出産一時金の増額、「小さな一歩だがインパクト」 ── 医療保険部会で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_20221111医療保険部会

 出産育児一時金の増額に向けて議論した厚生労働省の会合で「少子化対策には意味がない」などの意見があった。日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「もちろん、これだけで一気に進むわけではない」とし、「小さな一歩かもしれないが、子育て支援も含めて全体が少しずつ進んでいくきっかけづくりになる。全世代で支えていくことを示すインパクトがある」と述べた。

 厚労省は11月11日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第157回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の会合に出産育児一時金に関する資料を提示。その中で「見直しの方向性」を挙げ、「現行の現役世代・後期高齢者の保険料負担に応じ、後期高齢者医療制度の負担割合を対象額の7%と設定してはどうか」と提案した。

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10_資料1_2022年11月11日の医療保険部会

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影響額も含めて改革の全体像を

 見直しの方向性は大筋で了承されたが、「影響額も含めて改革の全体像を示してほしい」との意見が相次いだ。

 出産育児一時金の増額については、「少子化対策としては意味がない」「産み育てやすい環境を整備することが重要」との声もあった。

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「サービスの見える化」への対応も

 厚労省はまた、同日の部会に「出産費用の見える化の方策」として、室料差額などの項目を公表する仕組みのイメージを示した。おおむね賛同を得たが、「サービスの見える化」も進める必要性を指摘する声があった。

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 日本看護協会副会長の秋山智弥委員は「どの医療施設で院内助産が行われているのか、母子同室が可能かなど、妊産婦が安心・安全に出産できる環境の整備状況がわかるような情報も国民にわかりやすく開示されればよい」と指摘。「費用の見える化に加え、サービスの見える化というニーズへの対応も引き続き検討いただきたい」と要望した。

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出産費用の診療報酬点数化も

 同日の会合では、出産費用の地域差も議論になった。厚労省は現行の「全国一律の場合」に対し、地域別設定とする場合の問題点を提示。「出産費用の地域差を固定化・拡大するおそれ」などを挙げた。

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 この日、欠席した部会長代理の菊池馨実氏(早稲田大学法学学術院教授)は書面で意見を提出した。

 それによると、「(地域差や病院間の差などの)要因分析をできる限り行ったうえで、地域差等の合理性が認められるのであれば、地域別の一時金体系とすることも考えられなくはない」としながらも、「本来的には、出産に係る基盤となる部分を切り出すことにより、保険医療機関における出産を診療報酬点数化し、上乗せ部分は保険外併用療養費の対象」との考えを示した。

 菅原琢磨委員(法政大学経済学部教授)は「恒常的な費用転嫁を適正化していくためにも、出産費用の診療報酬点数化、室料差額などの保険外併用療養費化を検討の俎上に載せていくという今後の議論の方向性があるのではないか」と述べた。

 池端副会長は「地域別設定とする場合にはいろいろな副作用も出てくる」と指摘。「一時金の差で補うのはかなりハードルが高いではないか。やはり全国一律の設定が望ましい」との考えを示した。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 医療保険全体での支え合いについて
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 各委員がおっしゃったように、やはり改革の全体像を早く示していただきたいと私自身も感じているので、お願いしたい。その上で、出産一時金の引上げに関して全世代で支え合うことはやむを得ないと私自身も考えている。みんなで協力していこうという流れは必要ではないかと思う。ただ、袖井委員らもおっしゃったように、出産一時金の引上げが少子化対策にどこまで寄与できるかといえば、もちろん、それだけで一気に進むわけではないと思う。例えば、令和4年度改定で実施された不妊治療の保険適用についても、それで一気に少子化対策が進むかといえばそうではない。医療保険でできることは限られている。不妊治療の保険適用や出産育児一時金の引上げなどは小さな一歩かもしれないが、これらにより子育て支援も含めて全体が少しずつ進んでいくきっかけづくりになるという考え方に立てば、全世代で支えていくことを示すのはインパクトがあると思うので賛成したい。
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■ 出産費用の見える化等について
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 出産費用の見える化は非常に重要な観点。資料15ページに「出産費用の見える化の公表イメージ」という表が出ているが、可能ならば金額だけでなくサービス内容の見える化も必要ではないか。医療機関のホームページを見ればわかるかもしれないが、かなり高度な出産を引き受けていて金額が高い場合に、なぜ高いのかが見えにくいこともある。
 そこで、サービス内容など、各医療機関の特徴を備考欄等に書けるようなスペースを設けて、これから出産を考えている母親、父親にわかりやすいサービス提供の仕方も必要ではないか。

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■ 出産費用の地域差と支給額の設定について
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 出産費用の地域差が最大で約20万円あることに対して何らかの穴埋めが必要という考え方もあるが、資料16ページに示されているような課題もある。地域別設定とする場合にはいろいろな副作用も出てくることを考えると、出産育児一時金の差で補うのはかなりハードルが高いのではないか。やはり全国一律の設定が望ましいのではないか。 
 その上で、サービスの見える化を徹底して、なぜその差があるのかについて、これから出産される方々がわかるようにしていただければ、その地域差もある程度は了解可能になっていくのではないかという気がする。そういう方向でいいのではないかと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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