入院・外来医療の「中間とりまとめ案」で見解 ── 中医協分科会で井川副会長

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入院外来分科会_20230914

 入院・外来医療に関する「中間とりまとめ案」が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は「ポジティブな意見もネガティブな意見もきちんと反映されている」と評価した上で、地域包括ケア病棟入院料や療養病棟入院基本料のほか、横断的事項(身体拘束を予防、最小化する取組)などについて見解を示した。

 厚労省は9月14日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和5年度第7回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。

 令和6年度の診療報酬改定に向け、厚労省は同日の分科会にこれまでの検討状況を踏まえた「中間とりまとめ案」を提示。厚労省の担当者が約45分間にわたり丁寧に説明した上で質疑に移り、全10項目を3つのパートに分けて委員の意見を聴いた。
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「中間とりまとめ案」の目次_20230914

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 井川副会長はこの中で、4・5・6・10について見解を示した。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料について
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 今回の「中間とりまとめ案」には、ポジティブな意見もネガティブな意見もきちんと反映されており感謝している。まず地域包括ケア病棟入院料に関して意見を述べる。
 私がこれまで繰り返し指摘してきたように、いわゆる緊急入院の際に、在宅から直接、救急車を介さずに入院する患者さんを受け入れるのが地域包括ケア病棟の重要な役目である。この役目を果たしている病院は評価されるべきだと考えている。この点がきちんと記されていることには感謝している。
 14ページにこのような記載がある。「地域包括ケア病棟に入棟している患者のうち、救急搬送により入院した患者は 19.5%、緊急入院(外来の初再診後)の患者は 34.9%、救急搬送後、他の病棟を経由せずに地域包括ケア病棟に直接入棟した患者は 5.7%であった」。ここで緊急入院が34.9%と記載されている。これまで一切触れられていなかったため、この記載は非常に喜ばしい。
 また、この記載の2つ下に「救急搬送後、他の病棟を経由せずに地域包括ケア病棟に直接入棟した患者の特徴」が記述されている。この「特徴」という点に関しては、緊急入院の患者にも見受けられるため追記を希望する。
 そして、14ページの最下部の横バーの上から2つ目の箇所に「入棟経路別の医療資源投入量」に関する記述がある。ここでは、「入棟経路別の医療資源投入量等においては、緊急搬送後、直接入棟の患者は、包括範囲の医療資源投入量が多い傾向が見られた」と記載されているが、「緊急搬送後、直接入棟」との記載は誤りではないか。正しくは「救急搬送後、直接入棟」であると思われるので訂正を求める。
 さらに、「包括範囲の医療資源投入量が多い傾向が見られた」との記載について、グラフで3段に分かれている包括部分の間にあったのが緊急入院患者の医療資源投入量であるので、「次いで、緊急入院患者の医療資源投入量が多かった」と追記していただければ幸いである。
 次に、15ページの下から3段目。「救急搬送後直接入棟の患者ではリハビリテーションの実施頻度が低いが、直接入院だとリハビリテーションがすぐには開始できないことも多くやむを得ないのではないか、との指摘があった」との記載がある。
 すなわち、直接入院の場合にはリハビリテーションの実施が難しいと結論付けられたような書きぶりになっている。しかし、現実には急性期を問わず早期のリハビリテーションが推奨されるケースが多く、その点が実情として反映されているのは事実である。そこで、早期に行うべきであるという視点での記載を加えるべきだと考えている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 緊急入院の表現ぶりについて細かくご指摘いただいたので、反映すべきところに関しては反映したい。
 緊急入院におけるリハビリテーションについて早期に実施すべきであることに関しては、ごもっともであり、事務局としても非常に重要なことだと思っているので、この表現ぶりについては工夫したい。

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■ 回復期リハビリテーション病棟入院料について
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 16ページの「5-1」の上から5番目の箇所。「1日あたり提供リハビリテーション単位数について、脳血管疾患リハビリテーションが運動器リハビリテーション、廃用症候群リハビリテーションと比較して1日あたり6単位以上提供されている割合が高かった」との記載がある。
 しかし、これは全国平均の数字であり、支払基金による査定のバイアスが考慮されていない。廃用症候群や運動器のリハビリは脳血管リハビリと同様ではない。この点を踏まえると、単位数が下がっている要因として、そうした査定のバイアスが関係していると認識してもらえるような記述が望ましい。ただし、この部分の表現は非常に難しいかもしれない。
 次に、「5-2」(質の高い回復期リハビリテーション医療の提供)について。17ページ、上から4番目の箇所。「回復期リハビリテーション病棟における身体的拘束の実施について、以下の特徴があった」とした上で、「身体的拘束を実施している患者は、主傷病が脳梗塞や心原性脳塞栓症である者が多い」としている。
 身体拘束を受けている患者の中には、主病名が脳梗塞や心原性脳梗塞である方が多く、これは認知症の有無を判断できないような高次脳機能障害が増えているからであると、現場の観点からは理解できる。高次脳機能障害の患者は、早期にリハビリテーションを開始したいという意向があり、回復期リハビリテーションへの移行も速やかに進めたいと考えている。しかしながら、その回復が十分でない場合には予期せぬ行動が起こり得る。
 このような状況を踏まえると、身体拘束が多めに行われる現状には一定の納得が得られる。もちろん、身体拘束は避けるべきであるという立場は理解しているが、現状を鑑みると、ある程度納得できる内容と言える。
 そこで、このような記述がある。「看護師のケアのみでなく、薬剤の使用や環境整備について病院全体で工夫を行っていく必要があるとの指摘があった」。この記載については全面的に賛成したい。
 次に、18ページの上から3番目。「回復期リハビリテーション病棟は自宅等への復帰を目指すことを目的としており、現在の回復期リハビリテーション病棟の地域貢献活動への参加を促すべきである」との記載がある。その上で、「現在の取組状況は回復期リハビリテーション病棟1で 61%と高いとは言えず、向上を目指すべきとの指摘があった」としている。
 確かに、61%は高いとは言えないが、ただ単に何のインセンティブもないまま「回リハ病棟だから地域貢献活動をしなさい」と言われても、なかなか難しい。何らかのインセンティブが必要であるという意見があると追記していただければ嬉しい。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 脳血管リハの単位数が高いという表現ぶりについて、特に運動器に関しては地域差がある査定の状況に大きく影響を受けているのではないかという指摘をいただいた。われわれもそういう状況があるということは耳にしているが、実態として把握しきれていない部分もあるので、どのような書きぶりの工夫ができるのか、持ち帰らせていただきたい。
 個別の査定状況の是正に関しては、査定している支払基金との関係性上、われわれとしては、機能として所掌しているものに関して、そこは異なる部分であるので、越権行為にならないよう配慮しなければいけない部分もある。今回、われわれはしっかりデータを分析させていただいて、このようなデータがマスで出ているということは適切な評価につながることだと思っている。どれぐらい大量のリハが行われると、どれぐらいのFIM利得があるのか。これをしっかりと示していくことが重要だと思っているので、そのような観点から今回の資料をまとめた。より精緻な分析ができるよう、データ提出加算に関して今回も入棟・退棟のみならずデータを出していただくことについて提案した。そのような背景に関して理解させていただいた上で、記載ぶりについて少し工夫ができないか検討したい。
高次脳機能障害の患者の入院早期において、拘束が必要な状態があるというご発言をいただいたが、そういうような状況においても、どのような工夫ができるのかは非常に重要なことで、やむを得ない拘束があるのではないかということは、これまでも繰り返しいただいたところである。その上で、なお、どのようなかたちで最小化していくのかという前向きなご議論をいただいた。できるだけ、そのようなかたちでまとめさせていただきたいと思っている。
 地域貢献活動に関してインセンティブが必要なのではないかというご指摘をいただいた。少し記載ぶりを検討させていただきたい。

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■ 療養病棟入院基本料について
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 今回、療養病床に関して医療区分の見直しという一大事業がなされる結果となった。これまで示されたグラフからも明らかに、医療区分3の中でも医療資源の投入量には大きな差が見受けられる。処置と疾患ともに、医療区分3に属する患者の医療資源投入量は、平均と比較しても非常に高く、3倍近い違いがあることが確認できるので、この部分に関する見直しは必要だろうと思う。
 ただ、内容に関していうと、私はいつも申し上げているが、現場の負担という点で言えば、中身を変えられると非常にさらに負担が増えるということもあるので、医療区分をある程度、変更するのはやむを得ないとしても、中身は、今ある項目に関しては、できるだけいじらないということが必要かなと思っている。
 次に、「6-2」で療養病棟入院基本料における中心静脈栄養について21ページ。「静脈経腸栄養ガイドラインでは、経腸栄養が禁忌で、静脈栄養の適応とされるのは、汎発性腹膜炎、腸閉塞、難治性嘔吐、麻痺性イレウス、難治性下痢、活動性の消化管出血に限定されるとあるが、経腸栄養が禁忌で、静脈栄養の適応となる疾患はこれ以外にもあるのではないか、との指摘があった」と書かれている。
 これについて、「禁忌」というのはちょっと言い過ぎではないか。それよりは、「適応」の条件を多少緩やかにするほうが適切であると考える。具体的には、経腸栄養が進行しにくい状況が存在する。例を挙げると、低タンパク患者で腸管浮腫等が引き起こされ、消化吸収機能が低下しているケースなどがある。また、長期間の絶食後では、上皮が退化し、経腸栄養からの栄養吸収が劣っている状況も想定される。いったんTPNで栄養状態を安定させたほうがいいという観点から考えても、「禁忌」という表現はやや書き過ぎではないかという気がしている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 医療区分について精緻化すること自体はご賛同いただいたとともに、項目について変更は不要ではないかというご指摘をいただいた。
 中心静脈栄養に関しては、経腸栄養の禁忌以外の部分の病態もあるのではないかということで、おそらくこういったガイドラインでも記載されているが、この禁忌であるものと、それ以外のもので、やはり適応においては少し段階があるのではないかということに関しては、これまでも議論いただいたところなので、そういった状況も踏まえた評価ということは今回も取りまとめの中で記載させていただいた。ご指摘も踏まえて検討を進めていきたい。

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■ 横断的個別事項について
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 「横断的個別事項」のうち「10-1」の項目。身体拘束を予防、最小化する取組について述べる。身体拘束は、極端な言い方をするならば「絶対悪」であり、実施しないほうがよいと皆さんも考えておられると思う。身体拘束をどれだけ減らすように努めるかが非常に重要であり、そのために診療報酬でどのように評価していくかが重要となる。
 身体的拘束ゼロに向けて、「病院全体として理念を掲げ、身体的拘束ゼロに向けた方針を明確にしていく」との記載や、「多職種からなる職員全体で、組織一丸となった取組が評価されるべき」という考え方は非常に重要な意味を持つ。そこで、どのような評価基準を設けるべきか。
 例えば、拘束予防の研修会は実際にはほとんど開催されていない。そのため、こうした研修会について、例えば参加要件などを必須項目にするという方法で進めていくのも1つの有効な手段となり得るのではないかと考える。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 研修会等で、どう実効性をもたせていくのか、必須項目にすべきという提案もいただいたので、この点も含めて、今後また引き続き検討していきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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