在院日数が在棟日数を下回る 「普通はない」と井川常任理事が指摘
高齢者らが長期入院する療養病棟について調査結果を踏まえて議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎常任理事は「在院日数が在棟日数を下回ることは普通はない」と疑問を呈した。厚労省の担当者は「在院日数と在棟日数がひっくり返っているのではないかとの指摘だが、確認をしてみたい」と述べた。
令和4年度の診療報酬改定に向けて、厚労省は8月6日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」の令和3年度第5回会合をオンライン形式で開催し、当会からは井川常任理事が委員として出席した。
この日の主なテーマは、「慢性期入院医療」について。6月30日の「急性期入院医療」、7月8日の「回復期入院医療」に続いて3回目の本格的な議論となる。
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「33%だから」という議論にはならない
療養病棟をめぐっては、来年3月末に期限を迎える経過措置(看護配置25対1)の廃止も1つの課題となっている。
厚労省は8月6日の会合に、経過措置病棟に関するデータを提示。他の病棟などへの転換意向が3割程度あることや、他の療養病棟よりもリハビリの実施率が多く、レセプト請求点数が高いなどのデータを示し、委員の意見を聴いた。
質疑で井川常任理事は、まず転換意向に関するデータの普遍性を問題視。調査のサンプル数が21施設にとどまる点を指摘し、「33%だからこうだという議論にはならないし、無理がある」との認識を示した。
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細かい分析はまだ追いついていない
さらに井川常任理事は、経過措置病棟の請求点数が高い点にも言及。リハビリの実施が多いことが要因であるとの見方を示しながらも、「経過措置の病棟は療法士も少ないので、リハビリの請求点数は減り、出来高算定できる数も減ると考えるのが自然」と指摘した。
その上で、井川常任理事は「ほかに詳細なデータの分析はされているのだろうか」と質問。厚労省の担当者は「現時点で、細かい分析はまだ追いついていない」と答えた。
療養病棟でのリハビリ実施状況について、厚労省は「入院料1及び2と比較して、経過措置(注11)を届け出ている病棟において、回数及び単位数ともに多かった」としている。
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また、1日当たりのレセプト請求点数については、経過措置(1,902点)が療養病棟入院料2(1,426点)を上回っている。
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このデータの差は一体なんだろう
経過措置病棟が他の療養病棟と異なる点として、厚労省は平均在院日数・平均在棟日数に関するデータも示した。
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これについて井川常任理事は、療養病床2では平均在棟日数(401.6日)が在院日数(326.9日)に比し非常に高い点を指摘し、「このデータの差というのは一体なんだろう」と疑問を呈した。
このほか、同日の会合では療養病棟における死亡退院や中心静脈栄養をめぐる問題なども議論になった。
■ 経過措置病棟の今後の意向について
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療養病棟入院料の今後の意向が資料43~45ページに示されている。この中で、経過措置の病棟の意向について45ページでは、「33.3%の病棟で、他の病棟等への転換の意向があった」とし、他の病棟や施設への転換意向がかなりあったと記載されている。
しかし、n数を見ると、わずか21施設であり、33%と言っても数施設しか存在しない。「33%だからこうだ」という議論にはならないというか、無理があると思う。
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■ 経過措置病棟でのリハビリについて
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資料49ページに「入院料毎の患者の検査等の実施状況」が示されている。それによると、「リハビリテーションの実施状況について、経過措置(注11)を届け出ている病棟においてリハビリテーションの実施が多い傾向であった」としている。
また、50ページでは「入院料毎の患者のリハビリテーションの実施状況」が示されており、「入院料1及び2と比較して、経過措置(注11)を届け出ている病棟において、回数及び単位数ともに多かった」としている。
すなわち、経過措置を算定している病棟では、リハビリが極めて多く実施されているという結果である。そのため、39ページに示されているように、1日当たりのレセプトの請求点数は療養病棟入院料2(1,426点)よりも経過措置(1,902点)のほうが高い結果になっている。経過措置の病棟でリハビリが多く実施されていることが、この要因になっていると推察される。
しかし、経過措置の病棟というのは療法士が少ないので、リハビリの請求点数は減り、出来高算定できる数も減ると考えるのが自然であるという感じがする。そこで、今回のデータに関して、何かほかに詳細なデータの分析はされているのだろうか。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
リハビリの実施について、入院期間が長くなってくると、なかなか算定できなくなるのではないかというご指摘だと思う。個別の詳細について、どういった患者さんの状況かを見ていない部分もあるので、現時点で、これに限った形での細かい分析はまだしていないが、53、54ページに在院日数や在棟日数を示している。
この中で、経過措置の「注11」については、在院日数、在棟日数いずれもかなり短くなっているということからすると、一般的に思い描ける療養病棟のように長く入院していて、本来であれば、リハビリの日数というものから、だいぶ逸脱する日数なのではないかというスケールから見ると、少し違うのかなと、これは感想であるが、そのように思ったりしているところである。現時点で、細かい分析というのはまだ追いついていない。
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■ 平均在院日数等のデータについて
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P53と54に平均在院日数と平均在棟日数のグラフが出ている。通常在院日数が同一病棟に入院していた日数より下回ることはないと考えているが、療養病床2では平均在棟日数が在院日数に比し非常に高い。平均在院日数は病棟票、平均在棟日数が患者票から出ているデータということを考慮しても差がありすぎるこのデータの差というのは一体なんだろうと疑問に思っている。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
療養病棟について、53ページと54ページで在院日数と在棟日数がひっくり返っているのではないかというご指摘だが、確認をしてみたいと思う。
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■ 療養病棟における死亡退院について
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死亡退院に関する意見があった。入院の理由について52ページを見ていただくと、「治療のため」が療養病棟1で69%。一方、「緩和ケアのため」「看取りのため」など、お亡くなりになることが前提で入院してこられる方も、ある程度の数は療養病床の中にはおられる。
また、療養病床は他病棟よりも在院日数が極めて長く、しかも、なかなか退院先が決まらないという方がいて、そうした方々は高齢化している。そのため、療養病床の死亡退院率はどうしても50%前後になってしまうのが現状である。
しかし、療養病床で治療していないから悪くなってしまうということがあるかと言われると、私はないと信じている。
現在、8割弱が病院で亡くなっているという現実がある。急性期病院でそれだけの数を引き受けていない以上、やはり慢性期で亡くなられる方の数は増えてしまうのだろうと考えている。
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■ 中心静脈栄養について
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中心静脈栄養に関する意見もあった。確かに、中心静脈栄養の対象患者の変化率は10%程度と少ない。本日の資料によると、令和2年度改定で要件とされた「患者・家族等に療養上必要な事項を説明する」ことにより、対象患者に変化があったと回答した施設は全体の約10%となっている。
しかし、私はむしろ10%程度が減少したのは大きな意味があると考えている。というのは、実際には急性期病院でバタバタしている中で十分な説明もないままにCV(中心静脈カテーテル)を入れられて、CVがあるからTPN(中心静脈栄養)になっている場合がある。また、これまで「胃瘻は延命治療だからやめておきましょう、TPNでいきましょう」と言われて入っていたTPNが、患者・家族への説明が義務化されたことによって、「TPNがいいんだよ」といった誤解が減り、患者・家族の希望が10%程度、減少した。これは非常に意味がある。
一方、療養病棟における問題の根幹は、医療区分3の多くがTPNの1項目のみで対象となってしまっていることだろう。
そのために、今回の調査では、説明による実施の変化だけではなく、これ以外にも「中心静脈栄養開始の契機」や「中心静脈開始からの経過日数」、「抜去の見込み」「入院中の嚥下リハビリの有無「嚥下機能障害の有無」など、非常に多くの項目を調べている。
しかし、今回の資料では、中心静脈栄養について「医療区分の該当項目の比較」と「対象患者の変化」の2項目だけが示されている。中心静脈栄養について議論していく中で、この2項目だけを持ってこられて議論をするのは、ちょっとおかしいのではないか。調査した項目の結果を全部出していただかないと議論ができないと考えている。この点に関して、事務局にお伺いしたい。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
ご意見を承った。今後の検討において、準備したいと思う。
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■ 認知症ケア加算について
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認知症ケア加算の届出が療養病棟で少ないとの指摘があった。私もそのように感じている。同加算を届け出ていない割合は、療養病棟入院料2で65.0%となっている。
なぜ取れないか。その理由についての調査結果が示されている。私は、精神科の医師がいないと、なかなか取るのは厳しいと思っている。
さらに、「専任の常勤看護師 (経験5年かつ600時間以上の研修修了)」という要件も厳しい。600時間という規定があると、20対1の病棟から看護師を出すのは実際にかなり厳しい。こうした施設基準を少し緩和していただければ改善するのではないか。
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■ 早期の栄養管理について
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当会の会員病院なども含め、慢性期病棟等には、急性期病院で原疾患の治療が終わって、後遺症や廃用となって転院してこられる方が多くおられる。残念ながら、急性期病院では栄養についてあまり関心がないようで、低栄養の状態で転院してくるケースが非常に多く見られる。
今回のコロナ禍で、慢性期の病院はポストコロナの患者さんをかなり多く受け入れたので、そのようなことを危惧していた。ところが驚くことに、大阪府のグループ病院で取っていた90例ぐらいのデータを見ると、人工呼吸器やECMOを装着した重症患者の方が軽症・中等症患者に比べて統計学上有意にアルブミン値が高い。3.3に対して3.0ぐらい。重症例なので、皆さんICUに入る。ICUに入っておられるほうが高いという結果が出てきた。早期栄養介入管理加算の成果が表れているのではないか。栄養状態が悪ければリスクが高くなり、早期の離床なども難しい。
これを機に、急性期も全部ひっくるめて、全ての病棟で、各医療機関、医療従事者が栄養について真剣に考えていただけるような政策が望まれる。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年8月7日