大病院での定額負担、「広報をしっかり進めて」 ── 医療保険部会で池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

池端幸彦副会長_20201217_医療保険部会

 紹介状なく大病院を受診した場合の定額負担を拡大する仕組みについて日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は12月17日の会合で、「かかりつけ医機能の推進が大前提であり、そのための仕組みである」と改めて強調した上で、「こうした広報をしっかり進めていただかないと今回の仕組みがうまく機能しない」と指摘した。

 厚生労働省は同日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)の第137回会合を開催し、前回に続き「議論の整理(案)」について審議した。

 前回2日の会合では、定額負担の拡大などを議論した後、年内にまとめる予定の「整理(案)」について審議した。そのため、定額負担などに関する記載部分は「調整中」としていた。
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2020年12月2日の医療保険部会「資料3」P12から抜粋

               2020年12月2日の医療保険部会「資料3」P12から抜粋
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国民に丁寧に説明し、周知を

 今回の会合で厚労省は、これまでの意見を紹介した上で「以下の方針に基づき、中医協において具体的に検討するべきである」とし、「制度趣旨について、国民への説明を丁寧に行う」との意向を表明した。

 池端副会長は前回会合で「患者さん自身が負担の増額について理解ができず、病院窓口での支払いが増えて非常に混乱する恐れもある」と指摘し、厚労省の担当者は「制度の趣旨を丁寧に説明をしながら周知していく必要がある」との認識を示していた。
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反映していただき、大変ありがたい

 今回示された「整理(案)」では、「この制度を実行する場合には、病院の窓口で混乱が生じないように、しっかりとした説明を行うべきなどの意見があった」と記載された。

 池端副会長は「当部会でいろいろ意見を述べた。反映していただき、大変ありがたく感じている」と謝意を示した。
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持続可能な高齢者医療制度ができるか

 今回の「整理(案)」では、前回「調整中」としていた後期高齢者の窓口負担や不妊治療の保険適用の記述が追加された。

 後期高齢者の窓口負担については、「現役世代の負担上昇に歯止め」をかける目的であると説明。政府方針を踏まえ、「年収200万円以上の方に限って、その方の医療費の窓口負担割合を2割とし、それ以外の方は1割」とした。

 池端副会長は「今回はあくまでも現役世代との世代間格差を減らす効果をもたらすという趣旨」と確認した上で、「今回はあくまでもコスト・シフティングの手法」との認識を提示。「今後もこうした方法で持続可能な高齢者医療制度ができるかと言うと、そうではないと思う」とコメントした。
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不妊治療、「専門家が丁寧に議論を」

 不妊治療の保険適用については、具体的な適用範囲に関する意見を紹介。「保険適用の対象とならない不妊治療が混合診療に当たってしまうおそれがあることについて、整理する必要がある」など、池端副会長の発言も記載した。

 その上で「当部会の議論も踏まえて、保険適用に向けた検討を進めるべきである」とし、令和4年度からの保険適用に向けた工程表を示している。

 池端副会長は「保険適用する場合には治療の平準化・標準化が重要」との考えを示した上で、「不妊治療というのは玉石混淆。せっかく保険適用しても使わない可能性もある」と指摘。今後の検討について、「しっかりとデータを取って専門家が丁寧に議論していく必要がある」と述べた。

 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。
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■ 後期高齢者の窓口負担について
 後期高齢者の2割負担の件に関しては、やむを得ないところもあるかなという印象を持っている。
 ただ、ここで確認しておきたいのは、今回はあくまでも現役世代との世代間格差を減らす効果をもたらすという趣旨である。世代間格差を減らすために2割負担にすることによって高齢者支援金が減る。そして、現役世代や事業主の負担も減ると理解している。
 とすると、今回の対応はあくまでもコスト・シフティングの手法であって、今後もこうした方法で対応できるかは分からない。今回の手法で持続可能な高齢者医療制度ができるかというと、そうではないと思う。
 今後もこの方法をどんどん使うとしたら、2割負担をさらに3割に上げていくことになる。最も世代間格差がある3割と同じにする。しかし、これは不可能ではないか。後期高齢者の収入格差は非常に大きいので、負担をそろえるのは不可能である。
 そのため、今後は保険財政の財源をいかに確保するかという問題も引き続き議論していななければいけない。

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■ 不妊治療の保険適用について
 前回の議論の際にも申し上げたが、保険適用の対象とならない不妊治療が混合診療に当たってしまうおそれがあるため、整理する必要があることを改めて指摘したい。
 保険適用する場合には、治療の平準化・標準化が重要になるが、不妊治療というのは玉石混淆である。しかも、結果がはっきりしている。赤ちゃんができるかできないか。イエスかノーしかない。このように結果がはっきり出るものに対して保険適用することは非常に難しいケースもあると思う。
 不妊治療を保険適用する場合の患者負担も課題である。実態調査などを踏まえて一定の価格を設定した場合に、その金額よりもう少し高い不妊治療を受ければ確実に産まれるということが分かれば、「私は自費でやります」という人もたくさん出てくると思う。
 そうすると、せっかく保険適用しても使わない可能性もある。こうした問題については中医協の議論になるかと思うが、その際にはしっかりとデータを取って専門家が丁寧に議論していく必要がある。

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■ 大病院受診時の定額負担について
 大病院受診時の定額負担の問題については、当部会でいろいろ意見を述べさせていただき、議論の整理(案)にも反映していただいた。大変ありがたく感じている。
 改めて確認しておきたいのは、かかりつけ医機能の推進が大前提であり、そのための仕組みであるということ。
 今回の提案では、現状でも5000円以上取っている病院で、さらに2000円以上の上乗せとなるのが義務付けられるかのようなスキームになっている。これに対し、患者さんとしては、「また病院が値段を上げる」と感じて、病院の窓口に多くのクレームが寄せられる恐れがある。これは病院団体の中でも、かなり危惧する声がある。
 しかし、今回の仕組みはそうではなく、きちんとかかりつけ医を持って、そこから紹介されれば大丈夫であるということを、本当に丁寧に説明していただきたい。今回の主な目的は、決して公的医療保険の負担を軽減するための財源を皆さんから取るのではないということを分かりやすく説明してほしい。
 こうした説明を「全て病院の窓口でやりなさい」となると、病院は本当に大変なことになると思う。これを危惧する先生方が病院関係者の中で非常に多い。ぜひ、お願いしたい。
 私はこの会合に日本慢性期医療協会の立場で出席させていただいているが、福井県医師会の会長も務めさせていただいており、県内のコロナの対策を担当している。インフルエンザ流行期の検査体制をどうするかという課題があり、かかりつけ医で検査をできるようにした。
 それをマスコミに発表したときに、かなり多く寄せられたのは「かかりつけ医がいない人はどうするんですか?」という質問だった。「かかりつけ医というのは高齢者の一部の人だけでしょ」というイメージがまだマスコミ関係者の中にある。
 これはやはり真剣に考えなければいけない。みんなどこかで、かかりつけ医を持って、そして専門病院と連携する仕組みがあること。日本の医療提供体制は、それができることがいいことなんだということをもっと説明していただきたい。ぜひ、こうした広報もしっかり進めていただかないと、今回の仕組みがうまく機能しないのではないかと危惧している。よろしくお願い申し上げる。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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