出産費用の見える化で「炎上や独り歩きの危険も」 ─── 医療保険部会で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_20230907

 全国の分娩施設の出産費用を公表するウェブサイトのイメージが示された厚生労働省の会合で、より詳細な情報公開を求める意見があった。日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「全てガラス張りにしたから情報が正しく伝わるとは限らない。ネット社会では炎上したり情報が独り歩きしたりする危険性もある」と指摘した。

 厚生労働省は9月7日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第167回会合を開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 来年4月からスタートする出産費用の「見える化ウェブサイト」を作成するため、厚労省は同日の部会に「出産費用の見える化等について」と題する資料を提示。その中で、公表内容やサイトのイメージを紹介し、委員の意見を聴いた。
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スライド01_P3抜粋_【資料2】出産費用の見える化等について_20230907

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出産費用の内訳がない

 質疑では、保険者側から「今回のイメージ案は極めて不十分」といった声が相次いだ。
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スライド02_P22抜粋_【資料2】出産費用の見える化等について_20230907

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 佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「見える化の項目のうち、出産費用については費用総額の平均額だけが示されており、その内訳が全く記載されていない」と苦言を呈した。

 その上で、佐野委員は「単なる総額だけではなく、直接支払制度の専用請求書に記載されている分娩料等の項目ごとに、医療サービスと費用の内容をわかりやすく丁寧に説明する必要がある。異常分娩があった場合の費用の違い等の情報提供も極めて重要」とし、原案よりも詳しい情報公開を求めた。他の委員からも同様の意見が相次いだ。

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かえって妊婦の方々にわかりにくい

 これに対し、猪口雄二委員(日本医師会副会長)は公表事項の⑤に言及。「直接支払制度の請求書の内訳項目ごとの費用を妊婦に公表することは提供する情報が複雑になりすぎる。かえって妊婦の方々にわかりにくいものになりかねない」と懸念した。
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スライド03_P4抜粋_【資料2】出産費用の見える化等について_20230907

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 その上で、猪口委員は「もともと正常分娩は自由診療であり、個々の診療行為について点数を積み上げて計算されるものではないため内訳を示すことは困難であるし、費用の定義も共通化していない」とし、「本日提案されている内容で進めるべき」と反論した。

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ランキングサイトが出てくる

 意見が対立するなか、佐賀県多久市長の横尾俊彦委員(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長)が発言。「これから先を想定して気になることがある」と切り出し、「こういうデータが出ると、民間で特別なサイトを作る会社が出てくる。ランキングを付けたり、コメントや評価を貼り付けたりもすることもありうる」と指摘した。

 その上で、横尾委員は「一人ひとりの妊産婦や赤ちゃんをしっかりケアすることに労力やエネルギーを割いている施設のサイトはパッとしないかもしれないが、地域や新生児、妊産婦を大切に思い、志のある尊い仕事をしている施設がある」と強調。「広報予算をたくさん投じた施設だけが目立ってランキングが上がってしまうようでは本来の趣旨と違ってしまう」と懸念した。

 今後に向けて横尾委員は「本当に奮闘されている医師やスタッフ、関係者が正しく評価されるようなムードをつくっていただきたい。それが全国の出産・子育てのサポートになるし、日本の医療の充実にもつながる」と述べた。

 ここで池端副会長が挙手。「横尾委員がおっしゃったことは非常に重要だ」と賛同し、次のように語った。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 今、横尾委員がおっしゃったことは非常に重要だと思って手を挙げさせていただいた。こういう見える化というものは、何でも全てガラス張りにしたから情報が正しく伝わり、良いものができるとは限らない。それがどう評価されて、どのように理解されるか。それによって、ずいぶん変わってしまうことがある。
 横尾委員がおっしゃっられたように、公表されたデータを加工してランキング付けするようなことがあると、何らかのバイアスがかかっていたり、ひょっとしたら間違ったランキングになったりして、非常に怖い、あるいはリスクが非常に高いものもあるかと思う。
 語弊があるかもしれないが、例えば、病院のランキングや、がん医療などのランキングもある。 もちろん素晴らしい病院がランキングの上位になっていることもあるが、私たち医療者の目から見て、「必ずしもそれだけではないな」と思うのにランキングは高くなっている場合も十分にある。見える化については、本当に慎重に進めるべきである。 
 皆さんは「もっと早く見える化を」「もっとガラス張りに」とおっしゃるが、まずは今までブラックボックスのように感じていた情報を一定程度まで出して、今後それがどう評価されて、正しく評価されていくのかを慎重に見極めながら、さらに必要な情報があれば検討し、慎重に広げていくという2段階、3段階の構えで進めなければいけない。
 ネット社会なので、あっという間にとんでもないことが起きたり、場合によっては炎上したり、見せ方が上手な所の情報がどんどん独り歩きしたりする危険性もある。情報の見せ方によって伝わり方が変わってくることもある。こうした問題点などを皆で共有しながら、より良い見える化をしていただければいい。 
 そのためには、一定程度の時間は必要ではないかと感じている。先ほど猪口委員がおっしゃったように、まず第一歩としては今回の提案内容で進めていくべきだと思う。

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紙レセプトでの請求は「経過的な取扱い」

 この日の部会では、オンライン資格確認等システムも議題に挙がった。厚労省は同部会に同システムで管理する情報の保存期間やオンライン請求の推進に伴う対応案などを示し、大筋で了承された。

 「オンライン請求の推進に伴う所要の見直し案」では、「紙レセプトでの請求について、経過的な取扱いであることを明記し、令和6年4月以降も継続する場合には、改めての届出を求める」とし、同年4月以降は、こうした届出を行った保険医療機関・薬局が「紙レセプトでの請求が認められているもの」としている。
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スライド04_P7抜粋_【資料1】オンライン資格確認等について_20230907

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 厚労省保険局医療介護連携政策課の竹内尚也課長は「今般、省令改正を行い、現在、紙レセプトが認められる場合の規定を本則から削除して経過措置附則のほうに書き直す改正を行うこととしており、この請求省令の改正に伴い、療養担当規則等の規定について所要の改正を行う必要がある」と説明。今後については、「まず本日、医療保険部会の場において、こうした方針の資料を示し、療担規則等の改正については改めて中医協にお諮りしたい」と述べた。

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レセプト請求のオンライン化、「丁寧に慎重に」

 質疑で、猪口委員は「オンライン請求の免除対象となっている医療機関は、高齢等の理由で免除されたもの」とし、「令和6年4月以降も引き続き同様の体制であるならば当然、免除措置も継続されるべき」との考えを示した。

 その上で、猪口委員は「今回、改めて届出が必要になると明記されているので、届出漏れがないように十分な周知をお願いしたい」と要望した。

 池端副会長は、高齢で小規模な診療所などにも配慮する必要性を指摘。「丁寧に慎重に進めていただきたい」と求めた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 猪口委員と重なる点もあるが、7ページの「オンライン請求の推進に伴う所要の見直し(案)」について述べる。2つ目のポツの2行目に「紙レセプトでの請求について、経過的な取扱いであることを明記し」とある。私はオンライン請求の推進に反対ではなく、できるだけ紙請求をなくしてオンライン請求に一元化していこうという方向性は十分に理解しているつもりである。 
 ただし、患者さんの少ない地域で高齢の医師が細々と一生懸命にやっておられることを考えると、あまりにも過度に、拙速にオンライン請求を求めることになっては本末転倒ではないかと思っている。そういう意味で、ぜひ丁寧に慎重に進めていただきたい。
 2000年にスタートした介護保険制度では、最初から原則オンライン請求を中心にして、紙レセプトをどんどん減らしていこうという方向性があったと思う。それから20数年が経った。患者さんが非常に少ない小さな診療所等かもしれないが、紙レセプトはまだ残っているのではないか。それがどの程度の割合なのかを参考にしながら進める必要がある。全てゼロにするのは相当ハードルが高いと思うので、介護保険のオンライン請求の現状も踏まえて丁寧に慎重にやっていただきたい。
 そこで質問だが、介護保険におけるオンライン請求の現状はどうなっているか、おわかりであれば教えてほしい。次回以降でも結構なので、その状況なども比較しながら、オンライン請求が進んでいくように少しずつ取り組んでいただきたい。

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【厚労省保険局医療介護連携政策課・竹内尚也課長】
 介護保険における紙レセプトによる請求についての数字は手元にないので、改めて確認して報告させていただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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