寝たきりを減らすリハビリチームの創設を ── 定例会見で橋本会長

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橋本康子会長

 日本慢性期医療協会の橋本康子会長は9月14日の定例記者会見で「寝たきりを減らすリハビリチームの創設を」と題して見解を述べ、急性期病院で介護福祉士が果たす役割や総合診療医を中心とした「寝たきり防止チーム」の必要性などを語った。

 この日の会見には、10月19、20日に大阪で開催する「第31回日本慢性期医療学会」の木戸保秀学会長、同会場で併催する「第11回慢性期リハビリテーション学会」の木下祐介学会長が出席。同学会の開催趣旨などを説明した後、橋本会長のプレゼンに移った。

 橋本会長は会見で、「寝たきりを減らす二つの方向性」を提示。急性期医療で寝たきりをつくらないように、慢性期医療で寝たきりを減らすようにする「防止」と「改善」の必要性を説明。このうち「防止」については、介護福祉士を含むリハビリチームが介入し、ADLの低下を招かないようにすべきとした。看護補助者と介護福祉士との違いにも言及し、介護福祉士による少量頻回の「リハビリ介護」について具体的に解説した。

 会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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「第31回日本慢性期医療学会」のご案内

[矢野諭副会長]
 定刻になったので、ただいまより令和6年9月の定例記者会見を開催する。はじめに、10月19、20日に大阪で開催される2つの学会について、ご案内したい。本日、2人の学会長にご出席いただいた。まず、第31回日本慢性期医療学会の学会長を務める木戸保秀先生から、ご挨拶をお願いしたい。
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[木戸保秀学会長(日慢協常任理事、松山リハビリテーション病院理事長)]
 開催まで1カ月に迫った。10月19日(木)と20日(金)の2日間、大阪国際会議場で「第31回日本慢性期医療学会」を開催する。学会のテーマは「超少子高齢化時代と慢性期医療 ~Well Beingを目指した予防という役割~」である。
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 ポスターをご覧になられた方もおられると思うが、なぜ「予防」に注目したのか、どのような考えで今回のテーマを設定したのか。
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 平成28年2月27・28日に神戸で「第3回慢性期リハビリテーション学会」を開催し、私が学会長を務めた。その学会でも「予防」に着目し、「地域に活きる ~徹底的な予防リハビリテーションに取り組む」というテーマで開催させていただいた。

 そして今回は「Well Beingを目指した予防」をテーマに掲げた。予防に対して慢性期医療がどのように向き合うべきか。皆さんと共に考えたい。
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 古き時代、アナログ時代はモノやヒトも変動の時代であった。大正7年、当院の前身である杏順堂桑原医院を開設した桑原寛一先生は終戦直後に、リハビリテーション施設を開設して名称を「松山リハビリテーション病院」とした。
 
 桑原先生は馬で往診し、地域住民の栄養改善に取り組んだ。村に無償で野菜を提供し、学校給食を開始。地域で互いに寄り添い、支え合う時代であった。

 その後、デジタル化の波が押し寄せた。それは個を尊重する時代への転換でもあったが、同時に支え合う関係や共助が希薄になり、「個と集団」の関係性が問われる時代であったとも言えよう。

 そうした中で、少子高齢化問題は地域包括ケアシステムの構築を必要とし、地域というグループでの活動が求められる時代に入った。そして、このたびの新型コロナ感染症である。リハビリにはチームでの活動が必須であり、身体の接触を伴う。新型コロナの蔓延は私たちに大きな課題を突きつけた。

 身体や精神面だけではなく社会的な健康を満たす、Well(良い)Being(状態)を目指すため、私たち慢性期医療が果たす役割は何か。「予防」を中心に皆さんと考える場にしたい。ぜひご参加をお待ちしている。

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「第11回慢性期リハビリテーション学会」のご案内

[矢野諭副会長]
 続いて、「第11回慢性期リハビリテーション学会」の木下祐介学会長から、ご挨拶を申し上げる。

[木下祐介学会長(日慢協理事、光風園病院院長)]
 今回の学会から日本慢性期医療学会との併催となり、同じ会場で同じ日に開催されることとなった。「疾患治療を効果的に進めるためのリハビリテーション」と題して、神戸大学大学院の石川朗教授に教育講演をお願いする。多職種で行う慢性期リハビリテーションの在り方を考える機会にしたい。

 30年前、「高齢者が肺炎になると寝たきりになる」と言われていた。元日本療養病床協会の会長であった私の父は、「そんなことはない」とずっと言い続けていた。今でも言い続けている。ところが今回、新型コロナウイルス感染症の治療後に食事が食べられなくなり、歩けなくなってしまった高齢者が非常にたくさんおられる。

 30年前から何が変わって何が変わっていないのかを考えた。そこで、ポストコロナの時代、リハビリテーションの視点から肺炎に焦点を当てようと考えた。 肺炎の予防と治療は高齢者医療の基本である。高齢者の方々がかかる非常にポピュラーな疾患である。この治療がきちんとできるかどうかによって、その後の人生やQOLに大きな影響を与える疾患である。

 この肺炎の予防と治療がきちんとできるようになれば、マルチモビリティやフレイルなどを抱える高齢者に対し、いろいろな疾患の治療やケア、リハビリテーションにも応用できるのではないか。当日は、そうした問題意識を踏まえ、多職種で行うリハビリテーション、慢性期リハビリテーションの在り方を考える機会にしたいと思っている。

 一般演題では、153演題を集めることができた。演題の内容は、予防に始まり、回復期から慢性期、生活期まで幅広いステージについて、在宅から入院・入所まで、あらゆる場所で看護・介護やリハビリスタッフをはじめ、多職種が行う慢性期リハビリテーションの実践が紹介されている。

 良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない。多くのご参加をお待ちしている。

[矢野諭副会長]
 学会は木曜日と金曜日に開催される。報道関係の皆さまにも多数ご参加いただきたい。続いて、当会の橋本康子会長より本日のテーマについて説明させていただく。
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寝たきりの「防止」と「改善」

[橋本康子会長]
 慢性期医療を取り巻く課題として、毎回の記者会見でお示ししている。寝たきり防止へ向けた慢性期医療の課題は、担い手の「質」「量」「意識(やる気)」の改善である。
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 この中で、「基準介護の導入」については以前もご説明させていただいたが、今回改めて見解を示したい。また、ケア人材の確保に関わる問題として、介護福祉士の仕事の統一、同一スキル同一給与、適切なタスクシェアにも触れたい。
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 本日の内容である。「寝たきりを減らすリハビリチームの創設を」というタイトルで、寝たきり防止、介護福祉士の役割、リハビリチームについて述べる。

 まず、寝たきり防止について。医療・介護をめぐる課題の1つに人材不足がある。特に介護人材。確かに、処遇改善などの措置で介護職を増やす方策も1つであろう。しかし、根本的な解決策は要介護や寝たきりを減らすことである。
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 そのために私たちが取り組まなければいけないのは、寝たきりからの改善や、寝たきりになるのを防止することである。左側のグラフは、要介護割合を1.2%下げれば要介護者の増加を防止できることを示している。高齢者が増えたとしても、100人中1人、2人、3人を自立に向けてリハビリしていけば要介護度の重い人や寝たきりの高齢者を減らすことができる。

 右側をご覧いただきたい。「寝たきりを減らす二つの方向性」である。①防止(つくらない)、②改善(減らす)──という方向性で、①急性期医療と②慢性期医療が関わる。急性期病院で、寝たきりをつくらない。寝たきりになったとしても、慢性期医療で寝たきりを減らしていく。

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寝たきりはチームで防止する

 寝たきりはチームで防止する必要がある。たった1人のリハビリスタッフが頑張っても限界がある。看護師だけが頑張っても難しい。
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 寝たきり防止は、身体機能が低下する前に上げることであるから、一職種だけでなく、各専門職種によるチーム力が求められる。
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 左の図をご覧いただきたい。受傷して急性期病院に入院する。その後、「落とさない」「早期に上げる」という対応が必要である。「寝たきりは医原性」とも言われる。
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厚労省資料_【入-3】20230906_入院外来分科会

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 最近の厚労省資料にも「入院関連機能障害」という言葉が出ている。入院して機能が障害されて寝たきりになることを防ぐ必要がある。もし寝たきりになったとしても早期に引き上げなければいけない。
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 落とさないために、早期に上げるために具体的な施策が必要である。そこで、私たち日本慢性期医療協会では「寝たきり防止チーム」の役割が重要であると考えている。

 急性期病院におけるチーム医療として、医師・看護師・薬剤師・リハビリスタッフが挙げられる。最近では管理栄養士の病棟配置も注目されており、診療報酬上の評価がなされている。

 このチームの中に介護福祉士を入れるということが非常に大事である。現在、病院における介護福祉士は、看護師の指示のもとで動く「看護補助者」という扱いになっている。このようなチームでは、寝たきりが防止できていない。寝たきりの高齢者が増えている。コロナ禍でわかったように、高齢者を治療する上で介護の専門職が果たす役割は大きい。

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看護補助者と介護福祉士の違い

 介護福祉士は「看護補助者」として評価されているとの指摘がある。しかし、専門性の有無や指示系統が異なるため、看護補助者と介護福祉士は同一視されるべきではない。それぞれが担うべき業務は異なる。
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 看護補助者は、看護師の指導のもとで、原則として療養生活上の世話 (食事、清潔、排泄、入浴、移動等)、病室内の環境整備やベッドメイキングなどの業務を行う。 自ら専門的な判断をせず、標準化された手順や指示された手順に則って業務を実施する。これが看護補助者である。

 患者さんの状態はいろいろ変わる。良くも悪くもなるので、そのときに看護師の指示のもとで動く職種は必要だと思う。医療廃棄物を捨てたり、掃除をしたり、ベッドメイキングをしたり、そういう業務は誰かにしてもらう必要がある。その上で、看護師は専門性のある看護の仕事に注力する。

 一方、介護福祉士も専門的な知識や技術を持っている。患者さんの心身の状況に応じた介護業務を担う。これは喀痰吸引など日常生活を営むために必要な行為であり、医師の指示の下に行われる。

 このように、看護補助者と介護福祉士には違いがある。寝たきりを防止するためのチームには、介護福祉士という職種が欠かせない。

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介護福祉士の役割

 介護福祉士は具体的に何をしているのか。どのような役割があるのか。日常生活を送るために必要な着替えや食事などの動作をリハビリの視点で介入し、少量頻回のトレーニングを実施するのが介護福祉士であると考える。
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 介護福祉士の主な役割は「リハビリ介護」である。少量で頻回のトレーニングを実施する。高齢者にとって少量頻回のトレーニングはADLを上げていく上で大きな効果がある。すなわち、単なる「お世話」ではない。介護福祉士は介護の職員だが、日常生活動作を上げていくリハビリ(ADLリハ)を実施する専門職として介入するのだ。

 このように言うと、「それはリハビリスタッフの仕事ではないか」と思うかもしれない。しかし、リハビリ職が介入するのは1日の中で1時間から2時間ほどである。これに対し、日常生活動作は朝晩の更衣、起床後と就寝前の整容など、たくさんある(下表)。ここに介護福祉士が介入する。
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 トイレ誘導、おむつ交換などの排泄介助、入浴・清拭などは看護師も行っているが、介護福祉士はリハビリ視点で介入する(リハビリ介護)。写真にあるような介助を何回も重ねて自立化を目指す。
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寝たきり防止への集中的リハ

 リハビリスタッフの介入は、回復期リハビリテーション病棟でも1日2時間程度。「それで十分じゃないか」と思われるかもしれないが、人間が起きている時間というのは1日15時間ぐらいある。その中で30分〜1.5時間ぐらいのリハビリをして、それ以外の時間はずっとベッドで寝てしまったらリハビリの効果が薄れてしまう。
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 そこで、療法士によるリハビリにプラスして、介護福祉士による「リハビリ介護」をやっていかなければいけない。朝晩の更衣や整容などの時間を積み上げると、1日の「リハビリ介護」は7時間ぐらいになる。

 疾患別リハにADLリハを付加すれば最大8時間のリハビリが提供できる。早期集中的介入により、機能改善と入院期間短縮が期待できる。

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寝たきりゼロへの10か条

 寝たきり防止への取り組みは、30年以上前から提唱されている。しかし、なかなか進まない。寝たきりの患者さんが増えている。
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 寝たきりゼロへの10か条。「始めようベッドの上から訓練を」「朝おきて 先ずは着替えて 身だしなみ 寝・食分けて 生活にメリとハリ」「ベッドから 移ろう移そう」など、30年以上も前から言われている。先ほど介護福祉士の役割として紹介したことが30年前に提唱されている。それが今まで実施されてこなかったから寝たきりが増えたのではないか。

 このように言うと、「それは看護補助者でもできるのではないか」「介護福祉士を病院で使ってしまうと介護施設で不足するのではないか」という声が上がる。しかし、介護施設に入るよりも前の急性期病院の段階で寝たきりをつくらないようにすべきだ。

 急性期病院で、ある程度は歩けるようにするとか、せめてちゃんと起きれるようにしてから、慢性期病院や介護施設に移行させることが必要だと思う。寝たきりにしてしまってから介護のところで介護福祉士が頑張るというのはちょっと違うかなと思う。

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リハビリチームの必要性

 「リハビリ介護」を誰が担うか。看護師にそういう仕事をしてもらおうと思っても、点滴や処置、バイタルのチェック、与薬など看護師がすべき業務はたくさんある。「リハビリ介護」は、リハビリ療法士と介護福祉士らで構成するリハビリチームが提供すべきである。
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 看護師にしかできない業務がある。看護師にしっかりやっていただかなかったら医師は治療に専念できないぐらい看護師は大事な仕事をしている。看護師は看護業務で忙しいので、先ほど説明したような1日7時間の「ADLリハ」はできない。量的課題がある。
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 では、看護補助者か。しかし、看護補助者は専門的な教育や研修を受けておらず、免許のない無資格である。嚥下障害のある人に食事介助するのはリスクがある。質的課題がある。

 したがって、リハビリ介護を「看護チーム」が担うのは、質的にも量的にも限界がある。そのため、これまでリハビリ介護が十分に提供されず、その結果、寝たきりが増えてきている。
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 打開策は、介護福祉士がリハビリ介護を担うことである。リハビリ療法士と一緒にチームで取り組む。リハビリの技術を療法士が介護福祉士に教える。「寝たきり防止チーム」として、医師が入ってもいい。

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寝たきり防止チームの創設

 リハビリチーム(基準リハ+基準介護)の創設により寝たきりは防止できる。現在、不足している機能が「基準リハ」「基準介護」である。
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 「寝たきり防止チーム」には医師も入る。総合診療医ならば、なお良い。看護チームには看護補助者、リハビリチームには介護福祉士。PT・OT・STからリハビリのスキルを教えてもらい、介護福祉士がリハビリ介護をすれば寝たきりを防止できるのではないか。
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介護福祉士の専門性発揮を

 介護福祉士を病院に迎えるには、役割の明確化が必要である。リハビリチームの一員として、寝たきり防止へ専門性を発揮できる場を創出する。
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 介護施設における介護福祉士には処遇改善加算もあり、介護分野で専門性を発揮している。しかし、医療の分野では制限もあり給与も低いので、なかなか病院に来ていただけない。

 そこで、新たに「リハビリチーム」をつくってはどうかと提案する。今後、アウトカムや実績づくりが必要だが、こうした取り組みを進めてはどうかという提言である。
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 良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない。いつも示しているスライドだが、今回は「今こそ、寝たきりゼロ作戦を!」というメッセージを入れた。私からは以上である。ありがとうございました。

[矢野諭副会長]
 寝たきりを減らすリハビリチームの創設。その中で、特に介護福祉士のリハビリにおける役割が明確に示されたと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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