医療区分、「細分化すると非常に苦しい」 ── 中医協分科会で井川副会長

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2023年8月10日(木)の入院外来分科会

 令和6年度の診療報酬改定に向けて、入院医療に関するデータを踏まえて議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎は地域包括ケア病棟と慢性期入院医療について見解を示した。療養病棟入院基本料の医療区分については、「細分化すると医療療養病棟を有する医療機関では非常に苦しい」と指摘した。

 厚労省は8月10日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和5年度第5回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の分科会に188ページの資料を提示。この中で、①急性期、②高度急性期、③地域包括ケア病棟、④慢性期──について論点を挙げ、委員の意見を聴いた。

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議事次第

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 井川副会長はこのうち③と④について意見を述べた。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 地域包括ケア病棟について
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 前々回の分科会で私がお願いした緊急入院に関する資料をお示しいただき感謝申し上げる。非常に丁寧に分析していただいた。
 資料106ページ(地域包括ケア病棟に入棟した患者の入棟経路)によれば、地域包括ケア病棟に入棟している患者のうち、救急搬送により入院した患者は19.5%、救急搬送後、他の病棟を経由せずに地域包括ケア病棟に直接入棟した患者は5.7%であった。
 すなわち、地域包括ケア病棟に入棟する救急患者というのは、実は地域包括ケア病棟に直接入るのではなく、ほとんどの場合は一般入院料の病棟に入ってしまう。一方外来から直接地ケア病棟に入棟する緊急入院が34.9%ある。全体の約3分の1が在宅系からの緊急入院して入棟している。その患者さんたちの病態がどうなのかを知りたいと考え、今回、検討していただいた。 
 111ページでは、地域包括ケア病棟に入棟した患者の傷病名が入棟経路ごとに示されている。緊急入院患者と救急搬送直接入棟患者はほぼ同じ分布である。これはDPCデータから得られた120ページの結果でも同等である。特に、DPCデータの解析では、上位5位までの病名が全く同じで、全体の20%余りを占めているという状態である。しかも、その状態は120ページ(地域包括ケア病棟、DPCデータ解析)の左の欄にある「算定患者全て」と比較してみると、やはり少し違うという感じがしている。
 113ページ(地域包括ケア病棟に入棟した患者の要介護度)では、救急搬送後の直接入棟と緊急入院の要介護度は同等に高く、116ページ(地域包括ケア病棟に入棟した患者の医療の必要性)、117ページ(地域包括ケア病棟に入棟した患者の医師による診察の頻度・必要性)も同等と言っていいと思われる。
 119ページ(地域包括ケア病棟に入棟した患者のリハビリ実施状況)によれば、緊急入院患者は、救急搬送後、他の病棟を経由せずに地域包括ケア病棟に直接入棟した患者は、ともにリハビリ実施単位数が低いことは残念ですが、これは、重症であったためにリハビリがすぐに介入できなかったとも言えるわけであり、そういう意味で言えば、重症度のレベルがあまり変わらないということの表れとも考えられる。
 これが121ページにつながっているのではないか。121ページによれば、地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料を算定している患者の入棟経路別の医療資源投入量等において緊急搬送、救急搬送直接入棟の患者は包括範囲の医療資源投入量が多い傾向がある。
 123ページでは、救急搬送後直接入棟の患者割合の多寡からみた1日あたり医療資源投入量が示されている。救急搬送後直接入棟の患者の割合が15%以上である地域包括ケア病棟は、割合が5%未満である地域包括ケア病棟と比較して、包括範囲の1日あたり医療資源投入量が多い傾向にあった。
 すなわち、直接入棟が多い医療機関については、報酬上の何らかのインセンティブが必要であろうと判断されるわけだが、同様のグラフを緊急入院でも作成していただくことをできればお願いしたい。もし結果が同様であれば、同じく緊急入院に関しても同様のインセンティブが必要となるのではないかと考える。
 次に、短期滞在手術等基本料について述べる。地域包括ケア病棟の入棟患者のうち短期滞在手術等基本料3を算定する患者の割合など、130ページ以降のデータは、いわば当然といえば当然である。自宅から入院して手術して早急に帰っていただくのが特徴であるので、結果的にはほとんど当然である。このデータは短期滞在手術等基本料を算定できる「非DPC病院」に限られている。であるならば、DPC病院で出来高判定をしたような、同じような疾患であっても同じ手術であっても、出来高算定でDPCをやっている場合もなきにしもあらずということであるが、そういうものに関しての比較というのはできるのか、お伺いしたい。
 短期滞在手術等基本料の患者を地域包括ケア病棟に入棟させる非常に大きなメリットは今、申し上げたとおりであるが、「短期滞在」と言っても、やはり手術であるから、その日、入院させれば夜は看護師が多いところで受け入れたい。看護師が1人しかいない病棟ではみたくない。例えば、地域包括ケア病棟があっても、一般病棟を持っていないような施設であれば、手術後はやはり地域包括ケア病棟に入院されているのかなと思っている。
 そうすると、そういうところと一般病棟を持っているところの地域包括ケア病棟で短期滞在手術等基本料を取っている施設での意識の差は少し違うのではないかという気がしている。一般急性期を持つ医療機関と、持たない医療機関に分けて同様に検討できないか。手術数の検討などはできないだろうか。
 最後に、地域包括ケア病棟に関する今回の資料では示されていないが、高齢者救急の問題にも関係するので、救急搬送について意見を申し上げる。
 東京都では、墨田区や八王子市などをはじめ、6区2市において医師会事業として病院救急車を活用した取り組みが開始されている。八王子市を例に挙げると、最近8年間で3,601件の患者を病院救急車で搬送し、自宅から病院に搬送したのが1,007件である。高齢者施設から病院に搬送した患者は97件だった。搬送先の医療機関は地域包括ケア病棟を含む慢性期、精神病院が53%を占め、年々、病院救急車から慢性期病院への搬送例が増加し、2021年の年間搬送件数は病院救急車が377件。一方、消防救急車が147件と逆転している。
 つまり、高齢者救急が逼迫する中で、病院救急車をどのように運用していくかという問題につながる。 残念ながら、地域包括ケア病棟を有する病院に、病院の救急車で入棟しても救急入院にはならない。
 また、実際のデータとしてもなかなか把握できないということがあるので、これをどのようにして今後、把握していくかは、高齢者救急を見る上で非常に重要な視点であろうと思っている。これは意見である。
 追加でもう一点、地域包括ケア病棟の短期滞在手術について質問する。130ページによれば、地域包括ケア病棟の入棟患者のうち短期滞在手術等基本料3のみを算定する患者の割合は、多くの病棟、病室で0%であったが、10%以上あった施設が158施設(9.5%)はであった。この中で、入棟患者の内短期滞在手術等基本料3のみを算定する患者の割合が50%以上というところが10施設ある。半分以上が短期滞在手術ということは、地域包括ケア病棟の運用の仕方から何か大きく外れているような気がする。50%以上の詳細はおわかりになるだろうか。例えば、もっと高い率で、実は何かそれ専用の病棟みたいなものを地域包括ケア病棟として使っているなど、そういうことがわかればお教えいただきたい。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員から、救急搬送された場合と緊急入院した場合では、あまり差がなかったのではないかというご指摘をいただいた。その上で、緊急入院、救急搬送についての評価の在り方についてご指摘いただいたと思っている。
 短期滞在手術に関しては、DPC病棟における分析についてご指摘をいただいた。短期滞在手術に関しては、基本的にはDPCの中で見られるものと認識しているが、ご指摘を踏まえて、どのような検討ができるか、事務局で検討してまいりたい。短期滞在手術の50%以上の所については、地域包括ケア病棟以外にどういった病棟を持っているかの分析は難しい部分もあるが、この50%の所が皆さん気になるところだと思う。どのような患者さんがいて、どのような特徴があるのか、できる範囲で検討して改めて示したい。
 また、高齢者の急性期に関して自院の救急車を使っていることをご指摘いただいた。確かに、われわれは消防救急以外の自院の救急車についてのデータは十分に把握できていない部分もあるので、これからさまざまなデータを分析するにあたって把握できるか、また検討したい。

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■ 慢性期入院医療について
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 医療区分に関して、データ提出加算のデータから非常に膨大な資料を示していただき感謝を申し上げる。152ページから154ページの医療資源投入量の分布を見ると、医療区分1から3にかけてピークが次第に右にシフトしており、医療区分1よりも2・3のほうがコストはかかっている。また、155ページ(医療区分毎の医療資源投入量の内訳)によれば、医療区分1よりも2のほうが「処置」が増加しており、医療区分3では注射が1・2よりも多い。いわば、「今の医療区分って案外悪くないね」という結果になっているとは思う。 
 しかし153ページ(医療区分2に係る医療資源投入量)を見ると、左端の棒グラフのようにコストがほとんどかかっていないものが結構ある。また、159ページ、161ページの医療区分2・3では、疾患・状態としてのコストと、それから処置としてのコストが並列で示されているが、そこの形というか、分布が少しずつ違うという問題点があろうかと思う。
 それは何かと言うと、おそらく「疾患」では区分3であるが「処置」では2・1であったり、逆の場合もあったりすることが原因であろう。そのため、疾患・状態の区分と、それから処置区分を掛け合わせたようなかたちの検討が必要と考える。
 ただし細かく条件を設定すればするほど、コストとの整合性が増すのは間違いないと思うのだが、それがそのまま現在の医療区分の細分化につながると、医療療養病棟を有する医療機関では非常に苦しいということも現実的に考えておかなければならない。
 すなわち、医療療養病棟の電子カルテの普及率はいまだに50%ほどしかない。約半数は紙カルテで、診療情報管理士や医療クラークは毎日そのカルテを眺めながら、医療区分がどこに当たるかをチェックしながら入力しなければいけない。こういう作業を行っているので、細かくなればなるほど数が増えてくるわけだから、項目も増え、どこの区分に入れるのかという手間もかかり、時間も必要になる。 
 厚労省が進めている医療情報システムや電子カルテの標準化が実用化されれば導入コストが下がり、もう少し慢性期医療病院での電子カルテの普及率も上がると思うので、これに関しては非常に期待している。
 次に、164ページ。ここで突然、栄養サポートチーム加算の届出状況が出てくる。確かに療養病棟入院料の届出は少ないが、施設票では、この次の質問に届け出ていない理由を聞く設問があったと思う。その回答部分が示されてないので、ぜひ同時に出していただきたい。届出が少ないと言われても、どうお答えしていいのかよくわからない。
 中心静脈栄養に関して、168ページに療養病棟における実施状況が示されているが、n数が少なすぎて比較できない。 
 それから、169ページの下段に「中心静脈栄養の適応理由」が示されている。それによると、「他に代替できる栄養経路がない」という理由が半分以上を占めている。改定後でも変わらず多いというのは非常に問題である。これが一体何を意味するかを詳細に調べていただかないと、本当に経腸栄養ができないのかどうかはわからない。「他に代替できる栄養経路がない」という理由が半分以上を占めるのは異常な事態だと私は思っている。詳細な検討をするため、何らかの方法で調査する必要があるのではないか。
 170ページに療養病棟における摂食機能または嚥下機能の回復に必要な体制の有無が示されている。改定後1年で、取れていないところが約3分の1しかない。比較的、上出来だったと思う。
 ただ、施設基準を満たせない理由で、VFもしくはVE検査が実施できないというのが3分の2を占めている。訪問歯科等で、別の施設から来ていただいても可能ということから考えると、もう少し減ってもいいのかなという気はしている。
 175ページ、176ページ(高カロリー輸液の投与状況)は平成30年のDPCデータだが、現在との比較がないので、どういう意図でこれを出されたのかがわからない。ご説明でも省略したと思う。中心静脈栄養の患者割合を減らそうとして改定したのだから、現在との比較が重要であると思っている。
 179ページに、CRBSI(カテーテル関連血流感染)のデータが出ている。使用日数が増えれば当然、感染率が高くなるのは当たり前である。この場合、CRBSIの発生率そのものを求めているわけではないので、この値が本当に高いのかどうかは予想できない。
 例えば、一番左端の棒グラフで、30日目に全員がCRBSIになったと仮定して、65名のうち12.3%、すなわち8名がCRBSIでチューブを抜去したと仮定すると、感染率は4.1%ぐらいにしかならず、さほど高くない。したがって、本当にこれが高いのかどうかを示していただかないと、この数字の意味がわからない。
 身体的拘束については、認知症の有無について指摘されることが多いが、療養病棟に入院する患者さんは、基本的に急性期病院で退院できなかった方がこられる。
 そうすると、その患者さんの中には高次脳機能障害があったり、せん妄を持ったまま胃カテが挿入されていたり、場合によっては認知症のテストそのものすらできない患者も少なくない。
 そのため、認知症の有無で分けると、「なし」の中には、そういう患者さんが含まれる可能性がある。身体的拘束はないほうがいいに越したことはないが、完全に否定してしまうと、高次脳機能障害や認知症のひどい人、大暴れするような患者さんを療養病棟で受け入れることを控えてしまうという逆の効果も表れるので、慎重な対処の仕方が必要ではないかと考えている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員から療養病棟についてコメントをいただいた。処置、疾患で分けて掛け合わせた分析等も必要なのではないかという指摘をいただいた一方で、細分化することに対する懸念もご表明いただいたと思っている。
 標準型電子カルテの導入にご期待いただいているところではあるが、現場にとって手間がかかるようなことに関しては十分に検討が必要だと思っている。
 また、栄養サポートチームについて導入できていない理由については、改めてデータを示したい。詳細な検討が必要だと思うが、経腸栄養ができない理由について、どのようなデータがあり得るのか、今後検討し得るのか、また事務局としても検討してまいりたい。データに関して一部古いものだという指摘もいただいたので、今後また、どのようなデータを出せるのか検討したい。
 カテーテル感染については、非常に致死性の高い状況だと認識している。どのようにして減らせるのか、非常に重要な視点だと思う。ご指摘を踏まえて、また検討してまいりたい。
 拘束に関しては、療養病棟にどのような方が入院されているのか、そういったところも注意深く見る必要があると思っている。改めて、ご議論いただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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