「高度急性期以外の一般急性期にも目配りを」 ── 入院医療の議論で池端副会長
令和4年度の診療報酬改定に向けて急性期入院医療がテーマになった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「高度急性期をきちんと評価する視点は賛同したい」とした上で、「高度急性期以外の一般急性期も非常に頑張ってコロナ患者をしっかり受け入れている。一般急性期に対して目配りをすることも大事ではないか」と述べた。
厚労省は11月10日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第495回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。
次期改定に向けた主なテーマは「在宅(その4)」と「入院(その2)」。このうち「入院」については、「急性期入院医療」と「高度急性期入院医療」に分けて課題や論点を提示。急性期医療の機能分化に向けて議論を進めた。
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厳しい評価で救急対応能力が低下
急性期入院医療について厚労省は、旧7対1入院基本料の病院について「治療室のほかの入院料の届出状況や、救急搬送受入件数、手術(緊急手術等を含む)等の実績に差がある」と指摘した上で、「充実した急性期入院医療を担っている医療機関に対する評価の在り方について、どのように考えるか」と意見を求めた。
質疑で、城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「今回のこのコロナの対応によって、中小の医療機関の救急対応能力というものが、度重なる診療報酬の改定による急性期医療への厳しい評価の切り下げと相まって、救急対応能力が非常に低下している」と現場の窮状を伝えた。
その上で、城守委員は「現状において、急性期入院料をさらに削減するような方向性を打ち出すということは到底、考えられないのではないか」と述べた。
城守委員はまた、「治療室を持たない医療機関は急性期入院医療を担っていないかというと、そうではない」とし、「治療室がない病院でも、ナースステーションの横に処置室を置いて、手厚い看護体制で重症患者や救急患者を診ている」と説明。「こうした医療機関の評価を切り下げることになれば、地域の救急対応のさらなる低下、弱体化につながる」と懸念した。
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新興感染症への対応という視点が必要
池端副会長は城守委員の意見に賛同した上で、次期改定の基本方針の重点課題にコロナへの対応などが挙げられていることに言及し、「この視点が少し欠けている」と指摘した。
池端副会長は、コロナ対応によって病床稼働率が下がり、経営的に厳しい状況にあることを説明した上で、「新興感染症への対応という視点が必要」とし、「高度急性期以外の一般急性期に対して、どういう目配りをするかも大事ではないか」と述べた。
この日の会合では、外来医療の論点も示された。緊急往診加算について池端副会長は小児の在宅医療を充実させる方向性に賛同したほか、救急搬送診療料に新たな評価区分を設ける方向性を支持した。
■ 在宅医療について
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私も城守委員と同じ意見である。論点に沿って述べたい。まず緊急往診加算について、私自身も数例、持っているが、特に小児の場合、示された例以外にも呼吸器をつけている状態で、気管切開部のトラブルによって急に呼吸不全を起こして緊急で往診要請が出ることもある。緊急性が高い状況が日中も起こりうる。医療的ケア児の在宅に関しては、こういうことが起こりうる例を何度も経験しているので、ぜひ、そういう意味で見ていただけるとありがたい。
救急搬送診療料については、福井県でもECMOに対応できる医療機関が少ない。機器は準備しているが、それをきちんと扱える医師・看護師等が不足している。そのため、第1波、第2波の時は県をまたいだ広域の搬送をECMO net にお願いした。ボランティアでお願いした経緯もあるので、ご検討いただけるとありがたい。
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■ 入院医療について
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各論点について、城守委員、島委員がおっしゃったことに賛同させていただきたい。その上で、コロナ対応なども含め、少し大きな話も含めて意見を言わせていただく。
まず、診療報酬改定に向けた先月の医療保険部会では、改定の基本的視点などが示された。この中で、視点1と2が重点課題とされている。視点1は「新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築」で、視点2は医師の働き方改革等の推進である。そうした視点で見ると、今回の課題では、この視点が少し欠けているのではないかという気がしている。
資料7ページ「入院料別の病床稼働率の推移」を見ていただくと、令和2年はいずれの入院料においても、病床稼働率が大きく減少している。コロナの重症患者に対応した急性期一般1はこれまで80%を超える稼働率を維持していたが、コロナ対応で80%を切っている現状である。急性期病院では稼働率が8割を超さなければ経営的に成り立たないが、そもそも、ここがどうなのかと感じている。すなわち、コロナ対応でしっかり見ようとすると、稼働率を落とさなければいけない。こうした状況が全国各地にあったと思う。7割以下、場合によっては6割に落としてコロナ患者に対応している現状があった。今後、こうした状況をどうするかを考える必要がある。これからの新興感染症への対応も考えると、こうした視点が必要ではないかと感じている。
高度急性期をさらにきちんと評価するという視点、各論については賛同したいと思うが、例えば治療室を持っている高度急性期以外の一般急性期も非常に頑張っていて、今回、コロナ患者をしっかり受け入れて、そして大変な思いをしている所もある、一般急性期に対して、どういう目配りをするかということも大事ではないか。
そういう視点で、49ページ(コロナ患者受入医療機関/非受入医療機関の分析)以降のデータを見ていただきたい。重症度、医療・看護必要度Ⅰの患者割合は、「コロナ受入あり」の施設の割合が低くなる傾向にある。重症度、医療・看護必要度の各基準を満たす患者の割合をみると、基準③については、必要度Ⅰ・Ⅱともに「コロナ受入あり」の方が基準を満たす患者の割合が低かった。基準③は手術等なので当然かもしれないが、必要度Ⅰ・Ⅱともに「コロナ受入なし」のほうが基準を満たす患者の割合が高くなっている。この辺をどう考えるかについても工夫が必要ではないか。しっかりコロナを受け入れていると重症度が下がってしまうのでは、何をやっているのかわからないという話になってしまう。
重症度、医療・看護必要度のB項目の見直しについては、今はまだこの項目を大きく変える時期にはないと思う。もう少し、きちんとしたシミュレーションをした上で検討すべきである。B項目を外す、あるいは、いじるということに私は反対したい。
新型コロナの診療状況について、資料91、92ページでは治療室の有無別に分析している。治療室を届けている医療機関ではしっかりコロナ患者を受け入れていますよ、というのが言いたい文面かと思うが、治療費を届け出ていない医療機関でも、半分以上は1カ月以上13カ月未満、あるいは14カ月以上受け入れている。治療室を持っている高度急性期を評価することに反対するものではないが、それだけでは、今回のコロナパンデミックは受け入れ不可能だった。城守委員もおっしゃったように、治療室を持たなくても、しっかりコロナ患者を受け入れていた。ナースステーションの隣に処置室を置いて、そこでしっかり呼吸管理をしている一般の医療機関も多くあり、だからこそ、日本の死亡率がこれだけ世界と比較しても小さくなったという現実もあるかと思う。ここをしっかり評価していかないと、せっかくの日本の良いところがどんどん失われてしまうのではないかということで、ぜひ、ここにも目を配っていただければと思っている。
現状がこうだからこうしたらいいとか、効率的にこうすればいいという視点ではなく、少し先を見て、今回のような新興感染症が起きることを見据えてどういう対応をとるか。少し大きな視点で考えながら、今回の診療報酬改定でいじる、いじらないということを考えていただきたい。
これからどんどん高齢者が増えていく。急性期、高度急性期も高齢の患者にきちんと対応していかなければいけない。以上、現場からの意見として、お話しさせていだいた。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年11月11日