処遇改善加算、「視野をもう少し広げて」── 社保審分科会で武久会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

01_武久洋三会長_20180905

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は9月5日、介護人材の処遇改善について議論した厚生労働省の会議で、「これまで介護保険の介護職員だけに処遇改善加算を付けられていたが、医療分野における介護職員についても今後、お考えいただけると大変ありがたい」と述べました。武久会長は「病院の中には、医療保険の病棟、介護保険の病棟があり、これからは介護医療院も増えてくる。処遇改善加算によって介護保険の介護職員の給与を上げるとすれば、医療保険の病棟で働く介護職員の給与も同じように上げなければ不公平だ。しかしながら、現在の診療報酬では厳しく、医療保険の介護職員の給料まで上げられない。視野をもう少し広げて、全体を俯瞰して改善していただきたい」と求めました。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)の介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大理事長)を開き、①介護保険サービスに関する消費税の取扱い等、②介護人材の処遇改善──の2項目を主な議題としました。

 このうち①については、「消費税負担に関する関係団体ヒアリング・実施要領について(案)」を提示。来年10月に予定されている消費税率10%への引上げに伴い、介護保険サービスに関する消費税の取扱い等について検討するため、30の関係団体等に事前照会した上でヒアリングを実施することを決めました。

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「『重点化』及び『柔軟な運用』の在り方について、どのように考えるか」

 ②については、介護人材の処遇改善に関する論点を提示。「介護職員の更なる処遇改善について、これまでの処遇改善の取組と整合を図りつつ、具体的にどのような枠組みが考えられるか。とりわけ『重点化』及び『柔軟な運用』の在り方について、どのように考えるか」と意見を求めました。

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資料2介護人材の処遇改善_37

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 昨年12月に閣議決定された政府の「新しい経済政策パッケージ」では、「勤続年数10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当」との方針が示されましたが、その一方で「他の介護職員などの処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める」としています。

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資料2介護人材の処遇改善_36

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「給料だけが離職理由ではない」「保険財政は逼迫」との声も

 「10年以上の介護福祉士に月額平均8万円」との方針に介護関係の委員は賛同し、「他産業との賃金格差を縮めることが先決」と訴えましたが、他の委員からは「給料だけが離職理由ではない」「職場環境の整備が必要」などと一律の財源投入を懸念する意見がありました。また、介護業務に携わる職員の処遇改善を基本としつつ、「看護やリハビリなど多職種にも配慮してほしい」との要望もありました。保険者団体の委員からは「保険財政は逼迫している」「本来は税で対応するのが筋ではないか」と疑問視する声が上がりました。

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02_全体

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処遇改善加算によって病院経営が非常に厳しくなるケースも

 武久会長は処遇改善加算の算定状況に言及し、「介護療養型医療施設の算定率は66.1%となっており、他のサービス事業に比べると極端に低い。なぜ上がらないのか」と問題提起。医療保険を利用する病院でも介護サービスのニーズが高まっていることを指摘した上で、「医療保険か介護保険かによって介護職員の待遇に差を付ける現在の処遇改善加算について、もう少し大きい目で見ていただきたい」と対応を求めました。

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資料2介護人材の処遇改善_ページ_34

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 武久会長は、同一グループ内の介護職員の勤務場所が病院であるか介護施設であるかによって給与に差を付けることが「経営者としてはなかなかできない」と明かし、「処遇改善加算によって介護施設の介護職員の給与を上げてしまうと、同じグループ内の病院の介護職員の給与も同様に上げなければ不公平だ。しかし、今の診療報酬はそこまで考えられていないため、介護職員の処遇改善はもっと全体で考えるべき」と指摘しました。

【武久会長の発言要旨】
 資料2(介護人材の処遇改善)の34ページ(介護職員処遇改善加算の算定状況)をご覧いただきたい。この中で、「介護療養型医療施設」については、加算の算定率が66.1%となっている。介護サービスを提供している他の施設等と比べると30%ぐらい低くなっている。
 加算(Ⅰ)について見ると、介護療養型医療施設の算定率は35.9%となっており、他のサービス事業に比べると極端に低い。それはなぜかということを、皆さん方はお考えいただいているだろうか。
 一斉に政策を実施する場合に、デコボコがあるのはあまり良いことではないと私は思っている。介護療養型医療施設の算定率が上がってほしいのだが、なぜ上がらないのか。毎回の調査で低い。
 介護療養型医療施設は病院の中にある。4月から介護医療院が始まったので、今後、介護療養型医療施設は介護医療院に移行していくと思われるが、次回の調査でもやはり介護医療院の算定率は低い値になるであろう。
 この介護給付費分科会は介護保険サービスに関する会議であり、事務局は老健局が担っているが、患者さんは介護施設と病院との間を行き来する。介護保険と医療保険を利用しながら歳をとっていく。 
 病院では、医療保険による入院という医療サービスがある。現在、医療に従事している介護福祉士等の職員については、この処遇改善加算は該当しないということになっている。厚生労働省には医療と介護の連携を促進する課もあるが、介護保険を利用する施設に従事している介護職員にだけ処遇改善加算を出し続けるというのは、老健局の予算で実施するなら仕方のないことにはなるが、一方で診療報酬もどんどん厳しくなってきている。病院数が減っているという現状もある。老健局に視野をもう少し広げていただいて、全体を俯瞰して改善していただきたい。
 現実には、7対1入院基本料を算定している高度急性期病院においても高齢の入院患者がどんどん増えている。診療科によっては、高齢者が8割を占める大学病院もある。看護師の配置基準によって診療報酬が決まっている。近年、看護師の教育が非常に高度になってきて、とてもレベルの高い看護師が増えている。われわれは非常に助かっている。
 こうした中で、介護が看護の中に包含されている。介護のレベルを看護レベルの中できちんと評価していくことは必要ではあるが、看護教育を受けた看護師が介護の仕事をすべて引き受けるのは少し効率が悪いのではないか。
 やはり、医療の中にも介護福祉士をはじめとする介護職員が必要である。医療現場においても高齢者が多いがゆえに、必要な介護業務がたくさんある。しかし現実には、そうした介護業務を看護師が行っている。そこを効率化していくことも重要である。介護は介護として看護師の管理の下で適切な介護業務を行っていただくほうが、高度急性期病院に入院している高齢者らの回復が早いのではないかと思う。
 高度急性期以外の病院でも、介護職員が勤務している病院がたくさんある。そうした介護職員の給与を、介護施設に勤務している介護職員と同程度にアップしようとすれば、診療報酬の中でやりくりしなければならない。それは各病院の経営者の判断で行うことだが、同一の法人内に勤務する介護職員の間で差を付けるということは、経営者としてはなかなかできない。従って、処遇改善加算によって介護施設の介護職員の給与を上げるならば、同じように病院の介護職員の給与も上げる。そのためには、すべての介護職員への処遇改善加算が必要だ。
 介護施設の入所者は、具合が悪くなったら病院に行き、状態が安定したらまた介護施設に戻るということを繰り返す。そういう現状を考えると、医療保険か介護保険かによって介護職員の待遇に差を付けるという現在の処遇改善加算について、もう少し大きい目で見ていただきたい。
 毎年、医療・介護関係の国家資格者が新たに生まれているが、今後の高齢化に対応できるだけの数をカバーするのは非常に厳しい状況にある。外国人の介護人材を確保するための対策が進められているが、それだけで解決する問題ではない。
 これまで介護保険の介護職員だけに処遇改善加算を付けていたが、医療分野における介護職員についても今後、お考えいただけると大変ありがたい。意見として述べさせていただく。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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