「新しい複合型サービス」に慎重論、「必要性を感じない」と田中常任理事

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介護給付費分科会_20230830

 令和6年度の介護報酬改定に向けて、訪問や通所系サービスなどを組み合わせた「新しい複合型サービス」の創設が提案された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「必要性を感じない」との考えを示した上で、「複雑なサービスを増やすのではなく、現存するサービスの規制緩和を先行してはどうか」と指摘した。

 厚労省は8月30日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第222回会合をオンライン形式で開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 この日の主なテーマは、「認知症への対応力強化」「人生の最終段階の医療・介護」「新しい複合型サービス」など5項目。厚労省は同日の分科会に資料1から5を示した上で、各テーマについて論点を挙げ、委員の意見を聴いた。
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00_資料一覧

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様々な介護ニーズに柔軟に対応できる

 この日の会合で議論があったのは、資料3「新しい複合型サービス」について。資料説明で厚労省の担当者は訪問介護員の人手不足の現状を示した上で、通所と訪問の併用者が半数近くに及ぶことや、通所と訪問の事業所を共に運営している法人が半数以上である状況を示した。

 その上で、訪問と通所サービスを併用するメリットを紹介。①訪問サービスと通所サービスを通じて、切れ目のないケアを受けることができる、②通所で明らかになった利用者の課題を訪問でフォローするなど、より質の高いサービスが受けられる、③キャンセル時にサービス内容を切り替えるなど状態の変化に応じた柔軟なサービスが受けられる──と指摘した。

 こうした現状や課題を踏まえ、「居宅要介護者の様々な介護ニーズに柔軟に対応できるよう、複数の在宅サービス(訪問や通所系サービスなど)を組み合わせて提供する新たな複合型サービスを創設することについてどのように考えるか」との論点を示した。

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01_【資料3】新しい複合型サービス_ページ_20

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複合型サービスの創設には意義がある

 質疑の冒頭、吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は「利用者のより適切な把握に役立つのみならず、家族のレスパイトケアにも役立つ」と評価した上で、「現状の小規模多機能型居宅介護や看護小規模多機能型居宅介護などとの棲み分け、整理も必要」との課題を挙げた。

 古谷忠之委員(全国老人福祉施設協議会参与)も「複合型サービスの創設には意義がある」と評価。「通所介護と訪問介護をともに利用している人の割合が46%あり、また事業所においても半数以上が両事業を行っている」と指摘した上で、「人材の有効活用や柔軟な対応による質の高いサービスの提供が期待できる」と歓迎した。
 
 伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)も賛同した。「利用者のニーズ等を踏まえると、複合型サービスの創設を検討する必要がある」と前向きな姿勢を示した上で、「これまで各サービスを併用してきた場合に比べて利用者の負担が重くなることがないよう慎重に検討すべき」と注文を付けた。

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制度の複雑化・負担増につながる

 一方、鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)は「ホームヘルパーを増やす対策ではなく、デイサービス職員にも訪問介護をしてもらおうというプランに見える」と指摘。「新しいサービスをつくったとしても事業所は増えないのではないか」と懸念し、「本人や家族にとってはサービスの後退」などと苦言を呈した。

 井上隆委員(日本経済団体連合会専務理事)は「新しい複合型サービスのメリットが整理されているが、よく見ると、いずれも事業者間の情報連携で済む課題ではないか。なぜ、この新たなサービスが必要なのか」と疑問視。「新たなサービスをつくると制度の複雑化にも負担増にもつながる可能性が高い」と慎重な姿勢を示した。 

 東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「先ほどの井上委員の発言と、ほぼ同じ意見。現在のスキームで、しっかりと情報連携することにより解消できるものばかり」と一蹴。「現状でさえ介護保険制度が複雑であると指摘されているにもかかわらず、屋上屋を重ね、さらに複雑化することには反対」とし、「新しい複合型サービスがないと現場が成り立たないというエビデンスもあるとは言えない」と述べた。

 田中常任理事も「情報共有などで解消できる」との認識を示した。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

■ 新しい複合型サービスについて
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 新たな複合サービスについては、これまでの東委員をはじめ、ほかの委員の方々と同様、私も必要性を感じない。
 地域密着サービスのもとで行われるという説明であったが、逆に地域密着型サービスによって隣接する自治体の利用者が利用しにくい制度であるという見方もできる。むしろ現場感覚では、自治体またぎの手間を軽減することを検討してほしい。情報共有や職員同士の兼務によって、現状のサービスで解消できるのではないか。複雑なサービスを増やすのではなく、現存するサービスの規制緩和を先行してはいかがだろうか。

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生活能力を高く評価する尺度が必要

 この日の会合では、「認知症への対応力強化」もテーマになった。論点では、「認知症の認知機能・生活機能に関する評価尺度について、今後、介護現場においてどのような活用が考えられるか」などを挙げている。
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02_【資料1】認知症への対応力強化_ページ_38

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 田中常任理事は「残存する認知能力だけでなく生活能力を高く評価する尺度が必要」との考えを示した。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

■ 認知症への対応力強化について
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 認知症基本法が成立し、ますます認知症の方々が地域住民として当たり前に社会参加、社会貢献を推進することが求められている。
 「全世代・全員活躍型」と言われる今、高齢者であっても就労、あるいは就労的な活動への参加が進んでいるが、軽度認知症や前期高齢者の認知症の方々もいろいろな可能性を秘めているので、単にお世話される側に回るのではなく、支援者の見守りや声かけのもとで、まちの花壇を手入れするとか空き家の草をむしるなど、まだまだ仕事としての対価や、やりがいを持ち、働ける時間を確保することが望ましいと考える。
 そういった方々に通所系サービス等を利用していただき、支援すると同時に、その方々の残存する認知能力だけでなく生活能力を高く評価する尺度が必要と考えている。

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本人の意思が聞き取れない状況での支援は

 「人生の最終段階の医療・介護」については、「本人の尊厳を尊重し、意思決定に基づいた医療・介護を提供するための医療・介護従事者の連携や支援の在り方、情報共有の在り方」が論点に挙がった。
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03_【資料2】医療・介護連携、人生の最終段階の医療・介護_ページ_84

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 田中常任理事は「本人の意思が聞き取れない状況になってからの在り方をもっと明確に示してほしい」と指摘した。

■ 人生の最終段階の医療・介護について
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 人生の最終段階のケアに関しては、我が国ならではの看取りのガイドラインという考え方のもとに、ご本人の意思が聞き取れない状況になってからの在り方をもっと明確に示してほしいと考えている。

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移動手段、コストなど「更なる分析が必要」

 4番目のテーマ「地域の特性に応じたサービスの確保」の論点では、「どの地域においても必要なサービスを確保していく観点」などを挙げている。
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04_【資料4】地域の特性に応じたサービスの確保_ページ_39

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 田中常任理事は「移動手段、移動距離、訪問回数が地域によって違う」と指摘。必要なコストなどを踏まえ、「更なる分析が必要」と提案した。

■ 地域の特性に応じたサービスの確保
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 資料31ページ(訪問介護、訪問看護、小規模多機能型居宅介護におけるサービスの提供状況)に示されているように、訪問介護、訪問看護とも移動手段、移動距離、訪問回数が地域によって違うことが見てとれる。
 最長移動時間が変わらなくても、かかるコストが違うことや、訪問を行っている回数や利用人数が違うことから、クロス集計を見ると、離島・中山間地域での効率の悪さが想像できる。更なる分析が必要であると考える。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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