医師は最終的に命の責任を取る ─── 医療保険部会で池端副会長

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20231027_医療保険部会

 「医師に集中しすぎている権限をもう少し分散化したほうがいいのではないか」との声が上がった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「医師でなくてもできる事務的な仕事などはICTやDX化で広げていくべき。特定看護師も少しずつ広がっている」とした上で、「医師は最終的に命の責任を取る。そこの線引きは簡単ではない」と反論した。

 厚労省は10月27日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第169回会合を開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 令和6年度の診療報酬改定に向け、厚労省は同日の部会に「改定に当たっての基本認識、基本的視点、具体的方向性」を提示。次期改定の重点課題に「人材確保・働き方改革等の推進」を位置付ける方針を示し、委員の意見を聴いた。
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改定の重点課題

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物価・賃金上昇を反映させる改定に

 質疑の冒頭、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「重点課題が人材確保・働き方改革だけでは、保険財政に関する危機感が乏しい」と批判。高齢化に伴う医療費の伸びや高額薬剤の問題に触れながら、「制度の安定性・持続可能性の向上が大前提になる。これまで以上にメリハリのある診療報酬とするためにも、『視点4』を重点課題とすることが不可欠」と主張した。

 続いて、参考人として出席した日本経済団体連合会の井上隆氏も「人材確保・働き方改革だけが重点課題に取り上げられている」と指摘。「中長期的な視点を踏まえると、医療機能の分化・強化、連携の推進等も非常に重要ではないか」と述べた。

 一方、猪口雄二委員(日本医師会副会長)は「人材確保・働き方改革の推進を重点課題にしていただいことは非常に嬉しい」と評価。「令和6年度改定においては、従来の改定に加えて物価・賃金上昇を十分反映させるものであってほしい」と述べた。

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地方では医師の確保が重要な課題

 重点課題の「働き方改革」についても意見があった。袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会副理事長)は「素人考えかもしれないが」と前置きした上で、タスクシフト・シェアに言及。「日本の場合、医師に非常に権限が集まりすぎている。例えば、看護師やソーシャルワーカーに委ねればいい」との認識を示した。

 その上で、袖井委員は「医師が忙し過ぎるというのは、必ずしも医師がしなくてもよい仕事まで全部やってしまっているのではないか。医師に集中しすぎている権限をもう少し分散化したほうがいいのではないか」と述べた。

 一方、横尾俊彦委員(多久市長)は「地方においては医師の確保が極めて重要な課題」とし、「医師の確保、医療の確保をぜひ基本に考えていただきたい」と求めた。

 池端副会長は「人材確保を重点課題に入れていただいたのは非常にありがたい」と謝意を表した上で、「医師は最終的に命の責任を取る。どうしても渡せないところもあるが、広げていく方向で少しずつ進んでいる」と理解を求めた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 改定の基本認識について、「患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応」ではあるが、「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性」としていただいたことは非常にありがたいと思うし、「人材確保」を重点課題としていただいたことも非常にありがたいと思っている。
 一方で、先ほど各委員がおっしゃったように、持続可能な医療保険制度を維持すること、そして、効率化や適正化、DX化、生産性の向上、予防等が必要であることはそのとおりだと思う。それらも合わせて、この4つの視点の中で、いかにバランスよく進めていくかであろう。
 今、世の中は賃金上昇へと舵を切っている。一方で、医療サービスはご存知のように公定価格であるため、価格を転嫁したくても転嫁できない。医療・介護は人がサービス主体とならざるを得ない。「保険あってもサービスなし」という状況にならないようにする必要がある。民間企業が賃上げに舵を切っている中で、医療従事者だけが賃金を上げられない状況は避けなければいけない。医療従事者の入職超過率がマイナスになろうとしている。ここは何としても食い止めなければいけない。そのためには、一定程度の賃金上昇を進めるための原資となる診療報酬、あるいは、それ以外の方法もあるかもしれないが、緊急の課題として必要である。
 先ほど、看護補助者の給与が介護職員よりも低いとのデータについて「介護職員にはどのような職種が含まれているのか。ホームヘルパーの給与は低い」などの発言があった。この点について申し上げると、おそらく、ここでの「介護職員」は介護保険上の介護職員ではないか。医療保険においては看護補助者であり、病院の介護福祉士は看護補助者に含まれている。介護保険上のサービスを提供する介護職員は処遇改善交付金により10万円近く給与が上がってきているが、医療保険サービスにおける介護職には処遇改善の手当てがなされてないため、この10数年で医療保険と介護保険の介護職の賃金格差は2万円から4万円に広がっている。こうした現状があることもご理解いただきたい。
 また、先ほど働き方改革、タスクシフトに関連して、「権限を渡せばよいのではないか」という意見があった。もちろん、医師でなくてもできるような事務的な仕事などはICTやDX化を進めてさらに広げていくべきであるし、特定看護師の業務も少しずつ広がっている。しかし、命の責任を取るという医師の役目との線引きは非常に難しいところがある。十分に検討しながら、少しずつタスクシフトはしているはずなのだが、なかなか難しい。医師は最終的に命の責任を取る。そうした中で働き、担っている仕事はどうしても渡せないところがあるので、そこの線引きは簡単にはいかないこともある。ただ、それを広げていく方向で少しずつ進んでいることもご理解いただきたい。
 一方で、診療報酬を上げても確実に給与に回っているのかという意見もあった。しかし、看護職員処遇改善評価料によって月額1万2,000円近い賃金改善の実績が示されており、数字には表れている。次回以降も同様の方法を踏襲するかは別としても、確実に効果に結びついており、介護保険上でも処遇改善がなされている。
 ここで、やや私の個人的な感想として言わせていただきたいのは、診療報酬を上げるという議論になると、必ず経済関係の大手新聞社は「医師の給与等の診療報酬を改定する」という言い方をする。「医師の給与等」が必ず枕詞に付いている。そのため、非常に誤解されてしまい、診療報酬を上げると、医師の胸のポケットにお金が入るんじゃないかと思う人がいる。こういう認識をそろそろ変えていただきたい。診療報酬というのは、あくまでも医療サービスについての報酬である。この場におられる皆さんよくご存知だと思うが、新聞を読むと枕詞にいつも書いてあるので、何とか払拭したいというのが個人的な思いである。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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