電子処方箋、「不安材料が山積み」 ── 医療保険部会で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2023年1月16日の医療保険部会

 電子処方箋の運用が開始される1月26日を間近に控え、現在の状況やモデル事業の取り組みなどが報告された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は個人認証や院外処方などをめぐる課題を挙げ、「不安材料が山積みされている」との認識を示した。

 厚労省は1月16日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第162回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の会合に「電子処方箋について」と題する資料を提示。全国4地域で38施設(医療機関7、薬局31)が参加している電子処方箋のモデル事業の状況や対応事例などを報告した。

 委員からは電子処方箋によるメリットに期待を寄せる意見があった一方で、周知広報のさらなる推進を求める意見が相次いだ。薬剤師の代表からは「現場がついていけない状況」との声が上がった。

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患者・国民への積極的な広報を

 質疑で、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「電子処方箋はまさに医療DX。医療費適正化につながる有用なツールとして広く利活用が進むことを大いに期待している」とした上で、「国民・患者向けの広報ツールの作成支援、対応施設の公表など、国民がわかりやすく利用できるような準備をお願いしたい」と要望した。 

 安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「複数の医療機関・薬局間での情報の共有が進むことで、重複投薬の防止や適切な薬学的管理等、患者の健康増進に大きな効果が期待される」とし、「一刻も早く全面的な導入が可能となるよう、導入促進に向けた支援策の一層の強化をお願いしたい」と求めた。

 その上で、厚労省に対し「医薬・生活衛生局と保険局をはじめ関係部局の連携を深めながら、患者・国民に向けて省を挙げて積極的な広報に努めていただきたい」と注文をつけた。

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現場がついていけない状況

 猪口雄二委員(日本医師会副会長)は「現在の電子カルテに電子処方箋を組み込む開発がどこまで進んでいるのか。現状では、運用をどんどん広めていくところまで進んでいないように感じられる」と指摘。「必要なコストをベンダーにヒアリングするなど情報収集をお願いしたい」と求めた。

 渡邊大記委員(日本薬剤師会副会長)は「電子処方箋のシステム導入に関する案内が全く周知されていないのでベンダーが動けていない」と苦言を呈し、「ベンダーが受け付けができないと手続きも進まないので導入金額もわからず、薬局としては契約したくても進められない。現場がなかなかついていけない状況にある」と明かした。 

 こうした議論を踏まえ、池端副会長は電子署名や院外処方をめぐる課題などを指摘。「病院団体としても電子処方箋を推進したいと思っているが、不安材料が山積み」との認識を示し、ヒアリングの実施などを提案した。

 この日の部会では、マイナンバーカードの保険証利用をめぐる議論もあった。池端副会長は「薬剤や健康情報を医療機関と共有することによって患者にもメリットがあること強力に広報していただきたい」と求めた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

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2023年1月16日の医療保険部会

■ マイナンバーカードの保険証利用等について
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 オンライン資格確認について、いろいろな対策をとっていただいた。病院団体としても積極的にさらに進めていこうと思っている。
 ただ、先ほどのご意見の中で気になった点がある。私はあまり経験がないのだが、患者さんが健康保険証と一体化されたマイナンバーカードを医療機関に持参したときに、健康や薬剤の情報提供について同意を拒否したという。今後、そのような流れがどんどん進んでしまうと、病院や診療所、薬局の窓口で毎回、説明しなければいけなくなり、窓口の混乱にもつながると思う。
 そのため、オンライン資格確認やマイナンバーカードの保険証利用を進めるための広報活動の中で、こうした情報提供をなぜするのかを患者さんにしっかりと強力に知らせていただきたい。薬剤や健康の情報を医療機関と共有することによって患者さんにもメリットがあるということも併せて一体的に広報していただきたい。
 マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会で関係団体等のヒアリングを実施したとの説明があった。そこで質問だが、そのヒアリング中で、患者さんが不安になって同意を拒否したなど、情報提供の同意などへの懸念が示されたのかどうか。もし、そのような意見が出たのであれば、ヒアリング団体を通じて、個人情報等の取扱いはしっかりしていることや、同意の方向で持っていっていただきたいということをしっかり広報していただきたい。この点について、何か情報があれば教えていただきたい。 
 例えば介護保険では、かかりつけ医から来る情報提供書に関しても同意を求めているが、ほとんどの利用者に同意してもらっている。
 オンライン資格確認でも同様の流れをつくっておかないと、せっかく同意しても情報が使えないことになってしまうので、患者さんへのメリットなどをしっかり広報していただきたい。

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【厚労省保険局医療介護連携政策課・水谷忠由課長】
 顔認証付きカードリーダーの同意をいただく画面では、まず「過去の健診情報を当機関に提供することに同意しますか」「この情報はあなたの診察や健康管理のために使用します」という表示があり、目的も含めて説明して同意をいただく画面になっている。お薬情報についても同様である。同じような趣旨でやっている。
 一方で、こうした同意画面に至る前に、オンライン資格確認という仕組み、これはもちろん資格確認というものを効率化することも当然だが、過去のお薬や診療の情報を活用して、よりよい医療を受けていただくための仕組みであることについて引き続きしっかり周知を図りたいと考えている。 
 マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会、専門家ワーキンググループでヒアリングをしたときに、そうした意見が出たかについては資料が手元にない。事実関係を正確に申し上げることができないので、お答えを差し控えたい。 
 この検討会においては、高齢者や障害者など、マイナンバーカードそのものを取得する、あるいは実際にそれを医療現場で活用していただくときに、さまざまな支援が必要と考えられる方々から直接の声を伺っている。さまざまな課題に1つひとつ丁寧に対応できるよう引き続き検討を進めたい。

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■ 電子処方箋について
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 電子処方箋について病院団体の立場から述べる。佐野委員や安藤委員から電子処方箋に対する期待感が大きいというお話があった。病院団体としても推進したいと思っているが、先ほど猪口委員もおっしゃったように費用や導入作業の問題など、まだ不安材料が山積みされているような印象を持っている。 
 特に大規模病院など電子カルテを導入している病院では、電子カルテシステムのログインとは別に院外処方のときだけHPKI等の個人カードで認証する作業が追加される。そうすると、院外処方で疑義照会があったときに、何度も何度も個人の医師が認証しながらやり取りをしなければならない。それは現実的ではないと病院団体の先生方も非常に不安視されている。 
 また、電子処方箋のメリットの1つとされている重複投与や併用禁忌等の確認には、今回、対象になっていないと思われる院内処方のデータも必要になる。しかし、院内処方で医師と薬剤師の個人認証をその都度、行うのは現実的ではない。院内処方と院外処方の突合が今のシステムでは難しいのではないか。今後、どういう見込みがあるのか、方向性があれば教えていただきたい。
 電子処方箋の電子署名については、例えば大学病院のように非常勤の医師が多く、医師の異動も多い場合、毎回の処方で認証するのも現実的ではない気がする。できれば組織あるいは医療機関による署名ができれば運用しやすいと思うが、聞くところによると、組織での電子認証は難しいようだ。しかし、今後は可能になっていくのかどうか。 
 現在、電子処方箋のモデル事業に7医療機関が参加しているが、大規模病院が入っていない。医師が多い病院で、電子署名の問題について何か問題点が出ていないだろうか。わかっていれば教えていただきたい。 
 病院団体の先生方の中には非常に不安視している方が多いので、この場でお聞きしたいと思って質問させていただいた。
 病院団体として電子処方箋を進めることに反対しているわけではないが、不安材料、課題も非常に多いように認識しているので、しかるべき場所等で意見交換やヒアリング等も実施していただけるとありがたい。

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【厚労省医薬・生活衛生局総務課電子処方箋サービス推進室・伊藤建室長】
 まず1点目の院内処方への対応について。今回の電子処方箋については院外処方を対象としているので、院内の分についてはデータが入ってこない仕組みになっている。したがって、こういった場合には、お薬手帳などを引き続き活用していただいて情報を補完していただくような現場での運用が重要になるのではないかと考えている。
 院内処方への拡充については、現場からもそういったお声をいただいているので、よく検討していきたいと考えている。 
 電子署名については、組織認証などが今のガイドライン上はなかなか難しくて、医師個人に紐づいたかたちでの電子署名を行うことになっている。 
 現状、モデル事業の実施施設において、電子署名についての意見はまだ上がってきていないが、一方でカードレス署名などの仕組みも用意している。多くの医師を抱える大きな病院はカードレス署名なども使っていただきながら、スムーズに電子署名ができるような工夫はしているので、引き続きフォローしていきたいと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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