをして、その後、慢性期病院でケアを受けながら療養し、治療を受ける。1人の患者さんはずっと同じラインにいるのに、その患者さんを評価する方法がその都度変わるのでは、あまり意味がない。
評価は同じツールを使ってするべきである。同じツールでなければ、先ほど武久会長が言われたように比べられない。
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BIに統一したほうがいい
武久会長からご紹介があったようにFIMとBIは強い相関関係がある。しかし、FIMの点数を判定するには熟練が必要だ。FIMはみんなが判定できるわけではない。講習や研修を受けて、いろいろ勉強しなければならない。
FIMは、判定する人のさじ加減で、どうにでも変わってしまうような面もある。介護士や看護師などのリハビリ専門職ではない人が評価しようと思っても評価しにくいところがある。医師もそうである。
これに対して、何がどうなっているのかがよく分かるBIのほうが使いやすい。
従って、FIMとBIを統一するとすれば、BIに統一したほうがいいのではないかと私は思う。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年6月25日