訪問リハビリをデザインする ── 定例会見で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等

20240718_橋本康子会長(日慢協会見)

 日本慢性期医療協会の橋本康子会長は7月18日の定例記者会見で、「訪問リハビリをデザインする ~強化型訪問リハビリテーションの創設~」というテーマで見解を示した。橋本会長は、現行の訪問リハの課題として、リハビリ提供量の不足や評価指標の不統一を挙げ、対応策として「強化型訪問リハビリ」の導入を提案した。
 
 具体的には、訪問リハビリテーションの目的を機能改善と在宅生活の再構築に設定し、通院困難な患者に限定せず、必要な十分量のリハビリを提供することを強調した。また、週に3回程度の集中的なリハビリを行う「強化型訪問リハビリ」を提案し、目標期間を明確に設定することの重要性を述べた。

 さらに、橋本会長は、物理的な対面を必要としないオンラインリハビリの導入も重要であるとし、特に言語聴覚士(ST)によるオンラインリハビリの評価と推進を提案した。
 
 アウトカム評価については、Barthel IndexやFIMなど指標について課題を挙げ、リハビリの質を高める指標により具体的な改善と評価を行う必要性を指摘。こうした提案が実現すれば訪問リハビリの質と効果が向上し、患者の在宅生活の質の向上に寄与するとの考えを示した。
 
 橋本会長の説明は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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目的、プロセス、アウトカムの視点

[矢野諭副会長]
 定刻となったので、ただいまより令和6年7月の日本慢性期医療協会定例記者会見を開催する。
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[橋本康子会長]
 先月の通常総会で私は2期目を拝命した。2期目のテーマとして「慢性期医療をデザインする」という目標を掲げており、今後もこのテーマに基づいて活動していく。

 通常総会の記念講演で述べたように、まず「寝たきりゼロへのデザイン」という観点から、現在の療養病床を「慢性期治療病棟」として位置づけるべきだと考えている。

 「療養病床」という名称は、「療養する病棟」という印象を与える。「ただ寝かせているだけ」という誤ったイメージを抱かせる恐れがある。このため、慢性期疾患の患者に対する治療を行う病棟として「慢性期治療病棟」に名称を変更することを提言した。

 この「慢性期治療病棟」においては、「目的」「プロセス」「アウトカム」を明確化することが必要である。今後は、「慢性期医療をデザインする」というテーマに基づき、それぞれの項目について具体的に見解を示していきたい。

 まず「目的」について。先日の通常総会で説明したように、「慢性期治療病棟」の目的は病態を改善することである。単に療養するだけでなく、適切な治療を行い、在宅復帰を促進することを目指している。

 次に、「プロセス」について。ポイントは実践方法の確立である。先月の講演で紹介した6病態(誤嚥性肺炎、低栄養、脱水、褥瘡、尿路感染症、その他の感染症)の治療。そして、病態の急性憎悪対応(慢性期救急)を挙げたい。
 
 その成果である「アウトカム」については、「6病態」の治療等により、適切な治療が実施されていることを示す。具体的には、「6病態」の改善度や改善期間などのデータを収集し、今後公表する予定である。
 
 前回は、こうした内容をご説明した。寝たきりゼロに向けて、慢性期医療や介護が果たすべき役割を見直す。目的、プロセス、アウトカムの視点でデザイン(改革提言)する。
 
 このような視点で、今回は訪問リハビリテーションについて述べる。

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今回のテーマについて

 本日の内容は「訪問リハビリをデザインする」というテーマで、副題として「強化型訪問リハビリテーションの創設」を提言する。
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 まず、目的について。現在、通院リハビリの代替手段となっている訪問リハビリテーションを「生活再構築への最適手段」として実施することである。

 次に、プロセスについて。訪問リハビリテーションでは十分な量のリハビリテーションを提供する必要があると考えられるが、現状ではリハビリの提供量が不足しているように思うため、この点を強化したい。

 その1つの方法として、言語聴覚士(ST)らによるオンラインリハビリテーションをご紹介する。現時点では診療報酬や介護報酬で評価されていないが、新たな試みとして推進していく予定である。

 最後に、アウトカムについて述べる。どのような指標で成果を測定し、どのように実施していくか。現状や課題を示したい。

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訪問リハの目的の現状と課題

 まず、訪問リハの目的について。現在、訪問リハビリテーションの目的はどのようになっているか。「在宅生活の再構築」「身体機能の向上」という視点で考えるべきではないか。
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 対象者について、医療では「通院が困難なもの」に実施するという制限がある。介護でも、訪問リハビリテーション費は「通院が困難な利用者」に実施した場合に支給されるという制限がある。このように、対象者はあくまで通院困難な患者に限定されているが、検討すべき課題であろう。
 
 訪問リハの目的として、医療では「基本的動作能力若しくは応用的動作能力又は社会的適応能力の回復」が挙げられており、そのための訓練等が求められている。介護における訪問リハの目的は、移行支援加算の考え方から読み取れる。すなわち、同加算は「指定訪問リハビリテーション事業者がリハビリテーションを行い、利用者の指定通所介護事業所等への移行等を支援した場合」に算定できる。最終的に利用者がデイサービスに移行することが目的であるようにも見える。
 
 まとめると、訪問リハの対象者は「通院が困難」な患者であり、医療での目的は「回復」であり、介護では通所に「移行」するまでの代替手段として位置付けられているが、再考すべきではないか。

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在宅生活の再構築と身体機能の向上

 
 では、訪問リハの目的をどのように考えるべきか。本人・家族の希望を踏まえて考えるべきではないか。
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 左側のグラフ。「在宅生活の再構築」に関するニーズは赤、「身体機能の向上」は青で色分けした。最も多いのが身体機能の向上で67%。入院中のリハビリで身体機能が向上したとはいえ、さらなる向上を望む希望がある。身体機能を向上させるために訪問リハを利用したいと考えている利用者や家族は約7割に上る。

 続いて、生活能力の向上を希望する割合が63%。身体機能の維持も重要であるが、やはり向上させたいという希望が大きいと思われる。次に、生活能力の維持が61%。例えばトイレに自分で行く、食事の準備をする、食事を作る、掃除をするなど、これまでの生活能力を維持したいという希望がある。さらに、どこかに通う、買い物に行く、近所に出かけるといった社会生活に関する希望もある。

 生活課題を解決したいと考える人も多い。例えば、これまでお風呂に自分で入れていたのに、最近は危険で入りにくいと感じる場合、その問題を解決したいと考えるだろう。また、仕事に行きたいと望む場合、就職準備などの支援が必要である。生活課題の解決を望む人は50%に達している。このように、生活能力を維持し、向上させたいという希望が多く存在する。病気になる前の生活能力を維持し、さらには向上させることを目指している。

 市民活動や地域における社会参加も非常に重要である。ニーズや目標、「こうなりたい」といった希望を持つ人々のために訪問リハを提供している人はやや少ないように見受けられるが、これも重要な課題であると考える。
 
 このようなニーズを踏まえ、訪問リハの目的について考える。訪問リハビリが必要となった原因で上位の傷病名は、脳卒中(31.4%)、骨折(26.6%)、廃用症候群(18.4%)、関節症・骨粗鬆症(15.5%)である。
 
 訪問リハを受けている人の多くは、疾患や骨折、怪我をする前の状態に戻ることを目指している。しかし、加齢により身体機能が低下し、障害が発生することもある。そのため、住宅環境を整備し、生活の場そのものでトレーニングすること、つまり「在宅生活の再構築」が必要となる。
 
 脳卒中などで入院し、再び在宅に戻った患者さんの多くは、発症前と同じことを希望しても実現が難しいことが多いので、新たな方法を習得し、生活を再構築することが重要である。身体機能の向上や生活能力の向上を希望する声が多いのは、このためである。したがって、まず「在宅生活の再構築」を1つの明確な目的として設定すべきである。

 もちろん、この目的の中には、住宅の環境整備も含まれる。例えば、在宅療養を継続するために階段に手すりをつけることが代表的であるが、それだけではない。段差をどうするか、2階建ての家であれば1階に生活環境を移すといった対応も必要だろう。こうした環境整備を進めることが重要である。
 
 回復に向けて自宅が最適な環境であることは明らかであるが、自宅内だけでなく、社会に出ていくことも大切である。仕事や買い物に行く際、以前は徒歩や電車で移動できていたが、それが困難になった場合には、自家用車での送迎やバスの利用といった環境の変化に対応する必要がある。

 さらに、身体機能の向上も目指すべきである。入院リハだけでは解決しきれなかった身体機能の向上を図ることも重要である。したがって、訪問リハの目的として、「在宅生活の再構築」と「身体機能の向上」の2つを掲げるべきと考える。

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入院中と同程度の十分なリハビリを

 次に、訪問リハのプロセスについて述べる。訪問リハの現状はどうなっているか。
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 リハビリの量が圧倒的に少ない。1週間に1時間しか実施していないケースが多い。回復を目的とするには、リハビリ提供量が著しく不足している。

 リハビリの質はどうか。早期のリハビリ開始や情報共有、医師の関与などが重要な要素として挙げられている。これらの質の向上を担保するためにも、週に1回1時間では十分ではない。

 そこで提言として、訪問リハのプロセス①について述べる。機能改善に必要なものは、十分なリハビリ量であると考える。入院リハビリと同程度のリハビリを提供すれば、それ以上のアウトカムも見込める。
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 このグラフは3人の症例である。急性期病院の退院直後、在宅で毎日3時間のリハビリを提供した患者の運動FIMの推移を調べた。

 症例は80歳代の患者が2名と70歳代の患者が1名である。これらの患者は、くも膜下出血、気管切開、胃瘻、頸部骨折、認知症などの重度な状態であった。初回訪問時のFIMは13点、15点、17点と、ほぼ寝たきりの状態であった。

 最初のころは毎日訪問して3時間のリハビリを実施した。毎日でなくてもいいが、濃厚にリハビリを実施すれば効果が得られる。3カ月後にはFIMが40点から50点に向上。杖をついて歩いたり、車椅子から立ち上がったり、トイレに自分で行くことができるようになった。その後、50点、75点と上がり、歩けるようになった。

 濃厚な訪問リハはいつまでも続ける必要はない。3カ月から4カ月程度で十分である場合も多い。その後は回数を減らし、5カ月を過ぎたらフォローアップする形に移行するのがよい。このようにメリハリをつけながら、入院リハビリと同程度、あるいはそれに近い程度にリハビリの量を増やすことが必要であると考える。

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オンラインによるSTリハビリ

 オンラインによるリハビリも期待できる。私ども千里リハビリテーション病院での試みを紹介する。
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 最近の診療報酬改定でオンライン診療が評価されるようになったが、オンラインのリハビリテーションは評価対象外である。しかし、改善効果が期待できるので、当院では「オンラインSTリハビリ」を実施している。

 症例は脳梗塞の60歳代男性で失語症。音楽教員への復職を希望している。週1回60分のリハビリをSTが実施した。2022年8月のメールでは誤字が多かったが、2年後の24年7月には減少している。

 STは大阪や東京のような都会でも少なく、地方や離島ではさらに不足している。STの主な役割は嚥下障害の改善だが、言語障害の改善も担当しており、話せない人が話せるように訓練を行う。高次脳機能障害も扱う。記憶障害や判断能力の低下、段取りができないといった症状の改善も行う。これらがSTの主な仕事である。

 この患者さんは回復期リハビリ病棟に3~4カ月入院し、その間に歩行や片麻痺の軽減が見られ、歩けるようになったが、ほとんど話せない状態であった。また、失語に加えて失読(文字が読めない)、失書(文字が書けない)、計算ができない、失認(認識が困難)などの問題が多く見られた。

 そのため、最初のうちは食べ物を見てもそれが食べ物であることはわかっていたが、例えばスイカを見てもスイカとして認識できないことがあった。このような状況であったため、退院後もSTによる治療を続ける必要があった。この患者に対して、7月から3カ月間、オンラインリハを実施した。週に1回1時間、Zoomで行った結果、車の運転が再開できた。

 この患者は離島に住んでおり、沖縄の遠方からオンラインリハを受けていた。大阪から沖縄の離島にオンラインリハを行った結果、2年後に職場復帰が可能となった。

 理解力や表現力もほとんど正常範囲に達し、理解、表出、社会的交流、問題解決、記憶のすべての項目で7点満点の評価を得た。メールの誤字が減り、意味のある文章を正確に書けるようになった。再び音楽教員として復帰できた。以上のことから、特にSTによるオンラインリハは有効であるため、今後はそういう点数を付けていただきたいと思っている。

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訪問リハのアウトカムは

 次に、アウトカムについて述べる。訪問リハの改善効果をどのように評価するか。現在、現状維持が約半数を占め、十分な効果は見られていない。高齢のため悪化する人もいるが、改善している人は42%である。
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 訪問リハを開始してから半年間で42%が改善している。これを効果があると見るか、42%しか改善していないと見るか。この42%の改善を「すごい効果がある」と評価するか、「もう少し効果を高める必要がある」と考えるか。結果を出さなければならないので、訪問リハのアウトカムは何かが問題となる。

 現在の制度では、結果を評価しているとは言えない。例えば、今改定で廃止された事業所評価加算は、要支援状態区分の維持と改善者の割合で評価されていた。しかし、要介護認定の時期が年1回のため、この評価基準に合わず、加算を取得する事業所は少なかった。そのため、令和6年に廃止された。
 
 また、介護予防訪問・通所リハビリテーションの利用が12カ月を超えた際の減算について、減算を行わない場合の要件としてLIFEを用いたデータ提出が入った。
 
 しかし、現状では訪問リハによって改善したのか悪くなったのか、変化がないのかを示す証拠が不足している。「当院では効果があると考える」主張しても、それを裏付ける証拠がない。ADLの定量評価が行われていない。改善度ではなく行き先で評価されている。

 さらに、リハビリの単位数についても、改善したら減少するという問題がある。今後はアウトカムの評価方法を考えていく必要がある。

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ADL指標を設定し、改善度で評価

 訪問リハのアウトカムにADL指標を設定し、その改善度で評価すべきである。「だれの」「何を」「どれくらい良くするか」を明確にすることから始めてはどうか。
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 急性期や慢性期、生活期、介護保険の各段階で評価指標が異なる現状がある。急性期では、Barthel Index、回復期リハではFIM、日常生活機能評価を使用し、療養病床ではADL区分を使用している。介護保険では要介護度を評価指標としている。このように、評価指標が統一されていない。

 評価指標がバラバラであるため、1人の患者が急性期から慢性期、生活期、そして介護保険に移行する際に、「この患者はトイレに自分で行けるのか」「食事を自分でとれるのか」といった情報が把握しづらい現状がある。

 現在の評価指標で結果が様々に示されてはいるものの、Barthel IndexやFIMなどから「この人は歩けるのか?」「自分で食べられるのか?」といった具体的な状況がよくわからないことが多い。全員が共通して理解できるような評価指標を設定し、一目で状況がわかるようにしたい。

 さらに、慢性期においてはADLだけでなく他の要素も評価する必要があると考える。例えば、「仕事に復帰できた」「社会参加ができるようになった」といった成果がある場合、これらを評価できる指標も必要である。改善が困難な人が多くいるのは事実である。高齢者が多いため、在宅でもそのような状況にある人がいることは理解している。しかし、改善が困難だからといって放置するのではなく、現状維持を目指す。週に1回1時間のリハビリで状態が維持できているなら、それでよいと考える。

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「強化型訪問リハビリ」の創設を

 一方、改善する人も多く存在しているので、改善が可能と評価された人に対しては、強化するためのリハビリに移行することが重要である。
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 例えば、今まで週に1回しか訪問リハビリを行っていなかった人に「この1カ月だけ強化してみましょう」と提案し、強化型リハビリを実施することで歩行能力が向上することがある。こうした強化型訪問リハビリの利用は有効である。

 退院直後には強化型訪問リハビリを1カ月ほど集中的に行い、週に3回から4回訪問する。その後、状態が改善または維持された場合には、週に1回、または1カ月に1回から2回の訪問リハビリでフォローアップする。

 また、加齢に伴い、転倒や肺炎などで再び悪化する可能性がある。そのような場合、入院の有無にかかわらず、誰かが評価を行い、「強化型の訪問リハビリを導入すべき」と判断した場合には、1カ月から2カ月の強化型訪問リハビリを継続する。状況に応じて強化型訪問リハビリを適宜導入することで、メリハリの利いた訪問リハが実現できる。
 
 まとめとして、十分量で高い効果を発揮する強化型訪問リハビリを創設し、在宅患者に提供する。その質を高めるために、アウトカム指標で評価すべきだ。その目的は、機能改善と在宅生活の再構築である。対象者を通院困難な患者に限定すべきではない。

 プロセスとしては、必要な十分量のリハビリを提供できるようにすることが重要である。目標期間を設定する。ダラダラと続けるのではなく、1カ月なら1カ月、3カ月なら3カ月と決めて、その間に週に3回集中的にリハビリを行うことが強化型訪問リハビリである。対面を必要としないオンラインリハを取り入れることも有用である。

 アウトカムとしては、Barthel IndexやFIMなど、何らかの指標を設定する。例えば、「AさんのFIMが10点上がった」という具体的な改善と評価が必要である。

[矢野諭副会長]
 橋本会長、ありがとうございました。
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