介護職員の処遇の差は、ケアの質にも差 ── 介護給付費分科会で田中常任理事

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2021年7月28日の介護給付費分科会(オンライン開催)

 令和3年度の介護報酬改定を踏まえ、介護職員の処遇改善加算などの調査がテーマとなった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は処遇改善加算の対象となっていない施設の実態も調べる必要性を強調し、「処遇等に差があるようであれば、ケアの質にも差が出てくる可能性がある」と指摘した。

 厚労省は7月28日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第202回会合をオンライン形式で開催し、当会からは田中常任理事が委員として参加した。

 厚労省は同日の分科会に、「令和3年度介護従事者処遇状況等調査の実施案」を提示。コロナの影響を調べる項目などを新たに設けるほか、今改定で算定要件を見直した介護職員処遇改善加算について、給与等の引き上げ以外の処遇改善の取組に関する調査項目を見直す方針などを説明した。提案はおおむね了承された。
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特定施設の有料老人ホームは約3分の1

 今回の調査では、特養や老健、介護医療院のほか、「特定施設入居者生活介護事業所」も対象としている。

 しかし、厚労省の担当者によると、全国の有料老人ホームのうち特定施設として指定を受けているのは3分の1程度にとどまっている。

 このため、指定を受けていない約3分の2の有料老人ホームに勤務する介護職員は同加算の対象となっておらず、改定の効果を調べる今回の調査対象から外れている。
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【資料1】令和3年度介護従事者処遇状況等調査の実施について(案)_ページ_2

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利用者にデメリットが生じない対策を

 質疑で田中常任理事は、「今後はサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)や有料老人ホームなども調査対象として検討していく必要があるのではないか」と問題提起した。

 田中分科会長は「今回の調査では難しいかもしれないが、将来の調査の方向についての問い合わせである」と厚労省側の見解を求めた。

 厚労省老健局老人保健課の平子哲夫課長は「介護保険の対象外となっている施設については、こうした処遇改善と、なかなか関係がしにくいということで対象外となっている」と説明。田中常任理事は「介護職員の処遇によって利用者にデメリットが生じないような対策を講じる必要がある」と述べた。

 この日の会合では、居宅介護支援事業所単位で抽出するケアプラン検証に関する報告もあった。田中常任理事は地域の実情に配慮した対応などを求めた。

 田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

■ 令和3年度介護従事者処遇状況等調査の実施案について
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 処遇改善のアンケートに関して、現状では、このアンケートは処遇改善加算の対象事業者に限られている。サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームは入っていない。
 一方、今年度の4月1日に厚労省より発令された「有料老人ホームの設置運営標準指針」では、認知症の研修を受講するようにというガイドラインが出されており、現に7月1日から適用されるという状況になっている。
 これらの施設に入られている高齢者は、処遇改善加算の対象事業所の利用者と同様の利用者や患者が入られていることが多く、介護従事者に処遇改善等がどう影響しているかという調査であれば、今後はサ高住や有料老人ホームなども調査の対象として検討していく必要があるのではないかと考えている。
 前回同様という方法でアンケートを繰り返していくと、これらの増えている施設がいつまでも入ってこないという状況になろうかと思う。今後、こういった施設に対しての調査が行われるかどうかについて、お考えをお聞かせいただければと思う。

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〇田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)
 今回は難しいかもしれないが、将来の調査の方向についての問い合わせである。いかがだろうか。
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〇厚労省老健局老人保健課・平子哲夫課長
 有料老人ホームやサ高住などについても対象とすべきではないかということであるが、これについては、介護保険の対象となっているものについては特定施設の中で対象となっている。逆に言えば、介護保険の対象外となっている施設については、こういった処遇改善と、なかなか関係しにくいということで対象外となっている。このような考え方で継続した調査をさせていただければと考えている。
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〇田中分科会長
 有料老人ホームでも特定施設になっていれば調査対象には入るという答えである。
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〇田中常任理事
 それは承知している。処遇等に差があるようであれば、ケアの質にも差が出てくる可能性がある。今後は、処遇によって利用者にデメリットが生じないような対策を講じる方向性を考えていく必要があるのではないかということで意見を述べさせていただいた。
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■ 居宅介護支援事業所単位で抽出するケアプラン検証について
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 区分支給限度額の利用が7割以上で、かつ、その利用サービスの6割以上が訪問介護サービスを利用している場合に自動抽出され、保険者である市町村に情報が行くことになることについては理解しているが、地域の実情に応じて他のサービスが乏しい、また代替するサービスがない、あるいは利用者本人の希望などがある状況において、抽出された事業所が悪い事業所なのだというような誤解を保険者に与えないような、サービス選択の阻害要因にならないようなコメントを付記していただきたい。よろしくお願いしたい。
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【厚労省老健局認知症施策・地域介護推進課・笹子宗一郎課長】
 昨年の12月におまとめいただいた審議報告では、「より利用者の意向や状態像に合った訪問介護の提供につなげることのできるケアプランの作成に資するよう」ということで、検証方法として効率的で、かつ「訪問介護サービスの利用制限にはつながらない仕組み」という文言を入れている。
 こういった趣旨については、私どもとしてもきちんと周知をさせていただくとともに、かつ、この基準に該当したから悪いケアプランということでは全くないので、該当したものについては、多職種によって、より利用者の意向、状態像にあった訪問介護が提供できる可能性がないかどうかを検証いただくということである。もちろん、市町村の皆さま方、あるいは現場の皆さま方の業務負担が増大しないように留意しながら、そういった趣旨も含めて施行までの間にきちんと周知をしていきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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