「慢性期リハの重要性を訴える」 ~会見で武久会長

会長メッセージ 協会の活動等

武久洋三会長

 「慢性期リハビリテーションの重要性を真摯に訴えるのは当協会しかない」──。日本慢性期医療協会の武久洋三会長は5月8日の定例会見で、算定上限日数を超えたリハビリに大きな改善効果があるとの調査結果を示し、「慢性期リハを切り捨てていいのか」と訴えました。上限日数を超えた慢性期リハは平成26年4月から医療保険の適用から外れることに異議を唱え、「急性期に近いリハビリばかりがクローズアップされているが、慢性期病院や在宅で回復を目指している患者さんに十分なリハビリが提供されないのは、由々しき問題だ」と強調、「慢性期リハビリテーション協会」の設立に向け意欲を示しました。
 
 
■ リハ夜勤で、夜間の転倒・転落が減る
 

 武久会長は、リハビリテーション機能として、「急性期リハ」「回復期リハ」「慢性期リハ」「介護期リハ」の4つを挙げ、このうち「回復期リハ」については、平成24年度診療報酬改定で「回復期リハビリテーション病棟入院料1」(1,911点)が新設されたことを説明。「予想に反してかなり多くの病院が取得している」と述べました。

 そのうえで、同入院料の施設基準を見直すことを提案。夜勤の看護職員2人のうち1人をOTやPTに変えれば、夜間の転倒・転落件数が減少することをデータを示して説明しました。特に強調したのは夜間のリハビリです。

 武久会長は、「リハビリの先生の中には、『9時から5時までリハビリをすればいい』という人もいる。しかし、患者さんは夕方5時から翌朝9時までずっと寝ているわけではない。夜間にいろいろなことが起きる。自宅に戻っても、昼間の訓練だけでは暮らせない」と指摘。「回復期リハビリテーション病棟においては、やはりPTやOTが夜勤することは大きな効果がある。夜間訓練することによって、転倒や転落事故が減った」として、リハビリスタッフの夜勤を診療報酬の施設基準などで評価する必要があるとしました。
 

■ 「慢性期リハ」を切り捨てていいのか
 

 平成24年度の診療報酬改定では、回復期リハビリテーション病棟の評価体系を見直し、「回復期リハビリテーション病棟入院料1」(1,720点)、「同入院料2」(1,600点)の2区分を3区分に再編。新たな「回復期リハビリテーション病棟入院料1」は、1,911点になりました。武久会長は、「その(引き上げ分の)原資を『慢性期リハ』から持ってきた。算定上限日数を超えた期間のリハをできなくすることによって、回リハ1に点数を付けた」と分析。上限日数を超えた「慢性期リハ」が平成26年4月から医療保険で算定できなくなる予定であることを指摘し、「慢性期リハを切り捨てていいのか?」と問いかけました。

 例えば、「脳血管疾患等リハビリテーション料」は現在、「発症、手術または急性増悪から180日を超えてリハビリテーションを行った場合」については、1か月13単位に限って算定できますが、今改定で「要介護被保険者等については平成26年3月31日までに限る」とされました。「運動器リハビリテーション料」については、算定上限日数が150日です。

 そこで、上限日数を超えたリハビリテーションの必要性を訴えるため、日本慢性期医療協会では会員14病院を対象に、昨年1月1日から6月30日にかけて調査しました。対象者は、上記期間に標準的算定日数を迎えた患者さんのうち、以後6か月間リハビリを継続した患者さん207人(平均年齢81.0歳)です。

 調査によると、リハビリ開始から算定日数上限までに改善が見られた患者さんはBIで「+5.0」、FIMで「+5.1」でした。一方、算定日数上限から6か月後の変化を見てみますと、BIで「+5.1」、FIMで「+10.8」でした。つまり、上限日数を超えた後のリハビリは、上限日数までのリハビリの2倍(FIM)の効果があることが分かりました。

 同様に、廃用症候群の改善例を見てみます。リハビリ開始から算定日数上限まではBIで「-0.4」、FIMで「-1.3」でした。ところが、算定日数上限から6か月後は、BIで「+13.0」、FIMで「+10.0」という結果が出ました。武久会長はこの結果について、「これは何を意味するのか。高度急性期病院に長く入院しすぎているからだ」と分析。リハビリ日数のカウント開始が「発症、手術または急性増悪」となっているため、高度急性期病院に入院している間に、リハビリを十分にできないまま上限日数が近づいてしまう状況を指摘しました。

 武久会長は、「高度急性期に長くいればいるほど、リハビリの開始が遅れる。従って、上限日数までの間は改善しない。上限日数を超えた後にどんどん良くなっていく」と説明。平均向上点数が高かったFIM運動項目として、食事(2.18)、トイレ動作(2.35)のほか、移乗(トイレ) 2.28、移動(2.18)を挙げました。そのうえで武久会長は、「自分で食事がとれて、自分で動くことができてトイレが自立すれば、自宅に帰ることができる。ところが、在宅復帰につながるような項目が平成26年4月から医療保険の適用外になる。ということは、今後ますます自宅に帰れない人が慢性期病院にたくさん発生することになる」と警鐘を鳴らしました。

 ただ、今回の調査は14病院207人を対象にした調査です。そこで、日本慢性期医療協会は5月から会員の全病院を対象に約2,000人の患者さんのデータを集めるため調査を開始しました。武久会長は、「結果が出たら改めて皆さんにご報告したい。回リハ1をつくったことは評価したいが、そのために慢性期リハをなくすことは非常に問題がある」と改めて強調しました。
 

■ PTやOTらの上位資格に「総合リハビリテーション療法士」を
 

 「特定看護師と同様に、リハビリテーションのキャリアアップとして、『総合リハビリテーション療法士』という制度があってもおかしくない。『総合リハビリテーション療法士』がいる施設を『総合リハビリテーションセンター』として認定して、リハビリの質向上を目指すべき」。武久会長はこのように述べ、「総合リハビリテーション療法士」という国家資格の創設に意欲を示しました。

 リハ療法別のリハ施設認可から疾患別診療報酬体系となり、すでに6年経過した現在、リハビリにはPT、OT、STの機能をすべて兼ね備えた療法士の存在が不可欠となっています。武久会長は、「リハビリテーションの教育課程終了後、1年間の専攻課程を設け、終了後に国家試験によって『総合リハビリテーション療法士』の資格を与えるべき時期に来ているだろう。疾患別になったから必要だ」として、その必要性を説きました。

 しかし、反対意見もあるようです。武久会長は、「回復期リハビリテーション病棟協会の先生は、『そんな制度は聞いたことがない』と言うが、私が初めて提唱しているのだから、聞いたことがないのは当然だ。誰が考えても必要な時期に来ているのに、リハビリの専門家が誰も提案しないのは大問題ではないか」と問題提起しました。

 武久会長は、医療行為を幅広く実施できる「特定看護師」を引き合いに、「私は『特定看護師』に賛成だが、日本医師会は自分の仕事を取られるから反対する。そんなばかな話はない。これから患者さんがどんどん増えて医師の業務が忙しくなっている」と指摘、「介護福祉士にも『特定介護福祉士』のような制度があっていい。日本看護協会が『特定看護師』を進めるならば、『特定介護福祉士』に反対するのはおかしい」と説明しました。そのうえで、「PT、OT、STのキャリアアップとして、『総合リハビリテーション療法士』という制度を考える時期に来ている」と主張しました。
 

■ 慢性期リハの研究会を立ち上げ、協会設立へ
 

 日本慢性期医療協会は、現在の医療法上の「一般病床」「療養病床」の区分を廃止して、「急性期病床群」と「慢性期病床群」に分けるべきと主張しています。「慢性期病床群」とは、①長期急性期病床、②回復期病床、③長期慢性期病床、④障害者病床──です。このうち、②回復期病床については、先述したように平成24年度の診療報酬改定で「回復期リハビリテーション病棟入院料1」が新設されたことを契機に、次期改定以降は医療保険が適用されなくなる予定です。

 しかし、算定上限日数を超えた後のリハビリに改善効果があることは明らかであり、上限日数超えのリハビリを医療保険の対象から外すことは、在宅復帰の可能性を著しく閉ざすことになりかねません。そのため、日本慢性期医療協会は「慢性期リハビリテーション研究会」を近く発足。今年度中に設立予定の「慢性期リハビリテーション協会」につなげていきます。

 リハビリ領域の協会には、すでに「回復期リハビリテーション病棟協会」がありますが、武久会長は「回復期リハにますます先鋭化しているので、慢性期リハビリテーションの重要性を真摯に訴えるのは当協会しかない」として、慢性期リハ協会の必要性を指摘。「回復リハ協会とぶつかるつもりは全くない。慢性期リハの重要性をわれわれが言わなければ誰が言うのか。急性期に近いリハビリばかりがクローズアップされているが、慢性期病院や在宅で回復を目指している患者さんに十分なリハビリが提供されないのは、由々しき問題だ」と強調しました。
 
 ※ 「慢性期リハビリテーション協会」の設立趣旨については、「慢性期リハビリテーション協会」の設立について ~継続的なリハビリテーションの必要性を主張していくために~をご覧ください。
 

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