「住まいと生活の一体的な支援」で質問 ── 介護保険部会で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

20221114_介護保険部会

 介護保険制度の見直しに向けて議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は住まいと生活の一体的な支援について「介護分野以外の施策」について質問した。厚労省の担当者は「住まい支援システム構築に関する調査研究事業」の概要を説明した。

 厚労省は11月14日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学法学学術院教授)の第101回会合をオンライン形式で開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の会合に、これまでの議論を踏まえて整理した「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について」と題する資料を提示。各項目について「検討の方向性」を示し、委員の意見を聴いた。

.

01_【資料2】地域包括ケアシステムの更なる深化・推進_2022年11月14日の介護保険部会

.

 今回の資料は(1)生活を支える介護サービス基盤の整備、(2)様々な生活上の困難を支え合う地域共生社会の実現、(3)保険者機能の強化──の三本柱で構成。この日の会合では(1)を中心に意見を聴き、(2)(3)は次回24日の会合で検討する予定となっている。

.

02_【資料1】今後の進め方について_2022年11月14日の介護保険部会_ページ_2

.

どこまでを保険で扱うべきか

 質疑で、井上隆委員(日本経済団体連合会専務理事)は住まいと生活の一体的支援に言及。「全世代型社会保障構築会議でも住まいの話は盛んに出てきている」とし、「どこまでを保険として扱うべきなのかについては今後、整理、慎重な検討が必要ではないか」とくぎを刺した。

 井上委員は「住まいの問題というのは衣食住、全て人間の生活自体に関わる問題」と指摘。「既に地域支援事業等々もあるので、そういう事業との整理・統合も必要になってくる」との考えを示した。

.

引き続き検討してはどうか

 
 住まいと生活の一体的支援について、厚労省は同日の参考資料でモデル事業の概要などを提示。「検討の方向性」では、「このモデル事業等の結果を踏まえて、住まいと生活の一体的な支援の方策について、介護分野以外の施策との連携や役割分担のあり方も含め、引き続き検討してはどうか」との記載にとどめている。

.

03_P13_【資料2】地域包括ケアシステムの更なる深化・推進_2022年11月14日の介護保険部会

.

 小林司委員(連合総合政策推進局生活福祉局局長)は「引き続き検討」との記載を指摘。「住まいの確保は政府の全世代型社会保障構築会議でも重視されている」と強調した上で、「できることは速やかに実施していくべき」と主張した。具体的には、「介護と福祉分野、住宅分野の連携強化や重層的支援体制整備事業を中核とした包括的かつ伴走的な支援の強化」を挙げた。

.

帰趨がまだ見えない

 
 橋本会長は、ケアマネジメントの質の向上、財務状況等の見える化などについて見解を述べたほか、住まいと生活の一体的支援について「介護分野以外の施策とは具体的に何を指すのか」と質問した。

 これに対し厚労省の担当者がモデル事業について説明したところ、全世代型社会保障構築会議の構成員も務める菊池部会長が追加質問。「先週の全世代型社会保障構築会議で住まい支援に関する資料が出たが、そういった動きとの兼ね合いも、ここで射程に入っているわけではないのだろうか」と見解を求めた。

 厚労省老健局高齢者支援課の須藤明彦課長は「直接的な大きな制度改正というよりも、まずは高齢者や困窮している人の住まい確保とあわせて、介護分野を越えた意味での生活支援をどう考えていくのかも含めて引き続き検討してまいりたい」と説明。菊池部会長は「内閣府のほうの議論は、その帰趨がちょっとまだ見えない」とコメントした。

 同部会での橋本会長の発言要旨は以下のとおり。

■ ケアマネジメントの質の向上について
.
 以前からケアマネジャーの質を上げようという議論はあるが、目標が曖昧ではないかと感じている。ケアマネジメントの目標やコンセプト、理念、使命など何か大きな方向性をはっきりと決めたほうがよいのではないか。
 現場では、何を目標にケアプランを立案しているのか曖昧になっているという面がある。本人や家族の意向に沿うことはとても大事なことだが、そちらに大きく流されている人もいる。医療者や介護者らのチームで進めることが原則であると思うが、ケアマネジメントをどこに向かって進めていけばいいのか、悩まれているように思う。それ以外のことでもケアマネジャーにはいろいろな苦労がある。チームで進めるためにも、目標や理念などを決めたほうがいい。
 例えば、回復期リハビリテーション病棟の使命は、ADLを上げて寝たきりを防ぎ、在宅復帰を目指すこと。目標がはっきりしているので、チームでその目標に向かっていく。チームで進めるためには、何かそういう目標がなければ難しい。ケアマネジメントにも何らかの目標があると思うので、ぜひ検討していただきたい。

.
■ 地域における高齢者リハビリテーションの推進について
.
 資料10ページ「検討の方向性」では、「どの地域でも適時適切に提供されるよう、地域支援事業と保険給付の双方の観点からのリハビリテーション提供体制の構築を更に促進していくことが必要」としている。
 この「適時適切」について率直に申し上げると、コストと報酬の問題がある。例えば、介護施設の入所者に対するリハビリはなかなか難しい。そのコストと報酬、セラピストの給与などについて病院でのリハビリと比べると介護施設では行いにくい。 
 また、地域での取り組みで在宅系になると、病院やクリニックからはリハビリに行けるが、訪問看護ステーションからしか行けないなど、いろいろな制約があったりして自由度が少ないと思う。

.
■ 住まいと生活の一体的支援について
.
 13ページ「検討の方向性」では、住まいと生活の一体的な支援の方策について、「介護分野以外の施策との連携や役割分担のあり方も含め、引き続き検討してはどうか」との記載があり、下線が引いてある。この「介護分野以外の施策」とは具体的に何を指すのか教えていただきたい。
.
【厚労省老健局高齢者支援課・須藤明彦課長】
 端的に申し上げると、介護以外でもさまざまに、住まいの確保に困っていらっしゃる方、一般的な生活相談から、代表的に考えられるのは見守りの必要性、そういった見守り支援、また地域社会にどう参画されていくか、地域の中でどう社会に関わっていくか、こういった介護以外の地域共生的な取り組み、こうしたことへの支援であったり、そこにどう関わっていけるかといったところを含めて、住まいの確保と連携を図っていくべきではないかと、そのような議論の論点というふうに考えている。
.
■ 財務状況等の見える化について
.
 医療保険においては医療法人の経営状況の見える化などをめぐり議論がある。一方、介護保険については、介護サービス事業所に補助金が出るなど半分以上が「公」という部分もあるので、見える化は当然のことだとは思う。 
 そうした中で、消費税の使途について、さらなる見える化を進める必要もあるのではないか。私自身、消費税の具体的な使い道が見えにくいと感じている。消費税をアップしたとき、社会保障に使うためという説明だった。しかし、その具体的な中身については、私たち医療者だけでなく国民もあまりよくわかっていないのではないか。消費税が社会保障に使われていることについて、もっと具体的に、ここのお金はこれだけ上がったのでここに使いますとか、もう少しはっきり出していただければ誤解が防げるし、実際に使っていることが明確に伝わると思う。

.
■ 高齢者虐待防止の推進について
.
 深刻な虐待も起こっている。私たち医療者としても身体拘束禁止の熱意が一時に比べると低下しているのではないかと反省している。私たちがもう一度、身体拘束に対して真剣に取り組む必要がある。人材不足の中で、身体拘束をしなくてもいいスキルや工夫を広めるなど、そうした取り組みを進める必要があると思っている。
 また、認知症高齢者の問題もある。85歳以上になると認知症だけではなくADLも低下する。住みなれた所で暮らしていきましょうと言われても、一人暮らしは無理な状態だと思う。そこでサ高住や高齢者住宅などに入るのだが、そうした所での虐待や身体拘束を防止する対策も必要であると思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »