令和6年度改定の基本方針、「全く異存はない」 ─── 医療保険部会で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_20231208医療保険部会

 令和6年度診療報酬改定の基本方針(案)を大筋でまとめた厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「全く異存はない」と賛同した上で医師の働き方改革に触れながら、「大きな方向転換に困惑している病院もある」とし、「私たちも努力するので、この医療保険部会の皆さんも協力してほしい」と呼び掛けた。

 厚労省は12月8日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第172回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に「令和6年度診療報酬改定の基本方針(案)」を示し、了承された。同時刻に医療部会が開催されていたため、最終的な基本方針の文案は田辺部会長に一任する形で取りまとめた。

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重点課題は「人材確保・働き方改革」

 重点課題は「現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」の1項目のみとなった。「具体的方向性の例」として、賃上げに向けた取組や勤務環境の改善などを挙げている。

 これまでの議論では、「医療機能の分化・強化、連携の推進」などを含む視点2も重点課題とするよう求める意見もあったが、最終的には視点1のみを重点課題とした。
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01スライド_P1概要

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賃上げが他産業に追いついていない

 基本方針(案)の本文では、「2023年の春闘などを通じて賃上げが行われているものの、医療分野では賃上げが他の産業に追いついていない状況」とし、「必要な処遇改善等を通じて、医療現場を支えている医療従事者の人材確保のための取組を進めることが急務」とした。

 また、来年から始まる上限規制にも触れ、「診療報酬の対応がより実効性のあるものとなるよう検討する必要がある」としている。
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02スライド_P4本文抜粋

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厳しい運営の中での働き方改革

 質疑で、多久市長の横尾俊彦委員は「働き方改革がいよいよ医師の分野にも入ってくる。運送や建設の現場等を見ると、働き方改革が徹底していく中で人手不足が起きている」と懸念した。

 その上で、横尾委員は「ドクターや医療スタッフの皆さんがしっかり安心して仕事ができて、やりがいを持って医療に臨み、それを享受する患者・家族も安心できるようにお互いに知恵を出していくことが大切な時代」とし、「多角的な配慮と検討を厚生労働省はしていると思うので、さらに深掘りをしながら、お力添えをぜひいただきたい」と述べた。

 池端副会長は「応援の言葉と受け取った」と謝意を示しながら、「かなり厳しい運営の中で働き方改革をしなければいけない現状をご理解いただきたい」と述べた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 私も基本方針については全く異存はない。感謝を申し上げる。その上で、医師の働き方改革について。先ほど横尾委員がおっしゃったこと、私は応援の言葉だと思って受け取った。
 重点課題の「具体的方向性の例」として、「医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取組」「タスク・シェアリング/タスク・シフティング」「長時間労働などの厳しい勤務環境の改善に向けての取組の評価」などが挙げられている。これらが全て医師の働き方につながる項目である。
 私たちの年代、50代、60代の医師は病院にずっと24時間近くいて当たり前だった。それが医者の本来の務めだと思って、全く苦もなく病院にずっといた。しかし、これからはガラッと変わってしまい、病院にずっと24時間いてはいけないということになる。本当に大きな方向転換をされている。若い人もどうすればよいのかわからないという戸惑いもある。病院側でも、特に大きな病院は困っている。今までの長時間労働をやめて短くするならば、人員を1.3倍、1.5倍配置して、その分の潤沢なお金を入れる必要がある。しかし、お金は出せない。そこで、IT化や効率化、タスクシェア・シフティングを進めなければいけない。 
 もちろん保険財政を持続可能なものにしなければいけない。国民皆保険を守らなければいけない。私たちも全く同感だが、かなり厳しい運営の中で働き方改革をしなければいけない。この現状を本当にご理解いただきたいと思っている。私たちも努力するので、この医療保険部会としても、また皆さんも協力していただきたい。よろしくお願い申し上げる。

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価格差を低めに抑え、ソフトランディングを

 この日の部会では、「長期収載品の保険給付の在り方の見直し案」も了承された。

 特許などが切れた先発品(長期収載品)を患者の希望で「選好」した場合に薬剤費の一部が自己負担となる仕組みについて、厚労省は3つの論点に分けて対応案を提示。患者負担の範囲については、「長期収載品と後発品の価格差の少なくとも2分の1以下」とした。

 池端副会長は「最初の間は価格差を低めに抑えたほうがソフトランディングしやすいのではないか」とし、「4分の1、または3分の1程度を想定してはどうか」との考えを示した。
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03スライド_P16

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 池端副会長はこのほか、同日の部会で了承された入院時の食費(自己負担分)の見直しについても意見を述べた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 長期収載品の保険給付の在り方の見直し案について
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 全体的には、この見直し案に概ね賛成したい。その上で、何人かの委員の先生がおっしゃったように、この選定療養をどう考えるか。医師の判断に対する不安の声もある。確かに、10年、20年前であれば、先発品に対するインセンティブがあったかもしれないが、最近では、ほとんどない。一方、患者さんの不安については、保険者の皆さんの努力もあって、パンフレットなどを通じた普及啓発が進み、患者さんの側から「後発品に変えてもいいでしょうか」と言われることもある。今回の見直しについても、お互いに、しっかり話をしていけば、いずれわかっていただけるのではないかと思う。
 ただ、選定療養として差額の一部を徴収することは、やはり一定程度のインパクトがある。特に高齢者にとっては、たとえ自己負担分が2分の1以下であっても、今まで負担しなくてよかった額を負担することになるのでインパクトが強い。これが報道されると、高齢者の負担がまた増えるという不安が広がる。
 ただ、現状を少しでも軌道修正していこうという方針は理解できる。そのため、最初の間は価格差を低めに抑えたほうがソフトランディングしやすいのではないか。私は価格差の4分の1、または3分の1程度を想定していいのではないかと考えている。
 ただし、選定療養として負担すべき基準のラインを上下させるのは今回の趣旨から外れていると思うので、フィックスした形での選定療養費が正解ではないかと思う。そこで質問だが、選定療養費のあり方としてフィックスすることが可能かどうか。前回も質問させていただいて検討するということだったが、これが可能かどうか。現時点で、もし可能ということあれば、それで私はいいと思う。改めて確認させていただきたい。

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【厚労省保険局保険医療企画調査室・荻原和宏室長】
 一定金額以上、もしくは、それより低い額を徴収するという仕組みでなく、今回は固定するということについて、法制上の制度、整理として問題がないかどうかという趣旨の質問だと思っている。
 保険医療機関及び保険医療養担当規則においては、基本的に保険医療機関としての選定療養に関しては、支払いを受けようとする場合において、「当該療養を行うに当たり、その種類及び内容に応じて厚生労働大臣の定める基準に従わなければならない」と規定されている。具体的な基準としては、例えば、療担規則および薬担規則ならびに療担基準に基づき、厚労大臣が定める掲示事項など、そういった告示で定められている。
 いずれにしても、法令上で見ると、先ほど療担規則をご紹介したが、法律から省令、省令から告示等へ委任がされており、この委任に基づいて、今般、長期収載品の選定療養について、この部会のご議論を踏まえながら、選定療養として受け取る金額について基準を示すということは可能であろうと考えている。

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■ 入院時の食費の見直しについて
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 猪口委員もおっしゃったように、病院団体として本当に30年来の願いであった。30年間、据え置かれたこと自体が異常事態だという認識でいる。毎回、診療報酬の際には要望した内容。一定程度、ご理解をいただいたことに感謝したい。ただし、1食30円、1日90円なので1カ月で2,700円を自己負担で賄うことになる。先ほどの長期収載品の差額分も自己負担、食費も自己負担。この2つが同時に新聞に出ると、患者さんから不満が出るかもしれない。ぜひ丁寧に、制度設計等も含めて、何らかの救済策も含めて同時に考えていかなければいけない。病院団体としても、また今後ご提案させていただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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