不妊治療、「混合診療の問題もある」 ── 医療保険部会で池端副会長

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20201014_医療保険部会

 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は10月14日、不妊治療の保険適用をめぐる議論を開始した厚生労働省の会議で、保険適用から外れる治療との関係を指摘し、「現状の診療報酬体系では、同じ不妊治療の中で保険適応されたものとされないものを同時に治療として望む場合、混合診療になってしまうという問題もあるのではないか」と見解を求めた。厚労省の担当者は「今後、検討していきたい」と答えた。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)の第131回会合を一部オンライン形式で開催し、菅義偉首相が掲げる不妊治療の保険適用を議題に挙げた。
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遠藤久夫部会長ら__20201014_医療保険部会
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 資料説明の中で厚労省の担当者は、保険適用されていないが国費で助成されている体外受精などの「特定不妊治療」と、それ以外の方法を整理した上で、精子提供による人工授精(AID)などについては「倫理的な課題などもあり、保険適用も国による助成も対象になっていない」と説明した。
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02_【資料2】子ども・子育て支援について(不妊治療関係)_20201014医療保険部会

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保険適用の範囲、「時代とともに変化」

 不妊治療をどこまで医療保険の対象にするかについて、厚労省の担当者は参考資料を用いて説明。国際的な「不妊症」の定義を紹介した上で「かなり広範に含まれている」と指摘した。
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05_【参考資料2】議題2に関する参考資料_20201014医療保険部会

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 また、保険適用となる「疾病」の解釈については、これまでの経緯を振り返り、「その範囲については、時代とともに変化してきている」との認識を示した。
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06_【参考資料2】議題2に関する参考資料_20201014医療保険部会

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 厚労省の担当者は「施行当初は疾病の範囲外とされていたものでも、現在では範囲内とされているものが相当数あるので、その範囲は極めて広い」とし、「こうした現状を踏まえ、不妊治療の保険適用という方向性についてご議論を賜りたい」と意見を求めた。
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医学的エビデンスも踏まえて

 質疑の冒頭で安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「少子化対策の観点から不妊治療の経済的負担の軽減を図ることは大変重要で、医療保険を適用する考え方も理解できる」としながらも、「しっかりと実態を調査し、医学的データ等のエビデンスも踏まえた上で保険給付の範囲や安全性を明らかにする必要がある」とくぎを刺した。

 その上で安藤委員は「現在、行われている調査・研究の結果をもって、具体的に議論すればよいことではないか。医療保険財政には限りがあるので、薬剤給付の見直しなど医療費の適正化に資する改革も同時に検討していくべき」と強調した。
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混合診療につながらないように

 日本医師会副会長の松原謙二委員は「保険適用するという総理のお言葉を大変重く受け止め、大変素晴らしいことだ」と歓迎した上で、さまざまな治療方法に言及。「進歩する治療に対して適用できるような保険にしないと、その治療自体が手遅れになって効果が少なくなる」と柔軟な設計を要望した。

 一方、石上千博委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は「患者負担の増大になる可能性が懸念される」と指摘し、「保険収載を前提としない混合診療の導入につながらないように検討すべき」と求めた。
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本質的な解決策ではない

 石上委員はまた、「不妊治療の保険適用は1つの方法だが、本質的な解決策ではない」と指摘し、雇用環境の整備などを要望。これに樋口恵子委員(NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長)が「本当の少子化対策は子どもが育てやすいような保育サービスの充実などが大事」と続いた。

 樋口委員は「コロナ対策でも見えてきた、日本社会に非常に蔓延している同調圧力」と切り出し、「不妊治療を受けなければいけないという流れが親戚などにも広がることを大変恐れている」と懸念。「子どもを生むかどうかは当事者が決めることで、とかく干渉してはならない」と述べた。
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問題意識は持っている

 こうした議論を踏まえ、池端副会長は「子どもを望まない人への対応なども丁寧に進めていくべき」と指摘。不妊治療の保険適用については、混合診療との関係に言及した。

 厚労省の担当者は、8月から開始した実態調査の結果などを踏まえ、今後検討していく方針を提示。遠藤会長が「問題意識としては持っている」と補足した。

 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

〇池端幸彦副会長
 総論としては、不妊治療に対する保険適用はぜひ必要な範囲で進めていただきたいと思っている。その上で、保険適用について2点ほど心配な点を述べたい。
 1つは、保険適用するために「不妊」を「保険事故」とみなすこと。とすると、「不妊」は「疾病」という扱いになるので、先ほど樋口委員が指摘したように、子どもを望まない人への対応も必要になる。子どもを望まない方々が「疾病」を抱えている人であるという偏見がないように、きちんと丁寧に国民に説明しながら進めていかないと、難しいことが起きる可能性があるのではないかと危惧している。これは意見。
 もう1つは、不妊治療と言っても、さまざまな不妊治療があること。例えば、「特定不妊治療」に対して保険適用を認めるのであれば、それはすんなり進むと思う。
 しかし、例えば、先ほどご説明があったようなAID(夫以外のドナーによる人工授精)などが保険適用にならないとすると、もし仮に両方の治療を望んだ場合、保険診療と保険外診療の併用になる。
 現在の診療報酬体系では、これは混合診療に当たってしまうのではないか。その辺をどのように整合性を付けて、あるいは担保するかも含めて、そういう問題があるのではないかということを危惧する。この点について質問させていただたい。

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〇遠藤久夫部会長
 すでに普及している技術を保険適用する中で、標準化されるものと、それから外れるようなものとの併用を認める必要があるということについて、保険外併用や混合診療の問題が絡むわけだが、それに対して事務局はどういう考え方を持っているか。
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〇厚労省保険局医療課・井内努課長
 さまざまな不妊治療がある中で、どういったものを保険適用にするのか、というご指摘だと考えている。
 実際、今、調査をしているので、どのような実態になっているかを実際に見てみるというのが一義的に、一番有用なことかと考えている。その上で、どのような形で保険適用するのかを考えていく。
 本日ご指摘していただいているような、不妊治療を受けられる方々への配慮等も含めて、どういった形にするかは今後、検討していきたいと思っている。

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〇遠藤久夫部会長
 要するに事務局側は、問題意識としては持っているわけだが、今後、検討させていただく、重要なご指摘を頂いている、という考え方だと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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