「リハビリ介護」という考え方を提唱 ── 定例会見で橋本会長
寝たきり防止に向け、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は3月16日の定例会見で「リハビリ介護」という考え方を提唱した。食事や排泄などの機会を利用して介護福祉士によるリハビリを進め、早期のADL改善を目指す。診療報酬上の評価も提案した。
会見で橋本会長は「病気のために低下した機能の改善を図るためには日常生活動作を何回も繰り返す必要がある」と指摘。そのためには単位数に縛られない介護福祉士による介入が必要であることを説明し、「リハビリ視点のケアを提供すべき」とした。
橋本会長は介護福祉士による短時間の訓練を「リハビリ介護」とし、PTによる研修の状況などを紹介。「リハビリ介護」の人材を育成するため、リハビリスタッフによる実技研修などを進めていく考えを示した。
診療報酬上の評価としては、入院基本料について「基準介護加算」の新設を提案したほか、摂食機能療法の要件に「実技研修を修了した介護福祉士」を追加することを提案した。
橋本会長の説明は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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専門性を活かしたチーム医療
[池端幸彦副会長]
令和5年3月度の定例記者会見を始める。橋本会長からご説明を申し上げる。
[橋本康子会長]
まず慢性期医療を取り巻く課題について、これまでの記者会見でも示している。寝たきり防止へ向けた慢性期医療の課題は、担い手の「質」「量」「意識(やる気)」の改善であると考えている。
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今回はこの中で「質」に関わる課題として、「専門性を活かしたチーム医療」のうち「リハ介護の強化」を取り上げたい。具体的には、「基準介護」や「リハビリ介護」の考え方などを説明する。
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寝たきり防止へ、3つの機能
当会では、寝たきり防止に向けて、①総合診療医、②基準介護、③基準リハビリ──の3つの機能を提言している。今回のテーマは主に②③である。
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例えば、脳卒中で急性期の病院に入院する。脳卒中の症状によって身体機能が落ちる。食事が食べられなくなったり会話ができなくなったりする。病気になれば生じる症状のほかにも、筋力が低下したり栄養状態が下がったりする。脱水や貧血なども起こる。歩けなくなることもある。
主病から起こる症状以外については、なるべく悪化させずに早期に引き上げる必要がある。それが寝たきり防止につながる。私はそのような症例をたくさん見てきた。
当会では、急性期病院で上記①~③を導入すべきであると提言している。急性期病院における総合診療医の配置を進め、介護福祉士やリハビリ職によってADLを早期に引き上げ、日常生活に復帰してもらう。「落とさない」ということ、そして「早期に上げる」という点が重要である。
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リハビリ視点のケアを提供する
まず「基準介護」について改めてご説明したい。機能改善を図るためには、日常生活動作(ADL)を何回も繰り返す必要がある。毎朝、起床してから就寝するまでの間に、排泄や着替え、食事などを何回も繰り返す。
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しかし、OT・PTらのリハビリスタッフが関われる時間には制限がある。そこで、介護福祉士によるADLケア(リハ)が必要となる。1日に何十回も繰り返す日常生活動作を支援するため、リハビリの技術を持った介護福祉士が介入し、早期の自立を目指す。
私は長い間、介護福祉士の研修に関わった。その中で、介護福祉士にもリハビリの視点が必要であると思った。今後は、専門性を活かせる環境とリハビリ視点のケア技術が必要であると考える。
専門性を活かせる環境のためには、業務の明確化や役割分担が必要である。また、リハビリ視点のケアを提供するためには「リハ介護技術」の習得が必要となる。
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介護専門職の能力を活かすために
「リハ介護」のためには専門性を活かせる環境が必要だが、医療現場では介護専門職の能力を活かせていない。急性期でも慢性期でも、病院での介護業務は明確化されていない。
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介護福祉士は国家資格を持つ専門職でありながら、入浴の介助から送迎、掃除、洗濯、さらに食器洗いまでやっている。
口腔ケアや食事介助など、患者さんの身体に触れる「直接介護」もあれば、シーツ交換や配膳などの「間接介護」もあり、その業務が明確化されていない。各職種が専門能力を発揮するためには、業務の整理とスタッフの配置を見直す必要がある。
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ケア時間を確保し、活動量を増やす
専門職の能力を活かす環境を整備した上で、リハビリの視点を持ったケアが提供できるようにする。
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不必要な身体拘束、おむつなどが廃用を進行させるため、ケア時間の確保により寝かせきりを防止し、活動量(日常生活動作)を積極的に増やす。
身体機能を改善させるためには疾患別のリハビリだけでは不十分である。
リハビリ視点で日常生活動作を支援し、機能改善を図るべきだ。
例えば、おむつ交換だけをしても活動量を上げることはできない。筋力低下などの廃用が進行して寝たきりになってしまう。おむつ交換がよくないのではなく、何回かに1回はトイレで排泄するトレーニングをする。
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おむつ交換を100回やっても変わらない
自立困難な患者には介護スタッフの支援が必要だが、身体拘束やおむつを外し、活動量を上げるには人手がかかる。しかし、介入しないと活動量は減る。
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車いすに乗ることができればトイレでの排泄は可能なので、時間はかかるが2時間おきにでもトイレでの排泄を誘導できれば排泄パターンも確認できる。
尿意を覚えて意思表示できるようになってくると徐々にトイレでの排泄ができるようになり、排泄の自立に向かっていく。おむつ交換だけをしていると何年たってもトイレ排泄には向かわず、寝たきりをつくってしまう。
だから、何回も何回もトイレ誘導を行う。リハビリ介護は患者さんの残存能力を引き出し、寝たきりを防止する。しかし実際には、力任せに「よいしょ!」と言ってズボンを持ち上げて、ベッドから車椅子に移乗させる。力任せの介護を頑張っている。そうすると、患者さんの身体機能は変わらない。おむつ交換を100回やっても変わらない。
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「リハビリ介護」の技術を習得させる
ベッドから車いすへの移乗で腰痛になり、働けなくなる看護師や介護士がいる。実は、やり方が悪いこともある。理学療法士には女性も多いが、10年も20年も移乗などを行っているのに腰痛にならない。やり方が上手だからである。
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その技術を介護職員も習得すれば、自分の身体を痛めず介護量も減ってくる。高いケア技術は、機能改善だけでなく介助者も守れる。
「リハビリ介護」は患者さんの残存機能を使ったケアである。徐々に機能が改善して10人中1人でも改善すれば、その1人に対する介助量が減り、他の患者さんを介助できる。寝たきりを減らし、介護士たちの業務も減らしていく。
介護人材が不足する中で、今後はさらに介護する人が減るので、こうした対応をしていかなければいけない。スライドの写真は当院での研修風景である。PTが介護士に「リハビリ介護」の技術を教えている。力任せのケアではなく、力を入れずに移乗できる方法がある。
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診療報酬上で評価する場合のイメージ
診療報酬上で評価する場合のイメージを示す。入院基本料については、「リハビリ介護」の役割を明確にする加算を付ける。リハビリテーション料については、摂食機能療法の要件に「実技研修を修了した介護福祉士」を追加する。
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急性期病床では、既に看護補助加算がある。それにプラスして、直接介護などを担う専門性ある介護福祉士には「基準介護加算」を付ける。
そして、先ほど述べた「リハビリ介護」などを担っていただき、早期に急性期病床から回復期や慢性期の病床に移ってもらい、寝たきりを減らす。急性期での入院期間を短縮し、回復期病棟などでリハビリできる期間を増やす。
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スキルを活かす仕組みが望まれる
看護補助加算とは別に「基準介護加算」として評価されれば、介護福祉士はすごく重宝されるし、患者さんも良くなる。
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一方、摂食機能療法については、「医師、歯科医師」らが1回につき30分以上の訓練指導を行った場合に限り算定できるが、実際には食事介助などをしている職種で最も多いのは介護福祉士である。実技研修を修了した介護福祉士を追加していただきたい。
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基準介護の実施には要員増が伴うため、診療報酬での評価が必要である。役割を明確にした上で、スキルを活かす仕組みが望まれる。
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「リハビリ介護」の人材を育成する
日本慢性期医療協会では、「リハビリ介護」の人材を育成するため、リハビリ療法士による実技研修などを進めていく。
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「研修プログラム(案)」をご紹介する。民間企業の多い介護分野では、機能改善の可能性やその成功体験が不足しているため、リハビリテーション医療のノウハウ共有と技術習得が必要である。
また、日々のケアが機能回復に直結することや、介護福祉士によるリハビリの可能性など、リハビリ介護の考え方を学んでいただき、OTやPTらの指導により「リハビリ介護」の技術を習得していただきたいと考えている。私からの説明は以上である。
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(取材・執筆=新井裕充)
2023年3月17日