資格を捨てて企業に移ってしまう ─── 基本方針の議論で池端副会長が訴え

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_20230929_医療保険部会

 令和6年度診療報酬改定の基本方針をめぐり議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「物価高騰・賃金上昇が基本認識のトップに挙がるのは当然」と厚労省案に賛同した上で、反対意見に対し「医療・介護の現場で起きていることを理解してほしい。コメディカルが資格を捨てて企業に移ってしまう。大きな賃金格差があるからだ」と訴えた。

 厚労省は9月29日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第168回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に「令和6年度診療報酬改定の基本方針の検討について」と題する資料を提示。その中で、改定に当たっての基本認識のトップに「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応」を挙げたが、保険者や経済界から批判が相次いだ。
.

改定に当たっての基本認識

.

「物価高騰・賃金上昇」が前面に出ている

 質疑の冒頭、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「基本認識の最初に『物価高騰・賃金上昇』が示されていることに大きな違和感」と苦言を呈し、「今までプラス改定が繰り返された結果として保険料が上昇し続けてきた過去の経緯も十分に踏まえた議論をしていただきたい」と求めた。

 清家武彦参考人(経団連・経済政策本部副本部長)も「物価高騰・賃金上昇等が前面に出ている」と批判。「物価高騰については交付金を通じて既に対応している部分もある。処遇改善についても前回改定で行ったので、各施設での配分が適切に行われているのかという検証も必要ではないか」と指摘した。

.

従業員の賃金をしっかり確保する

 一方、猪口雄二委員(日本医師会副会長)は「現在の物価高騰・賃金上昇は避けて通れない。次回改定においては、それを十分反映させるものであってほしい」と要望。「持続可能性という意味では、病院・有床診療所・無床診療所など全ての医療機関の経営状態を安定化させることが重要」とした。

 その上で、猪口委員は「医療に人手が集まらず、他の産業に抜けていくということが実際に起きている」と危機感を表し、「次年度の改定に当たっては従業員の賃金をしっかりと確保するという点を強く要望したい」と訴えた。

.

保険あってサービスなしでは本末転倒

 大杉和司委員(日本歯科医師会常務理事)も「物価高騰・賃金上昇、人材確保等については、ぜひ取り組んでいただきたい」と強調した上で、「歯科のコメディカルである歯科衛生士、歯科技工士についても離職等が問題になっており、特に歯科衛生士の確保は喫緊の課題」とした。

 大杉委員は「歯科衛生士や歯科技工士も給与の安さなどから離職後は他の業種に就くケースが少なからずある」とし、「歯科専門職も含めて医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取り組みを検討していただきたい」と要望した。

 池端副会長は「一般企業の賃金は上昇しており、その分は価格転嫁できるが、医療機関は価格転嫁できない」とし、「保険あってサービスなしになっては本末転倒。物価高騰・賃金上昇は基本認識のトップで取り上げていただきたい課題」と述べた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 基本認識については、各委員がおっしゃったように、やはり現状では物価高騰・賃金上昇等についての対応が一番に来て当然だと思う。人材確保、処遇改善、医師の働き方改革等の中で、特に人材確保は重要である。医療機関において人材確保に必要な診療報酬は公定価格で決められている。
 一方で、賃金上昇の圧力がかかっている一般企業では、賃金がどんどん上昇している。そして、それを価格転嫁できているが、医療機関は価格転嫁できない。その現実をぜひ理解していただきたい。大杉委員もおっしゃったように、看護補助者などコメディカルが資格を捨てて他の企業に移ってしまう。それは大きな賃金格差があるから、そうなってしまっている。 介護分野では、入ってくるよりも出ていく介護職が多くなっている。そういう現実がある。医療・介護の現場で起きていることをご理解いただきたい。
 交付金があるとの意見もあったが、全産業に向けられた交付金のうち、各都道府県の医療機関にどれぐらい行き渡っているか。少なくとも私の福井県において出された交付金に関して言えば、物価上昇の分の10分の1程度にすぎない。これは大学病院も含めて、そういうデータが出ている。その程度の交付金で「交付金を出しているではないか」と言われても、経営的には決して十分ではない。
 もちろん、われわれ医療提供者側も持続可能な保険制度に向けて意識しなければいけないことは十分理解しているところだが、「保険あってサービスなし」になってしまっては本末転倒ではないか。「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性」などは基本認識のトップで取り上げていただきたい課題である。

.

現場の実態に応じて円滑に導入を進める

 この日の部会では、訪問看護におけるオンライン請求やオンライン資格確認の導入などについて、義務化の経過措置など今後の対応案が示された。

 質疑で、袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会副理事長)は「オンライン資格確認について医療の次は看護というのは当然の流れとも思うが、訪問看護事業所は医療機関と違って非常に小規模でスタッフが少ない」と懸念。「財政的な支援をするようだが、お金もさることながら技術的な支援などが重要だ」と指摘した。

 猪口委員も「訪問看護事業者は小規模な所が多いので通常の医療機関以上にDXにかけるコストやスタッフの確保などが非常に難しい」とし、「訪問看護事業者と直接お話をして、理解は既に得られているのか」と尋ねた。

 厚労省保険局保険データ企画室の中園和貴室長は「現場への浸透度など、周知不足の点は否めない」とした上で、「現場の実態に応じた形で円滑に導入を進めていく。相談支援やコールセンターなどでの導入支援などをきめ細かくしっかりと行ってまいりたい。現場からの問い合わせにもしっかり対応したい」と理解を求めた。

 池端副会長は、病院や診療所の「みなし指定訪問看護」や、医療機関が提供する訪問リハビリなどの場合について質問した。詳しくは以下のとおり。

【池端幸彦副会長】
 全体的な方向性については賛同したい。その上で確認したい点がある。表題は「訪問看護におけるオンライン請求・オンライン資格確認の導入」となっているが、医療機関から提供する「みなし訪問看護」もある。私の理解では、既に医療機関は療担規則においてオンライン資格確認等が義務化されている。そこでやっているという理解でいいのか確認したい。
 また、訪問診療等におけるオンライン資格確認(居宅同意取得型)について、みなし訪問看護で実施する場合には、この訪問診療等の「等」の中に、みなし訪問看護が入るのか。さらに、医療機関から提供している訪問リハビリテーションも居宅同意を取得する可能性があると思うが、これも「等」の中に入るか。もし入るとすれば、そこに関して、いわゆる財政支援等もあるのか。すなわち、みなし訪問看護、あるいは医療機関から行われる訪問リハビリテーションに対するモバイル端末等の財政支援も行っていただけるのか。

.
【厚労省保険局保険データ企画室・中園和貴室長】
 医療機関で行うみなし訪問看護については、ご指摘のとおり、今の医科レセプトでのオンライン請求の中で対応されている。したがって、位置づけとしては、ご指摘のとおり訪問診療「等」という形で含まれうるものだと考えている。財政支援等については、今後、実施要綱等を定める中で、その対象について精査したいと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »