「第144回社会保障審議会 介護給付費分科会」 出席のご報告

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「第144回社会保障審議会 介護給付費分科会」 出席のご報告

 平成29年8月4日(水)、「第144回 社会保障審議会介護給付費分科会」が開催され、武久洋三会長が委員として出席いたしました。会議では下記の議題が話し合われました。

1.平成30年度介護報酬改定に向けて
 (特定施設入居者生活介護、介護老人保健施設、介護療養型医療施設及び介護医療院)
2.その他

(第144回介護給付費分科会 資料)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000174015.html
 

 今回の介護給付費分科会では事務局より最初に、平成30年度介護報酬改定に向けて、「特定施設入居者生活介護」が論点として提示されました。

○特定施設入居者生活介護は、幅広い状態の入居者を受け入れられる住まいサービスであり、要支援から中重度者の要介護者や、医療ニーズがある方、看取り対応が必要な方まで様々な状態の利用者を受け入れている実態を踏まえ、特定施設入居者生活介護における介護報酬上の評価のあり方についてどのように考えるか。

○特定施設入居者生活介護における短期利用(ショートステイ)について、有効なサービス利用を図るために、「短期利用の入居者の数は、特定施設入居者生活介護の入居定員の10%以下」としている要件のあり方について、どのように考えるか。
 

【武久洋三会長の「特定施設入居者生活介護」に関する発言】
武久洋三会長平成29年8月4日(水) 参考資料13頁「亡くなる前2週間に悪化した症状」の分類を見ると、悪化の多い症状に口腔内乾燥がある。口腔内乾燥は清拭をしたりすればいいと思うが、この資料を見ると他にも発熱、褥瘡、呼吸苦といった症状が割合として多い。
 もし看取りを行うのであれば、利用者が苦しくないようにQOLをきちんと保ちながらターミナルを迎えていただくというのがよいと思っているが、この資料のように悪化した症状が明らかになっている以上、QOLを改善するためのなんらかの処置が必要だと思う。
 特定施設でターミナルを迎えるということもあり得るとは思うが、特定施設のターミナル期の症状に対する医療的処置に関して、厚生労働省に方針があるのかをお伺いしたい。

(高齢者支援課長からの回答)
 特定施設の利用者の状態像は自立から要介護度5まで様々な方がおり、その割合も施設によって異なっているので、一律に申し上げることは難しいものである。ただ看取りについて熱心に取り組んでいる施設も増えているので、そういった施設の取り組みを注視しながら、また今後どのような対応をすべきか検討を進めていきたいと思っている。

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 次に「介護老人保健施設」の議題について、下記の論点が事務局より提示されました。

○介護老人保健施設における在宅復帰・在宅療養支援の役割機能をより強化していく観点から、報酬体系の簡素化にも配慮しつつ、その機能の評価の在り方について、どのように考えるか。

○通所・訪問リハビリテーションにおいて、心身機能へのアプローチのみならず、活動・参加にも着目したリハビリテーションを推進する観点から、リハビリテーションマネジメントの強化を評価していることを踏まえ、介護老人保健施設で提供されるリハビリテーションの在り方についてどのように考えるか。

○かかりつけ医との連携を含め、介護老人保健施設で提供される医療について、どのように考えるか。

【武久洋三会長の「介護老人保健施設」に関する発言】
 論点1に関係することであるが、町内に病院や特養がなく、老健が1件しかない小さな町の場合、その老健が集中的に病院の役割を担い、特養の役割も担うことになるが、そこで老健には在宅復帰の役割しか認めないとなると、地域住民は大変困る。
 現状は100床くらいの老健が多いので、一部では特養のように看取りを含め最期まで入所してもよいところと、一部は早くどんどん在宅に帰すところで、老健の機能分化がこれから必要であると思っている。

 また参考資料の19頁「介護老人保健施設における入所前の居所について(施設類型別)」を見たところ自宅から老健に直接入所している人が非常に多くなっていることに、とても驚いている。
 今までは他所の病院から老健に紹介入所という流れが主流だったが、このように地域に老健が医療機関として認められ、在宅から直接入所して直接在宅に帰るという機能が地域に評価されているのは個人的には非常によいことではないかと思う。
 老健の多様化というか、成長した証ではないかと思うし、これからは老健でもずっと預かって欲しいというニーズも出てくるのではないかなと思う。

 続いて参考資料41頁「介護老人保健おける医療の充実(効果検証)」について、平成20年と平成24年の比較で、「肺炎」や「尿路感染症」が医療機関から施設内での対応することが多くなっていることは、老健の医療機能が強化されたことだと思う。

 一方で「肺炎」との記載があるが、病状が気管支内でとどまっている「気管支炎」と肺臓まで感染層が広がっている「肺炎」との差を区別することは、聴診器で聴いて打診をして肺炎を診断していた経験もある医師としては、大変難しいことである。この差はレントゲンで撮らないと、呼吸器科の専門医でもなかなか判断が難しいことではないか。

 そこで資料にある「肺炎」の診断の根拠は、本当にレントゲンを撮っての診断なのであろうか。しかも老健にレントゲンを置いてはいけないという都道府県もある。
 レントゲンを置いてもいいが使うのはご自由にということならわかるが、置いてはいけないというのでは、今の時代、家族への肺炎の説明の際にレントゲン写真を基に説明をしないと納得してもらえないことが多いのにも関わらず、未だに老健における医療提供に障壁を設けている。

 老健ができてから何十年も経っていて医療の対応も進んでいるのに、レントゲンという文明の利器の機械を使ってはいけないというのは、非常に厳しい。この統計の中の「肺炎」も、実際は「肺炎」がそこまで多くなくて、「急性気管支炎」がかなりの割合を占めているのではないかと思う。
 こういった老健の医療提供に関する現状と今後どのように持っていきたいかを、老健のご担当者にお伺い致したい。

(老人保健課長からの回答)
 参考資料41頁の「肺炎」と「気管支炎」の細かいデータについては取っておらず、診断された内容からの事実でしかわからないのが現状である。

 またご指摘いただいた老健でしっかり「肺炎」と「気管支炎」の診断するためのレントゲンやその他の機器について、現状では老健の施設内で肺炎の疑いのある方がいる場合は、医療機関の外来でレントゲン写真を撮って、判断いただいているということは認識している。
 ただそれで肺炎の治療について全てを行っているわけではないと思っているし、また自治体でレントゲンについて判断が違うことがあるのは承知している。ただ、ここにおいては利用者の肺炎について老健でしっかりと対応していただくことが重要であるという認識の点数でもあるし、今後も老健での医療の充実を進めていきたいと考えているところである。

【厚生労働省の回答に対する武久先生のご質問】
 老健の中で治療を行うように点数がついているのにも関わらず、肺炎の正確な診断は外来に行くようにというのは矛盾していないか。

(老人保健課長からの回答)
 もともと診断については老人保健施設と医療機関における給付調整の中で、老人保健施設の施設・設備を勘案して、老健で行うものと医療機関にて、診療報酬で算定するもので分けているので、その部分を今後考慮しないといけないと思う。
 またそういった話があるようであれば、今後、課内でしっかりと議論したいと思う。

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 最後に「介護療養型医療施設及び介護医療院」の議題について、下記の論点が事務局より提示されました。

○介護医療院の創設を踏まえ、介護療養型医療施設(介護療養病床及び老人性認知症疾患療養病棟)の在り方について、どのように考えるか。

○介護医療院に求められる機能、病院・診療所及び介護老人保健施設の開設に関する規定や人員・設備、報酬体系等を踏まえ、介護医療院のこれらの在り方について、どのように考えるか。

○介護医療院等への転換について、円滑かつ早期に行うことを可能とする観点から、どのように考えるか。

○介護療養型老人保健施設のこれまでの経緯や、療養体制維持特別加算の期限が迫っていることに加え、今般、介護医療院が創設されることを踏まえ、介護療養型老人保健施設の在り方についてどのように考えるか。

○「居住スペースと医療機関の併設型」への転換については、例えば、「特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム)と医療機関の併設型」への転換が考えられるが、その際の特定施設入居者生活介護の要件について、どのように考えるか。
 

【武久洋三会長の「介護療養型医療施設及び介護医療院」に関する発言】
 慢性期医療について、全般的に慢性期医療が増えてきたと委員からの発言があったが、確かに急性期と思われてきた一般病床の中にも慢性期の概念に含まれるところが非常に増えてきた。従って慢性期の中での機能分別も非常に重要になってきている。
 論点4であるが、転換老健について1万床以下しかないが、かといって疎かに扱うわけべきではない。日本慢性期医療協会では6年前と1年前に転換老健を調べたところ、転換した年には医療区分等で非常に重症な入所者を扱うことが多かったが、5年経つと普通の老健と入所者の状態が変わらなくなってきた。言うなれば順調に「老健化」が進んでいるのではないかと思う。

 そこで論点1~3についてであるが、日本の病院数が人口数あたりで考えると世界の中でも多い方で、病床を転換して介護医療院などに転換していくことは当然である。地方では高齢者の人口も減少してきているため、地域の病院が運営に困っている現状がある。スタッフの数など様々な形で慢性期医療の現場も非常に困っている。
 療養病床は38万床から33万床と一見減ってきている様に見えるが、療養病床の多くが地域包括ケア病棟や回復期リハ病棟に転換し、機能的には向上している。また一般病棟も地域包括ケア病棟や回復期リハ病棟に転換するなど、厚生労働省の考えに従ってだんだんと本来の機能に合わせた病棟への機能別化が進んでいる。
 ただ3ヶ月以上入院していたら、それ以降も入院してよいという特定除外制度が2014年まであり、その対象患者がまだ今も一般病床の中に多くいる現状もある。特定除外制度は「療養病棟入院基本料1」を請求できて、廃止前は10万床あったといわれている。

 このような過程で財務省の考え方を述べるわけではないが、全体の情勢を考えると人口が減っていく中で、6千~7千億円と日本の医療費をどんどん増やしていく状況ではないと思う。
そこで医療費を減らす代わりに介護に移るので、介護保険料が上がるということになる。介護保険料が上がっても、トータルで見た総額は少し減っていくことになるかと思うが、日本全国で後期高齢者がまだ増えており、現場で色々なトラブルも増えていくと思うので、スムーズな移行ができるような改革を考えてほしいと思う。

 さて介護医療院についてであるが、病院内の病床から病院内の介護医療院に転換する場合には、その院内の他の病棟から介護医療院に移る場合は在宅復帰先として認定をしていただかないとなかなか以降は進まないと思う。
 地域包括ケア病棟は平成26年度から始まり、既に7万床近くなっている。ということは7対1や10対1を減らしていくという政策は順調に進んでいるといえる。急性期では高度な医療といいつつ実態が合わないところは機能別に分かれていき、また慢性期でも老人収容所のような運営をしているところは介護医療院に移行を促され、しっかりと治療を行っている慢性期病院は病院・病床として認めましょうという流れになっているような気がする。
 確かに病院はしっかりと治療をして、状態をよくして、帰すところであり、これは正しいことである。

 そこで介護医療院に転換するにあたって、今は介護療養型が話題の中心になっているが、医療療養25対1も来年4月から転換できるようになると聞いている。介護療養型が介護医療院に転換しても財源のシフトはないが、医療療養25対1が介護医療院に転換すれば、医療保険から介護保険に財源が移る。
 例えば前回の介護給付費分科会でも危機感を持って指摘しているが、小さな町で1つの病院が100床を介護医療院に転換した場合に、その町の介護保険料も倍増するわけで、近いうちに起こり得る可能性がある問題である。政府としてしっかりと対応しないと、隣接する町同士で介護保険料が倍も違うという社会問題になるので、担当者の方にはスムーズな移行ができるような考え方を示していただければと思う。

 病床の機能をしっかりと分化し、その機能に応じて病床で運営して欲しいという大きな流れが始まっていることを肌身で感じているが、医療保険と介護保険という財源が違うものについて、患者がその境界で行き来する場合にどのようにするかについて、最初に大きな方針を決めていただかないと現場は右往左往するので、きちんと検討してほしいことを要望したい。
 

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