生活習慣病管理料が普及していない ── 中医協分科会で井川副会長

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入院外来分科会令和5年度第4回_2023年7月20日

 外来医療に関する調査結果などを踏まえて意見を交わした厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は「生活習慣病管理料が普及していない」と指摘した上で、「特定疾患療養管理料の見直しが必要ではないか」と提案した。

 厚労省は7月20日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」の令和5年度第4回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の分科会に、オンライン診療や外来医療、入退院支援などに関する170ページの資料を提示。4つのテーマについて論点を挙げ、委員の意見を聴いた。

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不眠症のオンライン診療、「歪んだ使い方」

 1つ目のテーマであるオンライン診療について、論点では「患者と医療機関の所在の関係」や「初診のオンライン診療に適した症状等の取扱い」「D to P with N等の活用」などを挙げた。

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 課題では、「対面診療の割合が5割未満の医療機関における傷病名としては初診ではCOVID-19、再診料・外来診療料では不眠症が最多であった」「患者が看護師等といる場合のオンライン診療(D to P with N)がへき地や在宅の場面で活用されてきている」などを挙げた。

 質疑では、不眠症のオンライン診療について「一部の医療機関で歪んだ使い方をされている」として集団指導を求める意見のほか、「D to P with N」の活用を進めるべきとの意見が多く出た。

 井川副会長は「オンライン診療の普及が進んでいない」とし、原因分析を踏まえた対応を求めた。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 情報通信機器を用いた診療について
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 資料26ページ(情報通信機器を用いた初診料等の届出医療機関数)によれば、情報通信機器を用いた初診料等の届出医療機関数は経時的に増加しており、令和5年4月1日時点において約7,500医療機関となっている。30ページ(情報通信機器を用いた診療の実施状況)を見ると、148医療機関のうち117医療機関は0件で全く届けていないという実態がある。しかも、695件を1つの医療機関で届け出ているために平均値は5.7になっている。実際にオンライン診療そのものの数が少ないのかということになると、今回の患者調査やオンライン調査で出てくる数字というのが問題になる。
 33ページ(オンライン診療を受けた患者の状況等)では、nが71である。これは回答数が71であろうと思うが、回答しなかった分を差し引いたとしても、1,400件近く配布されて71件。オンラインにいたっては確か2,000件ぐらい配布されたと思うが、70件ぐらいしか返答がないとすると、オンライン診療の普及はまだ全く少ないと判断せざるを得ない。 
 オンライン診療を受けられている患者に「どういうところが良かったですか」という設問よりも、0件のところの先生方に「なぜ進まないのか」ということを具体的に聞かないと、オンライン診療が進むのはなかなか難しいのではないか。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員からは今回、届出数が増えているものの特定疾患療養管理料など管理料の算定等が伸びていないことや、全体を通じて各医療機関における算定の回数自体はまだまだ多くないというようなことで普及が必要なのではないかという指摘をいただいた。
 なぜ取り組まないのかというようなことで、今回は資料があまりにも大部なので少し割愛させていただいたが、医療機関の中では対面診療のほうが優れているからということで、オンライン診療をされていない医療機関がほとんどだと思っている。
 そのような認識の中で、どのような場面で、こういったオンライン診療が活用し得るのかについては、こうした実績を積み重ねながら、しっかり分析して、有効な活用の仕方を普及することが必要なのではないかと事務局としても認識している。医政局の総務課で基本方針が定められ、どのような形でオンライン診療を普及するのかについて少しずつ政策としても検討してきたところなので、さまざまな指摘を踏まえて関係部局と連携して検討したい。

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かかりつけ医機能の評価を「体系的に整理」

 2つ目のテーマである「外来医療について(その1)」では、6月21日の中医協総会で出された意見が紹介された。生活習慣病対策については、特定疾患療養管理料と生活習慣病管理料の関係を指摘した支払側委員の発言が示された。

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 その日の総会で松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「特定疾患療養管理料と生活習慣病管理料の対象となっている患者像を十分に分析した上で議論を深めていく必要がある」とした上で、「既存のかかりつけ医機能の評価について体系的に整理すべき」と主張している。

 こうした意見を踏まえ厚労省は今回の分科会に、生活習慣病の患者に算定されている診療報酬を提示。高血圧患者の算定状況によると、生活習慣病管理料(棒グラフ右端)が最も少なかった一方で、特定疾患療養管理料(黄色の棒グラフ)は多く算定されていた。糖尿病、脂質異常症も同様の結果だった。

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特定疾患療養管理料の見直しを

 生活習慣病管理料の算定をめぐっては、「療養計画書を作成し、説明の上計画書に署名を受けること」や、「自己負担額について患者の理解が得にくいこと」が算定上のハードルとなっている。

 一方、特定疾患療養管理料の全算定件数に占める主傷病名の割合は高血圧症が57.7%、脂質異常症は23.9%、糖尿病は16.2%となっている。

 質疑で井川副会長は「特定疾患療養管理料に糖尿病や高血圧なども入っている」とし、特定疾患療養管理料の見直しを求めた。

■ 外来医療について
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 生活習慣病管理料は非常に良い管理料なので、もっと普及するものかと思っていたが実際にはほとんど普及していない。高血圧、糖尿病、脂質異常症について資料によれば、生活習慣病管理料の算定が特定疾患療養管理料に比して非常に少ない。
 生活習慣病管理料の位置づけについて、76ページにイメージ図が示されている。ここで特定疾患療養管理料がどこに位置付けられるのか。特定疾患療養管理料は82ページ(かかりつけ医機能に係る評価等の対象患)にあるように、あらゆる病名が入っている。糖尿病や高血圧なども入っている。特定疾患療養管理料は225点を月2回算定すれば500点近く取れてしまう。一方、生活習慣病管理料では療養計画書の作成や署名、自己負担額の増加など患者さんのデメリットがある。それを考えると、なかなか生活習慣病管理料に移行できないこともあろう。そのため、特定疾患療養管理料そのものの見直しというものが逆に必要なのではないかと思っている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員から生活習慣病管理料と特定疾患療養管理料について、現状について所感をいただいた。76ページ(生活習慣病の管理を中心とした評価のイメージ)にも触れていただいた。ご指摘のとおり、この特定疾患療養管理料に関しては生活習慣病以外のものも多く含まれているので、なかなか、ここ(76ページ)に入れ込むのは難しいかと思っていたが、さまざまな指摘をいただいたので、それも踏まえて今後検討したい。

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転院までの期間が重要な要素

 4つ目のテーマ「横断的事項等(その2)」では、入退院支援の課題と論点が示された。

 課題では、回復期リハビリ病棟を有する医療機関の特徴などを挙げた上で、「退院後も必要な療養が受けられ住み慣れた地域で継続して生活できるようにするための入退院支援について、どのように考えるか」との論点を示した。

 井川副会長は、急性期病院から回復期や慢性期病院に早期に移す必要性などを指摘。「急性期から転院するまでの期間が0日ならば、すぐにリハビリを始められるが、その評価がない」とし、「転院までの期間が非常に重要な要素」との認識を示した。

■ 横断的事項(入退院支援)について
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 入退院支援加算は退院できない患者さんが多くおられる地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟、特に療養病棟では非常に重要な加算だろう。149ページ(入退院支援加算1・2の届出状況)を見ると、やや低めであるのが非常に残念なところではある。
 転院までの日数が短ければいいのだが、そのデータはあるだろうか。急性期病院から転院されるときに、どれだけ早く受け入れるかが、ドレナージをするという意味で言えば、非常に大きな項目だろうと思っている。急性期の平均在院日数が何日かというデータはあるがその部分のデータはあまり出てこない。
 どこで期間を短縮できるか。基本的には急性期病院におられる間の急性期治療というのは、目一杯、治療を短縮していただくのは大事なのだが、その後、どれだけ早く転院していただいて次の治療を開始するかが非常に重要だ。急性期治療終了後転院するまでの期間について、例えば極端な例だが、0日で転院していただけるのならば、すぐにリハビリを始められる。しかし、その場合の評価がない。
 救急外来に来られて、それが0日で終わる。高齢者救急で軽症であれば帰れる。しかし、前回も申し上げたように帰れない患者がいる。その患者の転院期間を0にして、ドレナージできれば急性期病院に入院されることはないが、その場合の評価はゼロというのが現状である。
 転院までの期間は非常に重要であるので、その調査をしていただきたい。入退院支援加算とは直接の関わりはないかもしれないが、非常に重要な要素ではないか。
 今回、入退院支援加算の対象者における「退院困難な要因」の中に地ケアと回リハが出てきている。普通はあまりこれを書かないだろうと思って見ていた答えの中に悪性腫瘍、認知症、または誤嚥性肺炎等の急性呼吸器感染症であったから退院できないと判断した。もしくは緊急入院であったから退院できないと判断したというものがある。そういうのはあまりないと思っていたら、151ページ(退院困難な要因)を見ると、急性期一般入院料を取っているところは「廃用になるね」と思うよりも先に「緊急入院だから駄目だ、帰れないんだ」と思われた方のほうが多い。もっとひどいのは、回復期リハビリテーション病棟の中に緊急入院というのが入ってくる。回復期リハビリ病棟の緊急入院はあまりないと思うのだが、それが12.1%もあるということに関して、何か教えていただけることはあるか。
 回復期リハビリ病棟は、急性期病院から直接ご自宅に帰れるだけのADLを回復できなかった患者を受ける病棟である。90日や180日までの間でリハビリをして在宅にお返する病棟ということになるのだが、回リハ病名の無いそれ以外の方の中間的なところは地域包括ケア病棟に入っていただいていると考えると一番わかりやすい。そうすると、それぞれの入退院支援というのは、できることが限られる。そのため、急性期病院のみで帰る人、回復期リハビリ病棟を経由して在宅に帰られる方、中間に存在する地域包括ケア病棟を経由して在宅に帰られる方がいて、それから、はみ出た人が療養病棟に移る。しかし、療養病棟でも入退院支援加算を残念ながら4割程度しか取っていないが、これをとっている機関は何とかして帰そうと考えている。そういうところに対する評価は、もう少しいただければいいかなと思っている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員から、転院になるまでの急性期におけるデータの分析が必要なのではないかという指摘をいただいた。どのような分析ができるか、事務局として検討してまいりたい。 
 また、回リハの緊急入院はほとんどないのではないかということだが、ケアミックスで急性期病床を持っているようなところに関しては、最初の入院が緊急入院だった可能性もあるので、そういったデータを拾っているのではないかと受け止めている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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