「医療機関・介護施設連携マッチング」を ── 次期改定の議論で田中常任理事
令和6年度の介護報酬改定に向け、グループホームなど地域密着型サービスを中心に議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「地域で『医療機関・介護施設連携マッチング』を実施するような体制を検討してはどうか」と提案した。
厚労省は10月23日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第228回会合を開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。
厚労省は同日の分科会に、地域密着型サービスに関する資料1から4を提示。これまでの議論やヒアリングで寄せられた意見などを紹介した上で、それぞれについて論点や対応案などを示し、委員の意見を聴いた。
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総マネ加算、「包括的に評価してはどうか」
資料1「定期巡回・随時対応型訪問介護看護及び夜間対応型訪問介護(改定の方向性)」では、3つの論点が示された。
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このうち、「論点2」で議論があった。対応案では、総合マネジメント体制強化加算(総マネ加算)について「基本サービス費として包括的に評価してはどうか」とし、資料2・3にも同様の論点が挙げられている。
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委員からは「財政的な観点から制度の持続可能性にも影響する問題」との指摘があったほか、「基本報酬に包括化した際に区分支給限度基準額の範囲内で飲み込めるのか」との疑問や、「利用者が他のサービスの併用するにあたって不利益がないか」と不安視する声があった。厚労省の担当者は「改定全体を踏まえ、一度整理が必要な事項」と述べるにとどまった。
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研修を受講しやすい環境整備を
資料2「小規模多機能型居宅介護(改定の方向性)」では、認知症対応力の強化など2つの論点が挙がった。
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このうち「論点1」では、「認知症ケアに関する専門的研修修了者の配置や認知症ケアの指導、研修の実施等を行っていることについて新たに評価することとしてはどうか」「看護小規模多機能型居宅介護も同様にしてはどうか」と提案している。
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質疑で、古谷忠之委員(全国老人福祉施設協議会参与)は「小多機・看多機に限らず、専門性を持って認知症ケアに取り組むことは非常に重要」とした上で、「研修を受講しやすい環境整備を行うことが必要」と指摘した。
古谷委員は、特養の認知症専門ケア加算を挙げ、「認知症ケアに関する専門的研修を希望してもなかなか研修が受けられず、算定が低い状況。より配置基準の少ない小多機・看多機では、さらに受講が困難であるように思う」と対応を求めた。
田中常任理事もこうした意見に賛同。「小規模なので職員を研修に出せるかどうか、調査が必要」と提案した。
【田中志子常任理事の発言要旨】
認知症に関する研修については、古谷委員がおっしゃったように、老健や特養等から認知症の研修等を受講希望者が全員受けられないような現状がある。小規模多機能の職員等に研修を義務付けるときに、どれだけ受けられるのか。また、小規模であるがゆえに職員を研修に出せるかどうかというような現実について調査が必要であると思っている。
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利用状況に合わせた報酬の調整を
資料3「看護小規模多機能型居宅介護(改定の方向性)」では、総マネ加算の包括化について「論点2」で提案。資料2と同様に「地域包括ケアの推進と地域共生社会の実現に資する取組」としている。
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「論点1」では、利用頻度が少ない場合の対応案を提示。「利用状況に合わせた報酬の調整を行ってはどうか」と提案している。
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質疑で、伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)は「報酬体系の適正化の観点も含めて、しっかりと整理してほしい」と求めた上で、「利用状況に合わせた調整とはどのような内容を想定しているのか」と質問した。
厚労省の担当者は「要介護度別にさまざまな利用回数の分布がある。また利用料が高いため新規の利用につながらなかった事例もある」とした上で、「このような利用状況に応じた評価の報酬の設定を検討してはどうかという提案」と説明した。
田中常任理事は「療養通所介護との整合性や、すみ分けをどうするのか」との問題意識を示した。
【田中志子常任理事の発言要旨】
療養通所介護との整合性や、すみ分けをどうするのか。あるいは、将来的に統合の方向性を考えなければいけないのかどうかということも視野に入れて検討してほしい。それは通いが主体になるような看多機についてである。
なお、看多機については、今後、心不全や尿路感染、肺炎の予防等を考え、特定行為等の専門看護師の配置をするよう改めてお願いしたい。
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ICTの活用可能性を探る調査を
この日の会合で多くの委員が言及したのが資料4「認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)(改定の方向性)」で、資料1~3の総マネ加算と同様に多くの発言があった。
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「論点1」の対応案では、「看護体制要件と医療的ケアが必要な者の受入要件を分ける」との意向が示された。
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「論点2」では、「引き続き、実態を把握することとしてはどうか」としている。
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委員からは「配置基準を安易に緩和してはならない」との意見があった。田中常任理事は「ICTの活用可能性を探るため3ユニットの夜勤体制について改めて調査してはどうか」と提案した。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。
■ 医療ニーズへの対応強化(医療連携体制加算)について
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医療法人開設のグループホームでは医療との連携が取りやすいと思うが、その他のグループホームでは、なかなか医療者とのチーム形成が難しいと聞く。医療機関側からすると、グループホームの患者が入院してくるところからの関係性になるので、グループホーム等の介護事業所が介護を継続するために医療ニーズに対応することに困っているという認識は低いかもしれない。両者が同席できる場が少ないことから、地域で「医療機関・介護施設連携マッチング」というようなものを実施するような体制を検討してはどうかと提案する。
また、医療ニーズについても、先ほど東委員がおっしゃったように、加算の対象となる医療ケアが本当に適切かどうか。加算の対象となっている以外の医療ケア、例えば、高齢多疾患併存者が多いために、日頃の心身のアセスメント、インスリン注射、あるいは排便管理など、結果的に現場では看護師の役割は非常に大きく必要とされており、その配置を切望しているということを見過ごしてはいけないと思っている。それに対応するほどの報酬が支援されてないというのは、他の委員の皆さまのおっしゃるとおりかと思う。
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■ 介護人材の有効活用(3ユニット2人夜勤)について
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19ページ(3ユニットの事業所におけるユニットの配置状況)にあるように、90%以上は同一フロア以外の3ユニットになっている。グループホームは全て個室なので、3ユニットを同一フロアにあることで移動する面積は逆に非常に広くなる。したがって、この90%以上の3ユニットのように縦展開をすることで移動時間を短くするという運営をしているのが現状だと思う。
したがって、今後、広がりゆく人員不足への対応、あるいは更なるICTの活用可能性を探るためにも、先行的研究として、この残りの90%を含めて、改めて3ユニットの夜勤体制についての調査をしてはどうかと提案する。
(取材・執筆=新井裕充)
2023年10月24日