レカネマブの価格調整、「ルール変更には至らない」 ── 合同部会の初会合で池端副会長

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2023年10月18日の合同部会

 認知症の新薬「レカネマブ」への対応を審議するために開かれた厚生労働省の初会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「現時点で価格調整ルールを変更するまでには至らない」との認識を示した。

 厚労省は10月18日、中央社会保険医療協議会(中医協)費用対効果評価専門部会・薬価専門部会合同部会の第1回会合を開催し、当会から池端副会長が費用対効果評価専門部会の委員として出席した。

 合同部会の座長は薬価専門部会の安川文朗部会長(京都女子大データサイエンス学部教授)が務めた。会議の冒頭、安川部会長は「先週の薬価専門部会および費用対効果評価専門部会において、両部会で相互に検討状況を共有しながら議論するため、次回は合同部会として開催することとされたことを受け、合同部会として開催する。議事進行は私が務めさせていただく」と挨拶した。

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別の取扱いを検討した方がよいか

 厚労省は同日の会合に「高額医薬品(認知症薬)に対する対応」と題する資料を提示。薬価専門部会での議論の状況や対応の方向性については「薬費-1」の資料に記載し、費用対効果専門部会での検討状況や論点は「薬費-2」の資料で示した。

 このうち「薬費-1」では、レカネマブが薬価収載された後の価格調整ルールについて「対応の方向性」を示し、「本剤に関して別の取扱いを検討した方がよいか」と意見を求めた。
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01スライド_P6対応の方向性

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本剤に適したルールの結論付けは難しい

 資料説明の中で、厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は「使用可能な医療機関の体制や使用実態の変化のほか、投与前の患者選択のためにPETや脳脊髄液検査よりも簡便な検査方法が使用可能になる等の状況の変化により患者数が増加する可能性もある。患者あたりの投薬期間による影響もある」と今後の見通しを説明した。

 その上で、安川薬剤管理官は「これらの状況を踏まえながら考える必要があり、今の段階で本剤に適したルールを結論付けるのは難しいのではないかと考えている」と述べた。

 薬価収載後の価格調整について現行のルールでは、市場規模が拡大すると薬価が下がり、年間販売額に応じて再算定する仕組みになっている。
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02スライド_P6市場拡大再算定の特例の計算方法

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今後の動向によってはルールを変更する

 質疑で、長島公之委員(日本医師会常任理事)は「資料にも記載されているような状況の変化」を挙げ、「現時点で価格調整ルールのあり方を検討するのは困難」と述べた。その上で、「市販後に全例調査が実施されるので、収載後の状況を把握しながら、一定期間経過後に必要に応じて改めて議論することをルール化しておくべき」と提案した。

 森昌平委員(日本薬剤師会副会長)も「市販後の患者数がどのように増加していくのか現状では推計が困難な部分があり、この時点で何かルールを決めることも難しいため、収載後の価格調整ルールは必要なタイミングで議論や見直しができるようにしておくことが必要」との考えを示した。

 池端副会長もこうした意見に賛同し、「現時点で価格調整ルールを変更するまでには至らないが、今後の動向によってはルールを変更することが可能な状況にすべき」と述べた。このほか、介護費用の取扱いについて「レカネマブは試金石になる」と改めて強調。今後の研究に期待を込めた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 まず「薬費-1」の5ページ「対応の方向性」については、長島委員、森委員がおっしゃったように現時点で価格調整ルールを変更するまでには至らないのではないか。ただ一方で、今後の動向によってはルールを変更することが可能な状況に置くということについては私も賛成したい。
 次に、「薬費-2」の論点について。費用対効果評価には私も思い入れがある。費用対効果評価において介護費用の分析をどう考えるか。レカネマブという認知症の薬は、ある意味では試金石になるのではないかと思っている。いわゆるアウトカムとして介護費用が減るかどうかというのは、非常に高額な薬剤であるからこそ大きなポイントではないか。
 一方で、福田参考人から説明があったように、技術的・学術的な課題が多いことも十分理解した。諸外国でもまだ十分な評価ができていないという。そうした中で、公的介護保険等がきちんと整備されている我が国においては、先駆的な取組として、これが本当に可能かどうかを見るためにも、ぜひ研究は続けていただきたいと思う。もし、介護費用をアウトカム評価として見るのは難しいというネガティブデータになっても、次に進めることになると思う。なお、今後も合同部会で検討を続けるという方針については、もちろん賛成したい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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