小児在宅に特別な配慮を ── 歯科医療の議論で池端副会長

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2023年10月27日の中医協総会

 令和6年度の診療報酬改定に向け、歯科医療をテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は歯科訪問診療の充実を図る必要性を指摘した上で、「小児在宅は医科でもハードルが高く、歯科はなお高いと思うので、特別な配慮をしていただきたい」と提案した。

 厚労省は10月27日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第561回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に「在宅(その4)」と題する資料を提示。その中で、在宅歯科医療についての課題と論点を挙げ、委員の意見を聴いた。主な論点は、①歯科訪問診療の提供体制、②歯科訪問診療における口腔の管理、③小児に対する歯科訪問診療、④歯科訪問診療における連携──の4項目。
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P86_在宅(その4)

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 池端副会長はこのうち②③を中心に意見を述べた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 歯科訪問診療における口腔の管理について
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 論点では、「終末期がん患者等の人生の最終段階においては、頻回に歯科専門職の関与が必要となる場合がある」とし、「患者の状態に応じた訪問口腔衛生指導等の口腔管理の評価のあり方」を挙げている。私自身の経験からも、がん末期の患者さんは徐々に状態が悪化していくのではなく、階段を落ちるようにストンと落ちて、最後の1~2週間で急速に悪くなっていく。口腔内で出血を起こすなど、かなり劣悪な状況になる。
 そうしたときに、歯科衛生士さん、あるいは歯科医師にかかりたいというニーズが出てくるので、緊急のケア担当者会議を開いて、ケアプランの見直しをすることが介護保険上でも行われている。終末期の1~2週間に限って頻回に入っていただくことは非常に有用であると思う。現場の感覚として、ぜひ何らかの対応ができるようにしていただきたい。

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■ 小児に対する歯科訪問診療について
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 医療的ケア児等の患者の状態を踏まえた歯科訪問診療の評価について。資料58ページによれば、全国の医療的ケア児(在宅)は、約2万人(推計)もいる。
 一方、歯科訪問診療を行った医療的ケア児の状況については、吸引が最も多く、次いで気管切開、経管栄養となっている。n数を見ると、40人、48人という数字である。しかも、この数字は1987年から2022年3月末までの約35年間の数字ある。もちろん、これは全数調査ではないとは思うが、いずれにしても、医療的ケア児に対する歯科訪問診療というのはあまり行われていないサービスであるにもかかわらず、必要性は非常に高い。特に気管切開等の重症で在宅にいる医療的ケア児は外来受診できないので、訪問診療、訪問歯科診療をしなければいけないことがある。
 しかし、資料61ページに示されているように、小児における在宅歯科診療の実施については、患児の疾患・状況によって様々なリスクがある。実は医科の訪問診療をしている医師でも、小児の在宅はかなりハードルが高い。数十分で急変してしまうこともあり、担い手が少ないのが現状である。口腔ケアを行う歯科医師等については、なおさらそのハードルは高いのではないか。それを少しでも改善する意味で、現在の特別対応加算以外にも、もう少し何らかの加算等を付けていただかないと、なかなかハードルを越せないのではないか。そのためにも、しっかりした研修なども必要になってくると思うが、そういうことも含めて、少し特別な配慮をしていただけるといいと思う。 
 それから、これは今回の論点に限った話ではないのだが、述べておきたい。介護保険上、高齢者に関してはケアマネジャーが必ずついていて、担当者会議を開いたりできるのだが、医療的ケア児にはケアマネにあたる人がいない。もちろん、コーディネーターが各市、町に配置されており、その方が包括的に見る場合もあるが、1人ひとりの医療的ケア児にケアマネのような担当者がついてサービスを調整していない。実際には、小児科医らがコーディネートすることが多いのだが、なかなか連携が難しい。サービスをお願いしようとしても、医師や看護師が市・町と相談して、小児の在宅をやってくれる歯科医師を探すというようなかたちになる。医療的ケア児のコーディネートが困難な状況にあるという事情もご理解いただきたいと思う。以上、現場からの報告ということで、よろしくお願いしたい。

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看護補助者の入職が減る

 この日の総会では、「看護職員処遇改善評価料」をめぐる議論もあった。厚労省は同日の会合に「処遇改善(その1)」と題する資料を提示。最終ページに論点を挙げ、「医療機関等の職員の処遇改善についてどのように考えるか」と意見を求めた。

 池端副会長は、介護福祉士の給与格差が病院と介護施設間で広がっている状況を懸念。「病院において非常に重要な看護補助者の入職も今後さらに減っていく可能性が高いのではないかと思う。しっかり対応していただきたい」と求めた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 まず、資料「総-5-2」の入院外来分科会における主な指摘について。病院勤務の薬剤師の確保が難しくなっている中、薬剤師は「看護職員処遇改善評価料」の支給対象となっていないなどの課題があるとの指摘がある。私もそのとおりだと思っているので、意見として言わせていただく。
 また、「総-5-3」の資料の22ページ。医療関係職種の賞与込み給与の推移について。「介護職員」と「看護補助者」について見ると、2012年では約2万円の差であったが、2022年には4万円と2倍の差がついている。これは介護施設の介護職員には処遇改善の交付金等があるため、この差がどんどん広がっている現状を示していると思う。
 一方で、これまでの総会の資料等でも、看護補助者の役割は非常に重要だという資料も出ている。特に医療機関において直接介護をする介護職員であるが、この看護補助者の役割は増えながらも入職者が減っている。病院と介護施設間での給与格差がどんどん広がっていることを見ても明らかではないかと思う。ここは何らかの対応をしていかないと、病院に入っていただける看護補助者が減ってしまう。
 また、入職超過率がマイナスに移行している中で、有効求人倍率は2倍を超えて3倍になっていることを考えると、これは緊急的な課題である。しっかり対応しないと、特に病院において非常に重要な看護補助者の入職も今後さらに減っていく可能性が高いのではないかと思う。しっかり対応していただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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