入院患者の高齢化、「看護と介護を分ける時代」 ── 中医協分科会で井川副会長

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20230906入院外来分科会

 令和6年度の診療報酬改定に向け、急性期病院でのリハビリや栄養管理などがテーマになった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は入院患者の高齢化に触れながら「マルチモビディティ患者はADLが悪化しやすい。今や看護と介護を分ける時代」との認識を示し、「当会がずっと提案している『基準介護』を一考すべき時期が来た」と主張した。

 厚労省は9月6日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九大名誉教授)の令和5年度第6回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。

 今回の主な議題は5項目。入院医療等の調査結果を分析した作業班の中間報告について意見を交わした後、議題3~5について資料「入-3」を踏まえて議論した。
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議事次第

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 同資料は表紙を含めて135ページ。急性期・回復期・慢性期の入院医療について、P65、111、135にそれぞれ論点が示されている。同分科会における井川副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 診療情報・指標等作業グループからの中間報告について
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 急性期病院から患者を引き受ける慢性期医療の立場から述べる。地域包括ケア病棟への転院などを考えるときに一番重要なのは、いかに急性期の入院期間を短くするかである。その点で何がネックになるかを考えると、急性期病院で「退院できるよ」と言っていただいたにもかかわらず、その後、例えば家族面談など、いろいろなことがあって、結局、それから1週間、2週間かかってしまう。そういうことが非常に大きな要素を占めている。転院までの期間の多くの部分をそういったものが占めていることから考えると、先ほど猪口委員がおっしゃったように下り搬送に対して何らかのインセンティブを付けて、できるだけ、急性期病院にいる時間を短縮することが非常に重要なことだと思う。
 高齢者救急について、地域包括ケア病棟になるべく対応していただく方向で進んでいるような気がしているが、実際に、上り搬送と下り搬送のどちらが難しいか。上り搬送のほうが大変である。場合によっては、上り搬送をする間に患者が重症化してしまう。そこで、とりあえず診断だけ付けていただいて下り搬送の時間を短くする考え方も必要である。 
 津留委員がおっしゃったように、これほど高齢者が増えて、手術患者の平均年齢が80歳を超えるような時代である。マルチモビディティ患者は、初めの頃のADLが良くても非常に悪化しやすい。いつどこで悪化するかわからない状況にある。今や看護と介護は、ある程度、分ける時代ではなかろうかと私は思っている。介護というものを別の評価で、例えば、日本慢性期医療協会ではずっと「基準介護」と申し上げているが、「基準介護」を一考すべき時期が来たと思っている。
 TPNについては、猪口委員から「適応範囲がもう少し広いのではないか」との指摘があった。私も同感である。特定看護師がPICCを実施すれば、医師がわざわざ出向いて、CVを入れなくても済む。同時に、食欲不振の患者に経鼻胃管を挿入することで生じる抑制など、ADLの低下を伴う行為も防げる可能性がある。TPNをがんじがらめの状態で、「経腸が使えるから、それのほうがいいよ」というかたちにはならないのではないか。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員から、いかに急性期を短くするかが重要だろうということと、そして下り搬送の重要性について意見をいただいた。看護・介護の評価を分けることの可能性についても意見をいただいた。
慢性期に関しては中心静脈栄養について、PICCカテーテルの活用についても言及いただいたので、事務局としても検討してまいりたいと思う。

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■ 急性期入院医療について
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 われわれ日本慢性期医療協会は以前から、「急性期から降りてこられるポストアキュートの患者さんが非常に低栄養になって医原性とも言えるようなサルコペニアになっている」と主張してきた。それがようやくデータとして日の目を見た。非常にありがたい。
 各委員がおっしゃられたように、休日リハがないのは急性期にとってデメリットであり、ADL低下ということからも致命的であろうと思うので、やはり付けていただきたい。
 ADL維持向上等体制加算については、私の認識が誤っていなければ、これは疾患別リハが取れたときには加算できない。したがって、疾患別リハが取れれば、ADL維持向上等体制加算を取らなくてもいい。牧野委員もおっしゃったが、ADL維持と疾患別リハは意味が違う。疾患別リハは上げようという体制。それに対してADL維持向上等加算は維持する加算なので、相対するものではなく並列でいけるものであろうと私は思っている。
 そういう点で言うと、疾患別が取れているから、ADL維持向上等体制加算を取らなくて済むという理由にはならないような加算の付け方をすべきであっただろうと考えている。
 ADL維持向上等体制加算の施設基準には、「当該病棟の直近1年間の新規入院患者のうち、65歳以上の患者が8割以上、又は、循環器系、新生物、消化器系、運動器系若しくは呼吸器系の疾患の患者が6割以上」という要件がある。
 32ページ(ADL維持向上等体制加算の届け出ていない理由)を見ると、この要件を満たせないことを理由に挙げたのが、18.4%となっている。この疾患の要件の中に、なぜ脳血管が入っていないのかが疑問である。脳血管が入ってくると、18.4%からどのぐらい減るのだろうか。
 栄養に関しては、管理栄養士の確保が厳しい。薬剤師ほどではないが、非常に厳しい。国家試験の合格者数は年間1万人近いが、病院にいる管理栄養士の数は2万人程度。毎年、1万人の管理栄養士が生まれるのに、なかなか病院に来てくれない。給与や待遇などの面で病院が敬遠される。そのため、管理栄養士を専従要件などの項目に加えるのであれば、それに対する加算は、せめて管理栄養士1人当たりぐらいの加算にしていただかないと、なかなか雇えないと思う。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員から急性期でのADLの維持の重要性と、そして疾患別リハとの概念上の違いについて指摘をいただいた。そのほか、要件に関して見直しの必要性と、栄養士確保の難しさも指摘していただいた。これを踏まえ、事務局として検討してまいりたい。
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■ 回復期リハビリテーション病棟について
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 第三者機能評価が入ったとき、どういう意味をなすのかが全くわからず、なぜ回リハだけに入ってくるのかと思っていた。今回、示していただいたデータによって、第三者評価の意味するところは非常に大きなところを占めていることがわかった。FIMをどのように評価するかをしっかりと検証することなどが機能評価に含まれていることから、この項目が加わったのだろうと思う。
 現行の施設基準では「望ましい」となっているが、どのような必須項目にすべきか。私は、第三者評価そのものを必須項目とするのは不適切だと思う。FIMの適切な測定をするためという目的であるならば、82ページ(FIMの測定に関する取組)の下段にある「※1(院内研修会の定期的開催)」から「※6(マニュアル・ガイドラインの作成・共有)」の各項目だけを満たすような条件を付ければ済む。この部分だけ満たせれば、とりあえずFIMの整合性というか、適切なFIMということに関しては担保されるのではないか。第三者機能評価という大きなものを加えるのではなく、そういうことも考える必要があるのではないかと思っている。 
 89ページに「回復期リハビリテーション入院料1における入院栄養食事指導料の算定状況」が示されている。専任の管理栄養士の配置があるにもかかわらず、23.1%の病棟で算定患者がいないということは、まず普通で考えたらあり得ない。少なくとも私どもの病院では、このようなことはない。これはもう少し厳しめの対応が必要だと思う。
 98ページの退院前訪問指導、いわゆる家屋調査について当院では、患者さんがご自宅に帰られるときにADLが完全に機能復帰していれば実施しないが、入院前よりも退院時のほうがADLが低下されている場合には家屋調査をしっかり実施する。段差の解消や手すりの設置などの必要性を調べるべきだと思っており、当グループでは必ず実施している。
 98ページによると、回復期リハビリ病棟における自宅退院予定患者に対する退院前訪問指導実施割合は、全く実施していない施設が43.6%。私はこの数字を見たとき、本当かと疑った。この値が事実だとするならば、非常に問題であろう。もし家屋調査を推進するのであれば、それに対する診療報酬上の加算を付けるか、逆に減算することも必要だと思う。
 地域の貢献活動については、回リハ病棟で療法士の数が最も多く、動きやすいが、残念ながら、それに対する何らかのインセンティブなどがない。療法士が動きやすくなるような施策を望む。
 なお、嚥下機能の検査の状況について、94ページには「回復期リハビリテーション病棟において、嚥下機能の検査が行われていない病棟が55.8%存在する」と書かれている。55.8%と非常に割合が高くて、できるのにやっていないのがけしからんという記載に読める。しかし、93ページの疾患別の摂食嚥下の状態を見ると、嚥下調整食を必要とする患者は3割ぐらいしかいない。つまり、嚥下機能として客観的に見て、それほど問題ないだろうという人が非常に多いということになるので、55.8%というのは、そんなものかなという数字だろうとも考えられると思っている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員から、第三者評価に関して、そのものというよりも、必要なFIMを適切に実施するための評価という観点で見るべきではないかという意見をいただいた。栄養の今の現状は厳しく捉えるべきだというようなこと。 
 退院前訪問に関しては、実際、現場としてはほとんどされているものの、実施されていないのは問題になるのではないか、そういったところに減算、加算などの対応が必要なのではないかという意見をいただいた。
 地域貢献活動に関しては、それに対するインセンティブがないという意見をいただいた。
 嚥下機能の検査が実施できていない状況については、今、嚥下食が必要となっている患者の割合等も加味してデータを見るべきではないかというご指摘をいただいた。

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■ 慢性期入院医療について
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 医療区分について前回の分科会で私がお願いした分け方で資料を出していただき感謝を申し上げる。129ページ(医療区分3と疾患・状態と処置等の組合せ)を見ると、同じ医療区分3であっても、処置の区分1・2・3によって、倍以上、もしかしたら3倍近い医療資源の投入量の違いがあることがわかった。それらを医療区分3で1つにまとめてしまうと、率直に申し上げてペイできず、非常に取りにくくなってしまうので、それに対する増額であったり、不必要なところは減額したりということを考えて、さらに区分を少し細かくしなければいけないのかなと認識している。
 ただし、以前から申し上げているように、あまりに細かくし過ぎると、現場での影響が非常に大きいということもあるので、その点は考えていただきたい。
 また、細かくしないでほしいと言いながらも、今回の資料のパターンには出てこない医療区分の問題がある。例えば発熱や肺炎などを起こした場合に、酸素投与を1L/分だけやって抗生物質の投与をして頻回吸引を行っても医療区分は2から変わらない。医療区分2の処置をいくつも加えても出てくる数字としては同じになってしまう。実際には、処置がいくつ重なったらどのぐらい上がるのかという細かい設定まで本来はしていただきたいというのが本音である。
 さらに、TPNや気管切開などから、できるだけ離脱したいと私たちは考えているが、離脱をすると、その時点で医療区分が下がってしまう。かといって、医療区分が下がったその日にすぐ退院できるかというと、そういう話にはならない。結果的に医療区分が下がった状態で1カ月、2カ月いないといけない。そこに対するインセンティブは全くないので、そういう患者に対しては離脱後1カ月以内などといったかたちで医療区分を残していただくような配慮が必要ではないかと考えている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員から、今回、この処置に着目した分析に関してコメントをいただき、こうした評価がより適切になることによって取りにくい患者さんがいるということであれば、それは区分の見直しで解消されるのではないかというような指摘もいただいた。一方で、この評価に関して細かすぎると現場も困るという意見も引き続きいただいたので検討したい。
 また、追加的に検討が必要だということに関しては、医療区分2に当たる処置が重なったところの評価、あるいはTPNの離脱後の評価などに関して、改めて評価が必要なのではないかという意見をいただいた。こうしたデータを分析していくと見える化も進むので、どのようなところで、どのような評価が必要になってくるのか、今後またデータを取りながら検討が進められるのではないかと認識している。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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