「リハビリの実施が少ない」 ── 令和4年度の調査結果に井川副会長

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2023年6月8日の入院外来分科会

 入院医療などの調査結果が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は「リハビリの実施が少ない。今後、高齢者医療を考える上で何とかしなければいけない」と指摘した。

 厚労省は6月8日、中央社会保険医療協議会の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」の令和5年度第2回会合を開催し、当会から井川副会長が出席した。

 厚労省は同日の会合に「令和4年度調査結果(速報)概要」を提示。「重症度、医療・看護必要度」の見直しの影響など7項目に関する調査結果について委員の意見を聴いた。

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患者像が変わっている

 質疑の冒頭、山本修一委員(地域医療機能推進機構理事長)は高齢患者が増加している急性期病棟の状況を「かなりヘビーである」と懸念。「急性期一般入院料1でも15%以上、4になると30%近くが認知症を持っている。しかも、入院料2~6では10%が(認知症ありで)手術している」とし、「介護系の人材の投入なども視野に入れるべきという主張の1つのデータの裏付けになるのではないか」と指摘した。

 続いて牧野憲一委員(旭川赤十字病院院長)も「病棟の高齢化、認知症患者の多さ、要介護度がどんどん高くなってきている」とした上で、「看護基準がそれほど大きく変わっていないにもかかわらず患者像が変わっているのであれば、やはりそれに合わせた対応が今後、必要になる」と述べた。

 井川副会長も同様の認識を示した上で、リハビリの提供を充実させる必要性を指摘した。また、地域包括ケア病棟の救急受け入れや療養病棟の退院先などについても意見を述べた。詳しくは以下のとおり。

■ リハビリの実施状況について
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 資料9ページ「入院料ごとの年齢階級別分布」を見ると、牧野委員がおっしゃったように、年度別に見ていくと、高齢患者が年々、増えていると思う。療養病床や地域包括ケア病棟では、80歳以上が6割以上になってしまっているのが現状だ。急性期入院基本料1でも30%以上と非常に高齢化が顕著になってきている。10ページ「入院料ごとの認知症の有無」では、認知症患者がどんどん増えている。12ページ(入院料ごとの認知症高齢者の日常生活自立度別の患者割合)を見ると、奇声を上げたりするなどの日常生活もままならないようなレベルⅢ以上がどの病床でもかなりの割合を占めている。そういう方々は認知症そのものもあるが、入院によって周辺の症状がかなり悪化してしまうと言われているので、いかに短期で帰していくかが非常に重要になろうかと思う。そうすると、リハビリテーションは必須になると思う。
 そこで、16ページ(入院料ごとの疾患別リハビリテーションの実施状況)を見ると、まだまだリハビリテーションの実施が少ない。急性期一般入院料では40%ぐらいはリハビリテーションを実施していない。 
 ここで1つ疑問なのは回復期リハビリテーション病棟入院料4で、2割ぐらいが「いずれも実施していない」という結果になっている。これがよくわからなかったので、何か理由があれば教えていただきたい。療養病棟入院料2でも半分以上はリハビリをしていない。これは今後、高齢者医療を考える上で何とかしなければならない1つの項目ではないかと思っている。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員から年齢や介護の必要度について、そしてリハが急性期ではまだ十分提供されていないのではないかという指摘をいただいた。こうした指摘を踏まえて更なる分析がどのようにできるのか、検討を進めてまいりたいと思っている。
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■ 地域包括ケア病棟の救急について
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 前回改定の大きな目玉である救急に関して詳細に分析していただいた。69ページ(地域包括ケア病棟を有する病院の救急の状況)を見ると、救急医療体制が存在しないところが2割程度ある。 
 当然のことながら、一般病床からの地域包括ケア病棟では、必要な要件として救急告示を持っていないといけないわけである。そうすると、ここの部分は療養病床からの地域包括ケア病棟と考えてよろしいのか。 
 もし、そうであるとするならば、療養病床から行った地域包括ケア病棟のうち95%の減算の病床がどの程度なのかなど、そうした点について、もう少し詳しくお示しいただきたいと思う。
 70ページに、救急患者を受け入れている頻度が示されており、「週7日」が60%以上ある。そうすると、少なくとも年間365件は受け入れているということになるが、救急搬送の受け入れ件数を見ると、年間300件以上の医療機関は40%程度しかない。これをどう考えればいいのか。また、0から100件が非常に多い。特に、0件なんて本当にあるのかどうか。もう少し詳細に分析していただきたいと思う。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 井川委員から地域包括ケア病棟の救急医療提供体制について、ご指摘をいただいた。救急医療体制のないところに関して、これは療養病床なのか、95%減算があるのかどうかに関して、ご指摘を踏まえて可能な限り分析を進めていきたい。
 また、70ページ目の救急の受け入れの体制について、週7日受け入れているところは非常に多いにもかかわらず、実際に受け入れている件数に乖離があるのではないかという指摘をいただいた。これに関しては、調査の段階で「週7日受け入れる」という意向を示しているにもかかわらず、実際には受け入れられていないという実態もあると理解している。意向と実績に乖離があるのは調査の中で多々見られる傾向であると解釈している。

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■ 療養病棟の退棟先等について
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 療養病棟の退棟先について、111ページに「死亡退院が最も多く、61.2% (R2調査時55.0%)であった」と書かれている。これを見ると、療養病棟では死亡退院が増えたのかなという印象を受ける。
 しかし、令和2年度の調査と比較すると、例えば自宅退院は令和2年度に11.8%ぐらいしかなかったが、今回の調査では14%に増えている。在宅復帰率も令和2年度の27.5%から今回は28.5%と、わずかではあるが増加している。転院などが減っているということになる。
 そのため、亡くなった原因について、例えば看取りなどが増えているのであれば、当然、療養病棟は長期入院なので亡くなる人も多くなる。治療して亡くなられているのか、看取りで亡くなっているのか、それらが解析できるようであれば、していただきたい。非常に難しい部分ではあろうかとは思うが、できるのであれば、と思っている。
 それともう1点。今回は速報値ということで、患者票や施設票から捉えているが、療養病床については、データ提出加算で多くの情報が取れるようになっている。
 そのため、データ提出加算のデータを用いれば、例えば患者票の中で出てきた数の2桁ぐらい多い数が簡単に出てくるとは思うが、そういうものを今後、医療区分を見直す上では絶対必要になってくると思うのだが、取られる予定はないかを質問したい。

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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 療養病棟の死亡退院に関して、治療の上なのか、あるいは看取りなのかということで、なかなか切り分けるところは難しい部分もあるが、ご指摘を踏まえて、どういった分析が可能なのか検討してまいりたい。 
 また、データ提出加算については療養病棟でも非常に活用されているので、これまであまり見直しがされてきていない医療区分に関して、こうしたデータの蓄積を踏まえて、今後、見直しができるのかどうか検討してまいりたいと思う。分析の上で、またお示しさせていただきたいと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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