クラスター時の特例的な評価が重要 ── 介護施設のコロナ対応で田中常任理事

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20230915_介護給付費分科会

 介護施設におけるコロナ特例の対応案や今後の感染症対策に向けた論点などが示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「入院が長引きがちなコロナ患者を介護施設で治療し、医療崩壊を回避できた」と振り返り、「引き続きクラスター時の特例的な評価が重要」と指摘した。

 厚労省は9月15日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第224回会合をオンライン形式で開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 この日の主なテーマは、①令和6年度介護報酬改定に向けた検討、②今後の新型コロナウイルス感染症の退院患者受入に係る特例的な評価──の2項目。このうち①については、資料1から6に示された論点を踏まえて議論した。
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01スライド_資料一覧

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 また、議題②については、資料7で「令和5年10月以降の対応案」が示され、了承された。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。
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02スライド_P5(対応案)

【田中志子常任理事の発言要旨】
 資料1と7のコロナ関連について、まとめて発言する。現在、取りまとめに入っている老健事業の調査によると、2類の時点において老健で発生したコロナ患者が1万6,000名以上、介護医療院でおよそ4,000名という莫大な人数であった。そのうち病院へ搬送されたのは老健でも約2,000人、介護医療院においてはわずか500人で、いずれも13%程度だった。入院が長引きがちなコロナ患者を介護施設がそのまま治療しているということで医療崩壊を回避できたと言っても過言ではないと考えている。引き続きクラスター時の特例的な評価が重要だと思う。
 世間では日常が戻り、経済活性化をしていても、施設ではまだまだ感染下の状況が続いている。入所時の説明では、感染に気付かない無症状のコロナ陽性職員が勤務に就くことがあるため、寝たきりでどこにも出かけない状況であってもコロナ感染症にかかる可能性があるというようなことを必ずお伝えしなければならない。実際に、現在もいくつもの施設がクラスター、または職員がパラパラと感染し、勤務に就けない状況である。引き続き2類時と同等の人員配置要件の緩和の措置をお願いしたい。
 次に、資料7のアフターコロナの退院患者の受け入れについて。老健事業の調査によれば、老健で42%、介護医療院で28%と、それぞれ平均で3人から4人のアフターコロナの患者を受け入れているという事実があった。アフターコロナの高齢者は、すぐに元気になるわけではなく、ケアの分量は増えており、脱水になりがちで点滴処置を受けるような方も少なくない。そうした医療的な課題もはらんでいるので、引き続きアフターコロナについても特例的な評価が現場にとっては本当に必須であると思っている。

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在宅でサービスを受ける者との公平性

 令和6年度介護報酬改定に向けた検討では、多床室の室料負担をめぐる議論があった。厚労省は同日の資料4「制度の安定性・持続可能性の確保」のテーマとして、①報酬体系の簡素化、②多床室の室料負担──を挙げた。

 このうち②については、老人保健施設と介護医療院の多床室の室料を保険給付の対象外とすることについて、見直しに慎重な立場と積極的な立場の両論を併記。「介護保険料の上昇を抑える」とした骨太方針2023の記載などを紹介した上で、「在宅でサービスを受ける者との負担の公平性」を論点に挙げた。
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03スライド_資料4のP26(論点)

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平均在所日数が長く、死亡退所も多い

 質疑で、吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は介護保険三施設における入所・退所者の状況から「特養以外の施設も一定の事実上の生活の場と考えられる」とした上で、「老健および介護医療院が生活の場なのか医療の場なのか、判断基準を整理・明確化した上で室料負担の在り方について検討を深めていくべき」と述べた。

 伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)も介護保険三施設の入所・退所者の状況に言及。「老健の平均在所日数は300日以上と非常に長い。「介護医療院は長期療養および生活の施設という位置づけで死亡退所も多い」と指摘した。

 その上で、伊藤委員は「在宅と施設の公平性を確保する観点から、老健施設あるいは介護医療院の多床室の室料相当額を基本サービス費から除外し、利用者負担とする見直しを行っていくべき」と主張した。

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老老介護などの生活実態も考慮すべき

 これに対して、正立斉委員(全国老人クラブ連合会理事・事務局長)は三施設について「機能が異なる」とし、「特養は生活施設、老健はリハビリを通した在宅復帰を目指す中間施設、介護医療院は医療が必要な長期の療養施設」との認識を提示。「果たす機能も居住スペースも異なるのに特養と同じように論じることは疑問」とした。

 正立委員はまた、在宅と施設の利用者負担の公平性について「高齢世帯のどちらか1人が施設に入所したからといって、残された人は家を手放すわけにもいかず、借家の場合には家賃や管理費を支払うことに変わりはない」と指摘した。

 その上で、正立委員は「利用者自身が在宅でサービスを受けたくても老老介護などの生活実態から在宅ではなく施設を、また経済的な理由から個室でなく多床室を選ばざるを得ないような選択の余地がない人もいる」とし、「このような利用者にも負担を求めるような多床室の室料負担の導入には反対」と述べた。
 
 田中常任理事も「ホテルコストを自宅と二重に支払うということが起こりうる」とし、室料負担の導入に反対の立場を示した。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 以前の議論の中で、個室料をいただくほどの広さがないことから算定に至らなかったと聞いている。 わずか四畳半ほどの広さの老健では、カーテンで区分けをされている施設がほとんどであり、また介護医療院にあっても仕切り家具が置いてあるのみで、天井はつながっている。個室であると判断するのは倫理的にもどうかと思う。
 また、直近の調査では、老健、介護医療院の入所者とも、その住所、住民票が自宅である者が95%であった。特に老健では、「ときどき入所、ほぼ自宅」を実現している利用者も多く、戻れる部屋を確保している方も多いのが現状である。正立委員もおっしゃっていたように、ホテルコストを自宅と二重に支払うということが起こりうると思う。室料負担の導入は見送るべきだと思う。

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身体拘束のガイドライン、「見直しが必要」

 資料5「高齢者虐待の防止/介護現場における安全性の確保、リスクマネジメント」では、「高齢者虐待防止対策を促進する方策」を中心に意見を求めた。
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04スライド_P44(論点)

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 介護現場の安全性の確保については、「介護保険施設以外の介護サービスにおける事故防止対策」などを論点に挙げた。

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05スライド_P46(論点)

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 田中常任理事は身体拘束のガイドラインについて「見直しが必要」としたほか、経済的虐待の防止に向けた支援の必要性も指摘した。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 資料6ページ(調査結果)で、「高齢者虐待の相談・通報、虐待判断件数は高止まりしている」との報告をいただいたが、現場の感覚としては、コロナ禍で通報が減ったように見えた可能性があるのではないかと危惧する。コロナ明けに、しっかりと再調査をしてほしいと思う。
 また、身体拘束については、ガイドラインの創設から20年以上経過しており、医療依存度が高くなるなど患者像も若干変化しているので、病院における身体拘束廃止の推進と併せて、ガイドラインの見直しが必要と考える。
 昨日まで病院で身体拘束をされていた方が今日から介護施設に入所となって、状態が大きく変わっていなくてもケアの方法や環境調整により、病院で行われていた身体拘束が不要というようなケースもある。その工夫、技術などを横展開し、トリプル改定に向けて、分野を超えて広く身体拘束廃止に取り組む必要があると考える。
 最後に、本人の年金が本人に十分活用されてないといった親族等からの経済的虐待については、まだまだ当事者同士も含めて気づきにくく、把握が足りないのではないかと考える。認知症の方への経済的虐待については看過されがちであると思う。先ほど老健課長にお尋ねしたところ、そういった細々としたところの調査はまだであるとお聞きしたので、改めて調査を希望する。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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