人材不足や個室ユニット化で見解 ── 介護保険部会で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

2022年8月25日の介護保険部会

 介護保険制度の見直しに向けて議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は人材不足の解消策として他業種の積極的な活用を提案したほか、個室ユニット化の推進について「具体的なマネジメントなども議論していく必要がある」と指摘した。

 厚労省は8月25日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学法学学術院教授)の第96回会合をオンライン形式で開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進①」と題する資料を提示。在宅サービスの基盤整備や在宅医療・介護連携等について論点を挙げ、委員の意見を聴いた。

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サービスの効率化や重点化も

 論点では、在宅サービスの基盤整備について「複合的なニーズに柔軟に応えていくための在宅サービス提供の在り方」を挙げた。

 質疑で、河本滋史構成員(健康保険組合連合会専務理事)は「今後、都市部では在宅サービスの基盤整備がますます重要になることは私どもも十分理解しており、複合的なニーズに柔軟に応えていくことは大変重要」としながらも、「サービスの効率化や重点化、報酬体系の簡素化という観点も十分に踏まえながら検討していく必要がある」と指摘した。

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15_【資料2】地域包括ケアシステムの更なる深化・推進(1)_2022年8月25日の介護保険部会

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地域の実情を踏まえた対応を

 施設サービスの基盤整備については、「特別養護老人ホームの入所基準の在り方」「個室ユニット型施設の整備目標」などを挙げた。

 小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会副会長)は「特養の定員割れの状況が発生している多くの地域では在宅サービスの需要と供給のバランスが崩れ、在宅サービスが適切に受けることができない状況にある。特にホームヘルパーのサービスが使えない地域が多い」と現状を伝えた。

 そのような地域での対応として小泉委員は「要介護1・2の方の特例入所の活用を推進し、施設サービスの活用を行うべき」とし、保険者の方針で特例入所を利用できない地域については「現実に即した利用者本位の制度の活用を推進すべき」と主張。「要介護度のみで判断するのではなく、地域におけるサービスの実情や生活環境を踏まえた対応が必要」と訴えた。

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16_【資料2】地域包括ケアシステムの更なる深化・推進(1)_2022年8月25日の介護保険部会

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個室ユニット化の70%目標に違和感

 個室ユニットに関する論点では、「現在の整備状況の実態等を踏まえ、どのように考えるか」と意見を求めた。厚労省の指針では「都道府県は、平成37年度(令和7年度)の個室ユニット化率を70%以上とすることを目標として定めるよう努める」としている。

 質疑で橋本会長は「個室化すると介護士の人数が多く必要となり、今の人材不足の中で個室ユニット化の70%目標というのは違和感がある。どう考えればいいのか」と問題提起した。

 神奈川県の黒岩祐治知事の代理として出席した山本千恵参考人(神奈川県福祉子どもみらい局福祉部長)は「高齢者の生活の場として個室ユニット型施設を増設する方向で進めていかなければいけないと考えている」としながらも、「室料が高いという課題があり、本県でも進めていく上で大変悩ましい」と明かした。

 その上で、山本参考人は「個室ユニット型施設の整備とセットで低所得者への支援策の充実を図り、所得にかかわらず、その人が望む必要なサービスを利用できるようにすることが必要だ」と強調。「低所得者への支援の充実についても検討をお願いしたい」と要望した。

 こうした議論を踏まえ、座小田孝安委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は橋本会長や山本参考人の発言に理解を示しながら、「多床室を個室化するには改修が必要だが、耐震構造等の建築基準法が非常に厳しくなっており増改築が難しい。特に問題なのは建築コスト。非常に高騰していて取りかかれない」とし、詳しい原因などを老健事業等で調査するよう求めた。

 このほか、論点では地域における高齢者リハビリテーションの推進について「急性期・回復期リハビリテーションと生活期リハビリテーションの在り方と連携」などを挙げている。

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17_【資料2】地域包括ケアシステムの更なる深化・推進(1)_2022年8月25日の介護保険部会

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【橋本康子会長の発言要旨】
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 意見を4点述べる。まず医療介護の連携について。現在、協議の場を検討しているとの報道もあった。同時改定に向けて、ぜひ協議の場を設置していただきたい。
 2点目は人材不足について。人材不足は今後も深刻化するのではないか。そのため、医療・介護以外の分野の業種などからも取り入れることが必須になる。医療界、福祉界、介護界だけではなかなかうまくいかない。高齢者、要介護者、認知症の方も増える。私たちだけの業界で賄える状態ではなくなってきている。医療・介護分野以外の人材を取り入れていくことも積極的に考え、議論していかなければいけない。掃除や洗濯、書類整理、物品管理、マネジメント、金銭の管理など、直接ケア以外にもたくさんの業務があるので、そういう業務について業者の協力を得ることも必要である。すでに他業種から取り入れている施設はあると思うが、もっとドラスティックに大胆に取れ入れる必要があると思う。
 また、介護福祉士の人材不足について意見があった。介護福祉士の国家試験の受験者数が半減している。2017年の受験資格の変更などが影響しているのか、受験者数が約15年前の水準に落ちている。今後、人材不足に拍車をかけていくのではないか。資質向上はとても必要だが、もう少し段階をつけるなど、何らかの養成方法を考える必要があると思う。 
 3点目は特別養護老人ホームの個室ユニット化について。資料7ページ(現状・課題③)に「個室ユニット化率を70%以上とすることを目標」との記載がある。私どもも特養を改修したり新築したりするときにどうしたらいいのか悩む。個室をユニット化すると報酬が高くなるが、その分、人員も必要になる。病院も施設も個室化は重要である。特にコロナ禍において、その重要性や安全性が明確になったと思う。施設内でコロナ感染者が発生しても個室の場合は広がらずに済む割合が高いことは明らかなので、個室化はとてもいいことではある。
 一方、個室化にすると、介護士の人数が多く必要となり、今の人材不足の中で個室ユニット化の70%目標というのは違和感がある。どう考えればいいのかと思うので、そうした議論も必要であると思う。どのような見守りの仕方をするのか、ケアの仕方をするのか。そうした具体的なシステムやマネジメントなども議論していくことが必要である。そうしないと、個室化することによって入居者の人たちの身体抑制や放置につながっていくのではないか、非常に危険ではないかとも思う。 
 4点目は資料17ページ「地域における高齢者リハビリテーションの推進」について。現場で、もう少し改善していただければいいと思うのが介護保険と医療保険の扱いで、介護保険が優先する場合が多い。特にST分野では、言語障害や高次脳機能障害が今後は増えてくると思う。失語症が半年で治ることはなく、1年、2年とかかってしまう。その間、STが言語リハビリテーションをする必要があるが、介護保険を使うとなかなか難しいところもあるので、この点も検討していただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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