金融資産の把握等、「あまりに拙速過ぎる」 ── 医療保険部会で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2022年12月1日の医療保険部会

 医療保険制度改革について議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は、被用者保険者間の格差是正について「総論としては間違っていない」と了承したが、現役並み所得の判断基準の見直しや金融資産の把握などについては「あまりにも拙速過ぎるのではないか」と指摘した。

 厚労省は12月1日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第159回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に「医療保険制度改革について」と題する資料を提示。その中で、①被用者保険者間の格差是正、②骨太方針・改革工程表におけるその他の検討事項──について見直しの方向性などを示し、委員の意見を聴いた。

 このうち①については、65歳から74歳までの前期高齢者の医療費について現役世代からの支援制度を見直す方針を示した。

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P5_【資料1】医療保険制度改革について_2022年12月1日の医療保険部会

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削減した公費財源は現役世代の負担軽減に

 厚労省の試算によると、大企業の従業員らが加入する健康保険組合の負担は最大で890億円増える一方、中小企業の従業員が加入する協会けんぽの負担は最大で1,450億円減少する。

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P13_【資料1】医療保険制度改革について_2022年12月1日の医療保険部会

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 質疑で、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「公費が大きく減少する内容になっている。被用者保険者間での格差是正を何のために行うのか全く理解できない」と苦言を呈し、「改革によって減少した公費財源は必ず全額を現役世代の負担軽減に充てていただきたい」と求めた。

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一気にやるのは難しいのではないか

 この日の部会では、骨太方針・改革工程表におけるその他の検討事項として「現役並み所得の判断基準の見直し」「負担への金融資産・所得の反映の在り方」などもテーマに挙がった。

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P15_【資料1】医療保険制度改革について_2022年12月1日の医療保険部会

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 池端副会長は「立て続けに高齢者世代に対する負担増の施策が打ち続けられている。さらに追い打ちをかけるように一気にやるのは難しいのではないか。あまりにも拙速過ぎるのではないか」と疑問を呈し、「長いスパンのタイムスケジュールを示しながら、少しずつやっていくことが必要」と慎重な姿勢を示した。

■ 被用者保険者間の格差是正について
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 資料5ページに示されている「見直しの方向性」については、総論としては間違っていないと思う。現状、保険料率に幅があり、全体として保険料率が上昇している状況があるので格差を是正することや、前期財政調整において報酬水準に応じた調整を導入すること、その計算は複数年で行うことにも賛成したい。
 今回の見直しによる財政影響が13ページに出ているが、国庫補助の負担軽減も入っているのであれば、それも1つの目的であると謳っておくべきである。全額を財政調整に回すべきではないかという保険者側の意見にもつながると思うので、それはきちんと正確に、そういうこともあるのだと謳わなければいけないと思う。

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■ その他の検討事項について
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 現役世代の負担軽減が大きな目的であることはわかるが、前回の部会で述べたように、現役世代と高齢者世代が二極化しているわけではなく、連続性があることをもう一度、認識すべきではないか。 
 現役世代はどんどん負担を軽減して、それを高齢者世代に少しシフトしていけば当然、その現役世代の方々が次に高齢者になったときに、その負担を重く感じる。その結果として老後の不安を感じ、そして購買意欲もなくし、預貯金を増やすような姿勢になれば、経済を回すという観点からも違った方向に動いてしまう可能性がある。そういう大きな視点も必要ではないかと感じている。 
 そういう点で言えば、現役並み所得の判断基準を現時点で見直したり、そして他の金融資産まで、ある意味では懐の中まで全部調べて、そこを合わせるとか、そういうことを一気にこの時点で行うのは拙速ではないか。 
 ただでさえ賦課金限度額を引き上げたり、出産一時金を全世代で支えたり、あるいは窓口負担の引上げなど、立て続けに高齢者世代に対する負担増の施策が打ち続けられているのだから、さらに追い打ちをかけるように一気にやるのは難しいのではないか。あまりにも拙速過ぎるのではないかという印象を持っている。
 また、広域連合による事務処理が行われている後期高齢者医療制度の在り方の検討については、いろいろな事務処理が中小規模のところでは難しいので広域連合で効率的にやろうということなので、これも慎重な対応が必要ではないか。 
 いずれにしても、タイムスケジュールをもう少し10年、20年かけて、どうやって現役世代の負担軽減と、高齢者に対するさらに重い負担の感覚をなくすかについて、少し長いスパンのタイムスケジュールを示しながら、少しずつやっていくことが必要ではないかと感じる。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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