認知症患者の人権と尊厳を守るには
認知症が進行して暴れたり徘徊したりする患者さんに対し、医療者はどう向き合っているのでしょうか。医療現場でどのような悩みがあり、今後の課題は何でしょうか。
大阪の医療法人・松徳会の理事長で、日本慢性期医療協会副会長を務める松谷之義氏は、認知症患者の人権と尊厳を守る」と強調します。
6月30日に札幌市内で開かれた「第19回日本慢性期医療学会」を振り返り、松谷之義氏がJMC77号に寄稿した「認知症患者の人権と尊厳~どう守られているか~」をご紹介します。
認知症患者の人権と尊厳を守るために、
人としての思いやりと創意工夫が必要
認知症患者の人権と尊厳を守る。これはいい換えれば、人権と尊厳を阻害しないということになり、阻害因子を検証していくことから始めればよいと考えた。
その最たるものは抑制であることはあえて説明するまでもない。介護保険制度が始まって以来、介護施設では抑制は厳しく戒められている。
■ 講演
1. 有吉通泰氏(福岡県・有吉病院院長)
有吉先生は、認知症患者の人権と尊厳を守る視点から、抑制の歴史的な経緯を説明された。
平成10年10月、上川病院理事長の吉岡充先生のご尽力で「抑制廃止福岡宣言」が提唱され、そのあと中川翼先生の協力もあり、平成11年3月の介護保険法改定にあたり、3要件(一時的、緊急性、代替策がない)にあてはまらない抑制は禁止されることになったのである。
制度策定後10年を超え、現場では果たしてこの制度が順守されているかどうか言及された。
抑制廃止研究会のデータをもとに検討されたのだが、まず介護療養型医療施設の身体拘束率、違法拘束率の調査では、身体拘束を受けている認知症高齢者は1万人以上で、その3分の1が3要件を満たしていないことを指摘された。これは法的には虐待に該当するとも述べられた。
さらに、5時間以上の長時間拘束されているケースが73%もあり、しかもその身体拘束を見直す頻度を決めていない施設が何と3分の1もあることが判明した。
たとえ拘束の見直しの期間を決めていたとしても、その5割が1週間以上経ってから見直すとしている。また、身体拘束をする前に代替策を考えることなく、拘束を実施するケースも未だ相当あることがうかがわれた。
身体拘束に関して、現場では厳しさがなくなりつつあることは予測されたが、このような結果は予想だにしえなかった事実である。有吉先生は、「本当にあなたは患者を守っているのか、認知症になった時、あなたは自分の病院に入院したいか?」と問いかけられた。
都道府県の身体拘束廃止への取り組みの評価(サービス提供者からの評価)も提示されたが、「取り組みに力を入れている」が24%、「普通」が60%であった。普通では身体拘束廃止の取り組みが進むはずはない。官民双方とも身体拘束廃止への取り組みが甘くなっているといえる。
最後に有吉先生は、認知症高齢者の人権の視点で考えれば、施設がどこであれ、身体拘束は廃止すべきだと強調された。この話が総論的なシンポジウムの軸となった。
この記事を印刷する2011年8月2日