病院に介護職を配置する政策を ── 中医協分科会で井川副会長

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2023年9月29日の入院外来分科会

 看護職の負担軽減策などを議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は「看護補助者の配置の充実は看護職の負担軽減に大きな役割を果たすので積極的に実施すべき」とした上で、「介護職が介護保険分野に移行している。病院に来てくれない」と指摘し、今後の対応を求めた。

 厚労省は9月29日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和5年度第8回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。
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01スライド_議題一覧

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 今回の主な議題は、「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」など4項目。厚労省は同日の資料「入-1」の中で、看護職員の負担軽減策やその効果などのデータを提示。「診療報酬の評価の在り方について、どのように考えるか」と意見を求めた。
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02スライド_論点P65_【入-1】2023年9月29日の入院外来分科会

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急性期では患者の状態が不安定

 質疑で、日本看護協会の前副会長である秋山智弥委員(名古屋大医学部附属病院教授)はまず夜間の看護業務に関する調査結果に言及。「急性期では患者の状態が不安定なので、急性期においては患者の状態を十分に看護師がアセスメントした上で安全に直接ケアを実施していく必要性が高いことが示唆された」と述べた。

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03スライド_P46抜粋_【入-1】2023年9月29日の入院外来分科会

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 資料P46によると、「看護補助者の業務の5割以上が療養生活上の世話」である割合について急性期の医療機関は約3割と少ないが、慢性期等の医療機関は約9割と高かった。

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急性期・慢性期に分けた分析が必要

 続けて秋山委員は、看護職員と看護補助者の業務分担に関する資料47ページに言及。「急性期と慢性期ではかなり差があることが大いに考えられるので、急性期・慢性期に分けた分析が必要ではないか」と指摘した。

 その上で、「急性期においては看護師による十分なアセスメントに基づいて看護補助者に適切に指示を出してケアを安全に実施する必要がある」とし、さらなる分析を求めた。
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04スライド_P47抜粋_【入-1】2023年9月29日の入院外来分科会

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 資料P47によると、備品の搬送など直接患者に係わらない業務は「看護補助者が主に担当」の割合が高かった。

 一方、「患者のADLや行動の見守り・付添」や「排泄介助」など、直接患者に提供されるケアは「看護職員が主に担当」(濃い緑色部分)、「看護職員と看護補助者との協働」(薄緑部分)の割合が高かった。

 秋山委員は「夜間の患者のADLや見守り、付添などが(看護職員の)負担になっていることは明らかだが、47ページを見ると、それらは看護補助者に任せられるような業務ではない」と強調した。

 その上で、看護職員夜間配置加算について「急性期では12対1が一番高い配置になっているが、実態としては、10対1以上を配置している所もあるので、夜間の高い配置も評価していく必要がある」と提案した。

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05スライド_P43抜粋_【入-1】2023年9月29日の入院外来分科会

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看護とは違うアイデンティティがある

 田宮菜奈子委員(筑波大医学医療系教授)も資料P46(夜間看護の負担)に言及。「看護補助者に求められている役割が病棟によってかなり違う。慢性期の場合は療養生活上の世話が最も多い」とし、介護福祉士の専門性を指摘。「介護職は国家資格で日常生活の世話をするエキスパートなので看護とはまた違うアイデンティティがある」と述べた。

 その上で、田宮委員は「病院であっても介護のニーズはあるので、『看護補助業務』ということで介護職を配置するのはよくない。介護福祉士は国家資格であり、介護施設に行けばきちんと処遇改善も受けられるし、アイデンティティがある」とし、「急性期の場合との違いも見極めた上で、慢性期ではプロの介護職をリスペクトして、医療保険であっても雇用する仕組みが必要ではないか」と提案した。

 こうした議論を踏まえ、井川副会長が発言。「介護職の処遇改善加算が介護保険分野では付いているが、われわれ医療分野には付いていないため給与差が出てしまい、介護職がなかなか来ない」と改めて強調し、今後の対応を求めた。

 この日の分科会では、短期滞在手術等基本料3を算定する患者の割合が50%を超えている地域包括ケア病棟・病室に関するデータが示されたほか、「慢性期入院医療(その3)」の議題では障害者施設等入院基本料2~4の病棟で慢性腎不全患者を多く受け入れている施設があるとのデータも示された。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 看護職員の負担軽減について
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 全般的に見て医師の方の働き方改革から病棟クラークや病棟薬剤師の配置が非常に重要であるという認識に関しては皆さんと変わらない。
 その上で、看護師の負担軽減について述べる。われわれ慢性期医療では介護職員を多く抱えているので、看護職員と看護補助者の業務分担は大きな関心事である。
 資料47ページに看護職員の負担軽減に関する調査結果が示されている。この調査の回収状況が4月24日の分科会で示されたが、それによると、「急性期一般入院基本料等」が2,013件。それに対し、「障害者施設等入院基本料、特殊疾患病棟入院料等 」が433件。すなわち、今回の調査結果は主に急性期病院の「病棟看護管理者」の回答が8割を占めている。
 それを踏まえた上で47ページ(看護職員と看護補助者の業務分担状況)を見ると、リネンの交換や備品搬送などの業務を「看護職員が主に担当」する割合は少ない。看護補助者が関与している業務は非常に多い。
 一方で、48ページ(看護職員の業務負担感)に示されたように、おむつ交換や排泄介助、食事介助など、看護師が負担に感じている業務が非常に多い。
 また、49ページ(看護職員の業務負担軽減策に対しての効果)によれば、「看護補助者の配置」や「看護補助者との業務分担」などが負担軽減に効果的であると考える急性期の看護師も非常に多い。これが現場の声だろう。
 これらから考えると、名称はともかくとして、看護補助者の配置によるケアの充実は看護職員の業務軽減に大きな役割を果たしているし、今後、積極的に実施すべきだろう。
 しかし、問題は病院の介護職が減っていること。56ページ(看護業務補助者等の従事者数)によれば、医療機関に勤務する看護業務補助者の従事者数は、平成26年以降減少しており、看護業務補助者と介護福祉士の合計数も同様の傾向である。このグラフを見る上で重要なのは慢性期病床が減っていること。医療療養の25対1病床が消え、介護職が多く勤務していた施設が変わった。例えば介護医療院等に移っている。すなわち、介護職が介護保険分野に移行しているという可能性がある。
 さらに、介護職員の処遇改善加算が介護保険分野では付いているが、われわれ医療分野には付いていないがために、その給与差が出てしまい、その負担は各病院でみなければならない。ということで、介護職がなかなか来てくださらない。そのような実態があるので、それを含めた全ての政策が必要だと感じている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 調査に関する偏りについては、今後の調査設計で参考にしたい。
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■ 地域包括ケア病棟の短期滞在手術等について
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 67ページ(地域包括ケア病棟の入棟患者のうち短期滞在手術等基本料3を算定する患者の割合)などの資料に関しては私がお願いしたところで、ご対応に感謝する。この結果を見ると、さらに混沌としてしまったというのが実感である。
 特に68ページ。短期滞在手術等基本料3を算定する患者の割合が50%を超えている地域包括ケア病棟・病室のうち、分母(地域包括ケア病棟入院料又は短期滞在手術等基本料3を算定している患者)が50以上である8施設を見ると、結核病棟しか併設していないのに、地域包括ケア病棟でこれだけの手術をしているなど、あるいは、回リハ病棟しか持っていないのに、こういう形になっていると、もう本当にどうなっているのかよくわからない。 
 いずれ、こういうものを地域包括ケア病棟の適用外にするという判断をするならば、ヒアリングなどを実施し、きちんと評価することが必要だと思っている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 地域包括ケア病棟の短期滞在手術等基本料に関しては、これまでの議論から申し上げると、これをすぐさま駄目だとか規制すべきだというような話ではなかったと事務局としては捉えている。指標の中で、これをどう評価するのか、含めるのかどうかというような議論であったと思っている。津留委員からは、分子としてこれをカウントするのはどうかという意見をいただいたし、すぐさま駄目というわけではないだろうということで、これまでの議論の流れに沿ったご発言をいただいたと認識している。
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■ 障害者施設等入院基本料等について
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 障害者病棟で透析に関することが非常に問題になっているというデータを示していただいた。療養病棟との大きな違いは何かと言うと、透析をされている患者、特に最近、入院透析をされている患者さんで、ほかの病気などもあるため退院できない方、要するに外来透析では対応できない患者は透析によって非常に不安定になる。そのため、看護配置20対1の療養病棟で透析日を迎えるのが非常に厳しくなってしまう。
 また、包括評価の療養病棟では薬剤関連の点数が取れないこともあるので、療養病棟では非常に厳しい。多くは週に3日間、月・水・金という形で入院透析しなければならないので、その日だけ加配して看護師を増やすことが医療療養病棟では厳しいという気がしている。
 そこで、何らかの形の手当てなどを増やす必要があるが、療養病棟の全てに対して手当てするのは不可能だろうと思うので、障害者病棟のほうに向けて入るか、何かそういうふうなことも考えなければならないかと思っている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 透析に関しては、さまざまな状況があって医療資源投入量もそれ相応のものが必要だという発言が井川委員からあった。一方で、療養病棟との関係性の中で「並びが必要なのではないか」と中野委員からもご指摘いただいたので、そうした指摘を踏まえながら、今後検討してまいりたい。
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■ 医療資源の少ない地域に配慮した評価について
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 医療資源の少ない地域での回復期等の問題点をお示しいただき感謝する。まさにそのとおりで、特に医療資源の少ない地域、要するに過疎地域において回復期リハビリテーション病棟を運用するのは極めて難しいのが現状である。
 とはいえ、地域包括ケア病棟をつくってしまって、非常にいろいろなものを拾うことになっても、急性期から、自分のところで全部やっているので、自院からの転院ばかり、転棟になってしまう。回復期と同様のリハビリテーションをすると、その分の持ち出しがあることも非常に大きな問題であろう。そこは要件緩和が必要と考えている。
 また、在支診が運営できないことは、特に島しょ地域などでは大きな問題だろうと考えている。そこに対する要件緩和も必要であろう。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 医療資源の少ない地域に回リハが必要という肯定的な意見をいただいたと認識している。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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