医療・介護連携にインセンティブを ─── 次期改定に向け、池端副会長

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2023年10月20日の中医協総会

 令和6年度の診療報酬改定に向け、医療機関と介護施設との連携などをテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「連携を密にできるような体制、あるいは協力医療機関の締結などに何かインセンティブをつけることも必要ではないか」と提案した。

 厚労省は10月20日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第560回会合を開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に「個別事項(その3)」と題する資料を提示。その中で、「医療・介護・障害福祉サービスの連携についての論点」として、①主治医と介護支援専門員との連携、②医療機関と高齢者施設等との連携、③障害福祉サービスとの連携──の3項目を挙げ、委員の意見を聴いた。

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ボランティアで参加している

 ①主治医と介護支援専門員との連携について厚労省は、サービス担当者会議に主治医が参加することを望むケアマネジャーの声などを紹介した上で「医療と生活の双方の視点に基づいたケアプランが策定されることが重要」とした。
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 質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「顔が見える関係性が重要であることはそのとおりだが、それを実現することの難しさも調査結果に示されている」と指摘。「多くの主治医が自院を会議場所として提供するなど、ほぼボランティアで参加している」と理解を求めた。

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情報提供による報酬算定は低調

 長島委員はまた、情報連携を進める上での課題として「ケアマネジャーに対する診療情報提供料の評価のあり方」などを挙げ、「ケアマネジャー側が医療に関する理解を深めて連携を進めていくための方策など、さまざまな方法を検討すべき」と求めた。

 江澤和彦委員(日本医師会常任理事)も「情報提供書が活用される仕組みの導入が重要」などの課題を挙げたほか、「現状、主治医からケアマネジャー、またケアマネジャーから主治医への双方の情報提供による報酬算定は低調」と指摘した。

 池端副会長は「共通のフェイスシートを使うような工夫も必要ではないか」と提案。福井県で活用されている「入退院支援ルール」などを紹介。②の論点についても見解を示した。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 主治医と介護支援専門員との連携について
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 私自身、県のケアマネ協会の会長を長く務めさせていただき、主治医とケアマネの連携の必要性を強く感じている。ケアマネも主治医と連携したいが、その方法がわからないという声をよく耳にする。一方、医師会のほうでは、主治医として診ているつもりなのに、ケアマネからの情報が全くないと言う。双方の意思疎通に課題があるので、何らかの情報をお互い取りにいくとか、主治医がケアマネに声をかけたらケアマネがちゃんと答えてくれるような何かそういうシステムが必要ではないかと常々、感じている。これが診療報酬上で何かできるかは別として、そういう流れが必要だ。
 参考までにご紹介すると、福井県では「入退院支援ルール」がある。入院した場合には必ずケアマネが情報を提供する。そして、退院するときには必ず病院から情報を出す。これらをルール化している。こうしたルール化により、9割以上がそのルールに従って、共通のフェイスシートを使っているので、そういう工夫も必要ではないか。
 主治医も介護保険のことをよく知らなければいけない。一方で、「医療のことは全くわからないから全部お願いします」というケアマネもいまだにいる。ケアマネが非常に人員不足である中で、福祉系の方々がケアマネをしている場合が多い。そのため、医療的なニーズや医療知識の研修などを求めていくことが必要ではないか。これは介護保険の議論かもしれないが必要性を感じる。また、主治医の側でも、ケアマネに対する理解、あるいは介護保険に対する知識を深める努力も必要ではないか。

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■ 医療機関と高齢者施設等との連携について
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 高齢者施設の協力医療機関として、高度急性期と言われる特定機能病院等が入っていることにはやや違和感を覚える。しかも、その協力医療機関になった後、全く連絡が取れていないというデータもある。実際にはもう連携していないと考えられる。何らかのかたちで連携を密にできるような体制、あるいは協力医療機関と締結することに何かインセンティブをつくるようなことも必要ではないか。
 資料にもあるように、高齢者施設が求めているのは相談と緊急時の往診、そして入院ということになると、それが日頃からできる体制の医療機関は在支病や地域包括ケア病床を持っている病院。いわゆる地域密着型の病院が非常に有効だと思うので、そうした病院との連携を促進するような方策も考えられるのではないか。日頃から患者情報等のやり取りをしていれば緊急の対応を求められても往診に行けるし、場合によっては電話で済む。不必要な救急搬送もなくなっていく可能性も高いと思うので、こういう連携がスムーズに進むような方策を医療保険側からも介護保険側からも考えていただけるといい。これは非常に大事なポイントではないか。

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退院当日の病状観察、「極めて重要」

 続いて、「在宅(その3)」の議題では、訪問看護について9項目の論点が示された。このうち「医療ニーズの高い利用者の退院支援」の論点では、退院日当日の訪問看護をめぐり議論があった。
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 支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「退院当日に複数回の訪問看護を実施した理由を見ると、『医療処置』や『緊急対応』等もあるが、必ずしも必要性が高くない『病状観察』もある」と指摘した。
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 これに対し、日本看護協会常任理事の木澤晃代専門委員は、アンケート調査に示された複数回訪問看護の事例に言及し、「退院日当日の評価については充実していただきたい」と要望した。
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 池端副会長も自身の経験を伝え、「病状の観察は極めて重要」と述べた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 医療ニーズの高い利用者に対する退院日当日の複数回の訪問看護については、私自身も経験している。医療的ケア児や医療依存度がかなり高い人は退院日に一番大きなハードルがある。ソフトランディングするためには、主治医をはじめ、訪問看護師が関わる。入院中にできたこと、できないこと、在宅でどうやって取捨選択していくか。非常に重要な診療、あるいは看護が必要になる場合が多いことを考えると、しっかり支援できるような体制が必要であり、もし不都合があれば改善していただきたい。
 退院当日の訪問看護について、松本委員から病状観察というのはいかがなものかという意見があったが、病状を観察するのは極めて重要だと思っている。例えば、長く入院していて、退院後に移動する。場合によっては1時間ぐらい車で移動したり、呼吸器をつけたり、そういう状態で移動して、それでやっと患家に着いて、そして、いろんな配置を決めたり、機械の置き方を決めて、病状を観察する。医療ニーズが高い場合の退院については家族も本人も不安感が非常に強い。特に最初の1週間ぐらい、慣れてくるまでの間は非常に不安。急に機械のブザーが鳴ったとか、吸引器の使い方がわからなくなったというニーズもある。それに応えるために複数回の訪問になることも十分想定できる。
 ただ、松本委員がおっしゃったように、ここをもう少し詳しく見てほしいということは私も全くそれで構わないと思うので、ぜひ前向きな方向で進めていただければいい。

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専門看護師の研修、「長時間を要する」

 このほか、機能強化型訪問看護ステーションについて「専門の研修を受けた看護師の配置」をめぐる議論もあった。支払側の松本委員は「がん患者の割合が増加していることを踏まえると、専門性の高い看護師の配置要件が努力義務ではなく、義務化することも考えられるのではないか」と見直しを求めた。
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 一方、診療側の長島委員は「機能強化型1の訪問看護ステーションでも専門の研修を受けた看護師の配置が36.3%という状況なので、もう少し状況を見守る必要もあるのではないか」と慎重な姿勢を見せた。
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 江澤委員は「資料28ページに示されている研修はかなり長時間を要するもので、ヘビーな研修」と指摘。「機能強化型訪問看護ステーションは一般の他のステーションよりも看護師の配置人数は多いが決して潤沢ではないので、そういう研修が受講できるかどうか現場の状況を踏まえて検討してほしい」と求めた。
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 池端副会長は特定看護師の配置について「実績が上がっている好事例もある」とし、「前向きに進めていただきたい」と述べた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 特定看護師の配置によって、かなり実績が上がっている好事例も確認している。ただし、在宅においては、手順書等の包括的指示を出す、かかりつけ医との関係がまだ不十分で、かかりつけの先生方のご理解がなかなか難しいという声もある。在宅が特定看護師の活躍の場となるためには、丁寧な説明の上、しっかりした連携のもとで手順書等がきちんと発行されるような取り組みも併せて必要ではないか。
特定看護師は気管切開の抜去などができるようになるだけではなくて、看護診断等の技術的な問題以外のところもしっかり研修を受けている。非常に早期にいろんな気づきがあって、主治医にそういった連絡を入れて非常に助かったという好事例も見られる。ぜひこれは前向きに進めていただきたいと思う。われわれ医師会としても、しっかりと、かかりつけの先生方の理解をいただけるように取り組みたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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