医療と介護の同時改定にどう対処すべきか

来年4月、医療保険と介護保険の同時改定が実施されます。高齢化がピークを迎える2025年に向け、政府の「社会保障と税の一体改革」では急性期病院のベッドを絞り込む一方、地域に密着した病院の役割や地域連携を重視する方向性が示されています。
3月の東日本大震災で慢性期医療や在宅医療の重要性が改めて問われるなか、今年7月、札幌市内に医療界のキーパーソンが集結しました。「第19回日本慢性期医療学会」です。同学会の記念シンポジウムでは、どのような意見が出たのでしょうか。医療保険、介護保険同時改定にどう対処していくべきでしょうか。JMC77号の特集記事をご紹介します。
特集 第19回日本慢性期医療学会 札幌大会
医療保険、介護保険同時改定を控えて ~どう対処していくか~
【シンポジスト】
原中勝征 日本医師会長
鈴木康裕 厚生労働省保険局医療課長
宇都宮啓 厚生労働省老健局老人保健課長
西澤寛俊 全日本病院協会会長
斉藤正身 厚生労働省介護保険部会委員
武久洋三 日本慢性期医療協会会長
【座 長】
小山秀夫 兵庫県立大学大学院教授
東日本大震災の救援が第一。
診療報酬・介護報酬同時改定は延期を (原中勝征・日医会長)
私たちは2012年同時改定を待ちに待っていた。今までのいろいろな矛盾を解決するチャンスだと勉強をしてきた。前回の診療報酬改定の結果を見ると、確かに病院側にシフトした。
しかしそれは急性期病院あるいは大学病院、特に500床以上の病院に偏っていて、慢性期の病院に対してはそれほどの伸びはなかったと考えている。
そういう中で私たちは同時改定に当たって、慢性期疾患や地域医療を担う診療所の機能をもう一度見直し、在宅医療あるいは末期医療に貢献的で、今後期待できる有床診療所の再興を試みようと考えていたところ、3月11日に東日本大震災が発生し、震災の救援が第一だろうと考えたのである。
そんな中で私たちは、2012年の同時改定をどう考えていくかについて常任理事会で話し合った。
その結果、5月19日に厚労大臣に対して、
① 2012年度の診療報酬、介護報酬同時改定を見送る
② 今年度の医療経済実態調査、薬価調査・保険医療材料価格調査を中止する
③ 介護報酬の改定は見送るが、介護保険料の決定のために必要なことは行うこと
④ 不合理な診療報酬、介護報酬については、留意事項通知や施設基準要件などの見直しを行うこと
⑤ 必要な医療制度改革は行うこと
──の5つの項目を申し上げた。
①については、われわれ医療人としても東日本大震災の復興支援に全身全霊を捧げるべきである。
国難の大混乱期においては、国の制度の根幹を左右する診療報酬、介護報酬の同時改定を行うべきではないと考えている。
②については、これらの調査に手間をかけている時間があるのなら、被災地に行って支援してほしいとの希望であった。
ところが厚労省から、将来の基礎にするために調査だけはさせてほしい、これは医療費と連動はしないということであったので、そういう将来的な調査ならいいだろうと賛成したが、被災地を除外した不十分なデータでは地域医療をさらに苦しめることにもなるので、今、中医協で調査内容を調べている最中である。
③の介護報酬に関しては、毎年いろいろな調査があるが、お金のことよりも慢性期医療や介護の機能をどう高めていくかについての調査に変更してほしいと申し入れた。
④については、介護施設の従業員の方々が本当に正確な報酬を受けているのかどうか、今の施設基準に照らし、その人員で本当のサービスができるのか、そういう実情を調べた上で質の向上を目指してほしいということである。
⑤については、地域医療支援病院の要件がある。
1998年に制度化されたときは紹介率が80%、あるいは、必ずこれを上回ることを約束した病院だけが指定となった。ところがいつの間にか80%以上ではなく60%でも、逆紹介をすればよいとなった。地域医療支援病院の本来のあり方からすれば、年間に約100億円ほど高いお金を払っていると推計されるのである。
もう一つは大学病院である。大学病院は特定機能病院という指定を受けて、特別にいろいろな配慮をされているが、大学病院の医療費が毎年多くなっている。
大学病院の運営費は国から運営費交付金として交付されているが、毎年これが削られてきた。その結果、不足分を病院の収入で稼ぐことを強いられた。民間医療機関の診療報酬分がその分だけ少なくなっているのである。
今は風邪を引いても大学病院や500床以上の救急病院に行く。しかしそれは本当に正しいのか、もう一度考えなくてはいけない。風邪を引いた方々がこういう病院に行ったときの料金を考えると、近くの診療所に行った方が安いのである。
私は199床の病院と特養、老健施設、ケアハウスを運営している。病院も介護型と医療型の両方を持っている。厚労省は32万床の介護療養病床を15万床に減らし、6年後には廃止としているが、高齢者が増えるときに半分以下にするということは、到底人のやることではないと思っている。
私たちは決して厚労省と喧嘩しようと思ってはいない。お互いに意見を出しながら国民のための医療をつくっていくのが日本医師会の決まりでもある。人間の一生に関わる医療、介護が本当に一元化されて、それぞれの分野の中でお互いに協力をしながら質を高めることをしていかなければいけないと考えている。

2011年12月1日