治療と就労の両立支援、「さらに充実した体制を」 ─── がん対策の議論で池端副会長

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2023年10月18日の総会

 令和6年度の診療報酬改定に向け、がん患者の治療と仕事の両立支援などを議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は、産業医との連携や薬剤師の関わりに言及し、「さらに充実した体制を求めていきたい」と述べた。

 厚労省は10月18日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第559回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 今回は、がんと脳卒中を中心に議論した。厚労省は同日の会合に「個別事項(その2)がん・疾病対策について」と題する資料を提示。がん対策の項目では、①外来化学療法、②がん診療連携拠点病院等──について論点を示し、委員の意見を聴いた。

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シンプルな情報提供のあり方を

 外来化学療法については、医療機関間の連携や薬剤師の関わりなど5項目が論点に挙がった。
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 質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「(論点)4つ目の就労と治療の両立支援については、療養・就労両立支援指導料の普及については事業所の産業医等からの情報提供が起点となっており、その協力が得られないと算定できない等の課題などもあって進んでいない」との課題を挙げた。

 その上で、長島委員は「外来腫瘍化学療法診療料の1つの意義が治療と仕事の両立にあることからすると、患者さんを支援するという意味で、もう少しシンプルな情報提供のあり方を検討する必要があるのではないか」と提案した。

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産業医との連携が取れているか

 茂松茂人委員(日本医師会副会長)は「かかりつけ医が産業医として活動することが非常に多くなってきている」と最近の状況を説明。その背景について「日本は中小企業が多いので地域のかかりつけ医が産業医をしている」と指摘した。

 その上で、茂松委員は「産業保健活動をしっかり充実させていく中で、両立支援を増やしていくために、かかりつけ医と産業医の連携がもっと早くできる関係ができればいい」と述べた。

 池端副会長は自身の経験から産業医と基幹病院の医師との連携も課題に挙げ、「産業医として問い合わせる場合には何も報酬等がない」と指摘した。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 就労と治療の両立支援について
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 がんの治療を受けながら就労している人がどんどん増えている中で、「療養・就労両立支援指導料」の算定状況が平成30年以降、徐々に増加している傾向は非常にいい。
 ただ、私自身も産業医として、がんの患者さんを診ている中で感じるのは、産業医と基幹病院の医師との連携。まだまだ十分には連携が取れていないように思う。というのは、産業医として問い合わせる場合には何も報酬等がないし、どのように問い合わせればいいのか難しい。単発で送られてきて、そのままになってしまっているところもあるようだ。そのため、この辺をもう少し充実できるような体制が組めればいい。これは産業保健のあり方にも関わる問題なので中医協マターではないかもしれないが、さらに充実した体制を求めていきたいと思っている。

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産業保健と医療との関わりをスムーズに

 産業医と主治医の連携については、支払側からも「就労両立支援のために非常に重要だと思う」との声があった一方、「企業に籍を置いていた自分としては、産業医がどのように関与しているのか、あまりイメージがない」とのコメントもあった。

 これに対し、池端副会長は「大企業であれば企業内に診療所があって、そこに医師がいて、基幹病院の医師との間で病診連携と同じように連携できるが、多くはかかりつけ医が非常勤の産業医をしている」と説明。非常勤産業医の場合には「情報共有のハードルがある」とし、「産業保健と医療との関わりがもっとスムーズになれば、連携が進むのではないか」と述べた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 先ほど支払側から産業医と基幹病院との関係について発言があったので、参考までに具体例を紹介したい。
 産業医には主に2種類ある。大企業であれば、その企業内に診療所があって、そこに医師がいて、その医師と基幹病院の医師とは病診連携と同じような立場で連携し、情報のやり取りができる。しかし、多くの企業では、かかりつけ医が非常勤の産業医である。私自身もそういう立場で産業医として関わって、がんの就労支援を支えている会社を何件か担当している。
 そうした経験から感じるのは情報連携の難しさ。通常の病診連携や病病連携であれば診療情報提供書のやり取りができる。基幹病院から「こちらの企業ではこういう勤務をしていて、今こういう状態です。状況はこうです」というやり取りができる。しかし、非常勤産業医の場合には、その会社の従業員はかかりつけの患者ではないので、産業医の立場で情報をやり取りするときにハードルがある。情報提供書もないし、ひな形もない。私もどうしたらいいのか、ちょっと迷っているところがある。今後、もう少し何か工夫ができればいいと思う。中医協マターではないかもしれないが、産業保健と医療との関わりがもっとスムーズにできるような工夫があれば、連携がより進むのではないかと思い、参考までに現状をお話しさせていただいた。

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薬剤師の関わりで副作用が減少

 外来化学療法における薬剤師の関わりについては、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)が現状を説明。「新たな種類の抗がん剤が開発され、治療の選択肢が増えることにより、従来は薬物治療で入院が必要であったものが、外来化学療法や経口抗がん剤による通院治療が可能となっている」と伝えた。

 その上で、森委員は「有効性と安全性の観点からの薬学管理が必要であり、その重要性も高まっている。タスクシフト・シェアを通じた医師の働き方改革にも資するので、現場でこのような取り組みが一層進むよう評価すべき」と主張した。
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 こうした意見に支払側委員も理解を示した。松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「診療前に薬剤師が関わることで副作用が減少することは患者にとっても大変有益なことであり、医療の質の向上、医療の効率化、さらに医師の働き方改革にもつながるということであれば推進する方向で検討する余地はある」と述べた。

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薬剤師の情報提供を推進すべき

 患者を代表する立場から高町晃司委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)は「医師の診察の前に薬剤師が服薬状況や副作用の発現状況について情報を提供することは推進していくべき」とし、「がんだけではなく、複合的な疾患を抱えているようなケースへの対応についても情報の連携が進んでいくことにつながるのではないか」と期待を込めた。

 池端副会長は「外来化学療法に関する薬剤師の役割はこれから非常に大きくなっていく」としながらも病院薬剤師の不足を課題に挙げ、「いかに確保するかということも考えなければいけない。論点として捉えていきたい」と指摘した。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 薬剤師の関わりについて
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 資料37ページ(外来腫瘍化学療法の質向上のための薬剤師の役割)から38ページ(医師の診察前における薬剤師の関わり)、39ページ(薬剤師が医師の診察前に患者に関与している事例)、40ページ(医師の診察前に薬剤師が関わることによるメリット・医師調査)に示されているように、外来化学療法における薬剤師の役割は極めて重要である。これらのデータに出ているとおりだと思う。
 病院における薬剤師の役割は、医師の働き方改革を議論した際の資料にも示された。薬剤師の関わりが非常に重要であると評価されている項目が挙がっていた。外来化学療法に関する薬剤師の役割もこれから非常に大きくなっていくと思う。
 とはいえ、病院に勤務する薬剤師が十分かといえば、決してそうではない。病院の薬剤師をいかに確保するかも考えなければいけないと思うので、そういう論点としても捉えていきたいと思っている。

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医師偏在・不足の実態を踏まえる

 脳卒中対策については、①t-PA静注療法、②血栓回収療法──など発症早期に実施する治療の推進が課題に挙がった。論点では、「一次搬送施設と基幹施設の間の連携」や「連携体制の構築に対する評価」などが示された。
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 質疑で、長島委員は「前回改定で手当てした医療資源の少ない地域に限らず、医師少数区域など基幹病院までの到達時間が長い地域なども含めて、一次搬送施設と基幹施設との連携を評価し、脳卒中診療における地域医療格差を是正していくことは重要な課題」と指摘した。

 その上で、長島委員は「単に医師少数地域というだけでなく、地域の脳卒中医療に関わる医療資源や医師の偏在・不足の実態をきちんと踏まえること、地域における対面による医療連携の実績を基盤とすることが必要」とした。さらに、「超急性期脳卒中加算を算定するような病院で一刻も早く確実に診療を受けられる体制を築くことが脳卒中における連携の基本」とし、「これに対する評価を充実していくことも大変重要」と述べた。

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「Drip and Ship」の体制構築も重要

 資料によると、各二次医療圏に超急性期脳卒中加算を届け出ている医療機関が所在する割合は、医師中程度区域・医師多数区域では92%であったのに対し、医師少数区域では67%だった。
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 島弘志委員(日本病院会副会長)は「高齢者が急増する中で『Drip and Ship』と呼ばれる体制をきちんと構築していくことは非常に重要」としながらも、「地域によって、かなり格差がある。国として、都道府県として、地域住民に不都合が起こらないような体制整備をどんどん進めていくべき」と述べた。

 厚労省の担当者は「一次搬送施設で、まずt-PAの投与を行い、その後、基幹病院に搬送して入院するという『Drip and Ship』の場合にも超急性期の脳卒中加算を算定できるようにした」と令和2年度改定を振り返り、その後の4年度改定で拡大したことを説明。「医療資源の少ない地域では、脳卒中の専門的な医師がいない場合でも他の施設との連携により超急性期の脳卒中加算の届出を可能にした」と伝えた。

 一方、血栓回収療法の体制については、「実施にあたり専門的な医師が行う必要があるのがt-PA静注療法との違い」とし、「適応の判断についても専門的な画像の読影による判断などが必要とされるため、迅速な実施のためには一次搬送施設と基幹病院との適切な連携が必要」と指摘。「t-PA静注療法と同様に、医師少数区域で実施率が低い」などの課題を挙げた。

 池端副会長は「医師が少数区域ではない所でも、さらに促進する方法で検討していただきたい」と述べた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 脳卒中対策について
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 急性期脳梗塞に対するt-PA静注療法は長島委員もおっしゃったように時間との勝負。「Drip and Ship法」は非常に重要な考え方だと思っている。
 この点、地方などの過疎地域等では、「Drip and Ship」のほか、血栓回収法を実施できる医療機関が非常に少ない所もある。今回の資料では、医師少数区域とそれ以外を比べた割合などのデータが出ているが、医師少数区域でない所でも、専門医が極めて少ないことや、専門の医療機関がないということもあると思う。医師少数区域に限らず、「Drip and Ship」や血栓回収療法などが実施できる体制をより取りやすくしていただくことは非常に重要ではないかと思う。さらに促進する方法でご検討いただきたい。特に地方では、そういう所が散見されるので、とても期待している。前向きな対応をお願いしたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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