人材不足、「崖っぷちに来ている」 ── 改定の視点をめぐる議論で田中常任理事

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20231011_介護給付費分科会

 「令和6年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「人材不足について魅力ある職場づくりだけでは改善し難い崖っぷちに来ている」との認識を示した上で、「現状を共有するような文言を追記してはどうか」と提案した。

 厚労省は10月11日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第227回会合を開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 次期改定に向け、厚労省は同日の分科会に「基本的な視点(案)」として4項目を提示。①地域包括ケアシステムの深化・推進、②自立支援・重度化防止に向けた対応、③良質な介護サービスの確保に向けた働きやすい職場づくり、④制度の安定性・持続可能性の確保を挙げ、委員の意見を聴いた。
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01スライド_基本的な視点案

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「処遇改善につながる職場環境」という書きぶり

 第3の視点「働きやすい職場づくり」について、小林司委員(連合総合政策推進局生活福祉局局長)は「全ての介護労働者が賃上げに取り残されることのないように更なる処遇改善が不可欠と表明すべき」とし、「原案では処遇改善につながる職場環境の改善という読み方もできそうな書きぶりになっている」と苦言を呈した。

 第3の視点では、「生産性の向上」を挙げた上で「職場環境の改善に向けた先進的な取組を推進していくことが必要」とし、「介護ロボット・ICT等のテクノロジー」などを挙げている。
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02スライド_P4抜粋

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人材流出が危機的な状況、「大幅な処遇改善を」

 及川ゆりこ委員(日本介護福祉士会会長)は「介護分野からの人材流出が危機的な状況であり、このままでは介護現場が崩壊し、国民の不安は大きくなってしまう」と懸念した。

 その上で、「人材流出を防ぐためには、これまで以上に介護の魅力、やりがいを発信し、処遇の改善が必要」と強調し、「今回の改正において大幅な処遇改善がなされるよう希望する」と訴えた。

 田中常任理事も「喫緊の課題」と危機感を表し、「他業種からの流入を目指せるような需要の増えていく産業であることを国民に理解いただき、現状を共有するような文言を追記してはどうか」と提案した。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 人材不足については、魅力ある職場づくりだけでは改善し難い崖っぷちに来ていると思っている。これまでの議論にもあったように、本当に喫緊の課題である。医療と介護は利用者や家族にとって大変重要な仕事であると同時に、1産業としても大変ボリュームのある産業である。そうしたことを広く国民の方に理解をしていただくことが重要だと思う。他業種への流出を心配するだけではなく、他業種からの流入を目指せるような、高齢化に伴っての需要の増えていく産業である。こうしたことをもっともっと国民の方々にご理解をいただき、現状を共有するような文言を追記してはどうかと提案する。

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利用者にとってのわかりやすさが一番大切

 この日の会合では、介護報酬改定の施行時期も議題に挙がった。診療報酬改定の施行時期が6月1日に後ろ倒しになる方針を踏まえ、介護報酬改定も同様に6月1日とする意見があった一方、「4月の介護保険事業計画等の策定と同時に行うことが望ましい」などの意見もあった。
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03スライド_P5【資料3】介護報酬改定の施行時期について_ページ_05

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 報酬改定に伴う負担等について、厚労省は「介護報酬改定と診療報酬改定の比較」を提示。委員から「医療と比べて介護についてはベンダーの負担がそれほど多くない」との声もあったが、「介護保険サービスの利用者の多くが医療機関の外来受診や訪問診療などの医療サービスも利用している。時期のずれによる混乱を避けるため、同時期の6月とするのが適切」との意見もあった。

 田中常任理事は「利用者にとってのわかりやすさが一番大切」とし、6月改定を支持した。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 私は日本慢性期医療協会を代表して参加させていただいている。医療と介護の双方を担っている立場から意見を申し上げたい。
 医療のDXに関して、ベンダーの負担、また現場の負担という点では、現場を揺るがす大変な改定であった。3月に告示されてから、現場ではいかに報酬改定に合わせていくかということで、非常に短い期間で準備をしなければいけないのが毎回の改定である。当然、ベンダーも改修作業に追われ、現場の混乱は皆さんの想像を絶するだろう。
 9ページ(現状と課題)にも示されているように、医療と介護の給付の調整をはじめ、支払いが何度も変わることは高齢者にとって負担であり、それに対して現場は説明責任を果たさなければいけない。利用者にとってのわかりやすさということが一番大切だと考える。
 もちろん自治体の方々の大変さも重々理解しているが、何よりもまず、ご利用者の方々のことを考え、いろいろな請求が変わるのが一度で済むような対応をするのが私たちの役割なのではないかと申し上げたい。

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施設側の努力だけでは解消し得ない

 このほか、同日の分科会では令和3年度改定の効果などを調べた結果の速報値が報告された。LIFEの活用状況や認知症グループホームの夜勤など6項目の結果について各委員が意見を述べた。
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04スライド_調査項目

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 資料は、調査項目(1)~(6)に対応して「1-1」~「1-6」となっている。田中常任理事)は(2)(4)(5)(6)の調査結果について意見を述べた。

 このうち(2)の「介護老人保健施設及び介護医療院におけるサービスの提供実態等に関する調査」については、口腔衛生管理や栄養マネジメントの結果に言及。「施設側の努力だけでは解消し得ない」と指摘し、今後の対応を求めた。

 調査によると、口腔内のスクリーニングを実施していない理由について老健では「人員が不足」が最も多く、介護医療院でも2番目に多かった。
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05スライド_P14抜粋(口腔内のスクリーニングを実施していない理由)

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 また、栄養マネジメント強化加算を算定していない理由については、老健・介護医療院ともに「管理栄養士を増員しても採算が合わないため」が最も多かった。
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06スライド_P15抜粋(栄養マネジメント強化加算を算定していない理由)

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 田中常任理事は、リハ・口腔・栄養の一体的な取り組みに期待を込め、「今後はみんなで一緒に解決すべき問題」と述べた。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

■ 老健・介護医療院に関する調査について
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 入所者の急変時における主たる協力病院の入院受入について、図表17(受入をしてもらえない理由)によれば、「認知症の高齢者等の対応が難しいため」との理由が介護医療院で8.9%であったのに対し、老健では19.9%だった。老健は介護医療院と比較して歩行ができる認知症の方が多い。そのため、認知症があるために受け入れてくれる病院が少ないという非常に問題が残っているデータであると思う。
 また、リハ・口腔・栄養の一体的な取り組みに力点を置いてはいるものの、図表45(口腔内のスクリーニングを実施していない理由)、51(栄養マネジメント強化加算を算定していない具体的な理由)にあるように、口腔ケアをする人員が不足したり、管理栄養士が足りない、採算が合わないといった理由が挙げられている。これらは施設側の努力だけでは解消し得ないものであるので、今後はみんなで一緒に解決すべき問題だと考えている。

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■ LIFEの活用状況等に関する調査について
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 入力に手間がかかるという回答が多いが、私が考えるに問題は入力だけでない。届いたフィードバックについて、利用者の評価を見るには項目をいちいち選別し、手動で該当区分を選択し、フィードバックの確認をしなければならないという大変な労力を要するものになっている。これに関しては早急な変更が必要と考えている。
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■ 認知症グループホームの夜勤体制等に関する調査について
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 n数が大変少ないことから、今後は更なる検討が必要だ。とはいえ、交代勤務要員が不足していることが現場の最大の悩みでもあり、今後のICTの利用により人的労力をいかに軽減し、業務改善できるかは引き続き慎重に話し合う必要がある。
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■ 認知症介護基礎研修受講義務付けに関する調査について
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 資料にあるように、費用をほとんど施設側が負担している。必須研修としていながら認知症の研修を有料とするのは施設側の負担も相当なものであることについて、ご理解をいただきたいと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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