医療も介護もアウトカムは「素晴らしい人生」 ── 介護費用の扱いで池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

第64回費用対効果評価専門部会_20230913

 介護費用の取り扱いと費用対効果評価との関係が議論になった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「医療も介護も最終的なアウトカムは素晴らしい人生を全うしていただけるか。そこをゴールと考えれば、医療が介護に貢献していることに対して費用対効果も考えていいのではないか」との見解を示した。

 厚労省は9月13日、中央社会保険医療協議会・費用対効果評価専門部会(部会長=飯塚敏晃・東京大学大学院経済学研究科教授)の第64回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に「費用対効果評価制度の見直しに関する検討(その1)」と題する資料を提示。その中で、「介護費用の分析の取り扱いに関してどのように考えるか」との論点を挙げた。
.

01スライド_P52_第64回費用対効果評価専門部会資料_20230913

.

範囲や線引きの明確化が必要

 質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「介護費用を含めた分析についての研究の状況を見て判断する必要がある」と述べた。

 森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「今後の費用対効果評価における重要な視点」とした上で、「介護負担の軽減などは多種多様な視点があるので、具体的に、どの範囲までを認めていくのかが適当なのか、どのような軸で線引きしていくのかなど明確化が必要」とした。

.

積極的に研究していただきたい

 一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「研究自体は進めるべきであると考えるが、それが技術的に可能だとしても、介護費用の軽減を医療保険の財源を使って評価することが果たして妥当なのかという根幹の考え方に関わるので深い議論が必要」と指摘。「現時点では少し現実的ではない」と述べた。

 池端副会長は「現状ではまだ難しい」としながらも、「ぜひ前向きに積極的に研究していただきたい」と期待を込めた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 価格調整の対象範囲については、私も長島委員と同じ視点である。費用対効果評価制度がスタートしたときの考え方として、これから超高額の医薬品が出たときに、その市場がどこまで拡大するかわからないので、それに対する安全弁という意味があったと思う。
 現状、スタートしてから長い時間が経ってないので調整幅がかなり小さいが、これからどんどん高額な薬剤等が出てきた場合には、やはりここが安全弁になるように積極的に範囲を広めることも今後、検討すべきではないかと思う。
 ただ一方で、長島委員がおっしゃったように現状ではどこまでを対象範囲にすべきかというデータが不足しているところがあると思うので、引き続き研究していただきたい。

.

価格調整の割合は少ない傾向にある

 価格調整の対象範囲のあり方についても議論があった。厚労省は「近年、医療技術の進歩等を背景に、高額な医薬品の承認、保険収載がされている」との課題を提示。「多くの品目で、調整前価格に対する価格調整の割合は少ない傾向にある」と指摘した。

 その上で、論点に「費用対効果評価のより積極的な活用の観点」を挙げ、「価格調整範囲の条件の在り方についてどのように考えるか」と意見を求めた。
.

02スライド_P46_第64回費用対効果評価専門部会資料_20230913

.

高額薬剤等が出た場合の安全弁に

 質疑で、長島委員は「本制度をより積極的に活用するという事務局の提案は理解するが、議論するには資料が不足している」と指摘。今後の検討に向け、「費用対効果の対象となった品目が実際にどの加算、営業利益などで調整を受けたのかを確認する必要がある」とし、「事務局に整理をお願いしたい」と求めた。

 これに対し、支払側の松本委員は「加算部分に限らずに、より広い範囲を調整の対象にすべき」と改めて強調。「費用対効果評価の結果を保険償還の判断に用いないのであれば、費用対効果が同等になるように価格調整すべき」と述べた。

 池端副会長は「これから高額な薬剤等が出てきた場合に安全弁になるよう、積極的に範囲を広めることも検討すべきではないか」との考えを示した。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 長島委員等がおっしゃったように私も現状ではまだ難しいだろうと思う。ただ、これから高齢者医療がどんどん増えていく中で、例えば、画像でがんの腫瘍の大きさが半分になったというデータも大事だが、それよりも薬やプログラム医療機器を使ったことでADLがどこまで改善したのか、改善しなかったのかというアウトカムも非常に重要になってくると思う。
 ただ、これを数値化するのは、まだかなり難しいのではないかと思うので、積極的に研究を進めるように、予算措置も含めてお願いしたい。その医薬品等がADLにどう効果を上げたか、あるいは緩和ケアとしてどう効果が認められたかについても評価の対象にすべきと考えるので、ぜひ前向きに積極的に研究していただきたいと思っている。
 なお、先ほど介護費用に関して、中医協で検討している医療の評価に介護の評価を連動させるのは違和感があるというような発言があったと思う。もちろん中医協で議論するのは医療で、介護保険は介護給付費分科会で評価されるべきという考えは理解できる。
 ただ一方で、これは総会マターになるかもしれないが、医療の目的は確かに生命を守ることが一番で、介護は生活を守ることが一番であるが、医療も介護も、その先にある高齢者医療というのは、高齢者にいかにいい人生を送っていただくか、そのために医療として何ができるか、介護として何ができるか。最終的なアウトカムは、その人がACPに基づいた素晴らしい人生を全うしていただけるかであり、そこをゴールと考えれば、医療がそこに対して何か貢献していることに対しては費用対効果を見ることも考えてもいいのではないか。特に高齢者医療に関しては、そういうこともあるのではないか。これは私見だが、そのように感じている。
 それをどこまで費用対効果評価制度に落とし込めるかどうか。ちょっとまだ夢物語かもしれないが、そういう目で医療を見るということも、これから必要ではないか。個人的な意見として言わせていただく。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »