「個室環境を整備する仕組み(案)」を発表 ── 定例会見で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等

橋本康子会長_20230209記者会見

 日本慢性期医療協会は2月9日の定例記者会見で、「個室環境を整備する仕組み(案)」を発表した。橋本康子会長は会見で「個室は感染症等に強く、療養環境を高める」とし、個室化の促進に向けて現行の基準緩和などを求めた。

 この日の会見では、これまでの主張を個別事項①~⑤の5項目にまとめた「令和6年度診療報酬改定に向けて ~寝たきり防止と人材確保~」と題する資料を提示。現行制度の問題点などを指摘した上で、今後の施策の方向性を示した。

.

P2抜粋記者会見資料_20230209_Final3

.

 新たな提言となる個別項目⑤の「感染防止と療養環境改善に寄与する個室の規制緩和と加算対応」については、個室と多床室の比較を説明した上で施策の方向性を示した。

.

13抜粋__記者会見資料_20230209

.

 橋本会長の説明は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

.

00__記者会見資料_20230209

.

令和6年度診療報酬改定に向けて

[矢野諭副会長]
 定刻になったので令和5年2月の定例記者会見を開催する。橋本会長、資料の説明をお願いしたい。

[橋本康子会長]
 診療報酬改定を来年に控えているので、日本慢性期医療協会としての意見をまとめるべき時期にある。そこで今回は、これまでの記者会見でご説明した内容に加えて、個室の規制緩和などについて述べたい。
 
 資料の青字部分がこれまでのまとめ。今回新たにお話しするのが赤字部分の「個室化」である。

.

01__記者会見資料_20230209

.
 
 本日の内容は次の5項目である。「令和6年度診療報酬改定に向けて ~寝たきり防止と人材確保~」というテーマでご説明したい。

.

P2記者会見資料_20230209_Final3

.

寝たきりをつくらない、なくす

 当協会の考え方(基本方針)は寝たきり防止である。急性期で寝たきりをつくらない。慢性期で寝たきりをなくす。そのためには、医療・介護人材の確保が必要である。

 高齢者が健康で、社会に参加し続けることが理想である。しかし、実際には、平均寿命と健康寿命との差であるおよそ10年は寝たきりであり、その数も増加している。
 
 寝たきりの発生は、医療・介護費用の増加を招くだけでなく、介護離職など若い世代にも影響を及ぼしている。
 
 令和6年度の同時改定を契機とし、寝たきりをつくらないこと、寝たきりをなくすこと、そして、それを担う医療・介護人材の確保に取り組まなければならない。

.

寝たきりをつくらない体制

 個別事項①として、当会が以前から提言している「急性期病院への総合診療医の配置と基準リハビリ、基準介護の体制整備」を挙げたい。
 
 急性期での専門治療後、安静状態の長期化や機能回復のための人材不足により、栄養不良や筋力低下、さらには拘縮といった、いわば医原性による寝たきりが発生している。
 
 これらを防止するには、急性期病院に総合診療医を配置し、患者を総合的にマネジメントする必要がある。
 
 また、理学療法士などのリハビリ療法士や介護福祉士を基準として病棟配置することにより早期離床を促進する。リハビリなどを通じてADLを積極的に支援し、寝たきりをつくらない体制の整備が求められている。

.

医療と介護のシームレス化

 個別事項②は「医療と介護のシームレス化の推進」である。機能分化の推進により、1人の患者を複数の医療機関や介護施設が受け持っている。
 
 それぞれの強みを活かす仕組みではあるが、情報やケア内容がそれぞれで分断されている面もある。
 
 シームレスに連携するには、カルテ共有のほか、評価指標の統一や医療介護全体を通してマネジメントするメディカルケアマネジャーの創設なども有効である。
 
 ケアマネジャーは現在、主に介護分野で活躍されているが、シームレス化を進めるために介護分野だけではなく医療分野にも精通したケアマネジャーが必要である。いわゆる「メディカルケアマネジャー」が全体をマネジメントする必要がある。当会では「メディカルケアマネジャー」の研修を実施している。
 
 また、同じ職種、同じ仕事であっても医療と介護で給与水準が異なる処遇改善加算(介護保険)は、人材の分断を招いている。医療・介護分野において同じ仕組みにすべきではないか。

.

アウトカムを重視した報酬体系

 個別事項③は「医療療養病床と介護領域におけるアウトカムを重視した報酬体系の構築」である。
 
 医療療養病床には「医療区分」があり、介護保険には「要介護度」がある。いずれも現在の患者の状態を評価し、医療・介護提供者の負担を評価した指標である。
 
 しかし、重度の人は重度のまま評価し、重度になるほど点数が高くなる仕組みだけでは寝たきりをなくすことはできない。
 
 頑張ってリハビリして状態を改善すれば点数が高くなり、ADLを上げて要介護度を下げれば点数が上がるような仕組みにすればスタッフのモチベーションも向上する。
 
 そのため、治療やリハビリによって症状を軽快し、機能を改善するアウトカム評価を積極的に導入すべきである。
 
 慢性期医療では、悪化させない疾患・状態と改善すべき疾患・状態が混在している。例えば脳梗塞や肺炎の患者さんが慢性期医療の病院に来られる。発症から何年も経過した脳梗塞は完治できないが、肺炎は適切な治療によって治すことができる。

 そこで、医療療養病棟のDPCデータも活用し、治療に係るプロセスと治療の成果であるアウトカムの両面が評価される報酬体系の構築が必要である。

 スライドのタイトルは「医療療養病床」としているが、私たちは「慢性期治療病棟」に変えていきたい。慢性期の状態を治療しているので、これをきちんと評価していただけるよう、プロセスのアウトカムを出していきたい。

.

専門性の評価と物価に応じた報酬設定

 個別事項④は「専門性を活かした役割への評価と物価に応じた報酬設定
」である。

 医療・介護体制を維持するには、魅力ある仕事と給与を提供し、人材の確保に努めなければならない。
 
 チーム医療や多職種協働などで専門性を発揮し、スタッフのやりがいを向上させ、それによって高まった医療の質に対しては加算で評価していただくことが望まれる。
 
 また、診療報酬が職員給与の原資となる医療では、近年の物価高に応じたプラスがなければ賃上げすることもままならない。委託費や材料費など全ての物価が高騰する中、物価変動に応じた診療報酬が設定されることを望みたい。

.

個室は感染症等に強く、療養環境を高める

 今回の新型コロナウイルス感染症対策として個室の重要性が改めて認識された。個別事項⑤は「感染防止と療養環境改善に寄与する個室の規制緩和と加算対応」である。

 コロナ対策として個室対応が評価された。個室入院が感染拡大期だけでなく通常時より行われれば、クラスターを防ぐ手段として有効だろう。
 
 また、治療が必要な患者に他人に気兼ねない療養環境を提供し、活動性を高めるためにも有用であるのが個室である。
 
 個室化は建築面積などコストアップが伴うことから特別な療養環境として差額室料の徴収が不可避だが、その基準は病床数の5割以下と定められている。例えば、100床が全室個室でも差額室料の徴収は50室までである。
 
 個室は感染症等に強く、かつ療養環境を高めるため、本規制の緩和や加算措置が望まれる。

.

差額室料の基準を緩和すべき

 個室の規制緩和と加算対応について具体的に説明する。まず、特別の療養環境(個室)の提供について。

.

10__記者会見資料_20230209

.

 療養環境の向上ニーズに対応するため、別途負担(差額室料)により提供する。病床割合は微増傾向にある。
 
 差額室料の徴収が可能な「特別療養環境室」の要件として、①病室の病床数は4床以下、②病室の面積は1人当たり6.4㎡以上、③病床ごとのプライバシーの確保、④特別の療養環境として適切な設備を有する──という基準が定められている。

 また、医療機関が患者さんに特別療養環境室を提供する場合の履行事項も定められており、①分かりやすい掲示(特別療養環境室のベッド数・場所・料金)、②患者さん側への明確かつ懇切丁寧な説明、③患者さん側の同意の確認(料金等を明示した文書に患者さん側の署名を受けること)が必要である。
 
 スライドの右側を見ていただきたい。特別の療養環境に係る病床数はこの20年間ほぼ横ばいで、全体の2割にとどまっている。8割は差額室料を取っていない。
 
 先ほどご説明したように、100床の場合は50床しか取れないという規定があるので、ここを緩和していただきたい。

.

差額室料を徴収できない場合は加算で

 新型コロナ感染症は多床室の脆弱性を浮き彫りにした。特例措置により個室対応が可能となったが、通常時には医療機関の負担となる。 

.

11__記者会見資料_20230209

.
 
 スライド左側は当院の例。青い丸が陰性患者、赤い丸が陽性患者である。4人部屋で1人陽性者が出ると必ず他の人にも感染してしまう。多床室での感染拡大は抑えにくい。2人部屋では、すぐに個室に移せばクラスターになる割合が少なかった。
 
 コロナ特例措置において、回復後患者の個室受け入れを「二類感染症患者療養環境特別加算(個室加算:300点)」として評価していただいたが、これは特例措置である。
 
 では、特例措置がなくなったらどうなるのか。スライドの右側をご覧いただきたい。特別療養環境室に係る費用(差額ベッド代)の負担を患者さんに求めてはならない場合として①~③があり、このうち②と③が問題になる。
 
 すなわち、特別の料金を求めてはならない場合として、①患者さん側の同意について、医療機関が同意書で確認を行っていない場合、②「治療上の必要」により特別療養環境室に入院した場合、③病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院することとなった場合であって、実質的に患者さんの選択によらない場合──という3要件がある。
 
 このうち②については、例えば免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者さんは「治療上の必要」により入院させる場合に該当するので、差額室料を徴収できない。
 
 また、MRSA等に感染している患者で、他の入院患者の院内感染を防止するため個室に移す場合には「実質的に患者さんの選択によらない場合」に該当するので、差額室料を徴収できない。
 
 このように感染症対策のために個室に移っていただく場合には差額室料を徴収できないので、加算で対応していただきたい。高齢化に伴い感染症対策もさらに求められる。新たな感染症が発生する恐れもあるので、加算での対応が必要と考える。

.

多床室は不快な「特別の療養環境」

 ここで「特別の療養環境」について考えたい。実は、多床室こそ「特別の療養環境」ではないか。

.

12__記者会見資料_20230209

.

 治療の必要な患者にとって、個室は特別な環境ではない。他人に気兼ねせず自由度も高まるため、活動性の向上も期待できる。
 
 今の日本で他人と一緒に寝起きする環境は少ない。しかし、病気になって多床室に入ると、他人との共同生活がスタートする。そこでは同室者との相性もあるだろうし、隣の人の会話やいびき、テレビの音も気になる。カーテン1枚で仕切られ、プライバシーは不十分。活動場所はベッド上のみ。療養環境として非常によろしくない「特別な環境」である。
 
 多床室では、日常より明らかに劣る環境での入院生活を強いられ、医療現場では、いびきなどの生活音に関するクレーム対応が頻発する。こういう不快な環境にこそ「同意書」が必要なのではないか。

.

活動性を高め、リハビリ効果も違う

 個室は活動性を高める。私が運営している病院の例を紹介する。

.

12抜粋__記者会見資料_20230209

.

 左側は新しい千里リハビリテーション病院(個室)、右側は1982(昭和57)年に開設した橋本病院(多床室)。1日あたりの歩数はこのように違う。
 
 居室の中でどれぐらい動いているか。千里リハビリテーション病院は1日に879歩も歩いているが、橋本病院は192歩しか歩いていない。
 
 慢性期では入院期間が長期になるので、何カ月も経つとADL、活動性に差が出る。リハビリの効果にも大きく影響する。
 
 日常よりも明らかに劣る環境での入院生活が果たしてどうなのか。夜中に隣の人が電気をつけたり、隣の人の食べ物の匂いがしたりする環境。活動する場所はベッド上のみでADLに差が出る。ぜひ個室化を進めていきたいと思う。

.

個室化促進への施策を

 まとめになる。個室化の促進に向けた施策が求められる。

.

13抜粋__記者会見資料_20230209

.

 個室化は建築コスト等が必要となる。そのため、感染防止などの医療的な必要性がある場合には加算で対応し、患者が個室を希望する場合などは個室率の5割規制を緩和してはどうか。

 病室は全て個室が望ましいが、地域の実情や患者の経済面を考えて多床室を残す必要もあるので、患者の意思であれば個室率を緩和することも考えていい。地域や所得の状況によって患者さんが選択できる余地を残すことは必要である。
 
 最後に、第10回慢性期リハビリテーション学会をご案内する。3月9日、10日に「出島メッセ長崎」で開催する。

.

14__記者会見資料_20230209

.
 
 栗原正紀先生(一般社団法人是真会理事長)が学会長を務め、テーマは「地域包括ケアを推進する力の結集 ~その人らしい生活を支えるために~」としている。ぜひ参加していただきたい。私からの説明は以上である。

.

15__記者会見資料_20230209

.

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »