在宅医療の推進へ、「病診連携をしっかり」── 在宅医療WGで池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

平成30年9月10日の在宅医療WG

 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は9月10日、在宅医療を進めるための方策などを議論した厚生労働省の会議で、「療養病床を持つ中小病院などが積極的に在宅に出て行って地域の診療所と組む。そういう連携をやっていかないと、実態としての数が増えていかないのではないか」と問題提起しました。池端副会長は、自院のある福井県の実情を説明し、「過疎化している地域での在宅医療はハードルが高いので病診連携をしっかり進めていく必要がある」と強調しました。

 厚労省は同日、「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」(WG、座長=田中滋・埼玉県立大理事長)の第6回会合を開き、当協会から池端副会長が同会議の構成員として出席しました。

 厚労省は同日の会合で、これまでの議論などを踏まえ、「在宅医療の充実に向けた議論の整理(案)」を提示。その中で、「在宅医療の充実に向けて都道府県が取り組んでいくべき事項」として、①第7次医療計画の改善、②都道府県全体の体制整備、③在宅医療の取組状況の見える化(データ分析)、④在宅医療の提供体制の整備、⑤在宅医療に関する人材の確保・育成、⑥住民への普及・啓発──の6項目を挙げました。

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「一定規模の病院が積極的に参画し、診療所と連携をする」

 このうち④では、「後方支援病院等との連携ルールの策定、運用」を挙げ、「病院が後方支援に加え、場合によっては在宅医療に関しても一定規模の病院が積極的に参画し、診療所と連携をすることが必要な場合があることについての意見も挙げられた」と記載しました。

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在宅医療の提供体制の整備3
     (同日のWG資料2-1「在宅医療の充実に向けた議論の整理案」P6より抜粋)

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療養病床を持つ中小病院などが「積極的に在宅に出て行く」

 これについて池端副会長は、病診連携の必要性を改めて強調した上で、過疎化などで在宅医療を担う診療所が少ない地域があることを指摘。「在宅医療を担う診療所が本当にない地域では療養病床などが積極的に在宅に出て行くということを1つの大きな項目として挙げていただいたほうが、特に地方レベルではかえって在宅が進むのではないか」と述べました。

【池端副会長の発言要旨】
 資料「2-1」(在宅医療の充実に向けた議論の整理案)に関して、全体的に非常に良くまとまっている印象を持ちました。その中で、気づいた点をいくつかお話しさせていただきたいと思います。
 まず、KDBデータ(国保データベース)の活用については、ぜひお願いしたいと思っています。(高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施について議論した7月19日の)医療保険部会等でも、NDBと介護データはこれから全国的に一括していこうという方向性になっておりますが、KDBだけがなかなか難しいということをお聞きしています。これは匿名性の問題が一番のネックだとお聞きしておりますけれども、各市町村、あるいは県単位でこのKDBデータを活用するように努力していくのはなかなか難しいと思います。このデータがきちんとあった上で、それが市町村、あるいは利用者にとってもモチベーションになっていくと思いますので、ある程度、最低限のデータをKDBデータから自由に取れることを担保していくのが大事ではないかと思います。ぜひ、前向きにご検討いただければと思います。
 もう1点は、資料「2-1」の6ページの「在宅医療の提供体制の整備」の「イ.後方支援病院等との連携ルールの策定、運用」について。これは大事なことだと思います。私は福井県ですので福井県のことを言いますと、資料にいろいろな取組が書かれていますが、福井県は割と進んでいるほうと言われていますし、かなりいろいろな取組をしています。しかし、それでも実際に在宅医療が進んでいるかと言うと、数はそんなに増えていないんですね。結局それは都会と地方との差もあると思うのですが、距離的な問題もあって、しかも診療所の先生がどんどん高齢化していって、有床診療所が次々と辞めているという現状で、どんどん過疎化している実態がある所に在宅医療というのはなかなかハードルが高くて、在宅医療を中心とした診療所というのはあり得ないという状況があります。こういう地域では、逆に病診連携をしっかりして、むしろ療養病床や地域包括ケア病棟など、療養病床などを持つ中小病院が積極的に在宅に出て行って、地域の診療所の先生方と組む。地域の先生が「昼間は私がやるよ」あるいは「夜だけ」あるいは「土・日だけ、うちがやるよ」と、そういう連携をやっていかないと、実態としての数が増えていかないのではないか。
 だから、この項目で「在宅医療に関しても一定規模の病院が積極的に参画」とありますが、決して診療所の先生とバッティングするということではありません。在宅医療を担う診療所が本当にない地域では療養病床などが積極的に在宅に出て行くということを1つの大きな項目として挙げていただいたほうが、特に地方レベルでは、かえって在宅が進むのではないかということを感じています。ぜひこれも少し、しっかり書き込んでいただければと思います。
 あともう1点、最後に7ページの「人生の最終段階における医療・ケアについての意思決定支援に関する普及・啓発」について。これは非常に大事なポイントだと思います。
 在宅医療の提供体制をどんどん広めていけば進むかということと、逆に本当に在宅をやりたいというご家族あるいはご本人が増えるかということ、これは鶏か卵かという感じだと思います。人生の最終段階における医療・ケアについての意思決定支援に関する普及・啓発を進めていくことによって、逆に先生方のお尻を叩いて、「じゃあ、私が行こうか」という話になっていくことも非常に大事だと思います。
 人生の最終段階における医療・ケアについての意思決定支援に関するガイドラインの普及・啓発については、今回の診療報酬改定でも後押ししています。療養病棟入院基本料や地域包括ケア病棟入院料・同管理料1・3の施設基準などに、このガイドラインを踏まえた看取りの指針をあらかじめ定めていることが追加されています。多職種でしっかりと、患者さんと家族も入れて、ちゃんとACP(アドバンス・ケア・プランニング)に則って議論することを求めています。これを療養病床や地域包括ケア病棟など、在宅をみている病院がどんどん進めていく。住民や患者さんと話をして、「在宅を一度やってみようか」という気持ちになっていただく人が増えていく。そうなることで、在宅医療につながるのではないかと思います。いま、すごくチャンスだと思いますので、市町村の方々にはここをローラー的にやっていただいて、病院の取組とうまく連結していただけたらいいと感じました。以上です。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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