身の丈に合った救急もある ── 入院医療の議論で池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2023年7月5日の総会

 令和6年度の診療報酬改定に向けて入院医療について議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は地域包括ケア病棟の救急について見解を述べ、「顔の見える連携で受け入れを判断するなど、身の丈に合った救急もある」と指摘した。

 厚労省は7月5日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第548回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の会合に「入院について(その1)」と題する資料を提示。急性期・回復期・慢性期の入院医療について最終ページに論点を挙げ、委員の意見を聴いた。

.

強引な誘導、「混乱を招く」

 1つ目の論点は急性期について。「高齢者の救急搬送件数の増加等」を踏まえた「地域包括ケア病棟に求める役割」などを挙げ、「評価のあり方についてどのように考えるか」と意見を求めた。

.

01スライド_論点_【総-4】入院(その1)_2023年7月5日の総会

.

 質疑の冒頭、長島公之委員(日本医師会常任理事)は「高齢者の救急搬送件数の増加の背景として、これまでの施策が高度急性期の評価を重視し、二次救急の評価が十分になされてなかった影響がある」と改めて強調した。

 その上で、長島委員は「機能分化を促進するために診療報酬で強引に誘導していくというやり方では、かえって現場の医療機関や患者さんに混乱を招く」と苦言を呈した。

.

連携による「付き添い搬送」も

 続いて江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、地域包括ケア病棟の救急受け入れに関するデータに言及。「介護施設や高齢者住宅からの即日緊急入院の場合は、平素から医療機関と連携が取れているところほど、救急車による搬送よりも介護施設等の職員による付き添い搬送が多くを占めるのが実態」と伝えた。

 江澤委員はまた、病院職員が介護施設まで迎えに行くケースも挙げながら、「救急について論じる際は救急車による搬送のみならず、介護施設や高齢者住宅のスタッフが付き添い搬送する即日入院、あるいは医療機関が患者さんを迎えに行く緊急入院も踏まえて考えるべき」と指摘した。

 その上で、「中小病院と介護施設・高齢者住宅との連携、さらには在宅医療でのかかりつけ医との連携など、これらは後方支援を含めた在宅医療を支える基盤となる」とし、「こうした連携体制は新興感染症の対応力強化にもつながるものとして重要」との考えを示した。
.

縛り過ぎない自由度が高い救急を

 地域包括ケア病棟を有する病院の救急について、厚労省の担当者は「ばらつきがあるものの、100件以下の医療機関が多いという状況。二峰性と言ってもいい」と説明した。

.

02スライド_P78_【総-4】入院(その1)_2023年7月5日の総会

.

 一方、介護施設から急性期病院への入院が多い状況や、その傷病名で最も多いのが誤嚥性肺炎であるとのデータを改めて紹介した。

.

03スライド_P68_【総-4】入院(その1)_2023年7月5日の総会

.

 質疑で、島弘志委員(日本病院会副会長)は「高度医療が必要と判断されれば三次救急、自施設で対応可能であれば加療、入院継続が必要ならば連携の取れた近隣に転院する」と説明。「どういう症状で、どのようなバイタルかによって救急隊は搬送先を選ぶ」と現状を伝えた。

 こうした意見を踏まえ、池端副会長が発言。「救急隊とも連携が取れているのが地域包括ケア。あまり縛り過ぎない自由度が高い救急という見方がとても重要ではないか」と述べた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

1.急性期入院医療について
.
 資料78ページ(地域包括ケア病棟を有する病院の救急の状況)について、このデータは地域包括ケア病棟のほかに一般病床等を持っていて、その一般病床で救急を受けている病院のパフォーマンスも入ってしまっている。 
 前回改定で地域包括ケア病棟の救急に対する縛りができたことに対して、どのように地域包括ケア病棟がしっかり動いているかを見るためには、一般病床を持っていない病院や、あるいは一般病床で受け入れた救急患者を地域包括ケア病棟に移している病院について見る必要がある。そういうデータの分析の仕方も非常に重要ではないか。もし可能であれば事務局からそのデータを出していただき、入院・外来医療等の調査・評価分科会などで議論し、その内容をまた総会に報告していただくよう要望する。
 地域包括ケア病棟で受ける救急については、同時改定に向けた意見交換会でも議論された。その中で、「高齢者救急は地域包括ケア病棟で受けるべき」という意見もあった。しかし、私は高齢者の救急というものをひとくくりにするのは非常に危険だと思う。高齢者でも緊急手術で治せば自宅に帰れるような病気も多い。地域包括ケア病棟で全ての救急患者を受けることは不可能で、二次救急が中心になる病態も多い。高齢者救急というものを限定的にとらえると、大きなミスマッチを起こす危険性が非常に高い。 
 現場感覚で言えば、一般病床を持っていない中小病院など、地域包括ケア病棟を中心にしている病院が受けられるような身の丈に合った救急もある。高齢者救急の中で、「この疾患は当院でも受けられるが、この病気は別の病院に送らなければ難しい」というケースもあり、高齢者救急はひとくくりにできない。 
 例えば、79ページ(地域包括ケア病棟を有する病院の救急受け入れの判断の基準)によれば、患者の症状により受け入れの可否を判断している割合が高い。自院の通院歴・入院歴の有無や、患者の症状によって受け入れの可否を判断している。
 もちろん、救急指定病院であれば、そのようなトリアージはいかがなものかという意見もあるかもしれないが、地域包括ケア病棟の場合には顔の見える連携があって受け入れを判断することもある。それは病院の「かかりつけ医機能」とも言える。
 先ほど島委員もおっしゃったように、地域の救急隊員はそれをよくわかっている。この患者は二次救急、この患者は三次救急に直接行くべきだと救急隊が判断する。日頃から連携が取れていれば、患者さん、または病院側から「この患者さんは何々病院に搬送してください」と救急隊員に言える。「この病態ならば、あの病院で受けられる」とわかっている関係。これこそがまさに医療・介護連携であり、非常に良い地域包括ケアシステムだと思う。こうした点もご理解いただきたい。あまり縛り過ぎない。ある程度、自由度が高い救急という見方がとても重要ではないか。
 介護施設に入所している高齢者の救急については、先ほど江澤委員がおっしゃったとおり。自院も同様で、介護施設等の職員による付き添い搬送が多くを占める。例えば誤嚥性肺炎で、1分1秒を争うものでなければスタッフが連れてくる。あるいは、ご家族が病院に連れてくる。そういう救急も十分にあるので、今回示されたのは救急患者の一部と言える。介護施設からの救急について、付き添い搬送がどの程度あるのか、それがわかるようなデータがあれば、ぜひ示していただきたい。現在、地域包括ケア病棟がどのような救急を受けているのか。地域包括ケア病棟が中心の病院と、一般病床も持つ病院とはパフォーマンスがどう違うのか、それがわかるデータがあれば分析しやすい。事務局で検討していただきたい。

.
2.回復期入院医療について
.
 資料88ページ(入棟時・退棟時FIMの年次推移)が論点になると思う。資料では、「平成28年度以降、入棟時FIMが経年で低下する傾向」と指摘している。すなわち、FIM利得が要件に入ったため、入棟時FIMが低い患者を選別し、FIM利得の向上が期待できるように恣意的な運用をしているのではないかが議論になった。
 確かに、そのようにとらえられるデータではあるが、ここは十分に分析する必要がある。私は入口よりも出口のほうが大事だと思う。FIMが一定程度まで改善して退院した後、自宅に帰ってもADLが維持できているか。回復期リハビリ病棟で徹底的にリハビリをしてFIMを上げても、在宅や施設に戻ったらADLもドーンと下がっていないか。
 リハビリは回復期から在宅や施設まで連続的に提供されるべきである。同時改定の意見交換会でも、そのような意見があった。退院後のFIM利得もあわせてデータを取りながら分析する必要がある。ADLが継続的に維持できているかも十分に見た上で、今後の「その2」「その3」の議論につなげる。そのために必要なデータがあれば今後、示してほしい。入棟時・退棟時のFIMについて、あまり恣意的に見ないでほしい。

.
3.慢性期入院医療について
.
 経過措置の届出施設数は令和4年7月1日時点で57施設となった。かなり少ない病棟まで落とせたので、今後は丁寧に、患者さんに迷惑をかけることがないようにしながら、経過措置病床をゼロにするよう今後も努力していただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »