オンライン資格確認、「道のりは長い」 ── 医療保険部会で池端副会長
日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は3月26日の会合で、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるオンライン資格確認等システムについて「実際の運用につながるまで、まだ少し道のりは長い」との認識を示した。
厚生労働省は同日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第142回会合をオンライン形式で開催した。当会からは池端副会長が委員として参加した。
厚労省は同日の部会に「オンライン資格確認等システムについて」と題する資料を提示。現在の申込み状況や既に判明しているエラーなどの課題を挙げた上で、本格運用の開始時期を10月まで半年間延長する方針を伝えた。補助金は延期しない方針。
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導入に踏み切れない
この日の会合で厚労省の担当者は、既に54箇所でスタートしている試行的な導入(プレ運用)を拡大しながら10月の本格運用につなげる考えを示した。
この方針に委員の多くは理解を示したものの、3月末までの補助を10月まで延期するよう求める声が医療関係者から相次いだ。厚労省の担当者は「延長できない」と理解を求めた。
質疑で、林正純委員(日本歯科医師会常務理事)は「データの正確性に課題があることは非常に重い問題」と苦言を呈した上で、歯科診療所など小規模な施設での導入が難しい状況を説明。「複雑な仕組みや通信環境の整備など、ベンダーや通信会社などに頼らざるを得ない部分も多く、足並みがそろうまでにはまだまだ時間がかかる」と訴えた。
その上で、林委員は導入支援のための補助金について「今後の延長は検討されているのだろうか。このような状況下で導入に踏み切れないケースがあるので検討してほしい」と要望した。
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https://www.iryohokenjyoho-portalsite.jp/
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カードリーダーの申込は44.9%
厚労省が同日の会合に示した資料によると、カードリーダーの申込数は3月21日時点で約10.3万機関(44.9%)。マイナンバーカードの保険証利用の申込状況は311万件(8.9%)にとどまっている。
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また、3月4日から開始したプレ運用は当初500機関を予定していたが、22日時点で54機関。厚労省は「システムの安定性等を検証しながら、順次医療機関数を拡大させていく」としている。
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アカウントをつくっていただきたい
こうした状況を踏まえ、池端副会長は「実際の運用につながるまで、まだまだ少し道のりは長いような気がする」とし、「せめてあと半年はこの補助金を延長していただきたいと強く要望するが、その可能性はあるか」と尋ねた。
厚労省の担当者は「大変申し訳ないが、支援の特例措置の延長はできない」と答えた上で、医療機関などが導入に踏み切れない理由に言及。情報の共有をさらに進める必要性を指摘し、「ぜひ3月31日までにアカウントをつくっていただきたい」と呼び掛けた。
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〇池端幸彦副会長
質問2点と要望を兼ねた質問を1点、述べたい。
まず、オンライン資格確認等システムに関する「資料2」の1ページ(現状等)によれば、カードリーダーの申込数が10万件を超えた。これは良かったと思うが、あくまでも申し込みがあった数ではないだろうか。実際に配備されて使える状態にある数はどうなのか、もし分かれば教えていただきたい。
もし、これが配備数ではなく申込数だとすると、全体約22.8万に対して10.3万(44.9%)なので、実際の運用につながるまで、まだまだ少し道のりは長いような気がする。
2点目の質問。前回の医療保険部会で私の代理で参考人として出席された当会の井川誠一郎先生が指摘されたと思うが、プレ運用をしている医療機関等からの情報によれば被保険者の名前が代替漢字で入力されてしまう不具合が生じていると聞いている。
資料の2ページ(運用開始に向けた課題と対応)にもあるように、トラブルに近いような状況がいくつか挙げられている。
先ほどのご説明では、本格運用と同等にプレ運用を拡大していくとのことだが、そうであれば、プレ運用中に見つかったさまざまなトラブルについて、小さなトラブルも含めて、そのトラブルの内容と対応方法等についてQ&Aをタイムリーに出していただき、それを基に本格運用に向けて拡大していかないと、すごく手間取ってしまうのではないかと思う。そこで、Q&Aをタイムリーにお示しする予定があるかについてもお伺いしたい。
3点目は、先ほど林委員からもご質問があった補助金締め切りの延長について。3月末までに申し込めば、病院の場合には基準とする事業額の約200万円を上限に実費補助されるが、これが3月末で打ち切られる予定となっている。
しかし、申込数が10万件になったとはいえ、まだ申し込みが終わっていない医療機関もある。10月から本格運用ということを考えれば、せめてあと半年はこの補助金を延長していただきたいと強く要望するが、その可能性があるのかどうか。
以上3点、ご質問させていただく。
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〇厚労省保険局医療介護連携政策課・山下護課長
林委員と池端委員からご質問があった。まず池端委員のご質問、カードリーダーの申込数は出ているが配備状況はどうかについて。
カードリーダーの配備状況については、私たちと各医療機関との間でリアルタイムに情報・状況を共有したいと思っている。そのため、オンライン資格確認の件に関してはカードリーダーの申込みや補助金の申請だけではなく各医療機関におけるシステム改修の準備状況をリアルタイムに共有するために、各医療機関でそれぞれアカウントをつくっていただき、各医療機関だけしか見られないホームページと言うかアカウントをつくっていただいて、そのアカウントから各医療機関の準備状況を伝え、われわれもカードリーダーの配送状況をお伝えするというような、アカウントを通じたやり取りで情報を確認しようと思っている。
現在、このシステムについては本日16時をめどにホームページでお伝えするので、このアカウントを通じて、われわれも単に顔認証付きカードリーダーの申し込みだけではなくて、実際に各医療機関の状況を伺うことにしたいと思っている。
一方、配備の前に配送があるのだが、カードリーダーが生産され次第、申し込み順に配送している。まだ届いていない所があれば、それは大変申し訳ない。注文を受けてから生産しているので、少しお時間を頂くということで何卒ご理解いただきたい。
また、プレ運用に関して、被保険者情報と各医療機関が持っている情報がちょっと違うということがあるのは私どもも逐一聞いている。プレ運用での状況については日々、私どものほうに情報が入っている。
これに関して、実はプレ運用をしていただいている医療機関に対しては、Q&Aという形でマニュアルを随時、バージョンを更新しながら提供している。そうしたことを通じて、医療機関の窓口、受付をしていただいている職員の方々が戸惑わないように支援をさせていただいているので、そこをさらに充実させていきたい。
さらに林委員、池端委員からご質問のあった3月末までとなっている補助の特例について。補助の割合は、診療所が4分の3で病院は2分の1、診療所の補助の上限が42.9万円。病院の補助の上限はカードリーダーの数によるが約190万円になっている。その補助率について、3月31日までにカードリーダーを申し込んでいただくのであれば、その補助の割合を4分の3ではなく4分の4に、2分の1ではなく2分の2にしているが、これは大変申し訳ないのだが、その支援の特例措置の延長はできないということである。
導入に踏み切れない医療機関には2つの理由が考えられる。1つはシステム改修の問題。カードリーダーは無償で届くかもしれないが、システム改修費が高いということにご不満を示されている。それについては、これまでも申し上げたとおり、1つひとつの医療機関に、どんな見積もりが提示されているのか、それはどこから提示されているのかを伺って、各システムのベンダーと私ども厚生労働省との間でお話し合いをしていただく中で、価格について「もう少し」というところを対応させていただいている。
導入に踏み切れないもう1つの理由は、4種類あるカードリーダーのうち、どれを選んでいいのか分からないという要望があること。実は、この4種類のどれでも、私どもの仕様に基づいて生産されているので、これでなければ駄目だということはない。4種類全てが対応できる。そのため、現在どれかを選べない場合であっても、この4つの中のどれかを選ぶということで申し込みできるようにしている。このように、医療機関の経営者の方々の不安をなるべく取り除くような環境を用意しているので、ぜひ3月31日までにアカウントをつくっていただき、そのアカウントから申込みをしていただきたいと考えている。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年3月27日