看護師らの処遇改善、「官民格差がさらに広がる」 ── 池端副会長、現行の枠組みに危機感

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2022年3月23日(水)中医協総会

 看護師らの処遇改善がテーマになった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は、コロナに対応する三次救急などに限定する枠組みに対し「明らかに看護職を差別化することになる。官民格差がさらに広がる」と危機感を表し、「慎重に進めていくことを期待したい」と述べた。

 厚労省は3月23日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第518回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に「処遇改善(その1)」と題する資料を提示。これまでの経緯を振り返った上で論点を挙げ、委員の意見を聴いた。

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P12_【総-9】処遇改善(その1)_2022年3月23日の中医協総会

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患者数の変動等の影響を受ける

 10月以降の対応について厚労省は、中医協下部の分科会で「必要な調査・分析を行い、検討を進める」としている。

 質疑で、城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「示された論点について異論はない」としながらも、「さまざまな難しい課題が数多くある」との認識を示し、評価方法や介護報酬による処遇改善との関係などを課題に挙げた。

 城守委員は「診療報酬で処遇改善に対応していく際には、例えば基本診療料で評価するのか、加算で評価するのか、あるいは新設の項目を立てるのか。評価の平準化について、患者数の変動等による影響を受けるので処遇改善という安定的であるべき制度との考え方の両立が難しい」と指摘した。

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稼働状況で毎月の変動をきたす

 介護報酬による処遇改善との関係については、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)が説明。「事業所の稼働状況で毎月の変動をきたすため、給与計算の煩雑さも勘案しつつ、毎月の賃金アップと一時金を組み合わせて支給するなどの課題がある中、現場ではなんとか工夫して取り組んでいる」と現状を伝えた。

 江澤委員はまた、「職員数に応じた加算率が設定されているため、同じサービス類型の中で介護職員を平均よりも手厚く配置している事業所では、介護職員1人当たりの配分が相対的に低くなることも生じる」と指摘した。

 その上で、江澤委員は「10月からの診療報酬による処遇改善においては、報酬の配分、算定要件、賃金の支払方法等、さまざまな課題を解決する必要があり、公費負担、保険料負担、患者負担をはじめ、国民の理解も不可欠」と述べた。

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過不足が生じない設計は難しい

 支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)も「まずは分科会で技術的な調査・分析を行っていただくことが妥当であり、論点で示された方向には賛同する」と了承した。

 今後の制度設計に向け、松本委員は「診療報酬で対応する場合は補助金と異なり、看護職員数だけではなく患者数も踏まえる必要があるので、補助金の額と比べて過不足が生じることが予想される」との課題を挙げた。

 その上で、松本委員は「個別の医療機関で、どこも過不足が生じないように設計することは非常に難しい。過不足について、ある程度、お受けいただく必要があることは留意いただきたい」と述べた。

 一方、池端副会長は、病院の規模などで処遇改善に差が生じる恐れや、病院に勤務する介護職員(看護補助者)との格差などの課題を挙げ、10月以降の対応について「第一歩であれば理解するが、そのままずっと続くのであれば大きな問題になる」と指摘した。

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2022年3月23日(水)中医協総会

■ 処遇改善について
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 資料7ページの大臣折衝事項について確認したい。看護職員の処遇改善については、「地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関(注1)に勤務する看護職員を対象」とする「処遇改善の仕組み(注2)」として、「注1」「注2」が付いている。
 このうち「注1」は、「救急医療管理加算を算定する救急搬送件数200台/年以上の医療機関及び三次救急を担う医療機関」となっている。10月以降の診療報酬上の対応について、「救急搬送件数200台/年以上」「三次救急を担う医療機関」に尽きるということでいいのかどうか、確認させていただきたい。 
 その上で、そうであれば、例えば看護職、介護職の処遇改善であれば、介護職はどの介護施設でも均等に処遇改善されるわけだが、今回に関しては、看護師が勤める病院の種類によって処遇改善されたり、されなかったりするという問題が出てくる。 
 これが第一歩としての立て付けならば、ある程度、理解できるが、これで看護職員の処遇改善が終わりということであれば、明らかに看護職を差別化することになるのではないだろうか。該当する施設に勤務している看護職と、そうでない看護職では、働き方に何らかの齟齬があるわけではない。これは中医協で決められることではないかもしれないが、そういう問題点があることも重々ご理解いただいた上で、この処遇改善を図っていただきたい。 
 第一歩であれば理解するが、これがもし、そのままずっと続くということであれば大きな問題になるのではないか。特に、官民格差がさらに広がってくる。
 また介護職に関して、介護保険で全ての介護職員に処遇改善が行われる一方、病院に勤務している介護職員、いわゆる看護補助者に関しては、ますます差が開いていくことも現実にある。そうした大きな問題点があることも重々ご理解いただいた上で、慎重に進めていくことを期待したい。

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【厚労省保険局医療課・井内努課長】
 池端委員から質問があった7ページ、大臣折衝事項の所であるが、まさに、この前提で、現在、予算審議ということであるので、ここにある「注1」「注2」というところは、この範疇で、中医協の中で議論いただくということになると考えている。 
 各委員からいただいた、さまざまなポイントがあると考えている。それを診療報酬上、どういったかたちで考えていくのかについては、本日、論点のところでご提案させていただいている「入院・外来医療等の調査・評価分科会」において必要な調査・分析を行い、総会で決定いただくというプロセスを考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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