介護医療院の調査、「ミスリードになりかねない」 ── 看取りの記載に田中常任理事

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2022年3月17日の介護給付費分科会

 介護医療院などの調査結果が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は看取りの状況について質問した上で、「介護医療院で適切な治療ができなかったと受け止められる。ミスリードになりかねない」と指摘した。

 厚労省は3月17日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第209回会合をオンライン形式で開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 厚労省は同分科会に、令和3年度介護報酬改定の影響などに関する調査結果を示し、了承を得た。

 今回示されたのは、①介護医療院、②LIFE、③文書負担の軽減、④福祉用具貸与価格──の4項目。厚労省の担当者が結果の概要を説明し、委員の意見を聴いた。議論を踏まえ、田中滋分科会長は「本日の資料を最終報告とする」とまとめた。

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資料1
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全員が亡くなるわけではない

 調査によると、介護医療院で「看取りを行う予定だった人は、59.5%、そのうち、予定通り看取りを行うことができなかった人は13.6%であった」としている。

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P11-1_【資料1-1】介護医療院に関する調査概要_2022年3月17日の介護給付費分科会

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 田中常任理事は「予定通り看取りを行うことができなかった13.6%はなぜ予定通り看取りを行うことができなかったのか」と質問。「肺炎やその他の疾患の治療のために病院に転院しているのか、それとも改善して退院しているのか。それによって『できなかった』の意味が変わってくる」と指摘した。

 調査を担当した参考人は「その分析はしていないが、転院や急変のケースがあったと思う」と回答。田中常任理事は「介護医療院で全員が亡くなるわけではない」と指摘し、「書き方によっては適切な治療ができなかったと受け止められるので、書きぶりを少し検討いただきたい」と述べた。

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移行を促すインセンティブを

 この日の会合では、介護医療院への移行をめぐる議論があった。保険者の立場から河本滋史委員(健保連常務理事)は「介護療養型医療施設の移行予定は27.1%が『未定』となっている」と指摘。「介護医療院等への移行が確実に進むように国や都道府県等による、さらなる移行促進の取り組みが必要」と強調した。

 一方、自治体の立場から全国市長会の長内繁樹委員(豊中市長)は保険財政への影響を懸念。「意図しない移行が大きく発生しないよう、円滑に移行が進むような対応策が必要」とし、「移行を促す必要な施策、インセンティブを検討していく必要がある」と求めた。

 調査によると、介護医療院への移行に関する保険者としての課題は、指定都市・中核市では「医療機関施設の意向把握」が55.4%、保険者では「介護保険財政への影響」が37.5%だった。

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そのままとどまりたい原因は

 今後の移行予定について、現状維持の意向を示している医療療養病床は91.2%、介護療養型老健は76.1%だった。東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「これを見たときに少しびっくりした」と感想を漏らした。

 東委員は経営面への影響を懸念。「介護療養型老健以外は5割近くが経営面に『良い影響があった』と回答しているのに対し、介護療養型老健は約3割」と指摘し、「移行よりも、そのままとどまりたい原因はこのあたりにある」と述べた。

 調査によると、移行後の経営面に「良い影響があった」と回答したのは全体で48.9%、「悪い影響があった」が5.4%だった。

 介護医療院に移行すると仮定した場合の課題は、介護療養型医療施設では「移行するにあたり工事が必要である」が最多で40.9%。医療療養病床では「施設経営の見通しが立たない」が最も多く31.5%、次いで「地域で医療機関としての機能を残すことにニーズがある」が30.4%だった。

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ケアの質につなげていくように

 ケアの質を問題にする意見もあった。小林司委員(連合総合政策推進局生活福祉局局長)は「介護医療院の開設を決めた理由では、『加算に魅力を感じた』という回答が42.8%。介護医療院へ移行してよかったことの設問では『経営面でプラス』という回答が38.1%となっている」と指摘した。

 その上で、小林委員は「ケアへの意識が変わったという回答は20%台なので、ケアの質の面につなげていくことも重要である」と述べた。

 調査によると、介護医療院へ移行してよかったことは「経営面でプラス」が最も多く38.1%、次いで「ケアへの意識が変わった」(25.9%)、「特になし」(21.9%)、「入所者・家族が生活の場として感じてくれるようになった」(21.2%)、「施設全体の雰囲気が良くなった」(17.3%)──などの順となっている。

 当会の田中常任理事は、退所者の状況に関する調査について発言。「全員が亡くなるわけでも具合が悪くなるわけでもない。介護医療院でも具合の良くなる方も一定数いる」と指摘した。

■ 介護医療院のサービス提供実態等に関する調査について
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〇田中志子常任理事
 私からは介護医療院について発言をさせていただきたい。「資料1-1」の11ページ、「介護医療院におけるサービス提供実態等に関する調査研究事業」というスライドの丸の4つ目。「看取りを行う予定だった人は、59.5%、そのうち、予定通り看取りを行うことができなかった人は13.6%であった」との記載がある。この「予定通り看取りを行うことができなかった」13.6%の方がなぜ「予定通り看取りを行うことができなかった」のか、調査してあるようであれば教えていただきたい。 
 この方たちが肺炎やその他の疾患の治療のために病院に転院しているのか、それとも改善して、いったん退院しているのか、それによっては「できなかった」の意味が変わってくるかと思う。

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〇田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)
 介護医療院における看取りについての質問。今村参考人、お答えになれるだろうか。
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〇今村知明参考人(奈良県立医科大学公衆衛生学講座教授)
 その部分については追加の分析は行っていないので不明だが、全体としては転院したというケースや急変したようなケースがあったと思っている。このケースの追跡ができていないが、主な理由としてはそういったものではないかと考える。
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〇田中常任理事
 全員が亡くなるだけでも具合が悪くなるわけでもないので、介護医療院でも具合の良くなる方ももちろん一定数いらっしゃるかと思う。 
 書き方によっては介護医療院でうまく治療ができなかったと受け止められる、ミスリードになりかねないので、このあたりの書きぶりを少しご検討いただければと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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