「これからの医療政策を考える」をテーマにシンポ ── 第26回日本慢性期医療学会

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00_シンポジスト

 第26回日本慢性期医療学会(藤﨑剛斎学会長)のシンポジウム1が10月11日、「これからの医療政策を考える」と題して開かれた。シンポジストには、厚生労働省の迫井正深大臣官房審議官、老健局老人保健課の眞鍋馨課長、全日本病院協会の猪口雄二会長、地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長の4人が参加。座長は日本慢性期医療協会の武久洋三会長が務めた。

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 【座 長】
  武久洋三 (日本慢性期医療協会 会長)

 【シンポジスト】
  迫井正深 (厚生労働省大臣官房審議官)
  眞鍋 馨 (厚生労働省老健局老人保健課長)
  猪口雄二 (全日本病院協会 会長)
  仲井培雄 (地域包括ケア病棟協会 会長)

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ケアニーズが変化、「生活の視点を求められている」── 迫井氏

 
01_迫井正深氏 (厚生労働省大臣官房審議官) 最初に登壇したのは、厚労省保険局医療課長として平成30年度診療報酬改定を主導した迫井正深氏。今年8月から厚労省の医政、医薬品等産業振興、精神保健医療、災害対策担当の大臣官房審議官(老健局、保険局併任)を務めている。

 迫井氏は「2018年度診療報酬改定を踏まえた日本の医療のこれから」と題して講演し、今改定に込めた思いや、これからの医療・介護のあり方、さらに現在議論が進んでいる働き方改革について私見を述べた。

 迫井氏は最初に、平成30年度改定の背景事情を説明。「大きく3つの要素がある」とし、①急激な社会環境の変化、②ケアニーズの変化、③技術革新──を挙げ、このうち②を「一番大きな要素」と位置付けた。その上で、迫井氏は「ケアのニーズが変わってきているということは、生活の視点を求められているということ」との見解を示し、生活の視点を踏まえた医療・介護の提供体制を構築していく必要があると説いた。

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長時間勤務になっている特定の診療科がある

 医師の働き方改革については、主な論点を紹介した上で「長時間勤務になっている特定の診療科がある」と指摘。具体的には、「緊急対応、手術、外来、それから自己研鑽という要素がある。時間外の患者さんへの説明等もある。その背景には、患者さんが多いということと、応召義務といったものの存在がある」と説明し、「応召義務をどう考えるのか、自己研鑽をどう考えるのか。そして宿日直。宿直と夜間の勤務というものについても一定の整理をしなければならない」と述べた。

 その上で、医療を取り巻く環境の変化に触れながら「医療は戦後すぐの時代から大きく変わってきていると思うので、そうした問題について見直しをする必要がある」との認識を示した。

 タスク・シフティング(業務移管)についても、「やっていかなければいけない。やっていかざるを得ないとも言えるかもしれない。医療従事者の勤務環境を変えていく必要がある」と強調。応召義務については、「やはり紐解いて、しっかり議論し、整理する必要がある」とした。宿日直については、「その規定を現代化していく必要がある」と述べた。

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「 在宅医療」という言葉がなくなるのがゴール

 今後の医療の在り方については、入院、外来、在宅について見解を提示。このうち入院医療については、「地域医療構想を基軸として、そこに対応していけるように、しかも全国一律で同じ方向に誘導するのではなく、それぞれの地域で議論していただき、適切な対応をする場合には適切な報酬設定にされるという体制整備を行っていく」と述べた。外来医療については、「かかりつけ医機能を基軸としたチーム医療」をあげた。

 迫井氏は「特に、日本の場合は単独開業の診療所が非常に多いが、地域で求められているのは、地域にコミットしていただける医師、あるいは医療の機能なので、やはりグループ開業のような大規模化とか、チーム化などが必要になるのではないか。それと並行してやっていけば、在宅というのは基本的に一般外来診療と一体化していくのではないか」との考えを示した。

 その上で、迫井氏は「在宅医療というものが何か特別のようなニュアンスで聞こえる時代だが、将来的には『在宅医療』という言葉自体がなくなるのが、私はゴールではないかなと思うぐらい、基本的には一体的に進んでいくのではないか」と述べた。

 迫井氏は最後に、「生活の視点を医療に入れるということが非常に重要だ。日常生活を支える医療の役割も重視されてきている」と改めて強調した上で、「生活の視点をいかに重視していくのか。マンパワー、さまざまな投入資源をいかに節約していけるのか、効率化していくのか。働き方改革の実現とあわせてタスク・シフティングや、節約していく考え方を医療の中にもある程度導入する必要があるのではないか」と問いかけた。

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将来的には外来医療と在宅医療の垣根がなくなる ── 眞鍋氏

02_眞鍋馨氏 (厚生労働省老健局老人保健課長) 続いて、「これからの医療政策を考える ~介護分野から~」と題して、厚労省老健局老人保健課長の眞鍋馨氏が講演し、今後の医療・介護提供体制と地域医療構想との関係などを最初に説明した。

 眞鍋氏は、「各病院が2025年に向けて地域のニーズにあわせて機能分化していくことを進めていくためには、都道府県が主催する地域医療構想調整会議においてお互いにきちんと話し合っていただく必要がある」と指摘した上で、「2025 年の既存病床で受け入れられる患者さんをバランスのよい形に医療提供体制で受けていこうとした場合に、約30万人分は介護医療院や在宅医療等で支えていくことを想定しており、その30万人とは別に、今後も在宅医療のニーズは増えていく」と見通した。

 その上で、迫井審議官の説明に触れ、「将来的には外来医療と在宅医療の垣根がなくなって、患者さんが入院外で生活されているところをきちんと支えていくという状況になるのではないか。そういうニーズは今後も増え続ける」との認識を示した。都道府県担当者との連携を緊密にする必要性もあげ、「自らの病院の今後の方向性、あるいは何年後にどのような機能を変えていきたいと思っているかなど、病院の将来構想について共有していただくといい」と指摘した。

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介護報酬改定、「医療の視点が介護サービスに入った」

 眞鍋氏は平成30年度の介護報酬改定について、「一言で申し上げて、医療の視点が介護サービスに入った改定であったと思う」と振り返った上で、「医療・介護連携をさらに進めた。医療と介護が相互に乗り入れをしていく改定になった」と評価した。具体的には、「特養における医療の提供、すなわち看取りなどのほか、お互いの連携が進むような情報提供であったり、入院時と退院時の情報連携のやり取りなどを、より円滑化させていくような改定になっている」と解説した。

 リハビリについては、「医療保険から介護保険に移行してもリハビリの中身は変わらないような仕組みを導入していく」との方向性を示し、今後の課題を提示。「リハビリに関してはまだ限界が分かっていない。リハビリ医療の限界はどこなのかと私は常に問うている」と悩みを見せ、「新しいリハビリのノウハウなどがどんどん開発されているし、いろいろな理論があるので、ぜひ、そういうエビデンスをこの学会でも出してほしい」と期待を寄せた。次期介護報酬改定に向けた重要テーマについては「リスクマネジメント」をあげ、「大きな議論の柱の1つとなるだろう」と指摘した。

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介護医療院をきちんと育てていきたい

 今年4月からスタートした介護医療院については、「介護療養病床の受け皿だろうという捉え方がされており、これまでの経緯をたどると、そういう見方があることは否定しない」と理解を示しながらも、「平成27年頃から非常に丁寧な議論を繰り広げてきた。その中で、生活施設としての機能が大事だろうという方向性で一致した」と説明。その上で、介護医療院が果たすべき役割について「日常的な医療や看取りなどがきちんと提供され得る施設である。単なる介護療養病床の受け皿ではなく、新しいサービス類型、施設類型をつくった。医療の面と生活施設としての面の両方を兼ね備えた施設である」と解説した。

 眞鍋氏は「今後、この介護医療院をきちんと育てていきたいと思っている」と期待を込め、「3年間は、転換型老健や介護療養病床から円滑に移行できる。特に医療療養病床については、自院の今後の機能を考えたときに必要であると思われるならば、ぜひ選択肢にしていただきたい」と呼び掛けた。

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医療・介護の相互乗り入れを進めていく

 眞鍋氏は最後に、2040 年を見据えた改革に言及。「地域によって進展度合いが異なる高齢化への対応が求められる。地域医療構想と地域包括ケアシステム。あえて『地域』の部分を赤字にした。地域で考えていただくということであり、2025年の次は、2040年を見据えた改革が進もうとしている」と述べた。

 その上で、眞鍋氏は「将来に向けて、医療と介護がお互いに、良い取り組みを参考にしたらどうか」と問題提起。医療分野では医療安全の取り組みが進んでいることをあげ、「今回の介護報酬におけるリスクマネジメントなどにもつながっている。介護分野でも医療安全の取り組みなどを参考にして、『介護安全の取り組み』のようなことを取り入れてはどうか」と提案した。

 一方、介護分野については身体拘束廃止の取り組みをあげ、「医療の分野でもこうした介護現場の取り組みを参考にして、身体拘束廃止の取り組みをさらに進めていただけないだろうか」と呼び掛け、「このような医療・介護の相互乗り入れを今後も進めていきたい」と講演を締めくくった。

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一般病床の経営が本当に危ない ── 猪口氏

03_猪口雄二氏(全日本病院協会会長) これからの医療・介護政策について厚労省の迫井氏と眞鍋氏が講演した後、現場からの提言として、全日本病院協会会長の猪口雄二氏と地域包括ケア病棟協会会長の仲井培雄氏が講演した。

 中央社会保険医療協議会の診療側委員として平成30 年度改定にも関わった猪口氏は冒頭、「当院は本当に民間の小さな中小病院なので、こういう立場からの視点も入れながら、今後の医療政策をどうしていくのがいいのかを述べたい」と切り出し、診療報酬改定が医療機関の経営に与える影響について、これまでの推移を説明した。

 猪口氏は「一般病床は改定率のカーブと同じように利益率が動く。マイナス3.16%だった平成18年度改定では全く利益がない所まで落ち込んだ。今回どうなるか。私は一般病床の経営が本当に危ないと思っている」と危機感を募らせた。

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人員配置を各病院が選べる考え方が重要

 今改定で大きく見直された入院医療の体系について猪口氏は「13 対1でも本当の急性期をやっている病院もあれば、療養病床のような動きをしている病院もある。今後、どうなっていくのか」と不透明感を示しながらも、実績に応じた報酬設定の考え方を評価。「10対1を基本にして、その上に実績に応じた点数を付けるので、各病院が考えて人員配置をしてもいい。人員の配置について各病院が選べる。こういう考え方が実はとても重要なのだろう」と賛意を示した。

 猪口氏は「これから少子化が進み、医療・介護の人材不足が深刻化する。子どもの6人に1人が医療・介護の分野に来るかというと、たぶんそういうことにはならないだろう」との認識を示した上で、「こうした人員配置の考え方をどんどん進めていただきたい」と求めた。外国人材の活用については、「そう簡単なものではない。少子高齢化は世界的な流れであり、国内でもすべての産業で若手が少ない」と指摘した。

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働き手の減少を前提とした対策を

 少子化で担い手不足が深刻化する中、今後に向けて猪口氏は「もっと外貨が入るような、いろいろな産業を伸ばさないと、実は医療・介護も維持することができないのではないか」との考えを示した。

 その上で、猪口氏は「働き手の減少を前提とした対策を打つ必要がある。そうしないと本当に回らない。質を担保した上で効率性も追求する必要がある。診療報酬・介護報酬の評価も、いわゆるストラクチャー評価からアウトカムに移行し、どういうパフォーマンスをしたかによって支払いの額も変えていくペイ・フォー・パフォーマンス(P4P)を早急にやる必要があるのではないか」と述べた。

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電子カルテの標準化、データへルスと共に

 猪口氏はまた、AIやIoT などを急速に進めていく必要性も指摘し、電子カルテの標準化をめぐる問題に言及。「医療・介護の連携システムについて、国としてバージョンを決めてほしい。バージョンが違うがゆえに、電子カルテの費用は収入の1%を超えている。急性期病院は1%も利益がないのに、電子カルテに1%以上も使っている」と窮状を訴えた。

 猪口氏は、バージョンを揃えて互換性を持たせれば価格が下がることを指摘し、「韓国では互換性を持たせることによって安価な電子カルテが動いている。ぜひ早く、データへルスと共に進めていただきたい」と要望した。人手不足への対応については、「AI によって音声処理して自動的に書類が作成されるとか画像が分析できるとか、こうしたことがすぐ目の前に来ている話なので、どうかあまり規制をかけずに、医療・介護のほうに良いかたちでAI などを導入できるよう努力することが重要ではないか」と述べた。

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惑星直列が目指すのはQOLとQODの向上 ── 仲井氏

04_仲井培雄氏 (地域包括ケア病棟協会 会長) 続いて、地域包括ケア病棟協会会長の仲井培雄氏は「正常進化した最大で最強の地域包括ケア病棟」と題して講演。独自の調査結果などを示しながら、地域包括ケア病棟が果たすべき役割などを語った。

 仲井氏はまず、近年の社会保障制度改革や今改定などの一連の流れを説明。「2018 年度はトリプル改定や各種計画の更新、関連法の改正が同時に行われる“ 惑星直列” を迎えた。今回の惑星直列の価値観について、私はQOL(Quality of life)とQOD(Qualityof death) の向上と感じている」との認識を示した。

 その上で、仲井氏は今後の方向性について「平成22年よりも、平成25年、平成28年のほうが男女ともに平均寿命よりも健康寿命の伸びが大きかった。これからは、介護保険の自立支援や保険者へのインセンティブ、先進医療の保険収載などでQOLを向上させて健康寿命を延伸させる」と見通した。QODについては、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインを活用してQODを向上させる」とし、「共生型社会の実現で地域住民のQOLとQODを向上させるという意味もある」と解説した。

 こうした背景を踏まえ、「地域包括ケア時代の患者像は、やはり『ときどき入院、ほぼ在宅』がキーワードになる」との考えを示し、「Person FlowManagement」という概念を提唱。「患者を生活者の視点で捉える。病院と地域を一体と考えて、切れ目のない医療・介護を提供する。当然、ここには入退院支援・調整、リハビリ、栄養サポート、認知症ケア、ポリファーマシー対策、そしてACP(アドバンス・ケア・プランニング)は必須である」と説いた。

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地域包括ケア病棟は正常進化を遂げた

 地域包括ケア病棟のあり方については、4つの病棟機能と3つの役割を示した上で、調査結果などを踏まえながらこれらの整合性を分析。地域包括ケア病棟について、「地域包括ケアシステムや地域医療構想のニーズをご当地ごとに捉えた上で、在宅生活復帰支援機能を基軸に、自院がご当地ニーズに寄り添えるように、自院の他病棟の機能が生きるようにカスタマイズできる病棟」と定義した。

 今後の課題については、「地域医療構想における公民の役割分担に鑑みつつ、地域包括ケアのニーズの推移に真摯に向き合って、地域包括ケア病棟の質の向上に取り組むこと」との考えを示し、「今回の惑星直列を経て、地域包括ケア病棟は地域包括ケアシステムと医療構想を強力に支えるべく、正常進化を遂げたと思う」と評価した。

 その上で、仲井氏は「地域包括ケア病棟の機能と役割を熟考して、すべての患者さんのQOL とQODを高めながら、特に200 床未満の病院を中心に地域包括ケアシステムに寄り添う準備を進める、または怠らない施設が目立っていることが分かった」と述べた。

 一方、仲井氏は「急性期ケアミックス型」の4割を占める200 床以上の病院の質評価が不十分であることを指摘。「200床以上の施設は、地域包括ケアに関する実績評価を受けられないし、ポストアキュートに関する質評価もない」と課題をあげ、「特に200 床以上400 床未満の病院と、400床以上の病院における病院の実態を調査して、『地域包括ケアに関する実績』と『ポストアキュート』の実態調査をした上で、加減算を含む質評価について検討してはどうか」と提言した。

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地域包括ケア病院と介護医療院という選択肢も

 療養病床の介護医療院への転換意向については、「6割が転換する予定だが、既に転換した所はまだ少ない。今年度中に予定している所は3割弱となっている」と調査結果を紹介し、「転換の目的は制度改正への対応が一番多い。在宅復帰率の向上のためという回答は16%ぐらいにとどまっている」と伝えた。

 その上で、仲井氏は「慢性期医療のQOL を向上させる答えの1つは何か」と問いかけ、「複数の医療療養病床や介護療養病床を持っている病院は、ぜひ地域包括ケア病棟と介護医療院という選択肢も考えてみてほしい」と提案した。

05_武久洋三座長 (日本慢性期医療協会会長)
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 仲井氏の講演に対し、座長の武久洋三会長は「非常に詳しいアンケート結果を知らせていただいた。現在、地域包括ケア病棟を運営している病院のマインドが非常によく分かった」とコメントした。

日医と日慢協、「目指している方向性は一緒」

 4人の講演を踏まえた討論は、会場からの質問にシンポジストが答える形で進められた。最初の質問者は、日本医師会の前常任理事で、中医協委員として3度の改定に関わった鈴木邦彦氏。中医協委員の退任時に示した日医と四病協の合同提言に触れながら、「かかりつけ医機能の充実、強化に取り組む必要があり、もう1つは地域包括ケアを支える病院が急性期の大病院とは別に必要であるということ。前者は日医のかかりつけ医機能研修制度につながり、後者は平成30 年度改定で迫井さんが担当され、地域包括ケア病棟入院料1・3という形で実現した。非常にうれしく思っている」と謝意を示した。

 鈴木氏は「日医・四病協的に言えば『地域医療・介護支援病院』であり、日慢協的に言えば『地域多機能病院』ということで、考えや目指しているものは一緒という気がするので、そういう方向で進んでいくと思う」と感想を述べた。その上で、鈴木氏は「グループ開業みたいな話があったが、何かベースになっている考えや事例があるのか」と迫井氏に尋ねた。

 迫井氏は「複数の診療所で連携する方法もあるかもしれないが、最終的な責任の所在が曖昧になりがちなので、一定の法人なら法人、事業所なら事業所で体制を組んでいただくのがいいのではないかという趣旨で述べた」と説明した。

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人員配置基準の見直し、「まさに働き方改革そのもの」

 鈴木氏はまた、働き方改革に関連して入院基本料などの人員配置基準に言及し、「産休や育休、短時間勤務などを前提にした診療報酬、介護報酬の体系にする必要がある。1人でも欠けたら基準をクリアできないとなると、少子化対策や、仕事と子育ての両立などにつながっていかない」と指摘した。

 迫井氏は「それはまさに働き方改革そのものの話」と応じ、「医師が最も典型的で、かつ最も通常の働き方からは異例という働き方になっているのは恐らく客観的事実と言っていいだろう」との認識を示した。その上で、今後の改善に向けて、「日本中の医療機関、ドクターたちに考えていただいて、工夫をしていただく必要がある。報酬なり、医療制度上のさまざまな手当ても、そうした見直しに伴って考えていく必要があるのはご指摘の通りだろう」と述べた。

 また、眞鍋氏は介護報酬の人員配置についてコメントし、「介護はどちらかというと医療を参考にしながら新しくできた制度であるので、人員配置基準に関しては医療ほど精緻ではない。例えば基本は3対1で緩い感じにしている」と指摘。見直しの必要性については、「それぞれの介護施設内で介護職員がどのような仕事の分担をするかという問題はあるが、一定程度はできていると思っている。こういうやり方が介護には合っているのではないか」と述べた。

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エビデンスに基づく政策決定が求められる

 当協会の池端幸彦副会長は、データの利活用について今後の方向性を尋ねた。池端副会長は「これからの医療政策を考える上で、NDB(ナショナルデータベース)のデータや介護データベースのデータ、国保データベース(KDB)のデータなどがある。これらをより精緻化して、匿名性を担保しながらどんどん使っていく必要があるのではないか」と問題提起し、「今後の見通しやスピード感などをお聞かせ願いたい」と質問した。

07_池端幸彦副会長

 眞鍋氏は「今の時代はエビデンスに基づくポリシーメーキング、エビデンスに基づく政策決定などが非常に求められている。医療においてはDPC から始まり、非常に多くのデータを基に改定を行うようになってきた。NDB も出てきている」と説明。介護については介護DB をあげ、「要介護認定から介護レセプト情報まで全部入ったもので、医療分野ではすでにNDB データの第三者提供が始まっている。介護分野でも、今年度から介護DB の分析結果を第三者に提供していく動きが始まっている」と伝えた。

 今後について眞鍋氏は「動きが遅過ぎるのではないかとの指摘もあるが、医療と介護の相互データを連結して提供していこうという動きが今まさに進められている。早急に進めていきたい」と答えた。迫井氏は個人情報との関係を指摘し、「医療はセンシティビティーの高い情報なので、セキュリティーに関して、すごくお金がかかってしまう。さらに、現にいろいろな規格のソフトが同時に動いているので、これらにセキュリティーをかけながら標準化して、それを運用するというビッグオペレーション」の課題を提示。「莫大なお金がかかるので、それほどのことをやる価値があるのかも含めて検討しなければいけない」と述べた。

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医療療養病床、「現場のいろいろな積み重ねを」

 このほか会場からは、医療療養病床の展望に関する質問もあった。全床が医療療養病床である病院の院長は「自分の病院を今後どうしていこうかと非常に悩んでいる」と切り出し、「医療療養病床が今後どのように生き残っていくのかが見えてこない。人材も少なくなってくる中で、医療療養病床はこうであってほしいという方向性をいただければ、少し考え方が変わると思うので、ご教示いただきたい」と質問した。

 迫井氏は冒頭、「行政がこうするとか、してくださいとお願いをして、それをやるという話ではない。地域によっていろいろやり方が違う。人口構成が変わる中で、最適なやり方をみんなで考えましょうということだと思う」との認識を示した。

 その上で、迫井氏は医療療養病床の診療報酬に言及。「地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟などと比べてみると、少し全般的な総合力のような報酬設定になっているのだろうと思う」とし、今後の医療療養病床については、「本日のような学会や報酬改定を重ねていく中で、他の病棟との違いが出てきて、『こういう運用が望ましい』とか、『こういう運用をする方向が全体の医療の体制整備として望ましい』という提言が出てくれば、私たちもぜひそれを希求したい」と述べた。

 迫井氏は「報酬などを先に決めて、それで無理やり現場を引っ張り回すということは絶対に私自身もおかしいと思っている。むしろ、こういうことを一生懸命やったらいい結果が出たので、こういう報酬、評価をしてもらえないかという、いろいろな積み重ねがあったほうがいいのではないか」と呼び掛けた。

06_全体

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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