看護職の処遇改善、「公民の差は?」 ── 中医協分科会で井川副会長

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20231012_入院外来分科会

 看護職の処遇改善評価料について調査結果が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は看護職の賃金引上げ分の負担に言及し、「公的病院と民間病院との差を示してほしい」と求めた。厚労省の担当者は「現状のデータから分析するのは非常に難しい」と説明した。

 厚労省は10月12日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和5年度第10回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の分科会に「看護職員処遇改善評価料の実績報告について」と題する資料を提示。厚生局に報告書を提出した2,553施設(令和5年9月30日現在)のデータを分析した結果を報告し、委員の意見を聴いた。

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多くの職員の賃上げは厳しい

 報告によると、1人あたりの賃金改善額の平均は月1万1,388円で、改善評価料による収入に占める割合は「100%~105%未満」が最も多かった。一方、同評価料による収入よりも1割以上多く支出している医療機関も約2割あった。
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 質疑で、猪口雄二委員(日本医師会副会長)は「収入増のほぼ100%以上の支出をしているので、十分に利用されている」と評価しながらも、「対象となる医療機関は2,553で、全病院の約30%にすぎない。多くの医療機関における職員の賃上げをするには、かなり厳しい数字」と指摘。「十分な賃上げの原資をさまざまな方法により確保する方向をぜひ出していただきたい」と要望した。

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職種に関係なく賃上げできる仕組みを

 猪口委員はまた、評価料の配分にも言及。「38%の医療機関では看護師のみの賃上げ」と指摘。津留英智委員(全日本病院協会常任理事)も「一部の急性期の看護師が対象となっており、全ての看護師が対象ではない」と声を揃えた。
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 その上で、津留委員は「他の職種に同じような仕組みで拡大するとしても診療報酬の仕組みでは限界がある」とし、「医療従事者の処遇を改善するためには、入院基本料の見直しが重要だ」と訴えた。

 牧野憲一委員(旭川赤十字病院院長)も「看護職員処遇改善評価料という仕組みを今後も続けていくのは限界がある。評価料で支給できる職種の範囲が限られているのも問題」と指摘。薬剤師が対象から外れていることを挙げ、「職種に関係なく、病院全体の職員の賃上げができる仕組みが必要だろう」と述べた。
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03スライド_P3抜粋003_評価料の実績報告

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 井川副会長は、同評価料の基準を満たすのに届け出ていない医療機関があることや、その理由などに言及した上で、今後の対応に期待を込めた。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 看護職員処遇改善評価料の実績報告について
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 5ページ(看護職員処遇改善評価料の実績報告の状況)によれば、先ほど猪口委員がおっしゃったように、8,100余りある病院の中で2,553施設の届け出ているが、実際に、その届出可能である病院数に合わせると、どのぐらいの比率であるのかも把握されておられるのか、教えていただきたい。 
 また、6ページには賃金改善の実績額の分布が示されている。3分の2程度が、100から105%程度と、ほとんど使われているのだろう。しかし、100%以上を出しているということは、病院が何らかの負担をしているか、もしくは、ほかの要素によるベースアップがあったかということになろうかと思う。人事院勧告等で公的病院は自動的にベースアップされ、プラスアルファで必ず増えてくる。それに対して、民間病院では、収益が増えなければ実際にはなかなか上げられないという実態があるので、公的病院と非公的病院、いわゆる民間病院との差がどのように出てくるのかを示していただけるのか。
 続いて、11ページ(看護職員処遇改善評価料を届け出ていない理由等)について。令和5年度調査後のA票の施設票から得られた結果だが、「参考」の欄を見ると、急性期一般1から療養病棟まで入院料別に届出率が示されている。A票には緩和ケア病棟が入っていたと思うのだが、緩和ケア病棟の回答はゼロだったのかを教えていただきたい。また、全体のn数が1,497となっているが、各入院料別の数字を足すと、1,685となって、重なりが出てくる。したがって、この数字が一体何を意味しているのか、やや読めないところがある。
 私は以前の分科会で、A票に急性期病院と療養病棟が入っているのが非常に問題だと指摘した。その結果として、こういう数字が出てくると、やはり急性期一般入院料と療養病棟入院基本料は分けるべきであったのではないかと今更ながら思っている。
 次に、8ページ(看護職員等以外の職員へ処遇改善等)について。猪口委員や牧野委員からも発言があったが、いろいろな職種に分配されている。特に牧野委員がおっしゃったように、薬剤師はこの中に入ってこない。それぞれ、どういう職種に分配されたのか、その比率がわかれば教えていただきたい。
 最後になるが、私は以前の分科会で、看護職員の処遇改善評価料というのは一部の病院、つまり慢性期を全て完全に排除したような形で、急性期病院に勤務する看護師のみベアを保障する非常に不公平な診療報酬の項目であって、令和6年度の改定で、このまま維持されれば慢性期の看護師はそのままさらに2年間、不公平な状態に置かれると申し上げた。残念ながら、今回の調査では一切明らかになっていないのだが、11ページ(看護職員処遇改善評価料を届け出ていない理由等)の棒グラフに示されているように、届け出なかった理由で最も多かった回答は、「看護職員処遇改善評価料が継続される保証がなく、基本給又は決まって毎月支払われる手当の引き上げを行うことを躊躇するため」であった。こういう施設が44%もある。ということは、私と同様に、「この不公平な診療報酬体系がそのまま存続されるわけがなく何らかの手が加えられるものだろう」と思っているのだろうと推察している。この部分は応援したいと思っている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員からは、いくつか追加的な分析のご指摘をいただいた。今回、届出可能だった医療機関の数については、2,720病院と把握している。
 そのほか、緩和ケア病棟が含まれていたか、あるいは公立・公的を分けて分析できるかということに関しては、現状、われわれ用いているデータから分析するのが非常に難しい部分もあるが、どういうことが可能かということはまた検討させていただきたいと思っている。
 また、調査票の指摘に関して、A票に療養が入っていることについては繰り返し、ご指摘いただいているところであるので、次回以降、どのような工夫ができるかは引き続き検討させていただきたいと思っている。最後に、「不公平感が生じている」ということに関しても、繰り返し、ご指摘いただいたものと思っている。

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介護業務と看護補助は違う

 この日の分科会では、「これまでの議論におけるご指摘」として、①救急医療管理加算、②医療機関の薬剤師、③看護職員の負担軽減等──についても議論があった。
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 このうち③について、厚労省の担当者は「急性期と、それ以外とで分けたときの看護職員と看護補助者の業務分担状況に関しては大きく差はないという結果だった」と伝えた。

 質疑で、田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)は「今回の分析で明らかになったのは、急性期であっても明らかに介護の必要があることだ」と指摘。「高齢者なので、疾病治癒が目的であってもベースとなる生活を支えなければならない。急性期病院でADLを低下させないように守っていくこと、機能の維持がとても重要」との考えを示した。

 その上で、田宮委員は「これだけ多くのことを看護職が担っているのは人材不足の中で良くないし、『看護補助者』という名前で介護職を雇うのも本来ではない。介護の専門家をきちんとリスペクトすべきであり、介護業務と看護補助は業務が違う」と述べた。
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看護補助という仕組みは破綻している

 山本修一委員(地域医療機能推進機構理事長)は「看護補助体制という仕組みは破綻している。看護補助者の応募をかけても来ない。たとえ来ても患者と直接関わる業務は勘弁してくれというのが実態」と現状を伝えた。

 その上で、山本委員は「介護の必要度が高い患者への対応をどうするかをしっかり考えなければいけない。そうしないと、急性期病院から看護師がどんどん抜けていくのではないかと危惧する」と述べた。

 猪口委員は「病院における介護職員の必要性はもう定着している」とし、「医療機関においても介護職を評価していかないと、今後の状況に耐えられない」と強調した。

 井川副会長は療養病棟における現状などを伝え、さらなる評価を求めた。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 看護職員の負担軽減等について
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 介護士が十分な働きができないような状況にある。われわれ療養病棟を多く持つ立場から考えると、療養病棟は20対1同士、必ず半分は介護士を入れていかなければならない義務がある。したがって、今回の資料に示されている「看護職員と看護補助者との協働」というのは、ほぼ当たり前のように療養病棟では実施されている。その結果、どんどん重症化してくる患者に対しても、彼らは勉強して、より良い環境をつくってきているのは事実であろうと思う。
 何が問題かと言うと、急性期の加算の中で、例えば、75対1や50対1があるが、50対1というのは、どれだけの看護補助者を配置するかという話になると、例えば、40床の病棟であれば、24時間で3名を配置すればいい。ということは、日勤、夜勤、それから準夜勤となると、各勤務帯に1人ずつしかいない。それで、例えば、何かお手伝いをするのは実際には無理だ。せめて、例えば、25対1であったり、場合によっては、20対1という評価はないが、 20対1のような評価をつけないと、介護士の数そのものが少なすぎて、実際に働いてもらえないという現実があるのではないかなと考えている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 療養病棟における介護職員の現状についてご紹介いただいた。今の配置では不十分であって、より手厚い体制の評価が必要だというコメントをいただいたと認識している。

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療養病棟では持ち出しが多く厳しい

 こうした議論などを踏まえ、厚労省は同日の会合に「入院・外来医療等の調査・評価分科会におけるこれまでの検討結果(とりまとめ案)」を示し、大筋で了承を得た。

 尾形分科会長は「本日ご議論いただいた『とりまとめ』については、中医協診療報酬基本問題小委員会に報告させていただく。細かい文言等の修正については私にご一任いただきたい」とまとめた。

 井川副会長は、障害者病棟での透析などについて見解を示した。「とりまとめ案」では、「透析患者に対する障害者施設等入院基本料等の入院料毎の診療費について分析したところ、療養病棟入院基本料より、障害者施設等入院基本料の方が診療費が高かった」と指摘。「透析患者の評価については適正化してはどうか」との意見を挙げている。
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05スライド_P28抜粋

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 井川副会長は「療養病棟では持ち出しが多いため非常に厳しい」と理解を求めた。

■「とりまとめ案」について
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 障害者施設等入院基本料等について述べる。新たに記載が追加された28ページの一番下のポツにこのように書かれている。
 「透析患者に対する障害者施設等入院基本料等の入院料毎の診療費について分析したところ、療養病棟入院基本料より、障害者施設等入院基本料の方が診療費が高かった」
 それに続いて、2つのポツで該当患者の基準を明確化することや、「障害者施設等入院基本料等において透析患者を多く受け入れることは適当ではなく、透析患者の評価については適正化してはどうか、との指摘があった」との記載がある。
 現状では、療養病棟での透析と障害者病棟での透析と2つあると思っており、療養病棟で運営しているところの話を聞くと、病棟だけでは厳しい。外来透析をやっているから何とかなっているが、病棟では持ち出しが多いということもあって厳しいという話も聞く。特に、MEなどを療養病棟で雇うということは全くないので、そういう点では非常に厳しくて、薬剤費も取れない。材料費は取れるが、やはり厳しいようだ。医療区分2でADL3などに入ってくるのだろうと思うが、そういう点で言うと、療養病床はデータを提出できているので、できれば医療資源投入量という形で合わせて見ていただくと、もっとすっきりするのかなという気がしている。
 次に、先ほども申し上げた看護職員の負担軽減について。37ページに「看護補助者は減っており確保が困難になっている」という記載がある。私は前回の分科会で、療養病棟25対1の減少と、それから介護医療院への転換、要するに介護保険側に介護士が多く移行しているのも1つの要因であるという話をさせていだいた。その際、同時に指摘させていただいたのが、介護分野でのみ認められている処遇改善加算という点である。今でも、ずっとそれが残っている。今回は同時改定ということでもあるので、ぜひとも、ここの部分は記載して、追加していただければと思う。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 障害者施設等入院基本料等における透析に関して、療養との適正化について、必要な部分に関して、ご指摘をいただいた。現行でも、療養に関しては、透析についてはマルメの中ではないので、外来であっても入院であっても出来高算定はできる部分である。そういったところも踏まえ、今後検討させていただきたい。
 また、介護職員が介護現場に流れていってしまっている現状に対して、処遇改善の評価、加算等、介護報酬との差が影響を及ぼしているということに関して、ご指摘をいただいたので、これに関しても、どのように対応できるのか検討してまいりたいと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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